第八十八話 掃討戦
何だか安らかでとても暖かいものを感じる…。
また天界へ戻ってしまったのか?
いや、これは馴染みがある魔力… パティ?
目を開けると私はパティに抱かれ、エリカさんとヴェロニカ王女に顔を覗かれていた。
「パティちゃん、マヤ君が気がついたぞ!」
「マヤ殿! 私の声が聞こえるか!? マヤ殿!」
「あぁ… みんな来てくれたのか…。」
パティは顔を上げると、涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
そうか、パティのフルリカバリーで助かったのか。
とうとうマスターしたんだな。
「マ゛ヤ゛ざま゛ぁ~ 死んじゃったがど思いまじたわぁ~
うえぇぇぇぇぇん!」
「今度はパティに命を助けられたね。ありがとう。」
「も゛う無理じないでぐだざい~ うえぇぇぇん!」
私は上半身だけ起こし、泣いてるパティを抱きしめた。
そしてエリカさんが、地面に散らばってるブラックボールの残骸を見ながら話しかける。
「前に私がやられた黒い球体がこんなにいたのか。
これじゃあ常人ではあっという間に死んでしまう。」
「エリカ殿、この黒い物はいったいどんな魔物なのだ?」
「何もしなければ攻撃しませんが、こちらが攻撃するそぶりを見せてしまったら光の筋が発射されて、一瞬にして身体を撃ち抜かれてしまいます。
恐らくマヤ君は、光の筋に撃たれながら高速で滅多斬りにした。
そうでしょう?」
「うん…。私が着ている服は特殊な物なので光の筋を受けても死ぬことはありません。
ですが百以上ブラックボールがいて、それだけ光の筋を受けまくるとさしものこの服でも身体へのダメージは大きいです。
それでこのザマです。」
「このザマだなんて言うな。マヤ殿は良くやった!
早い発見で王都を救ってくれたんだ!」
「ヴェロニカ様、それはまだ早いですよ。
このデモンズゲートをどうにかしないと…。」
デモンズゲートからはもう魔物が出てきていないが、目の前で不気味にモヤモヤと存在したままだ。
「マヤ君、私とクローデポルタムを同時に掛けるんだ。
そうしたら閉じる可能性がある。
念のために持って来た私のノートに、大きなデモンズゲートには複数人でクローデポルタムを掛ければ閉じると書いてあったのよ。
アスモディアでちゃんと書き写してて良かったわぁ~ うっひっひ」
「また魔物が出てくるかも知れないから、早速やろうか。
パティごめんよ。そこで座っててくれないか。」
「はい、マヤ様…。グスン」
私はパティの頭をなでなでしながら立ち上がり、エリカさんと二人でデモンズゲートの前へ横に並んで立った。
「じゃあマヤ君、合わせていくよ!」
「オッケー!」
『『我、彼方より来たる魔を討つ者也。美しき世界を我は望む。地獄の不浄なる門を清め給え。再び開くこと無かれ。クローデ ポルタム!!』』
二人で同時にクローデポルタムを唱えたら、相乗効果なのかあっという間にシュッとデモンズゲートが閉じてしまった。
「おぉ! やったじゃんマヤ君! こんなにうまく行くとは思わなかったよ!」
「そんなにくっつかないでよ。二人が見てるよ。」
エリカさんが私に抱きつきほっぺたをスリスリしていて、それをパティとヴェロニカ王女がジト目で見ている。
「えー、あの…、他の魔物はどうしたのかな?」
「サイクロプスはあなたが呼んだセルギウスが全滅させてくれたし、ムーダーエイプも大方あいつがやっつけているんじゃないかな。
騎士団も出撃しているからもう地上にはほとんど魔物がいないね。
それで王女もここへやって来たというわけさ。
ガルーダは騎士団の弓部隊と魔法使いが応戦していると思うけれど、王都に入り込んでいるから手こずっているかもね。」
さすがセルギウス。魔物討伐の功績はほとんどあいつだろう。
あいつの好物を死ぬほど食わしてやりたい。
「ならば掃討戦だね。急いで王都へ戻ろう。」
「私は騎士団の部隊へ戻るから、よろしく頼む!」
王女は近くに繋いでいた馬に乗り、林の外へ出て行った。
「じゃあマヤ君、パティちゃんをしっかりおぶってあげてね。うひひ」
エリカさんはそう冷やかしてグラビティで忙しなく飛んでいった。
パティは上目遣いで口をアヒルみたいにし、無言で私を見つめている。
「さあパティ、背中に乗ってね。」
「はい…。」
パティは元気が無い。
私もパティが死にそうになった時はかなり落ち込んだからわかるよ。
私はパティをおぶってグラヴィティで浮かび上がり、ザクロの林を後にした。
パティは無言でしっかりしがみついている。
下を見ると…、おお。
王女がムーダーエイプを相手に、派手に地衝裂斬をぶちかましている。
他の騎士とは段違いの強さだ。
あれなら任せて良いだろう。
他の騎士団が戦っているのを見ると苦戦しているようなので、上から何体かライトニングアローを掛けてムーダーエイプを倒した。
騎士団がびっくりして私たちを見上げていた。
私が手を振ると、騎士達も手を振り返してくれた。
さて、急いでマドリガルタへ戻らないと!
