淀んで澱んで滞り、もう帰れない。
夏って事もあって、そろそろホラーの一つでも書いてみたいと思って、夏のホラー2023の企画に挑戦してみました。
テーマは一応指定通りの帰り道なんですけど、実体験をベースに書いた話なので、あんましテーマに沿ってるとは言えないかも・・・
これをベースに、更に帰り道に焦点を絞った話を書こうとしたら8月終わるかもしれないので、今回はこれでチャレンジと言うか、そもそもホラーは初挑戦です。
拙い文章ですけど、宜しくお願いします。
これは、私の実体験を元に・・・いや、これは私の実体験そのものだ。
まずはこの出来事を語る前に全員に一つ聞いておきたい。皆は、幽霊や亡霊なる心霊的な存在を信じるだろうか?
多くの者は、その存在を見た事や感じた事がないと言うだろう。故に信じられない人はこの世の中のほとんどだと思う。しかし中には、もしかしたらいるかもしれないと感じでくれている人はいるかもしれない。
ただ、私から一つ言えることとすれば幽霊、亡霊は実在する。それだけは断言できる。
何故そんな風に私が断言する事ができるのか・・・本編を話す前に、少し私の事について話そう。
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私は、幼少の頃から人間以外の何かが私の周囲に見えていた。物心がつく前では、私はそれを「しんぽしょん」と呼んで泣いていたらしく、親はソレを小さな蜘蛛の巣の事だと思っていたらしい。
だが、私が見えていたのは違う。蜘蛛の巣の中にモヤモヤした変なのがいたのだ。
色は様々、緑色、赤色、茶色、黄色だったりピンクの鮮やかな色だったり、様々な色のモヤモヤがいるのだ。
このモヤモヤを表現するのに1番近いのは、電球を長い間見て、急に暗がりを見ると光が目に焼き付いて影が見える現象が感覚的に近い。
私のはそれが常にあちこちにいる。昼でも夜でも、そのモヤモヤは何処にでも私の目に映る全てにいた。
最初はそれが恐ろしかった。特にソレが見えるのは夜、布団に入って電気を消した瞬間。天井、壁、タンスの隙間、窓ガラス。私の視界には無数のモヤモヤがいた。そのモヤモヤに常に見られてる気がして、私はいつも電気を消すと目を瞑ったまま布団を探して入り込んでいた。そのせいでたまに隣で寝てる親を蹴っ飛ばしたりしてしまっていた。
だが、小学校の高学年になってくるとそのモヤモヤへの恐怖が薄れてきた。
私の引っ込み思案な性格も相まって、このモヤモヤはみんなにも見えてて、みんなはそれを気にしてないだけなんだ、そうでなきゃこんなにいっぱいいるのに、誰も何も言わないのはおかしい、そう私は思っていた。
そして友達も少ない私は、そのモヤモヤに少し愛着が湧くようになってきた。試しに手を伸ばしてみるとモヤモヤの一つは私の手元にやって来る。そして私の手元をふわふわと漂った。それでこの時確信した、これは決して何か悪い存在ではないのだと。私は少しそれで元気が出た。
その後、私は中学生になり、そのモヤモヤの話を両親に何とはなしに聞いてみた。両親の答えはこうだった。そんなモヤモヤなんて見えたことなんか無い。つまり、あのモヤモヤは私にしか見えていなかった。
これでようやくこのモヤモヤが霊的な何かである事を理解した。
しかし、当時は霊の存在は理解出来たが、悪霊と言うオカルトな類は信じていなかった。
あの経験をするまでは・・・
ここから本編を語ろう。私が体験した、最も恐ろしかったと呼べる出来事を。
最初にも言ったが改めて言う。これは実体験、フィクションではない、ノンフィクションの出来事だ。当時の学校や友人の名を伏せはするが、これから私が話す事は全て事実である事を理解して欲しい。
私は今年で27歳、誕生日を迎えると28歳になる。そこから10年前の事だ。私は高校生で、夏休み少し前と言う7月の暑い日の事だ。
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某県、某市 とある高等学校。
梅雨が明け、蝉は街中にこだまするほどやかましい、蒸し暑い夏だ。
だが、この時期になると少し楽しみも出てくる。夏休みだ、この日は夏休みに入る少し前の事だ。
朝のホームルーム、私はいつものようにぼけーっと担任の話を聞きながら、早いとこ夏休みにならないかなぁと外を眺めていた。
