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どんな乙女ゲームなのか、主人公による解説と、立場についての嘆き




 前置きは長くなるから省こう。わたしは乙女ゲーの世界に生きている。




 乙女ゲーム「find†Love」。現代チックだけどファンタジーな世界、とでもいうか、なんというか……売り文句はゴシック調現代ファンタジーだったので、まあそういうことにしておく。


 「find†Love」の主人公は、高校一年生。

 特殊な種族(吸血鬼とか、魚人とか、神(!)とか)と結婚できる適性がある、ということで、そういうひとだけが行ける特別な学校、「天宮学園」というところへ転校する。


 「find†Love」の世界では、特殊な種族のひと達は単なる人間よりも能力が高いし、優秀で賢くて美形揃い、お金持ちが多い。いわゆる支配者層で、それはどこの国でもかわらない。


 ただし、数がとても少なくて、繁殖能力が低い。同じ種族同士か、一部の人間としか交配できない。しかも、同じ種族同士だと子どもができにくい。

 不思議なことに、生まれる子どもは血がうすれることはなく、人間の父親や母親に似ることはあっても「人間らしい欠点」を受け継ぐことはない。例えば、魚人と人間が結婚して子どもができたらカナヅチでした、なんてことは起こらない。


 なので、適性のある人間はとてもよい配偶者、として、適性があることがわかると私立の学校にいれられ、最高級の教育をうけることになる。人間の「欠点」(このいいかた嫌いなんだけど)を受け継がないとはいえ、子どもを育てる父母がまともな学もないようじゃあ子どもに悪影響だということらしい。


 勿論、もめることは必定なので、血のつながった家族とは合法的に縁を切ることになる。国の偉いひと達は人間以外でかためられているので、「適性のある人間」がそういう非・人道的な扱いをうけたとしても、法律がそういうふうになっていてどうしようもない。

 それにこれは、適性のない普通の人間にとっては、自分達が安全に暮らす為の上納金というか、スケープゴートである。適性のある人間をさしだすかわりに、それ以外の人間はきちんと人権がまもられているのだ。

 もし、この法律がなかったら、人間以外の種族が団結して人間を囲いこみ、「人間農園」をつくって動物のように繁殖させるだろう。自分達の繁殖の為になる、適性のある人間を得るには、それが一番効率がいい。実際、そんなふうにして人間に番号を振り、動物同様に管理している国もあるが、その点我が国は安全で理性的な政策をとっている。




 というのが、わたしが前世で「find†Love」をやって、初っ端に読まされたテキストの要約である。

 要するに、主人公ちゃんはなんかつよいひとたちの子どもをうむ候補として、家族と縁を切らされて謎の学校へ放り込まれる。そんで、イケメン達とお近付きになってなかよくなり、最後はプロポーズさせる。無事エンディングを迎えると結婚式のスチルが表示される。




 ちょっと胸くそ悪い設定だが、わたしはこのゲームをやりこんでいた。理由:絵師さんの大ファンだから。それ以上でもそれ以下でもない。

 この絵師さん、すもーく♡くおーつさんは、とにかくレースの表現が綺麗なのだ。美麗なドレスの女の子イラストに定評のあるひとで、高校生時代にネットの個人サイトにのせていた凄まじい描き込みのイラストが「find†Love」制作陣の目にとまり、抜擢された。

 そのひとにウエディングドレスを描かせるなんて、ぴったりすぎる。それも、攻略対象ごとにドレスの形状・色・レースの具合・ヴェール・ブーケなどが全部違う。

 のちのち、商業デビュー作である「find†Love」を振り返って、すもーく♡くおーつさんは、「まだ高校生で時間も体力もあったからできたけど、今やったら死にますね(笑)」とある雑誌のインタヴューで答えている。

 そう。すもーく♡くおーつさんのファンだったわたしは、そのインタヴュー記事を読む為に絶対に必要のないウエディング雑誌を買い、「find†Love」の存在を知って、十年以上前に販売された「find†Love」を中古ゲーム店をはしごして見付けだし、プレイしたのだ。


 ストーリー、というかそれ設定的にどうなの? という部分は多々あるのだが、すもーく♡くおーつさんのイラストが美麗なので、設定の矛盾だのなんだのの()()は正直どうでもよかった。

 プレイ中にいらいらしても、クリアすれば「アルバム」でスチルを眺められるのだ。どのウエディングドレスも素敵で、主人公ちゃんは可愛く、攻略対象は麗しく描かれていた。




 舞台となる天宮学園は、絶海の孤島にある。といっても、人間以外の超絶賢い種族が地球を発展させている世界、便利な機械がいろいろつくられている。人間以外には絶対にある特殊な「アウラ」というエネルギーをつかい、瞬間移動なんて簡単にできてしまうのだ。

