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 シオンは久しぶりに木剣を振っていた。あの日からは、すでに三週間がたっていた。


 病院からは三日で退院したが、仕事に穴を開けてしまったこともあり、休みを返上していたからだ。


 入院費は、キャスの家が払ってくれたらしく、何度も返却を申し出たが、はぐらかさられたので、お金での返却はやめたが、ナイフの買い直しにもお金は必要だったので正直助けられた。


 キャスとは、窓越しに何度か話をしたが、よっぽど怒られたのか、以前の溌剌さが影を潜め、元気が無く見えて少し心配だった。



「シオン、またブレているぞ!」



「はい!」



 カルシス先生の話では、ナイフという剣とは長さも力のバランスも違う得物で、本来、対人用の技を使って魔獣と闘った結果、振りにブレが出てしまっているとの事だった。



「振っていて、背中に引きつりとかは無いか?」



「はい、それは大丈夫です」



「うむ、ならば暫く振っていれば、いずれは取り戻すだろうから焦るなよ」



 となりで同じく木剣を振っていたキャスは、心配なのか、二人の問答に耳をたて手が止まっていたが、カルシスの見立てに満足したのか、また木剣を振りはじめた。


 木剣を振るその姿は、痛々しいほど真剣で、カルシスもシオンも眉をしかめざるをえなかった。


 実際、シオンの傷は、痕こそ残ったが後遺症の心配は無く、シオン自身もこの三週間で気にならなくなっていた。


 いつもより早いタイミングで掛かった、カルシスの止めの合図により、汗を拭いていたシオンのもとへ先程まで木陰で寝ていたギュウチが寄ってきた。



「今夜、ここで」



 それだけ言うとギュウチは、シオンの返事も待たずに家の方へ帰って行った。



「何だったの?」



 ギュウチのらしくない行動に、キャスも違和感を感じたのか、シオンに聞いてきた。



「いや、「大丈夫だな?」って一言…」



 シオンは、ギュウチの他言無用を思い出し、キャスへの返事も誤魔化した。



「何それ? ギュウチらしくもない!

 シオンを気にかけるなんて少しは反省してるのかしら…」



「反省?」



「えぇ、あの日、街に向かって街道を走ってたら最初にギュウチに会ったの…

 あいつてば、私を一人にできない、危険な場所へも連れて行けないってごねて!

 すぐにカルシスも来たから良かったけど、もし、もっと遅れてたらと思うと…

 …許せないんだから!」



「キャス… 気持ちは嬉しいけど、それが彼らの仕事だから…」



「分かってるわよ! 何よ、シオンまで…」



 そう言ってキャスは、プイッと横を向いてしまった。


 そんなキャスを、シオンは最近どこかに出かけてた理不尽キャスが戻ってきたと、内心、楽しい気持ちで見ていた。






 その夜、シオンは、ギュウチの呼び出しに応え、いつもの広場に来ていた。



「おう、先に着てるとは結構な心掛けだ」



「ギュウチさん、先日は大変お世話に…」



「あん? やめろやめろ、そんな話しをしにきたんじゃねぇー!」



 そう言うと、ギュウチは顎で広場の奥を指した。



「あんまり、人に見られたくは無いからな…」



 ギュウチは、しばらく進むと、広場の入り口を見張れて、尚且つ入り口からは陰になる場所で振り返った。



「小僧、魔術って知ってるか?」



 ギュウチの問は唐突だった。



「魔術ですか?」



「あぁ、魔術だ」



「おとぎ話の類いなら…」



「まぁ、そうなるわな

 ところで、小僧、 お前、どこまでお嬢…いやキャスの事情知ってんだ?」



「え? いえ大して… 東北にある街から来たとか…」



「東北…はん! 確かに東北だ!」



「あの… なにか?」



「小僧、今夜の事は、俺が呼び出した事、会話、教え、全て他言無用だ! 誓えるか?」



「えっ? あ、はい、誓います」



 シオンは、よく分からなかったが、生命の恩人の言うことに反対は無かった。



「よし、分かった…

 キャスのいう東北の街とは、王国の東北部にあるシュガ公爵領のことだ! ククッ、確かに東北だが、ここからだと馬でも三十日は掛かる距離だぞ」



「えぇ!」



「キャス、お嬢は、公爵の三女だ!

 まぁ、領内でゴタゴタがあってひとまず避難、俺等はその護衛ってことだ!」



 確かにキャスは、時々、とんでもなく物知りで物知らずだったが、公爵令嬢にしては砕けすぎていたから、シオンは露とは気付かなかった。



「おっさん、カルシスは公爵直属の騎士で、今回特別に護衛に付いたんだが、堅物で… 小僧もそれで基礎しか教えてもらえないんだろ?」



 シオンは、なぜカルシスが基礎三手は丁寧に教えてくれたのに、門下生にはしてくれないのか初めてその理由を知った。


 門下生にするには、結局、キャスの素性を明かさなくてはならなく、知る者が増えるのはリスク以外のなにものでもないからだ。



「おっさんも気に入ってんだから、とっとと弟子にしてやりゃぁいいのによ…」



 ギュウチが呟いた言葉に、シオンは喜びを隠せなかった。



「まぁそんなだから、こないだのみたいな事があると困るんだわ、んでお前に魔力があるって聞いたから、俺の術を授けてやろうと思ってな」



「ええっ! いいんですか?」



 シオンは、いとも簡単に告げられた、ギュウチの突然の申し出に驚いた。


 ギュウチは、魔術を素手で圧倒したのだ。シオンはそんな術者など、それこそ御伽話でしか知らない。


 その術を教えるとギュウチは言っている。


 強くなりたいシオンにとって幸運の一言では収まらない話だった。




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