「・・・と言うわけで、今日はこれから市民会館に向かうから、9時半までに行けよー」
担任の話が終わり、みんなそれぞれ鞄を持って外に向かう。今日は特段授業をやる予定はない。今日は校外学習という事で一日、近くにある市民会館でとある講演を観る事となっていた。
「なぁ、俺いまいちわかんないんだけど市民会館ってどこら変にある?」
「ん〜?あー、なら一緒に行こうぜー」
「おけ」
その市民会館へはバスとかでは無く、各々で向かう事になっていた。私はその市民会館に行った事がないので友人と一緒に自転車で向かう事にした。
「今日は特段あっついな・・・」
「天気予報で35度超えるって今朝言ってた。マジなんなん?これのどこが地球温暖化は嘘なんじゃい」
「早く秋にならないかなぁ〜」
天気は気持ちが良いほどの快晴だった。梅雨も明けた事もあり、降り注ぐ日差しはか痛いほど強かった。
その市民会館へは自転車で20分程、市を流れる大きな川沿いに建っている。私がそこに到着した時にはかなり汗をかいていた。
私は館内は冷房が効いてる。そう思って足早に館内に向かった。
その時の時点で妙な感覚を覚えた。確かに冷房は効いていていて涼しかった。友人もそこに入ると涼しそうにしていた。けど、妙に空気が重いような感じがした。妙にジメジメしている・・・冷たいのに変な感覚だった。
違和感は続いた、外の日差しが強かったせいなのか?この施設の中は何故か暗い。元より市民会館的な場所はどこも薄暗い感じはするが、ここは照明は点いているにも関わらず、そこの下も何故か暗い感じがした。
今思い返せばあの場所は入った時点で異質だったんだ。私は霊的な何かが見えると最初に語ったが、私がその日のその場所に辿り着いた瞬間、それが全く見えなくなっていた。いつもいるモヤモヤが一つも見当たらない。
私はその違和感に気づく事は無く、そのまま劇場ホールの方へと向かった。
劇場に入り、私は前から4列目くらいの右の端の席に座った。そこまで広い訳ではない劇場、薄暗い空間で客席側の証明だけが点いていてステージ側にはまだ証明は灯っていない。
しかし後ろの方で緞帳が揺れたり、時折ステージの端からスタッフらしき人が出入りするのが見える。
このステージで行われるのは講義とかの類ではない、戦争を題材とした舞台のようなものだ。戦争への理解や悲惨さなどを伝えるのを目的とした課外授業だった。
そして公演の時間が近づいてくるとスタッフも少なくなってくる。だが、私の目の前にある緞帳の端っこにいる女性はもう時間になると言うのにその場でステージに向かって正座して動かない。
もしかしたらこの幕を動かす係の人だろうか、私はそう思ってその女性を見た。けど少し変だ、その女性は着物を着ている。だとしたら役者の1人?なら尚更何でここに1人でいるんだろう?
「ねぇ・・・」
『ビーーーーーッッ!!!』
私は気になって隣の友人に聞いてみようと思ったが、瞬間に開演の合図が鳴り、静かにしなきゃだめかと思って私は、じっと舞台を見た。
けどやはり端っこで正座してる・・・
緞帳が開いて2人の役者さんが挨拶を交わした。
「どうもみんなこんにちわーっ!!」
かなり元気な方達だな、今日やると聞いていた内容からは想像出来ない程明るい2人、まるでお笑いコンビのように見えた。しかし、服装はテーマに沿った旧日本陸軍のような服装をしている。
公演が始まるとその2人の空気は変わった。内容は現代日本で暮らす2人が、太平洋戦争時代にタイムスリップしてしまい、2人は帰る方法を探していくと言った内容だ。
私はその2人の演技力と小物の演出に、こんな机と椅子だけでもこれほどの演出が出来るものなのかと正直感激しながら鑑賞していた。
そして私は一瞬目を逸らした。そう言えばあの女の人は何だったのだろうか。流石にもういないだろう、そう思ってステージの端を見た。
まだいる・・・そして私は気がついた。あれ?この人、さっきまで横向いてた筈・・・いつのまに正面を向いたんだ?
女性は今度はステージ側を向いて正座していた。顔が丁度影になるので表情は全く伺えない。だが、何と無く私はその女性から視線を感じた気がした。
まぁいい、公演に集中しよう。私は気にせず公演を眺める事にした。
1時間後途中休憩が入る。20分の中休みの後、後半が始まるとの事だ、私はトイレに向かう為に立ち上がった。
あれ?いなくなった?