 といっても、人間にはそれはできない。基本的に、人間は非力で()()で庇護される存在、適性のある若い人間はお宝、というのがこちらの価値観だ。

 要するに、花嫁候補達が逃げないように絶海の孤島に学園をつくり、でも自分達は(高校生だけど大企業の社長とか、もの凄い研究をする為に世界中を飛びまわっているとか、いろいろ設定があり)いつでもどこでも行けるように瞬間移動用の装置は設けてある、ということ。ついでにいうと、共学だけれど人間は女子だけ。だって、人間同士でカップルになっちゃったら無駄だから。人間の男子と人間じゃない女子の学校もあるそうな。

 ああ、攻略対象とある程度なかよくなると、休日デートは島から出られる。アウラがあれば規定量瞬間移動できるから、イケメンくんが主人公ちゃんの分もアウラをつかってくれればすむ話なのだ。

 ていうか、適性っていうのは、「人間なのに微量のアウラを持っている」こと。なにかすれば増えて、ほかの種族の平均並みになるらしいけれど、結婚するまで増やす方法は教えてくれない。これは、ゲームをやっているだけではわからなかったこと。

 そうそう、同じ種族なら簡単じゃないけれど子作り可能なので、人間以外の女子も一部居る。攻略対象達を狙っている、その幼なじみとかいとことかの無駄に変化に富んだラインアップも、前世のわたしには嬉しいものだった。すもーく♡くおーつさんの女の子イラスト可愛いんだもん。


 で、わたしの現状である。簡単に説明しよう。




 Q.いつ乙女ゲーと気付いた

 A.はっきりしてない。多分物心ついた頃にはわかっていた


 Q.嬉しいか

 A.全然


 Q.誰を落とす予定か

 A.誰とも関わりたくない。子ども沢山うまなくちゃいけないみたいだし


 Q.今やりたいことは

 A.たい焼き食べたい




 法律的に一夫多妻OKだし、運よくアウラのある人間を妻にできたら、子どもを沢山つくるのが常識だ。どうしてか、というと。

 別種族カップル=子どもはどうやってもできない。

 同種族カップル=子どもはできるが、確率はとても低い。

 片方がアウラのある人間のカップル=子どもができやすい。

 なので、運よくアウラのある人間と結婚できたら、子どもを沢山つくって親族の養子にするのだ。そうやれば自分がその一族のなかで強大な権力を得られる。そういう政治的な問題もはらんでいる。

 この辺は、「find†Love」をやっている時は知らなかったことだ。実際にこの世界で生きてみてよくわかった。アウラのある人間は、結婚すると長生きできないイメージがある。出産時の事故で死亡するなんてニュースも、たまに耳にする。


 普通、人間は生まれた時に、アウラがあるかどうか調べてわかる。のだけれど、「find†Love」の主人公ちゃんは、その検査で陰性だった。そういう人間もたまに居る。だから、二十歳までは毎年検査が義務づけられているし、三十歳くらいまでは自費で検査できるので、続けるひとも居る。

 上流階級と結婚できるっていう理由で、アウラがあると検査結果を偽装するひとまで存在するのだ。

 主人公ちゃんも、十六歳の時の検査でひっかかってしまい、天宮学園に送られた。彼女の家族には、一生困らないだけのお金が渡され、彼女の戸籍はあたらしくつくられたらしい。名字は失われた。結婚相手の名字になるからだ。


 学園に送りこまれないようにする、というのが無理だというのも、物心ついた頃にわかっていた。だって無理だもの。検査でばれるし、アウラがあるとわかったら法律で「保護」される。

 ただ、学園から逃げる方法がない訳じゃない。

 単純だ。成績そこそこ、ぱっとしない生徒であればいい。

 成績がいいと、「子どもの母親に相応しい」と攻略対象に目をつけられる。

 成績が悪いのも×。何故って、「女は勉強なんてできないほうが従順でいい」という考えの攻略対象が居るからだ。成績が悪いと彼に目をつけられて猛アタックされることになる。

 成績中間、男子とは誰ともなかよくせず、女子キャラと親しくしていると、卒業するだけ、というエンディングになる。勿論、それでもまだ安心はできない。適性のある人間は、少ない訳じゃないが多くもない。どこで上流階級の人間に目をつけられるか、わかったものではない。

 でも、神族の女子キャラとなかよくしていると、「姉妹みたいね?」というイベントが起こる。そのイベントでは、主人公を義理の妹にしてあげる、といわれるのだ。




 ざっくりいうと、神族はこの世界で一番権力がある。

  一番少なくて、でも圧倒的な力を持っているのが「神」。文字通り、神さまだ。ただし多神教的な神さま。得意分野に関しては尋常ではない力を持つし、それ以外も平均以上になんでもできる。

