第九十六話 おっぱいプリン
ゆうべはとても疲れてシルビアさんともあんなことがあったのに、体内時計の習慣というものはきちんとしていて、パッと目が覚めてルナちゃんがお世話をしてくれ、みんなと朝食を食べるといういつもの朝だった。
午前はいつものように王女とエルミラさんと訓練。
エルミラさんはサリ様による動体視力強化術ですっかり目が慣れてきたようで、身体も徐々に追いついてきている。
私も本気でやらないと簡単に躱されてしまうほどだ。
王女は訓練が楽しくてしょうがないみたいで、午後も暇さえあればエルミラさんと訓練している、二人ともすごい体力持ちだ。
私は王女の胸がタンクトップの下でぷるぷるしているのが気になって仕方がない。
今日は午後三時からインファンテ伯爵家へお邪魔することになっているので訓練を早めに切り上げ、王都周辺域を偵察する。
山を越えて北西へ約六十キロのところにある【アビル】の街の手前まで、約一時間かけて飛んだ。
街よりもまずデモンズゲートの捜索だ。
これを絶っておかないといくらでも魔物が湧いて出てくる。
アビルの手前にある山を越えるとき、魔素探査で魔素が濃い場所が見つかる。
叙爵式の少し前の日にもマドリガルタの北の山で小さなデモンズゲートが見つかったが、こうも数日おきに発生していると国内外全体でどれだけあるのか、いちいち塞いでもイタチごっこではないかと思う。
だが魔物の発生率を考えると比例して増えているわけではないので、恐らく魔物が出なくなって枯れたデモンズゲートは自然消滅しているものもあると考えている。
いずれにしても、今のところはエリカさんと私で根気よくデモンズゲートを塞いでいかないといけない。
エリカさんもちょこちょこと偵察をしてくれており、心配だから小さなデモンズゲートだけ処理をしてもらっている。
さて、アビルの手前で感じた魔素をさらに詳しく探索する。
近頃敏感になったので数キロ先の濃い魔素を感知出来るようになったのは有り難い。
さらに魔素探査の感度を上げて現地へ到着すると…。
は? おっぱい?
直径数十センチほどのスライムの類いの不定形な生き物だが、本体は白っぽくて頭がピンクの突起があって、名付ければおっぱいプリンとしか言い様がない不可解な魔物だった。
そんなおっぱいプリンが数十匹いて、うねうねと這いずりまわっていたり、ぽよんぽよんと跳ねている。
そしておっぱいプリンが私に気づき、一斉に飛びかかってきた!
何匹かは手刀で切り裂いたが、次々と来るので体中に纏わり付いてしまった。
お…おおお! これは! ◯ふ◯ふではないか!
前にアマリアさんとエリカさんの啀み合いに巻き込まれてWぱ◯ぱ◯されたことがあったが、それよりふわふわ気持ちいいかもしれん!
適度な生暖かさで、ちょっと乳臭い。
ふぉぉぉぉ~ マシュマロなんて問題にならない柔らかさだ。
こんなクッションがあったら一つ欲しい。
むぅ…。おっぱいプリンのぽよんぽよんな動きがだんだん激しくなり、苦しい。
ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん…
あ、ピンクの突起から何か出てきた。うわあっっっ
白いミルクみたいな液体がおっぱいプリンの突起からブシューっと放出され、私の身体は白い液体でベトベトになってしまった。
牛乳とは違うなんとも言えない乳臭さ。うぇ~
もういい加減に終わらせよう。
私は圧縮空気の魔法【エアーキャノン】を応用し、身体の周りから圧縮空気を放出させて、身体に取りついたおっぱいプリンをはじけ飛ばした。
今までの魔物と比べたらそれほど害は無いと思うが、子供が襲われたら窒息してしまうかも知れないので、ここは倒してしまおう。
相手の体内から凍らすフリージングインサイド、空気中の窒素を元に凍らすナイトロジェンアイスを二重発動させた。
魔法の二重発動はかなり慣れないと使えないが、下手にフリージングヘルのような大魔法を使うより負担が小さく発動範囲も効率良いのだ。
おっぱいプリンは瞬く間に凍り付き、退治終了。
あとは残った物がいないか掃討のため捜索する。
その途中でデモンズゲートを発見した。
木の根元にあり小さくて分かりづらかったが、これで今日の任務完了だな。
早速クローデポルタムを掛けてデモンズゲートを閉じた。
ん? 何か白くて小さいものが動いた。
あれでおっぱいプリン全滅させたと思ったが、まだ残っていたのか?
