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 アウォーーーーーーン!



 それほど遠くない場所で、狼と思える遠吠えがした。



「い、今のって?!」



 キャスが不安そうな顔できいた。



「えっ! ここから一番近いのはフォレストウルフの縄張りだけど…

 ここは、外れてるはずだから…」



 シオンの返事に、キャスは不安の増した声で問を重ねた。



「こっちにくる?」



「うーん、分からないけど、ここは静かに引き上げよう」



 二人は、なるべく音をたてないように、ゆっくりと街道に向かった。


 街道から吹く風が、木の葉を揺らす度にキャスは体を小さく震わせていた。


 シオンは、風向きが気になっていたが、一刻も早く街道に出るために、真っ直ぐに森の出口を目指した。



 ボァフ!



 木々の隙間が広がり、二人が安堵の溜め息をつきかけた時、すぐ後ろで獣の発した声がした。


 二人が振り向くと、銀色の体毛で子牛大の狼の魔物がいた。その目は、碧く透き通り、思考を読む事などできない感じだったが、唸りながらこちらを見ている以上、攻撃の意思があると思われた。



「シオン…」



 シオンは、こんな時にも関わらず、いつもは強気のキャスからでた、珍しい声に少しだけ緊張が解れた。



「キャス? ここに来た時の速さで街まで走れる?」



「えっ? 多分できるけど、なんでそんな事、今聞くの?」



「いや、走れるならキャスには街に走って助けを呼んで欲しいんだ」



「そんな事したらシオン一人になるじゃない?!」



「だけど二人でいても、アイツは倒せそうにないだろ? 街に向えばワンチャン、途中で人に会うかも知れないじゃない?」



 キャスは、シオンの言葉を噛み締めながら考えているようだった。



「キャス! 考える時間が勿体ない、ほらいくぞ!」



 シオンは、腰のナイフを抜くと魔物に向かった。


 魔物は、シオンの行動とナイフを警戒して跳び退った。



「今だ! キャス走れ!!」



 一瞬、迷いをみせたキャスだったが、シオンの言葉に反応して走り出した。


 キャスは、走り出した以上は、できるだけ速く走ることがシオンを救うと割り切り、前だけを向いて走った。



「やっと、行ってくれたか… 

 お前、見逃してくれる気は無いよな?」



 キャスだけでも逃す事に成功したシオンは、少し気分が落ち着いたか、軽口を言ってみた。


 言葉が通じる訳もないが、魔物は牙を剥き、シオンを逃すつもりなどないと言わんばかりの態度だった。


 シオンは、生命のやり取りをするのだからと“起式”の構えをとった。


 だが、剣との長さの違いにより、その格好は、構えというよりは腹の前でただナイフを握っているようだった。


 魔物は狡猾だった。


 人との闘いの経験があるのだろうか、シオンのナイフの刀身をみて、自分の爪が先に届くと判断し、そのまま飛びかかってきたのだ。



「くるか!」



 シオンは、自分を奮い立たせるように声をあげ、一歩進んで“打ち下ろし”を繰り出した。



 ガッ、キュィーーーーーン!!!



 シオンのナイフと魔物の爪が打ち当たり、甲高い音が森に響いた。


 魔物は横倒しに地面に倒れたが、すぐに跳び退った。


 魔物は、シオンの得物と構えから、突いてくると踏んで、無造作に爪さえ振るえば仕留められると飛びかかったのだ。


 だが、急な相手(シオン)の踏み込みと、ナイフとはいえ無視できない打ち下ろしの技に、体を捻り爪を合わせた。


 その無理な体勢変更のため、見苦しくも地面に転がされたのだ。


 一方、シオンも窮地に立たされていた。


 この三ヶ月、頑張って働き貯めた金で買った新品のナイフが、今の一撃で欠けていた。


 しかも、薄っすらと()()が入ってしまったのだ。今のような一撃をあと二回も受ければ砕けるだろうし、ここを脱しても研ぎ直して済むような状態ではないと思われた。


 気を取り直し、魔物をみると、明らかに怒りのためか鋭い牙を剝いていた。にも関わらず、こちらの様子を伺う素振りに却って恐怖が募った。


 それでもシオンは勇気を奮い立たせ、ひびの入ったナイフを構えた。しかし、恐怖ゆえか、その構えはただ胸の前でナイフを持っているだけの剣術を教わる前同然のものだった。


 それでも魔物は油断しないぞとばかりに、一息吐き、その碧い瞳でシオンを睨んでいた。


 風が森を抜ける中、またしても先手を取ったのは魔獣だった。


 一見、先程と同じ様な攻撃に、シオンは同じく踏み込んだ。


 しかし、魔獣はシオンの踏み込みに反応し、ナイフに向かって斜め上から爪を合わせた。


 余りの勢いに、シオンの体は回転させられ、矢継早に出されたもう一方の爪が背中を裂いた。


 背負っていたバッグの中身を飛び散らせながらシオンの体は吹き飛び、木を揺らして止まった。


 背中の傷はバッグのお陰か、致命傷ではなかったが、鼓動が背中から聞こえる様な錯覚と、立ち上がろうとする度に走る痺れるような痛みが、傷の重さを訴えていた。


 シオンは絶望した。


 魔物は警戒しているのか、すぐには襲ってこなかったが、唯一の頼みの綱だった右手のナイフは、今の衝突で粉々に砕けていたのだ。


 シオンは刀身が、ほんの僅かに残るナイフを魔獣に向けてはいたが、腰の辺りが濡れて冷える中、キャスを逃がすことに成功したことを胸に(誇りに)、静かに死を待った。




本日分より、更新は 月・木 となります。


引き続き、よろしくお願いします。

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