立ち上がると同時にチラッとステージを見ると、そこに女性の姿は無かった。
「あー、肩凝ったぁ〜」
私は基本授業中はよく寝ていたり、ぼーっとしていてあまり成績の良い人ではない。けど、今回のこの公演は珍しく集中していたせいか、バキバキと首と肩が鳴る。
そしてトイレに行きがてら私は座席に戻ってきた。よっこいしょと座って顔を上げる。
え・・・
女性がまた同じ場所にいた。しかし、その様子はさっきと違っていた。はっきりしてるのだ。髪は異様に長い、影で表現が見えなかったんじゃない。髪のせいで顔が見えなかったんだ。そして、着ている着物の柄も分かる。ボロボロでツギハギまみれのみすぼらしい着物だ。
まるでこの公演の内容と同じ、戦時中にいた女性、そのものに感じた。
「っ・・・」
そんな時私に急な頭痛が起こる。私は昔から肩がよく凝る。それが原因からか、それに伴う頭痛が頻発していた。治すには首周りのストレッチか、水分補給。最悪、バフ◯リンを飲んでおけば治る。
今回もそうだと思って念のために水筒のお茶を飲んで、頭痛薬も飲んだ。これで少しは楽になるだろう・・・
こうして後半の部が始まった。
公演の内容が更に深まっていく、空襲警報が鳴り響き、焼夷弾が街を焼き尽くしている。そんな時、赤紙が来た2人は神風特攻隊に任命され、死者はかなり増えていく。
私の中にある公演の記憶はここで途絶えた。私はそれどころではなくなったのだ、頭痛が酷すぎる。ここまでになった事は無い。気持ちが悪い・・・先生を呼ぶべきだろうか?いや、何とか耐えられる・・・
いや、頭の中が脈打つ・・・これは流石にまずい・・・私は意を決して席を立とうとした。しかし・・・
モヤモヤ?
顔を上げた、ステージの女性の近くに緑色のモヤモヤがいる。けど、いつも見えるモヤモヤとは何かが違う。何だか嫌な感じだ。
立てない・・・私がそう思った瞬間、身体は動かなくなった、意識ははっきりしてる。頭痛のせいで余計に意識感覚は鋭かった。
けど、立ち上がりたいのに身体が動こうとしない。まさか、熱中症?こんな涼しいところで?
公演中の水分補給は別に禁止されてはいなかった。手だけは何とか動かせたので私は水筒のお茶を飲む。
ぞわ・・・お茶を飲んだら身震いした。寒い・・・全身が冷たくなる感じがしてきた。
「んっ・・・・・」
そして更に頭痛が酷くなった。何が原因だ・・・
これまでに感じた事のない悪寒、まさか原因はステージのあの女の人せいでは・・・私はもう一度女の人を見た。そして、そのモヤモヤも。
顔・・・?
いつもはただモヤモヤしているだけの存在。だが、この日だけはそのモヤモヤが顔に見えた、青白い骸骨のような顔。
それと同時だ、女の人から下半身が見えなくなった。私を見ている・・・女の人の視線は完全に私を見ていると実感した。
「は?」
私は思わず声が出た。隣はチラッとこっちを見た気がしたが、すぐに正面を向き直した。モヤモヤが尋常じゃないほど現れ始めた。ステージの端から増殖するように広がっていく、そしてそのモヤモヤ一つ一つがあの骸骨と同じ顔をしている。
増殖は終わる事を知らない、次第にステージの天井をも覆い尽くし、骸骨はステージの反対側にも及んだ。いないのは公演中の2人周辺だけだ。それ以外が全て骸骨の顔に埋め尽くされた。
そしてその顔の視線は私に向いている。意識が飛びそうになった。私はそれを無理やり気力だけで何とかしていた。
身体はもう動く筈だ、先ほどのピクリとも動けない感じではない、これは流石にやばい
動かないと、動かないと、動かないと、動かないと。
動け、動け、動け、動け、
しんどい、しんどい、しんどい、
何故・・・動ける筈なのに、動けない。全身がだるくて重たい。指一本動かすのもしんどい。頭で動かないとヤバい事は分かっていながらも、私は全く動けなかった。
その時だった
「ギィィィィアァァァァアァァァァッッッ!!!」
文字にするならばこれが1番近い、形容しがたい叫び声のようなものが襲ってきた。耳が痛い・・・これは本当に声か?そもそも音なのかどうかすら分からない。耳の奥の頭の中だけで叫ばれてるような感覚だ。
公演の声は全く聞こえない、ひたすらに声だけが響く。この声のせいか視界がぼやけ始めた。平衡感覚がおかしい・・・
顔が徐々にこっちに近づいてきた・・・目を瞑る?いや、それは1番ダメな気がする。
そうだ、これは熱中症だ。そのせいで気持ち悪くなって耳鳴りがしているんだ。そうに違いない、水筒を取れ、蓋を開けて飲め・・・永遠にそうしてろ。私は何もおかしくはない。いつもの頭痛が今日はたまたまひどいだけなんだ。
私は無理矢理言い聞かせた。そうやって言い聞かせ続ける事で意識をかろうじて保っていた。
顔から無数の手のようなものが伸びてきた。
違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ
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私は頭の中で永遠に否定の言葉を喋っていた。早く公演が終われと願い続けた。
終われ、終われ!終われ!!終われ!!!
