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第九十二話 叙爵式本番

 玉座の間の近くにある控え室にて。

 応接室とあまり変わらず、先にパティ達が来ていてお茶を飲んでいた。

 三人の格好は最初に女王との謁見をした時と同じである。


「マヤ様! おめでとうございます!

 とうとうこの日がやって来ましたね!

 マヤ様のお姿がとても凜々しくて素敵ですよ!」


 パティが元気よく祝ってくれた。そしてエリカさんが…。


「うぅ…、こんなに立派になって。母さんは嬉しいよ。」


 嘘泣きしてふざけている。

 いつから私の親になったんだ?


「マヤ君、おめでとう!

 でも貴族様になったのに、マヤ君と呼んでいいのかな。あはは」


「今まで通りでいいよ。貴族だからってそんな偉ぶるつもりは無いからね。」


「マヤ様らしいですわね。

 そんなマヤ様ですから、これからきっとマヤ様に付いて行く方がたくさん出てくると思いますわ。」


 考えてみれば、領地も無し、屋敷も無し、財産は生活費並、執事もいない、ジュリアさんたちはガルシア侯爵に属していて給仕係もいない、貴族階級として一番下の【王国騎士】より酷いな。

 誰かを雇っても給料を出せないんじゃなあ…。情けない。


「ところで回廊とかいろんな場所で人が大勢見えたんだけれど、なんだろう?」


「先程女王陛下の控え室で少しお話ししたのですが、王都を魔物から救った勇者の顔を一目見たくて、招待の方以上の貴族の方々がいらっしゃってるらしいんです。

 勿論勇者とはマヤ様のことですよ。うふふ」


「ええ…、ますます目立ってしまうじゃないか。嫌だなあ。

 本当は静かに暮らしたいんだがなあ。」


「それだけ顔が広くなるとお考えになれば良いですわ。

 人脈作りもまた貴族にとって大事なことですのよ。」


 やっぱり貴族としての風格と知識、経験があるパティはとても頼りがいある。

 この先も助けてもらうことが多くなりそうだ。


---


 玉座の間へ。

 裏口から入るとすでに大勢の貴族が集まっており、赤い絨毯の両側に百人ずつくらいがガヤガヤとしていた。

 私たち四人は玉座に近い方の最前列に立つ。

 もっと前には軍服にタスキを掛けた王女と、第二王子が立っている。

 相変わらず第一王子は姿を見せないが、社畜なんだろうか。

 もっとも一男爵の叙爵式に王族が揃って出ることもないか。

 王女がこちらを見てニヤッと笑った。


 玉座にはまだ女王がおらず、右側にどこかで見たおじいちゃんが立っている。

 あ、王女と戦う前の日に買い物へ出かけた帰りに、王宮内で迷い廊下をさまよっていた時だ。

 パティにごにょごにょと尋ねる。


「玉座の横に立っておられるあのご老人はどなた?」


「あの方はビジャルレアル宰相ですわ。

 政治的には女王陛下の次に偉い方ですよ。」


 うわー、あの時「トイレどこ?」みたいな感覚で尋ねなくて良かったよ。

 雰囲気的に固そうな爺さんだ。


「マヤ様、そろそろ始まりますわよ。」

「う~、緊張してきたな。」


---


「イスパル王国 マルティナ国王陛下 御入来!」


 王宮の係が叫ぶと周りが静まり、王座の間の大きな戸が開かれ、女王が現れた。

 いつもより重厚な赤いドレスを着て、普段は被っていない煌びやかな王冠を頭に乗せている。

 女王は玉座に向かってまっすぐ静々と歩き、玉座に座った。

 まるで映画のワンシーンのような光景で自分がここに立っているのが信じられない感じがするが、ほぼ毎晩あの女王とエッチなことをして身体の隅々まで知ってしまっているのもまた不思議な感じだ。


「これより、マヤ・モーリによる魔物討伐の功績において、叙爵を行う。

 マヤ・モーリ、陛下の前へ。」


「はい!」


 舌を噛みそうな名のビジャルレアル宰相に呼ばれた瞬間、びりびりと体中をものすごい緊張感が走った。

 サリ様みたいにドテッと転ばないよう気を引き締める。

 私は玉座がある壇上に上がり、女王の前に跪いた。

 そんなに香水を着けなくてもって言うくらいローズマリーの香りがプンプンする。

 再びビジャルレアル宰相が口を開く。


「この者、マヤ・モーリの功績は、マカレーナにおいて大型の魔物の大群をほぼ一人で討伐し街を救ったこと、また、セレス、ラガにおいても街に大きな被害を出す前に魔物を討伐をした。

