週末デート
気になるが、誰かはわからないまま、二週間が過ぎた。その間、これまではよく喋っていた帝さまが、わたしにあんまり近寄ってこなくなった。謎の女子生徒と親しくするのにお忙しいんだろう。
わたしがひとりで居ると、聖さまや戦原さま、螺旋木さまがいらっして、いろいろと誘ってくれる。温室でお茶会を開くからおいでとか、ピクニックへ行こうとか、跳び箱対決してひねりが多かったほうが勝ちな、とか、段違い平行棒と鉄棒の異種格闘技やろーぜ、とか、ばら園でお月見をしない、とか、鹿狩りに行こう、とか。
そういうお話をしていると、このみさまか火風さまがやってきて、あづまさんは先約があるからと、わたしをひっぱって男の子達からひきはなしてしまう。正直、攻略対象と変なフラグは立てたくないので、ありがたかった。
二週間後、急転直下の出来事が起こった。なんと、帝さまから週末デートのお誘いがあったのだ。
わたしは制服姿で、校舎の一階、玄関のすぐ近くに立っていた。手ぶらでおいでとのことだったので、鞄は持っていない。
ほかにも、週末デートに出かける女生徒達大勢が、お相手を待っていた。皆さんめかしこんでいて、お化粧もばっちりだ。わたしはそんななかで、完全にういていた。じろじろと見て、鼻を鳴らす生徒も居る。
「やあ、あづまくん」
帝さまがやってきて、女生徒達がぽかんとした。三人くらいいっぱいに瞠った目で見てくる。帝さまとのデートにその格好な訳? あんた正気? という彼女らの疑問が、まなざしだけで伝わってきた。目は口ほどにものをいうって、本当だったんだ。
わたしは姿勢を正し、お辞儀した。「お誘い戴きまして」
「ああ、かしこまらないでくれないかな」
ざわめく。今度は多分、帝さまからデートに誘ったのか、という驚きだと思う。
「それでは、行こう」
「はい」
帝さまはわたしの腕をとって、玄関の端っこにある部屋へ向かった。そこに、瞬間移動用の装置があるのだ。そう、週末デートは学園からはなれられる、唯一の機会なのである。
だから、このみさまには悪いと思ったのだけれど、断らなかったのだ。
たい焼きを食べる機会があるかもしれない。内ポケットに、万札が唸っているお財布をいれてある。
部屋に這入ると、急に暗転し、気付いたら別の場所に居た。学園へ瞬間移動した時は、もっとゆっくり、時間がかかったが、それは瞬間移動をして、別の場所まで移動し、また瞬間移動して……というのを繰り返したからだそうだ。はじめて瞬間移動するひとがほとんどなので、体が吃驚しないように短い距離を数十回繰り返すんだって。
でもそれで体が慣れているし、行ったことのある場所二ヶ所を移動するのなら、今回はそういうクールダウンみたいなのは要らない。
そんな説明を聴きながら、瞬間移動した先の建物から出た。警備員みたいなひとが沢山居て、帝さまが出てくると敬礼する。帝さまはにこっとした。
「あづまくん、ここがどこだかわかるかい?」
その言葉で、周囲を見た。見覚えのある屋根が目にはいる。
図書館だ。
ここは……わたしの地元?
帝さまにひっぱられるまま歩いた。
「ここまでつれてきて、申し訳ないけれど、ご家族には会えない。結婚後なら、君が望めば会えるんだが、それまでは我慢してもらいたい」
帝さまの言葉にどことなく違和感があったが、わたしは頷いた。すんすんと、周囲の匂いを嗅ぐ。図書館の近くには、公園があって、いつだってひとでにぎわっている。風船を配っているピエロも居るし、ドーナツやたこ焼きの屋台も出ているし、占いの露店やアクセサリー屋さんもある。毎日お祭りみたいなものだ。
帝さまはこだわりなく、公園へ這入っていった。いつも公園を利用するのであろうひと達が、ざわめく。当然だ。帝さまはあきらかに神族で、美形で、目立つ。
しかしわたしは、そんなことに気を配る余裕はない。まだ、午前だ。時間からすると、たい焼き屋さんはまだ居ない。
いつもたい焼き屋さんが出店している場所には、ワゴンはなかった。わかっていたけれど、ちょっと残念で、わたしは肩を落とす。