「ケホッ・・・」
私は急に咽せた、何とも中途半端な感じの咳だ。それと同時だ、公演は最終盤になっていた。2人のうちの1人が戦死し、もう1人が零戦で敵の艦隊に特攻を仕掛ける。撃ち落とされ、地面に激突する瞬間、その1人は突如現代に戻り、病院のベッドの上にいたというシーンだ。
私はそのベッドの上で目覚めるシーンと同時に、突然頭痛と吐き気が消えた。そして骸骨も女の人も、徐々にステージの端から消えていくのが見えた。
完全に消えると同時に公演が終了した。
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「・・・お前ずっとお茶飲んでたな、そんな喉乾いてたん?」
友人はやたら私が水筒のお茶を飲んでいるのを見ていたらしい。
「あらほんとだ」
気がつけば水筒はすっからかんになっていた。これから部活あるのに・・・
あれ?もう完全に何ともない。さっきまで部活どころか救急車案件ってぐらい酷い状態だったのに、部活をやる元気がある。
「どっかで水入れてこ」
私はその市民ホールにある給水機で水筒に水を入れてまた学校へと戻った。
「・・・ってな訳で、感想文を書いて提出な?」
ヤバい、何にも覚えてない。正直に書くか?幽霊がいたのでそれどころではありませんでしたって。アホか・・・仕方がない。それなりにそれっぽい事を書いて出そう。こう言う口から出まかせみたいなのは得意だ。
今日の授業はこの感想文を書いて午前中に全て終わった、その後は部活に向かう。
本当に何ともない、私は柔道を部活でやっていたが、何不自由無く身体が動く。逆にここまで来ると不気味にすら感じた。
あれだけ気分が悪かったのに、なんなら部活をサボる口実になるだろうとか学校に戻る時に考えていたのに・・・
そして夕方、私は家に帰る。
何も感じない、不思議なくらいだ。
家に着くと私は家族に今日起きた出来事を話してみた。母はげぇって感じでビビって、
「え〜、お祓いでもしてもらう?」
と言った風だった。確かに私はそこまで信心深い人間じゃないが、流石にコレはやった方が良いかもと感じていた。
「あー、そう言えばあそこの市民ホールって川の近くにあるやろ?」
突然父が何かを思い出したように話し始めた。
「うん」
「昔、あの川の上流でバスの転落事故があって、その死体があそこ周辺に集まってたんだと」
「あー・・・」
思わぬところで原因は分かるものだ。私はこの時確信した、悪霊と呼ばれるモノは存在するのだ。悪霊が集まるスポットは必ず何処かに存在している。
あそこへはもう2度と行きたくないなぁ・・・さて、今日は寝るか。
私はベッドに入る。その時だった。
『ビギッ!!!』
「いっつ!!!!」
急に足が攣った。部活でやたら張り切り過ぎたか?
「ギィィィィアァァァァアァァァァッッッ!!!」
またあの叫び声。
足が攣った激痛と、その耳鳴りのような叫び声で凄まじ脂汗が吹き出した。
終わってない・・・まだ終わってなかった。
身体が硬直したように動かなくなった。金縛りだ、金縛り自体は初めての経験ではなかった。この感覚なら分かる。だからこの時は今朝と違い、冷静だった。頭痛もない、身体が異様に重たいだけだ。
今朝の事を思い出せ、落ち着いて・・・横に転がれ!!