辺りを隈無く探してみると、何と小さなおっぱいプリンがいた。
木の根元にいるおっぱいプリンをじーっと見つめる。
大きさはだいたい十センチくらい。
おっぱいプリンの幼生だろうか?
ぷるぷる震えているのか。手に取ってみた。
……可愛い。
あっ また何か白い物が動いた。
もう一度探すと、いたいた。
小さなおっぱいプリンがもう一匹。
そいつも拾ってまだ他にいないか探してみたが、どうもこいつらだけのようだ。
さて…どうしよう。
両手のひらで一匹ずつ持っていると、正におっぱいだな。
もこもこと動いていたが、最初の一匹が私の頭の上に乗っかってきた。
何だか本当に可愛く思えて、このまま処分するには忍びなくなってきた。
二匹目は少しピンクが薄いので、区別が付く。
頭の上のおっぱいプリンがまた手のひらに戻ってきて、二匹でぷるぷるふにょんふにょんと動いている。
うーん、持って帰ってエリカさんに相談してみるか。
成体もそれほど強くない魔物だったし、表向きは研究のためにしておこう。
それがいい。
ベトベトだった服はすっかり元通りになっていた。
以前からの革ジャンカーゴパンツの女神装備だったので、汚れ耐性は素晴らしい。
ここはもう用がないので、私はおっぱいプリンを手に持って飛んで帰った。
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ちょうどお昼前、王宮の自室に戻った。
ルナちゃんが出迎えてくれる。
「あっ マヤ様おかえりなさいませ! どこへ行かれていたんですか?」
「ちょっと魔物退治にね…はは」
「ん? その手の物って…おっぱい!? ええ!!??」
まあ普通はそういう反応するよね。
「こんな魔物がたくさんいてね。
退治したんだけれど弱くて、それで子供みたいなのを拾ってきたんだよ。」
「ええ…、何か気持ち悪いです…。」
「可愛いと思うけれどなあ。」
「マヤ様…変です…。」
ルナちゃんはしかめっ面をして私を残念そうな目線で見ていた。
うーん、人によって見ようが違うのか。
持って帰ったことは早まったかな。
「ルナちゃん、シャワーだけ浴びたい。
こいつらを預かっててくれないかな?」
「えー、嫌ですよ…。いくらご主人様の命令でも…。」
「じゃあ何か空箱でもないかな。それに入れるから。」
「それなら、お茶っ葉を入れる缶がありますから…」
ルナちゃんは使用済みの、お茶っ葉の缶を持ってきてくれたので、それにおっぱいプリンを入れてみた。
缶は丁度良い太さで、二匹が上下重なるように入った。
ちょっと狭いがごめんよ~
「じゃあシャワーを浴びてくるから。」
「お背中を流さなくても良いですか?」
「もうすぐお昼ご飯だし、また今晩頼むよ。」
「それでは脱ぐのをお手伝いしますね。」
私はルナちゃんに躊躇無くあっという間に脱がされて、お風呂場へ行った。
彼女の脱がせっぷりはますます上達してきているようだ。
頭の方にちょっと乳臭さが残っており、綺麗に洗い流してサッパリ。
シャツとズボンの軽装に着替えて、おっぱいプリンが入った缶を持って昼食の食堂へ向かった。
開けて確認したが、ぷるぷるしていたので元気のようである。
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「まあ! 可愛い!!」
食事の前におっぱいプリンを缶から出してテーブルに置いてみたら、パティの第一声がこれである。
うんうんよかった。一番肝心な人が理解者で。
パティは二匹とも手に取って眺めている。
「なにこれ、本当におっぱいそのものじゃない。
誰のおっぱいに似ているのかな。うっひっひ」
エリカさんの反応は予想通りで、後ろにいるメイド達を見ながらニヤニヤしている。
