第九十一話 叙爵式当日の朝
そしてあれから五日後、とうとう叙爵式の日がやってきた。
それまでは午前中が王女とエルミラさんと訓練、午後はマドリガルタ周辺を飛び回って偵察という毎日だった。
ある日、北の山にゴブリンの群れがいたので退治し、魔素探査で小さなデモンズゲートを発見し塞ぐ。
私の周りで魔物が現れたのはそれくらいで、他に二カ所デモンズゲートが発生していたが魔物はいなかったのでそのまま塞いだ。
デモンズゲート発生に規則性があるのか全く分からないのでこうして偵察するしかないのだが、どこからか流れて来た魔物が現れることは時々あるようで、それらはマカレーナと同じように騎士団や魔物討伐隊が退治していると小耳に挟んだ。
王女とエルミラさんはすっかり仲良しで、これで私たちが帰るんだと思うと可哀想な気がしていた。
以前は横柄でふて腐れていた態度をよくとっていた王女だが、私たちとのお友達効果で楽しくやっていたのを見ていた騎士団が訓練所や食堂で少しずつ話しかけてきており、で徐々に距離が縮まってきているようた。
これならこの先もうまくやっていけるだろう。
退治した大量のガルーダの肉は魔法使い部隊によって、私が割れたスイカを凍らせた時も使った常時冷凍保存の魔法【オルウェイズフローズン】を掛けられ、騎士団の食事は勿論、一部の料理店や街の肉屋にも卸され、王宮へ出す料理にも使われた。
確かにガルーダの肉は美味しいけれど、ちょっと飽きてきたな。
叙爵式はお昼の少し前に行われることになり、勿論朝の訓練は中止だがルナちゃんがいつもより早く起こしにやって来た。
「おはようございます! マヤ様!
今日は大事な日なんですから早く起きて下さい!」
「んあ… あと五分、いや四分五十秒… まだ布団から出たくない…。」
「何言ってるんですか。布団を剥がしますよ!」
「あっ…」
「まったく… いつもお元気なんですね…。」
私はいつもシャツとぱんつで寝ており、彼女はこんもりと元気になった我が分身を見て半分照れて、半分呆れていた。
私は眠い目を擦って渋々ベッドから起き上がる。
「んん… ちょっとトイレで収めてくるね…。」
トイレで、便器とは全く違う方向へ向いている分身君を、おしっこが溢れないように体勢を変えつつ無理に方向を曲げて事を済ませ、分身君は収まった。
男性諸君ならこの苦労が分かるであろう。
トイレから出たら、ルナちゃんがお風呂にお湯を貯めているようだ。
彼女はすでにカボチャパンツ姿になっている。
「マヤ様、今朝はしっかりと綺麗にしますからね。
忙しくなるので朝食はこちらで召し上がって頂きますが、パンとお茶だけです。
昼食がとても豪華だそうですから、少なめでもちょうどいいですね。」
その辺をよく考えてくれているのはさすが一流の王宮メイドだ。
しかしながら強要したわけでも無いのに、仕事としては一線を越えていることが多々あると確信したのは先日の通りだ。
「マヤ様、お湯が貯まりましたのでどうぞ!」
ルナちゃんが呼んでいるので私はお風呂に入り、いつものように背中を流してもらう。
彼女の本意がどうなのか先日からいろいろタイミングを伺っているが、ボロを出さない。
今日はどうしてやろうか。
「マヤ様、叙爵式が済んだらもうすぐお帰りになるんですよね。ゴシゴシ…」
「そうだねえ、何も無ければ三日後ぐらいにはここを発とうと思ってるよ。」
「こうしてお背中を流すのもあと少しですね。頑張って洗いますよ。ゴシゴシ…」
背中から今度は前を向いて洗ってもらい、だんだん下半身に向かう。
分身君をいつもより入念に洗ってくれるのは良いが、そこまでしなくても…。
彼はたちまち元気になり、それでもルナちゃんはゴシゴシと洗う。
「あのぉ、ルナちゃん。そこはもう良いから他を洗ってくれるかな…。」
「わかりました。あと仕上げですからね。」
何をどう仕上げるんだろうか…。
うわっ そんな掴み方をしたら我慢できなくなる!
