諸悪の根源
「お断りします」
わたしがそういうと、聖さまと戦原さまが溜め息のような息を吐いた。このみさまがいう。
「ど、どうしてですの? あづまさん?」
「だって、帝さまには聖さまのおっしゃるとおり、このみさまのほうがお似合いですし」
二秒くらいあって、このみさまが赤くなった。「ま、まあ、なんてことを。わ、わたくしは」
「だって、このみさま、帝さまのことが」
「や、辞めて頂戴な」
「ああ!」
帝さまが額を叩く。彼らしくない、ちょっと俗っぽい仕種だった。
「すまない。言葉がぬけていた。弟と結婚して、我が家にはいってほしい」
火風さまを見る。はずかしそうに俯いて、帝さまのせなかに隠れるようにしていた。わたしは首を傾げる。
「うーん。あのう、できればきちんと、自分でプロポーズしてくれるかたのほうが、安心できます」
「ああ……それは、そうかもしれないが、ううむ、結婚は家の為のものだからね。火風?」
ああ、それはわからん価値観だな。
火風さまは本格的にはずかしがってしまって、兄である帝さまの腰にしがみついている。「火風さま、いやがっておいでなのではないですか」
「なにをいってますの?」
呆れたみたいに、このみさまがいった。「ああ、こういうのは、朱月さまだけにしてもらいたいものだわ」
「おい、帝、勝手に話をすすめるなよ」
戦原さまが口を尖らす。「俺だってあづまを嫁さんにしたい」
「どちらもお呼びでないよ。あづまさんは、僕がしあわせにするんだ」
聖さまがそういって、たい焼きを全部食べた。いつの間にか、だいぶ食べていたのだ。「これおいしいねえ、あづまさん」
このみさまがしっしっとふたりを手で追いやろうとする。
「あづまさんはわたくしの可愛い妹なのです。異形族や魚人族は、人間とは姿形がはなれすぎています。退散なさい」
「そんなことない」
「そうだよ。僕とあづまさんのことに横やりをいれるなら、幾ら鏡守さんといえど、承知しないよ」
うーん。うーん? どういうこと?
何故だかわからんが、わたしをめぐって争っているみたいだ。どういうことだろう。
「それじゃあ、誰が彼女に相応か、競おうじゃないか」
聖さまがいう。戦原さまが笑った。「のった!」
「先輩がた、あづまさんの意思も」
「それじゃあ、三ノ院のばか娘をこらしめた者の勝ちにしよう」聖さまが鼻に皺を寄せた。「あの性悪。やっと突きとめたんだからな、彼女が根回しして、学園にたい焼きがひとかけらも搬入されないようにしているって」
怒りで目の前が真っ赤になった。