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「だが、この技には危険もある…」
ギュウチは、今までになく真剣に言葉を続けた。
「いいか、俺は独学で行き着いたが、この技を使う流派の奴らがいるって言ったよな。そいつらに伝わる文献によると、魔力袋は目に見えないが総量が決まっていて、容量を超えると破裂するそうだ。
それに圧縮魔力を使う時に、圧縮で増えた分を一度に使うと威力を上げられるんだが、袋が圧の開放に耐えきれず、やはり魔力袋が破裂してしまうらしい。
魔力袋が破裂した人間は、魔力を溜めることができなくなり、不調をきたして廃人同然となるそうだ…」
「ギュウチさんは、独学でって…」
「あぁ…俺もその文献を読んだ時は、流石にビビったぞ!
魔力を圧縮すると、感覚的には一日分の魔力が一回分の様に感じる。数日分を数回分として溜めておいて、使う時は一回分の魔力を手や足に纏わせ強化するんだけど、重ね掛けもできるから重ねればその分更に強化できる。だから文献を見るまでは、俺も三回分とか重ねてたんだけど…
まぁ流石に今は、重ねても二回までと決めているがな…
…俺は多分、三回までは耐えられるんだろうけど、お前がそうとは限らないぞ!
一回分の魔力でも、使えば素手で魔物と戦えるんだから絶対に無理な重ね掛けなんかするなよ!」
「はい、肝に銘じます!」
シオンは、実際に素手で魔物を圧倒したギュウチを見ていたので、ギュウチの言葉に従うつもりでいた。
だが、自身の心の奥底に、もし、使うべき時が来たら躊躇なく使うであろうという気持ちがいる気がしていた。
「よし、シオン。
数日は、自分の中の魔力を感知することを日々の修行としろ!
魔力だけじゃなく袋のイメージも、より明確になるようにな!
それができなければ、魔力操作など上手くいくはずがないからな!」
ギュウチは、更に二言三言、コツなどを言ってから広場を去った。
シオンも、人目につかない所で練習すべく、足早に部屋へと帰った。
「ねぇシオン、なんか体力増えた?」
打ち込み練習を終えたキャスが汗を拭きながら聞いた。
「うーん… このところ身体の調子がいいからそう見えるのかな?」
シオンは、ギュウチに魔力感知を教わり、訓練を始めてから二十日が経ち、腹の魔力を意識すると身体中に力が漲る様な感じがする様になっていた。
仕事をしていても、疲れ知らずになって長距離の配達も重い荷物も楽にこなす程だったが、ギュウチの事は、キャスにも言えなかったので返答に困った。
「ふーん… なんか新しい訓練でも始めたのかと思った」
「このところ、仕事の配達が遠い場所ばかりだったからかな、結構走り回ってたし…」
シオンはキャスの鋭い読みに、本来は逆だが、仕事を理由にしてそう答えた。
「そっか、やっぱり走り込みは体力増強になるのね…」
「そうですぞ、騎士団でも走り込みが訓練のカリキュラムに入っていますからな!
キャスも明日から…」
「あ、汗も拭いたし私は部屋に帰るね!シオン、明日の仕事終わりに時間頂戴!
じゃあまたね!」
「あ、キャス!
シオン、お前は本当に頑張っているな!
…本当に惜しい…」
話しに割って入ってまでキャスに走り込みの重要さを伝えようとしたのに敢なく振られたカルシスは、シオンにそう言い残してキャスを追いかけて行った。
今日も独り離れて、寝ていたギュウチが、ゆっくりと起き上がり、二人の後を追うように歩き出した。
「シオン、今夜」
汗を拭きながらキャス達を見送るシオンの横を通る際に、ギュウチが呟いた。
シオンが、声を出さず会釈を返すと、ギュウチは手を振って歩き去って行った。
「確かにお前は、よくやるな」
キャスの部屋の明かりが消えるのを見届けてから、シオンがいつもの広場にくると、既に来ていたのか、ギュウチに声をかけられた。
「ギュウチさん、お待たせしてすみません…」
「いや、いい… お嬢の目を誤魔化すのも大変だな。
それより二十日間か、思ったより早かったぞ!
おっさんじゃないが、お前には脱帽だよ」
「ありがとうございます。
最初は、それこそ雲を掴むようでしたが、急にはっきり分かるようになって…
そしたら、仕事も捗るし… 魔力ってすごいです!」
「おいおい、そのぐらいで感動してどうする?」
「え、じゃあ、もしかして…」
「あぁ、今日からは圧縮法を伝授するつもりだ!」
「やった! お願いします!!」
「分かった、分かった。
うーん、だが待てよ? 実際の魔術を先に教えた方がいいのか?
うん、そうだな、その方が圧縮で溜めすぎた場合に消化できるしな…」
「僕としてはどちらでも… ギュウチさんに任せます」
「おし、分かった。魔術が先だ! 先ずは魔力感知をしてみろ!
お、できてるな! よし、その魔力を動かすイメージを持って、利き手の先まで動かしてみろ!
ゆっくりでいいぞ! そう、ゆっくりだ!!」
シオンは、ギュウチの言う通りに、感知した魔力をゆっくりと右手の先に動かすイメージを浮かべた。
「よし! いいぞ、できてるぞ!
あーぁ、ゆっくりだ、ゆっくりだ!」
シオンは、イメージが途切れない様に感知している魔力を動かす事に集中していた。
いつの間にか、額を汗が流れて、目尻を掠っていったが、しみることなど気にする事もなく、ただ魔力に集中していた。
「で、出来た!」
魔力がシオンの右手の先まで到達した時、(出来た!)と感じると共に、魔獣との格闘の際のギュウチの手の様に、朱色に変わった。
「シオン! 受け取れ!!」
突然、ギュウチが、林檎大の石を拾って、シオンに放ってきた。
「う、うわ!」
いきなり飛んできた石を、思わず右手で受けたが、石を握った瞬間、手の中の石は、粉々に砕けていた。