 人間に近い姿形だけれど、ひかりかがやくように美しいのが普通。ついでに、めったなことでは死なないし、寿命も長い。

 神族はいろんな国で国家元首をやっているし、隷属している種族も多い。桁違い、といったところ。


 次に少ないのが、「異形」。普段は人間に近い姿形だけれど、きっかけがあると別の姿に変身する。

 異形族はパワーやスピードに優れていて、スポーツや体をつかう分野で成功しているひとが多い。それに、人間に比べれば賢い。寿命も長め。


 神族に匹敵するくらい賢いのは、「魚人」。体の一部に普段からうろこがあり、手足に水かきがある。遙か昔に神族から分岐した一族ともいわれ、水のなかならその場所に慣れている神族でないとかなわないともいわれる。彼らは神族に次いで長生きするけれど、繁殖力が神族よりも低い。


 「吸血鬼」は、そのほかの「夜」とくくられる種族を隷属させている。人間を食べるのが好き、とか、鏡に映らない、とか、流れている水が嫌い、という変な習性はあるが、基本的に温厚なひと達だ。人間を食べるのも、死刑が決まった犯罪者や、法に則って安楽死させるひとに限っている。

 夜族はほとんど人間とかわらない容姿だけれど、やっぱり美形ばかりで、賢く、体も強い。異形族と同じくスポーツ分野で名を残しているひとが大勢居る。人間を食べている限り死なない、という特性もある。


 ほかにもいろいろ種族はあるのだが、神族が文字通り神のような力を持っているので、ほかの種族は逆らえない。

 なので、神族の女子となかよくし、妹とまでいわれたら、わたしは安全になる。だって、その子が後ろ盾になってくれるのだ。神族以外はこわくて粉をかけられない。

 そして、「姉妹みたいね?」を起こすには、その子とその子が好きな相手を応援し、くっつける必要がある。そして彼女が好きな相手は、メイン攻略キャラ。神族のなかでも世界的に影響力を持つ一族のプリンスである。その彼女が(流れ的に将来ふたりが結婚するのは間違いない)妹とまでいう人物である。神族であってもめったなことでは手を出せない。

 つまり、わたしは恋のキューピッドになればいい。




 天宮学園に送致されるまで、なにもしなかった訳ではない。法律の抜け穴をさがそうとして図書館に通ったり、検査をどうにかごまかす方法を編み出そうとしたり、たい焼きやさんにハムチーズレタスたい焼きの販売を提案してみたり、粒あんもいいけどこしあんもどうだろうかと丁寧にお手紙を書いたり、たい焼き屋さんでバイトしたり、色々していた。

 しかし、世界の強制力とでもいうのか、バイト代で買ったたい焼きを箱(ひと箱いつついり)ごと抱え込んで食べながら、最近はやりのお惣菜たい焼き特集のTVを見ていると、役所の偉いひと達が家にやってきた。

 わたしはたい焼き柄のTシャツを着て、たい焼きをもしたスリッパをはいたまま、丁寧に謎の箱というか神輿のようなものにいれられ、家族との別れもできないまま天宮学園へと運ばれた。

 学園に辿りついた時、膝の上ではたい焼きの箱がつめたくなっていた。あ、中身は途中で全部食べた。




 で、今である。天宮学園に転校して、一週間。わたしはホームシックにかかっていた。授業をサボり、豪華なひとり部屋のベッドで俯せになって泣いている。

 六日間、学園中を探検した。購買はあった。可愛いねこさんのケーキとか、うさぎのマシュマロとか、どら焼きはあった。

 けれど、たい焼きがないのだ。たい焼き、あのかりっとして香ばしい皮、それに包まれたうまみのあるこってりしたあんこ、嚙んでいるうちにもちもちしてくるみたいな食感。ちょっと塩をきかせている、近所のたい焼き屋さんのたい焼きが、あれが恋しくてたまらない。

 学食にもたい焼きはなかった。ここは設定的に日本の筈なのに、学食の職員にたい焼きを要望すると、鯛の塩焼きが出てきたのである。誰がおやつに鯛の塩焼きなんかくうか。いや勿体ないからくったけど。追加でもらった白飯と一緒に食べたらめちゃくちゃおいしかったけど! どんぶり三杯食べたけど!


 そのあと、職員にたい焼きを説明したのだけれど、あの型がないとかでつくれないという。そんな訳はない。ここは天宮学園だ。学食の張り紙にははっきり、「ご要望のものはなんでもお作りいたします」と書いてあるではないか。

 猛抗議したが、木で鼻をくくったような答えしか返ってこなかった。窓口でたい焼きたい焼きと壊れたレコードプレイヤーのように繰り返すわたしを、生まれた時からアウラがあるのがわかっている人間の女子達が、とおまきにしてくすくす笑っていた。

 そんな状態で、授業なんてうけられる訳がない。それに今日は体力測定があって、だるいなと思っていたのだ。運動なんてする気分じゃない。一週間もたい焼き断ちをして、走ったりできない。

 こんなことなら、たい焼きは大事にとっておくんだった。購買部でも、たい焼きをとりよせてと頼んだのに、断られたし……このままじゃ、卒業までに骨と皮になってしまう。




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