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マドリガルタの上空はガルーダに埋もれていた。
前方を塞いでいるガルーダをライトニングアローで撃ち落としながら進み、パティを王宮の前で降ろす。
幸い王宮周りには魔物がおらず、近衛兵が護りを固めている。
「パティ、ガルーダを片付けてくるから王宮内で待っていてくれないか?」
「はい…。マヤ様…、お気を付けて…。」
元気が無い…。心配だ。
私は再びパティの頭を撫でて、飛び上がった。
さあ、一気に片付けるぞ!
ガルーダは、やってきた方向の王都東側を中心に襲ってきているが、市民は早めに屋内へ避難しているようで外にはほとんど見えない。
下では弓矢隊や魔法使いが戦っているが、エリカさんが言うように苦戦している。
エルミラさんはどこかで戦っているんだろうか?
兎に角、片っ端からライトニングアローでガルーダを撃ち落とす。
ガルーダの肉は美味しく食べられるので、出来たら有効活用して欲しいものだ。
ん? 向こうで槍が飛んできて、ガルーダの喉元に命中して落ちた。
もしや? 私は槍が上がって来た方へ降りてみた。
「あっ! エルミラさん!」
「おお、マヤ君! ガルーダがたくさん落ちてたからやっぱり君だったんだね。」
エルミラさんは、王宮から荷車でありったけの槍を持ってきて、ガルーダに討っていたようだ。
それにしてもよくあんな高さまで槍を上げられるなあ。
オリンピックならば金メダルは確実だろう。
「私は向こうのガルーダを討伐してくるから、エルミラさんも頑張って!」
「マヤ君もね!」
再び私は飛び上がり、ガルーダが群れている場所へ向かう。
そこではエリカさんはアイシクルアローで攻撃していた。
「あー、エリカさん。ガルーダを民家の屋根に落とさないでよ。
地面に落として後で片付けてもらわないと屋根の上で腐っちゃうじゃん。」
「えー、面倒くさいなあ。」
エリカさんが何も考えずに撃ち落としているので、何体かは民家の屋根に落ちているから、ガルーダの死体を道にまとめて降ろしておいた。
これなら騎士団に早めに回収してもらって、解体して肉にしてもらったほうがいいな。
おっ 良いことを思いついた。
「エリカさん、見てなよ。こうするんだ。」
私はライトニングアロー乱れ打ちで一気に二十体はあるであろうガルーダを倒す。
『グェグェギャーーー!!!』
死体が落ちる前にグラヴィティでそのまま浮かび上がらせた状態にして、ゆっくり降ろして街路へ一カ所にまとめておいた。
「ひぇ~ 乱れ打ちはともかく、あんなたくさんの数をグラヴィティで制御出来るなんて、マヤ君すごいねえ。」
「街には優しく、綺麗にね。
私は他を見てくるから、死体の片付けと、ガルーダの肉は食えるからって騎士団に言っておいてね。」
「わかった。って、これ食べられるの!?」
「前にビビアナのところの店でガルーダの肉を食べたんだ。美味いよ。」
「そ、そうなの…?」
エリカさんはちょっと気持ち悪そうな顔をしていた。
それから私は王都中を飛び回り、残ったガルーダを全て掃討し、再び王都の外へ飛び王女らの様子を見に行った。
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王都の外、荒野一帯の魔物はセルギウスがほとんどやっつけたせいか、王女らの騎馬隊も帰投している途中だった。
「おお、マヤ殿! 王都は無事か!?」
「魔物は全滅させました。大きな被害は出ていません。」
「マヤ殿の功績は大変なものだ。早速母上に報告せねば!」
「ああ、それより王都内に倒したガルーダの死体がたくさんあるんですよ。
ガルーダの肉って食べると美味しいので、早めに解体することをお勧めします。」
「何? 本当か!? ガルーダの肉はそんなの美味いのか?」
「はい、マカレーナで食べましたよ。身体に害はありません。
ガルーダ肉のニンニクアヒージョとか、ガルーダ肉のトマトソース煮込みも。」
王女の顔がわなわなとしてきた。
心なしか王女とあろう者がよだれを垂らしているようにも見える。
「そんなの美味いに決まってるじゃないか!!
貴様ら!! 王都に戻ってガルーダを回収しに行くぞ!!」
「「「「「おおおおお!!!!」」」」」
二個中隊はいそうなヴェロニカ王女の騎馬隊は皆が食欲旺盛なようで、急いで王都へ戻って行った。
倒したガルーダは二百体以上はいたと思うけれど、あれ全部食べられるのかな?
おっと、セルギウスをずっと放ったらかしにしていたので、探さないといけないな。