「ちょっとルナちゃん、そこで止めて! あっ」
「え?」
とうとう終わってしまった…。
ルナちゃんはその様子を見て目をぱちくりさせる。
女王に毎晩搾り取られているせいか勢いは弱く、幸いルナちゃんのキャミソールにはかからなかった。
「モニカちゃんが言ってたこれが赤ちゃんの元になるんですね…。
私、初めて見ました。」
「へぇ~ 君たちはそういう話をよくしているんだねえ。
男の子の身体に興味津々なんだ。ふふ」
「そっ それは私も年頃の女の子のつもりですから、それくらいの話は…。」
「ルナちゃんが、私のコレを必要以上に洗ったり、服を嗅いで私の匂いが分かるくらいなんて度が過ぎてると思うなあ。」
「そうですっ! 私は男の子の身体にすごく興味があります!
でもなかなか男の子とふれあうことが無いから、ちょっと格好いいマヤ様がやって来たからいろいろ見てみたかったんですっ!」
あ~ぁ、逆ギレして自分で言っちゃった。
この子が素直すぎるのは分かってる。
ちょっと格好いい…、ちょっとね。すごく格好いいと言って欲しかった。
「まあ怒ってはいなんだけれどね。
そんなに男の身体が気になってたんだ。」
「男じゃなくて、若い男の子です! マヤ様は特に若く見えるから…。
モニカちゃんは早い内から男の子とそういうことをしていて、話を聞いていると私も気になってしまって…。」
典型的な耳年増か。
昔の何とかクラブというアイドルの歌詞みたいだな。
キャミとカボチャパンツなのは、まだ勿体ないからあげたくないんだろう
私は平均的な日本の十九歳だと思うが、この国の人種からしたら若く見えるのかな。
それより金髪モニカちゃんがそういう子だったとは。
エリカさんの係だからもしかしたら毒牙にかけてると思ったけれど、逆撃を被っているかも知れない。
そうか。結局魔物退治する前にエリカさんとはアレを一回だけ行ったけれど、それからまた何も無いのは何かしら満たされている可能性がある。
「……でもマヤ様だからですよ。
ご一緒させてもらってるときは安心しますし、お仕事が楽しいです。
……さっ もう出ましょう。お腹減りましたよね。」
そう誤魔化され、お風呂から押し出されるように出た。
パスローブを着せてもらい、ルナちゃんはカボチャパンツ姿のままお湯を沸かし、持って来たパンとチュロスを用意してくれたのは滑稽だった。
湧かしてお茶を蒸らしている間に給仕服を着るのは効率が良いが、やっていることはメイドと主人の域を超えている。
そして優雅にお茶をティーカップに注いで持って来てくれた。
カップが二つある。
「目覚めが良くなるレモングラスティーですよ。
私も食事をご一緒してよろしいですか?」
「うん、勿論だよ。」
「こうして二人で食べるのは初めてですね。うふ」
いつも食堂では後ろに控えてもらっているルナちゃん。
食事は専門の係が運んでくるが、おかわりをもらったりお水をついでもらったりするくらいで私たちが食事をするのを眺めている状態だったから、申し訳なく思っていた。
「二人で一緒に食べると、いつものパンも美味しいね。」
「あら? マヤ様はいつも皆さんと食事をされているのに、美味しくないんですか?」
「皆と食べるパンも美味しいんだけれど、君とだと何だか爽やかな感じがするよ。」
「そ、そんなこと言われたの初めてです…。ありがとうございます…。」
少し歯が浮くような言葉だったが、ルナちゃんは少し顔を赤くして照れていた。
食事を終えるとお着替えタイムに入る。
ルナちゃんは下着、ズボン、貴族向けの紺色ジャケット、上着のシャツ、ジャボなどを用意して、着ていたバスローブは引っ剥がされ全裸になる。
ぱんつはトランクスだ。締め付けられず開放感があって良い。
ルナちゃんはしゃがんでトランクスのゴムを拡げるが、股間をじーっと見つめる。
「あの…、ルナちゃん。いつもお風呂で見ているのに、そんなに珍しいのかな。」
「女の子にはありませんから、見れば見るほど不思議です。
子供がいる女性は間違いなくみんなこれを受け入れたなんて信じられません。
モニカちゃんだって…。」
「怖いの?」
「怖いと言いますか…、不安です。」
「そう…。私は今更だけれど、君も知っているエリカさんやエルミラさんとは行為を何回もしてる。
好きな女性が私を迎え入れてくれて、私自身を温かくそして柔らかく包み込んでくれるような、そんな素敵で優しい感覚なんだ。
それまでには、キスをたくさんしたり、身体を優しく愛撫したりして気分を盛り上げると、女性が受け入れる場所から愛の潤滑液が流れてくる。
だからそんなに痛くは無いと思うよ。」
「私…、それ知ってます…。
恥ずかしいんですけれど、マヤ様のお部屋でのお仕事が終わってから自分の部屋に戻るといつも下着を汚すようになって、替えているん…で…す。
え? 私ったら何を言ってるの!」
「あぁ… 聞かなかったことにするよ。
男性だって好きな人に対してドキドキすると、同じようなものが少しだけれど出てくるんだよ。」
「へぇ~ 私のことを見たら出てくるんですか? うふふ」
なんでぱんつを履きかけながら性教育をしてるんだ。
早くぱんつを履くぞ!
