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できないとはいってない




 きらきらした銀髪が、歩くのにあわせて揺れる。目付きは鋭い。瞳も銀色だ。「朱月(しゅげつ)さま」

 このみさまが立ち上がって、そちらへ行った。(みかど)さまの後ろには、中等部の制服を着た、弟の火風(かふう)さまも居る。火風(かふう)さまは不思議にきらめく焦げ茶の髪で、神族の少年にしては背が低く、女の子のようなやわらかい雰囲気だ。

 このみさまがなにやら低声(こごえ)でいい、(みかど)さまが頷いた。火風(かふう)さまとこのみさまで、瑠奈(るな)のとりまき達のなかからわたしをひっぱりだす。誰かが(多分職員だ)トレイを持っていった。

 (みかど)さまがいう。

三ノ院(さんのいん)くん、あづまくんを侮辱したのか」

「そのようなことはございません」

 瑠奈(るな)はにっこりして、食堂内を見渡す。「ねえ皆さん?」

 瑠奈(るな)の家は、(みかど)家に次いで力のある三ノ院(さんのいん)家だ。瑠奈(るな)の言葉を否定する生徒は居ない。三ノ院(さんのいん)に睨まれたくはないからだ。

 (みかど)さまが渋面になる。瑠奈(るな)は喜色満面だ。

「もしかして、鏡守(かがみもり)さんがそのようなことを? まあ、酷い中傷だわ」

三ノ院(さんのいん)くん」

「でも、鏡守(かがみもり)さんは由緒正しいお家のかたですもの、そんなこと簡単にいう訳ないですわね。ということは、口さがない人間が入れ知恵したのだわ」

 瑠奈(るな)がわたしを見た。(みかど)さまがその視線を遮るみたいに移動する。火風(かふう)さまも、その隣に並んだ。

 わたしからは見えない瑠奈(るな)の声が響いた。「その女に謝罪を要求しますわ」


「ごめんなさい、あづまさん」

「いえ」

 三十分後、わたしは体育館に居た。たい焼き柄のTシャツ、という部屋着のままだ。たい焼きクッションは、このみさまが大切そうに持ってくれている。

 瑠奈(るな)は、自分達のように優れていない人間がたてついてくるのが腹立たしい、とかなんとかいい、(みかど)さまがわたしを成績優秀だと庇い、そのあと何ラリーかあって、何故かわたしが跳び箱に挑戦することになった。

 跳び箱は十五段。三回挑戦して一回でもとべたらわたしの勝ちで、謝罪しなくていい。とべなかったら土下座、と決まったそうだ。

 わたしとしては、面倒だし、「土下座した女」ということで攻略対象にも引かれそうだからそれでいいのだけれど、わたしがとべない場合はこのみさまも謝罪しないといけないらしい。勿論、幾らなんでもこのみさまに土下座を要求することはなかったが。

 でも、このみさまが謝罪する意味がわからないので、わたしは跳び箱をやることを承知した。十五段かあ。久々に見ると、大きいなあ。

 瑠奈(るな)がとりまき達を背景に、にやにやしている。わたしは簡単にストレッチをし、立ち上がった。

 このみさまははらはらした様子だ。

「ねえ、あづまさん、本当に宜しいの? 怪我をしたりしたらいけませんから、やめておいたほうが」

「だめです。副会長に謝罪なんてさせられません」

「そんな……あんな約束は、無効ですわ」

「大丈夫ですから。あ、どいててください」

 このみさまは不安そうだが、はなれていった。(みかど)さまを捕まえて、なにかいっている。

「はやくやりなさいよ!」

 瑠奈(るな)がいい、そーよそーよと複数声があがる。わたしはそれをちらっと見てから、手に炭酸マグネシウムをはたき、走り始めた。

 歩数を調整し、ロイター板を踏み込む。踏切が大切だ。とびあがって、跳び箱の上部を思い切り両手で押した。そのまま、二回半ひねって着地する。

「できたー」

 このみさまに手を振った。「綺麗にひねれてましたかあー、このみさま-」


 瑠奈(るな)が猛抗議したので、今度は手のつきかたを変えて二回転して着地、というのをやると、なにもいわなくなった。瑠奈(るな)はショックをうけたみたいな顔になって走り去る。とりまきもいなくなった。

 わたしは手を部屋着のずぼんにぱたぱたやる。炭マグが舞う。火風(かふう)さまが、瑠奈(るな)が居なくなって三十秒くらいしてから、突然ふきだして笑った。

「す。すみません」

「さすがだな、あづまくん」

 (みかど)さまはきらめく笑顔だ。「異形族や夜族にまざって、体操の地方大会で三位になっただけはある」

「そうでもないです」

 それでも、誉められたのは嬉しいので、にこっとする。

 実は、アウラのある人間でもスポーツの特待生や、強化選手、代表選手になれば、このような学園へはいる義務はなくなるのだ。わたしはそれを目指していたのだけれど、十歳を超えた辺りで異形族や夜族にまったく勝てなくなった。それで、十二歳でその道は諦めた。

 このみさまが、(みかど)さまの腕をはたいた。なんと、涙ぐんでいる。

「酷いですわ、朱月(しゅげつ)さま」

「なにがだ? お前こそ、あづまくんの学歴を把握していなかったのか」

 このみさまはむくれてしまった。「あづまさんも、酷い。運動がお得意だなんて、教えてくれなかったじゃない」

「ええっと、たいしたことではないので」

 十五段もあったら、上手なひとなら五回転+六回半ひねりくらい簡単にしてしまうのがこの世界だ。わたしは実際のところ、たいした技術はない。

 このみさまはわたしにたい焼きクッションを投げつけ、そのあと、泣きながら抱き付いてきた。




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