『ドンガラガッシャーン!!!』
「なーにやっとんのー!!」
私は思いっきりベッドから落ちた。結構やかましい音が出たせいで下の階にいた母がやれやれと言った声で聞こえてくる。
「足攣ってベッドから落ちたー!!」
「はーん?」
何とかなった・・・もう何ともない・・・何も聞こえない・・・
それ以降、これと言った体験はしていない。モヤモヤは相変わらずあちこちに見えるのだが、それが人の顔になったりとか、訳の分からない着物の女は見たことない。
あの体験は一体何だったのか・・・もし、あの時意識を失っていたら、目を瞑ってしまったらどうなっていたのか、あの手のようなものは何をしようとしていたのか・・・うん、考えるのはやめよう。私はとりあえずゲームに勤しんでいた。
そして夏休み半ばになり、この出来事もそろそろ忘れてくる頃だ。ふと突然この日の出来事を思い出した。父の言っていたバスの転落事故についてだ。
私は気になってその事故について調べてみた。確かにその事故はあった。観光地から帰る道中、その途中で大雨が降った日の事、並走するように走る鉄道は運行していたと言うこともあり、バスは大雨の中運転し、その途中で土砂崩れが発生、バスの乗員乗客30名程が全員亡くなったと言う事故だった。
余談だが、この時鉄道の運転手は輸送司令の命令を無視して運転を取りやめた結果、土砂崩れに巻き込まれず無事だったと言う奇跡が起きていた。
この事故で亡くなったのは30名程。あの日、あの場所で見た人の顔は30なんて数ではない、もっと多くの、200は軽く超えていた。そして、そのバスに着物を着た女性なんて人は乗っていない。
だとすると、私が見たのはそのバスの乗客の亡霊なんかじゃない。
そもそも事故現場はあそこからかなり上流なのだ。
私は少し考えて一つの考察をした。あの場所に遺体が流れ着いた。
それはつまり更なる昔、死んだ奴はみんなあそこに流れ着いた。私は柄にも無く地元の歴史を調べた。そうしたら第二次大戦時、この地にも大規模な空襲があったと私は知った。
更なる偶然があった、公演があった日と空襲の日は同じ日だったのだ。
私が見たのは、聞いたのは恐らく戦争で亡くなった人達だ。あの苦痛な叫び声はどうやら彼らの声だったかもしれない。そしてその中に、バスの犠牲者もいたかもしれない。
あの場所はきっと魂が滞留する場所なんだ。道を見失って本来帰るべき場所が無い者たちが集う場所。私はそう考えている。そして滞留した魂はきっと澱んでしまうのだろう。それがあの骸骨のようになってしまうのかもしれない。ただでさえ無念のまま死んだ命だ、人間の憎しみや後悔という感情は恐ろしいものだ。それが何百、もしかしたら何千と行くべき場所に行けず、そこに集まっているのだとしたら・・・
私の近所でこんな場所があるんだ。こう言ったヤバい場所は意外とあちこちにあるかもしれない。川だけじゃない、山、田んぼ、住宅街、もしかしたら高層ビル群の何処かにだって魂が滞るようなそう言った場所はあるかもしれない。私たちはただ見えていないだけなのだ。
人間の視力なんかたかが知れているんだ。だから見えてない物を存在しないと決めつけてはいない、彼らは確実に存在している。人間の目で見えないってだけだ。
もし、軽はずみな気持ちでそう言う所に行きたい人は注意した方が良いと思う。私はたまたま運が良かっただけだ。自らの好奇心で進むのはやめた方が良い。
何人で行くのかは知らないが、そこにいるのはたった数人の生きてる魂と幾千もの死者の魂だ。踏み込んでしまえば、一瞬で飲み込まれるだろう。その先どうなるかは私にはわからないが、あの叫び声と骸骨の顔の先にまともな所があるとは思えない。
そして、あれから10年経つが、その市民会館は改装されたと聞いた。しかし、今だに近くを通ると何故か頭痛が起きる。綺麗になったとしてもそこに溜まったものは変わらないのだ。
私自身、例のモヤモヤはほとんど見えなくなってきている。それでもあの場所は嫌な感じが未だにある。だから私は極力そこを通らないようにしている。
霊なんてものは見えないに越した事は無いが、だからと言って否定したり、ましてや面白おかしく話したりするのはあまり良いとは思えない、面白半分で手を出して良い事柄ではないのだ。
だから最後に、私から言える事を1つだけ伝えておこう。霊と言うのは何処にでも存在するし、無数に存在している。部屋の天井、壁、タンスの隙間、窓ガラス。外を歩けば川、木、ガードレール、アスファルト、電柱・・・何処もかしこも霊は存在していて、その霊は常に私たちを見ていると知っておいた方が良い。
行く道、寄り道、そして帰り道・・・
そして、その何処かに魂が滞る所がある。
誰しもが通る道の中で、彼らは君たちを見ているのだ。