「それよりぱんつを履かせてくれたまえ。おほん」
「そんな姿で急に偉ぶっても面白いだけですよ。あははは」
そうしてシャツも着てズボンも履いて、上着のシャツのボタンを留め、ジャボを着けてもらった。
その時にコンコンとドアが鳴る。
ルナちゃんがドアを開けると、相変わらず毎晩女王の部屋の外で警備をしてもらってて申し訳なく思っているシルビアさんだった。
「おはようございます。準備は出来ているようですね。
九時までには玉座の間の控え室まで来て下さい。
ルナ、案内してあげて下さいね。」
「はい、承知しました! シルビア様。」
「それからマヤ様、叙爵式にはガルベス公爵がいらっしゃいますので…、その…、何か企みがあるかもしれないのでお気を付け下さい。」
「うぇ~ あの人が来るんですか…。」
「恐らく王女殿下絡みのことと思われますので、もし近づいてきたら何も無いとお答え下さい。」
「わかりました。」
貴族社会も面倒臭い。
王女が求婚してきたこと自体は漏れていないだろうが、王女と私が一緒にいる時間が多くなっているので、目的はわからないが何かしら探られているかも知れない。
今後マドリガルタへ来るようなことがあっても極力目立たないようにせねば。
「それではよろしくお願いします。失礼します。」
シルビアさんが退室すると、ルナちゃんがジャケットを着させてくれながら話しかける。
「大変なことになりましたねえ。
ガルベス公爵は、反女王派として裏の顔では有名ですからね。
何を考えていらっしゃるやら。」
「私としては無害な人間でいるつもりなんだけれどね。
でもだんだん目立ってきているから、ガルベス公らの権益を何からで侵されると思い込んでいるかも知れないね。
全く面倒なことさ。」
そう話している内にジャケットの着付けが終わり、ルナちゃんが正面に立ち私の顔を見上げる。
「さ、これで服装は整いました。貴族らしくて格好いいですよ。うふふ
次は髪の毛のセットですね。鏡台の前に座って下さい。」
ルナちゃんは鏡台の引き出しから整髪料らしきボトルを手に取り、甘い香りの…バニラとリンゴのような匂いの液体をを着けて櫛で整えてくれた…って、え?
「これ、女物じゃないの!?」
「あ、あああああああごめんなさい! いつもの癖で…」
「まあいいけれどね。くんくん
女の子の匂いを常に嗅いでいられるのもまたいいもんだ。くんくん」
「あははっ マヤ様って本当に変わってて面白くていい加減な感じがしますけれど、なかなか怒らないですね。
マヤ様のそういうところも好きですよ。」
「それは褒められているのかな。ふふ」
この子もずけずけと言うようになったな。
すぐ怒らない、というより接客業の責任者という仕事柄で沸点が高くなってしまい、部下やお客相手に毎日いろいろあっても、いちいちかまうと精神がやられてしまうからね。
それよりどう前向きな方向へ持って行くかを考えることが大事だ。
さて、そろそろ玉座の間へ行く時間だ。緊張するなあ。