「うーん、何だか不気味だ…。」
残念ながらエルミラさんには不評のようだ。
色や大きさの感じはエルミラさんのおっぱいに近いんだがなあ。
「そのおっぱいスライムを貸してごらんよ。」
「え? それスライムの仲間なの?」
「いやあ、私もずっと前に見たことがあって忘れていたんだけれど、私が勝手に名前を付けただけだから。」
パティはエリカさんにおっぱいスライムを手渡した。
「小さいのは初めて見たけれど、正におっぱいだねえ。うひひ
で、邪気は感じられないから今のところは大丈夫なんじゃないかな。」
「成長して大きくなってから人を襲うってことはないだろうか?」
「そこはなんとも言えないけれど、私が見た成体はとくに襲ってくるようなことは無かったけれどね。
魔物だから結局みんな始末してしまったけれど。」
「俺もみんなやっつけちゃったよ。飛びついてきただけなんだけれどね。
もしかして可哀想なことをしたかなあ。」
デモンズゲートを通して異世界から来た魔物だから、このネイティシスにとっては外来種に違いないから始末してしまうほうが正しいのかも知れない。だが…。
「マヤ様、エリカ様、この子たちを私に頂けますか?
私が責任を持って飼いますから。」
パティが私たちに声を掛けた言葉は意外な内容だった。
「本当に大丈夫なの? もしかしたら君を襲うかも知れないから心配だ。」
「大丈夫ですわ。私にもこの子達の邪気は感じませんもの。」
そうか、二人ともマジックエクスプロレーションを使えるんだった。
それにしても魔物にこの魔法を使うとは考えもしなかったな。
「それにしてもこの子達は何を食べるのかしら…。
このレタスをあげてみましょう。
あら、食べてる食べてる。うふふ」
パティは自分の昼食にあるレタスをおっぱいプリンに食べさせているが、どこにあるかよくわからない口なのか、身体にもしゃもしゃと取り込んでいるように見える。
「お肉はどうでしょうか。」
今度は鳥肉をあげている。ってこれはガルーダの肉だよね。
まだあったのか…。
どうも肉は食べないようで、近づけても反応しない。
「肉を食べないってことは、これで人間は食べないってことが実証されたのかな。
パティ、よかったね。
寝ているときに、もじゃっと口を開けて食べられないか心配したよ。」
「んもう嫌ですわ、マヤ様ったら。」
そうですわ。この子たちに名前を付けましょう。
うーん… 【プニュ】と【モニョ】にしましょう!」
何という酷いセンス…。そのまんまだからある意味ぴったりなんだが。
気に入ってそうだからツッコむのはよそう。
「どっちがプニュなの?」
「薄いピンクがプニュですわ。」
「で、こっちがポニョか。」
「モニョですよ、マヤ様。」
こいつらは喜んでいるのか知らんが、ぽよんぽよんぽよんと動き出した。
ん? この動きはもしかして?
「あぁ、パティ! タオルか紙を!」
「え?」
ポニョ、いやモニョのほうが突起から軽くぴゅっと白い液体が飛び出し、パティの顔にかかってしまった。
「きゃっ!」
「あぁ…。」
フローラちゃんが慌ててタオルを持って来て、パティの顔を拭いている。
エリカさんはクックックと笑っている。
パティの顔に掛かったのはアレみたいで、見てはいけないものを見てしまった気分だ。
私が缶の蓋を開けると、二匹が勝手に中へ入っていった。
「パティ、これがプニュとモニョのお家みたいだから、これもあげるよ。」
「もっと可愛いお家がいいのですが…、まあいいですわ。
ん~ 私の初めてのペット。これから楽しみですわ~」
「侯爵閣下やアマリア様は許してくれるの?」
「はっ それが問題ですわね…。」
「ま、まあ持って帰ってから考えよう。ははは…」
斯くして、おっぱいプリン二匹もマヤ一行に加わったのであった。