 そして各領主からの強い奨めにより、爵位を授けるものとする。」


 王宮の係が両手で剣を女王に差し出し、女王が剣を持つ。

 剣を私の右肩に当てた。


「マヤ・モーリよ。汝はこのイスパル王国にて男爵となり、その責務を全うしこの国のために忠義を尽くすことに誓いますか?」


「はい。(わたくし)マヤ・モーリは、イスパル王国の忠実なる臣としてこの身を捧げ、尽くすことに誓います。」


「イスパル王国第六十七代国王、マルティナ・テレサ・デ・カサノヴァ・アルバレス・イ・バーモンテの名の(もと)に、マヤ・モーリを男爵号並びに王国名誉戦士の称号を授けます。」


 会場からおおー!という歓声があがる。

 やっと女王の本名が分かったよ。

 前にガルシア侯爵が言っていたけれど、確かにすぐに覚えられないね。

 ……もう忘れてしまった。

 才女のパティなら覚えているだろうから、後で聞こう。

 王国名誉戦士というのも初めて聞いた。

 貴族称号の王国騎士とは違うのかね。


 女王は剣を下げさせて、口を開く。


「頭を上げなさい。

 彼は先日あったマドリガルタへの魔物襲来に対しても街を救ってくれました。

 そのことについては別に報償を与えることにしました。」


 ザクロの林の後、女王が言っていたことか。なんだろう?


「パトリシア・ガルシア、エリカ・ロハス、エルミラ・メンディエタ、前へ!」


「「「はい!」」」


 宰相が三人の名を上げた。

 パティ達が壇上に上がり私の後ろで跪く。

 シルビアさんがお盆を持ち、女王の側に寄る。


「マヤ・モーリ、パトリシア・ガルシア、エリカ・ロハス、エルミラ・メンディエタ。

 この四名により、魔物から王都マドリガルタを救った多大な功績を称え、彼らに聖貨三枚と、(おのおの)に王家の徽章(きしょう)を贈る。」


 会場からまたおおー!という歓声があがる。

 聖貨三枚って…三億円くらい!? ひぇぇぇぇ!!

 宝くじでも当たった気分だよ。

 徽章(きしょう)とは、王家の紋章を形取ったバッジのことだ。


 女王が聖貨三枚が入った袋と徽章が入った箱を受け取り、代表で私が女王の手からそれらを受け取った。


「四人とも、振り返って皆さんにお顔を見せて上げなさい。」


 女王が言うよう、私たちは立ち上がり、人々がいる方向へ向いた。


「この者達は危険を顧みず、とても強い魔物からマドリガルタを、私たちを救って下さった若き勇者です!!

 皆さん、盛大な拍手を!!」


 会場は拍手の嵐が巻き起こり、たくさんの声援があがった。

 ずっとしがないサラリーマンをやってきた私にとって今目の前で起こっていることは夢なんだろうか。

 目が覚めたらホテルの支配人に戻っていたということにならないだろうか。

 そんな気がしてならなかった。


---


 叙爵式が終わり、正式な招待客には昼食パーティーを催されるので、その間私たちはいったん控え室に戻る。

 ルナちゃんたちはいないので、たぶん私たちの部屋の掃除に行っていると思う。

 もらった徽章を三人に渡す。


「マヤ様のおかげで私たちもすごいものを頂けて、すごく嬉しいですわ。

 お父様も持ってる王族のバッジなんて、この国では無敵ですよ!」


「そのことなんだけれど、聖貨三枚ももらっちゃって、どうしよう。

 四人で均等に分けようと思っているんだけれど。」


「ほとんどマヤ様の功績なんですから、みんなマヤ様がもらって下さい。

 お屋敷を手に入れるか、空飛ぶ乗り物でしたっけ?

 それにもたくさんのお金がかかるんでしょう?」


「私もいいよ。そんなにお金に困っていないから。」


「わ、私もいいかな…あはは…」


 エルミラさんはちょっと欲しそうな顔をしていた。

 私が総取りするのはさすがに悪いと思う。


「でもみんな私がもらうのは悪いから、こうしようか。

 一人白金貨十枚ずつにして、残りは空飛ぶ乗り物やこの先考えている旅の費用にするのはどうだろうか?」


「マヤ様がそうおっしゃるのなら構いませんわ。」


「私も異議はないよ。」


「は、白金貨じゅ…じゅうまい…しゅ、しゅごい…。」


 白金貨十枚はだいたい一千万円くらい。

 たぶんエルミラさんの二年分の収入はありそうだから、ぷるぷる震えている。

 彼女のお給金は決して低いものではないが質素な生活をしているので、貯金か仕送りでもしているのだろう。


 一先ず飛行機モドキの製造費用を確保できた。

 だがいくらかかるのかわからないから、無駄遣いしないでもっと稼がないとね。

 お屋敷は落ち着いてから、マカレーナに中古物件でもあれば御の字だろう。


本作品の一つの目的である叙爵を成しました。

マヤと本当に結婚できるのは誰なのか、まだわかりません。

お話はまだ続きますので、今後ともどうかよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 男爵位では厳しいでしょうが、上級貴族と言われる事の多い伯爵位まで昇爵して全員を娶ると言うのもありといえば有りですね。 まあその場合でも、誰が正妻になるかで揉めると思いますが…
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