表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

ソフィア・グレイシャスノー(上)


 ソフィア・グレイシャスノー。


 それが私の名前。


 公爵家の長女として生まれた私は、皇族と懇意(こんい)にしている家系ということもあり、伝手(つて)を頼りに家庭教師として雇った元宮廷魔術師から魔法を学べ、元帝国騎士団長から剣術を学べる環境下にいた。

 幼い頃から、恵まれた環境を最大限に活用していたということもあり、周りにいた同年代で私の実力に並ぶ者はほとんどいなかった。


 ──天才。


 周りの人間は、私のことをそう言って持て(はや)した。

 5歳の時には水と風の初級魔法を習得し、剣術においても基礎となる剣の構え方や振り方、足(さば)きを身につけ、(かた)を覚えた。


 極め付きとなったのは、7歳の時に氷魔法が使えるようになったこと。

 グレイシャスノー家は代々、氷魔法の使い手が多いが7歳で使えるようになるのは極めて稀だと聞かされ、家族や周りに称賛(しょうさん)された。

 この頃には水と風の中級魔法も身につけ、剣術も形だけでなく実践形式での稽古を受けられるまでになり、周りの同年代の子息や令嬢たちと練習試合をすることもあった。

 魔法を使った試合は危険なためさせてもらえなかったが、年が近い者たちと一緒に剣で打ち合えるだけでも、普段の魔法の練習や剣術の稽古と比べて楽しいと思えた。


 そして9歳になった頃。

 重点的に練習を重ねた氷魔法は中級まで身につけ、水と風を含めた三属性分の上級魔法の練習を始めるようになった。

 剣術では、周りにいる12歳以下の者たちでは相手にもならなくなった。それより年上を相手として求めても、ほとんどが学園に通い始めるため、応じてもらえる人数が減ってしまった。

 年が近い者たちと剣を交える機会が減ったことに少し寂しさを覚えたが、私の実力についてこられない者と試合を重ねてもあまり成長は見込めない。そのため、先生や周りの大人たちに稽古をつけてもらうことが増えた。結果、先生を除くほとんどの大人たちに対し、対等以上に打ち合えるまでになった。

 自分の実力が高まっていくことは嬉しい、でも⋯⋯。


 ──つまらない。


 私はそう感じ始めるようになった。

 周りにいた同年代の者たちはほとんど、私の実力についていけないことがわかると、近づいてくることもなくなってしまった。

 そのため、私が関わる相手といえばほとんどが大人。強くなることだけを考えるなら、それでも問題はなかった。

 でも、私にもっと近い年齢で、お互いに高め合いつつ成長していけるような存在──ライバルを欲している自分に気づいてしまった。




 ただの暇潰し。


 私が冒険者を始めた理由はその程度だった。

 冒険者はほとんどが大人で、同年代のライバルが見つかるとは思えなかったが、少しでも周りにライバルがいない寂しさと退屈を紛らわせたかった。

 お父様とお母様は寛容(かんよう)で、私が「冒険者になりたい」と言いだしたことには驚いていたが、「従者と一緒なら」ということで許してもらえた。付き添いも、私が兄のように(した)っているルークにお願いすると(こころよ)く引き受けてくれた。

 その時に、ルークがなぜか冒険者資格を持っていて、それもBランクまで上げていたことを知った。


 貴族で冒険者をする者もいるけど、あまり多くはない。どちらかと言えば、依頼する側。

 公爵家という身分はあまりに目立ちすぎるため、私は身分を偽って冒険者を始めることにした。

 私の特徴的な白髪(はくはつ)は部分的に水色に染め、服と装備は質素なものを身につけることで、グレイシャスノー家の者だと悟られないようにした。


 冒険者になるには登用試験が必要らしい。

 試験官は、私のような子供が登用試験を受けることに不満顔だったが、親が根回ししてくれていたおかげですんなりと受けることができた。

 私の実力を確かめた試験官は納得して合格を告げ、試験前の態度が嘘だったかのように、今後の活躍を応援してくれた。

 きっと彼は、子供思いのいい人なのだろう。


 実力が認められたからなのか、Dランク冒険者からのスタートとなった。

 ソフィアの名は、剣と魔法の才能とともに広まっていたため、「どちらか片方の能力で活動をした方がいい」と、ルークから事前にアドバイスがあった。

 そのため、冒険者として活動する時は剣の腕をなるべく隠し、主に魔法を使うことで魔法使いとしての認知度を高めた。


 冒険者の活動は、最初のうちは魔法練習や剣の稽古ばかりしていた私にとっては新鮮に思えた。

 でも、私にとっては難なくこなせるレベルで、ランクが上がるまでは本当に暇潰し程度にしかならなかった。


 気がつけば、私は1年でAランク冒険者になっていた。

 当然、ルークのランクを先にAランクまで上げさせた。この頃には他のメンバーもパーティーに加入していて、リーダーであるルークのランクが私より下では格好がつかないからだ。

 他のメンバーは、お互い数合わせでパーティーを組んでいるため、ランク上げを無理強いしていない。

 私が冒険者に飽きるか、学園に通い始める頃にはパーティーを解散することを見越し、ルーク以外のメンバーに対してはお互いに必要な場合のみ協力する方針にしていた。

 パーティーと言うよりクランに近いやり方で、実質的にはルークと私の2人パーティーだ。

 かなりのスピードでAランクまで上がったため、私とルークは個人の冒険者としてはもちろん、パーティーとしても目立ってしまったのは反省点ね。

 話しかけられることも多くなり、少なからず他のメンバーに迷惑をかけてしまったようだ。

 いい人たちなので、「気にしていない。むしろ光栄だ」と言ってくれたが、付き合わせてしまっていることは間違いないので、謝辞(しゃじ)を述べた。


 Aランク冒険者は、冒険者の中でもトップクラスの実力者だと言われている。Sランク、SSランクの冒険者も存在するが、その存在は稀。

 Aランクともなれば、今までのクエストとは違い、それなりに苦戦することが多くなってきた。

 必然的に他の冒険者たちと協力することもあり、私たち以外のAランク冒険者の実力を()の当たりにする機会もあった。

 だけど、現時点で「私より強い」と思える者であっても、圧倒的な強さとは言えず「将来的には追い越すことができるだろう」と思える程度であった。


 Sランク以上の冒険者なら、もっと張り合いがあるかもしれない。

 でも、冒険者としての活動を継続していくつもりがないため、今より重大なクエストを任される立場になるわけにはいかなかった。


 Aランクになってからしばらく経つと、クエストをこなすことにも飽きてしまい、ますます「冒険者を続ける意味が無い」と感じ始めた。


「そろそろ辞め時かしら」


 そう思った矢先、面白い情報が舞い込んできた。

 クエストを受ける気にもならなかったので、気まぐれに新人冒険者でライバルになれそうな者がいないか、ルークに冒険者の登用試験を見学させていたのだ。

 すると、トニーという私と同い年の少年が試験に合格したと念話で報告があった。

 興味を持った私は、パーティーメンバーにしたいわけではなかったが、彼と少しでも接点を作るためルークにスカウトをお願いした。


 試験場から戻ってきたトニーの様子を遠目に見ていて、ますます興味が湧いた。

 冒険者になった頃の私より上のCランクスタートというだけでなく、有名な冒険者パーティーのリーダーたちからのスカウトをきっぱりと断ったのだ。

 それも、断った理由を聞かれた時の返答が「だって、ソロの冒険者のほうがかっこよくない!?」だ。

 わけがわからない⋯⋯。


「自分の実力を過信している、ただの馬鹿なのかしら」


 初めはそう思った。

 でも、その日の試験官はライナスだと聞いていた。

 子供思いの彼が、過大評価するとは考えにくい。

 つまり、実力は本物。私と同等、あるいは⋯⋯。


「冒険者になったのは、正解だったのかもしれないわね⋯⋯!」


 私は嬉しさを抑えきれず、スカウトを断られて戻ってくるルークの姿が見えると、登用試験の様子を直接聞こうと駆け寄った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