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第八十四話 一撃必殺 雨燕(あまつばめ)

 八重桜を取りに戻り、薄暗くなった訓練所へ皆で集まる。

 誰もいないひっそりとした訓練所の真ん中で、王女が立って待っていた。

 服は食事をするためだけのものを着てきたので、剣が当たったら間違いなく斬れてしまう。


「おまえ、何故さっきは全力を出して戦わなかった!?

 そこの女とここで訓練をしていた時の方がよほど強く見えた!

 久しぶり強いやつと戦えるのを楽しみにしていたのに、なんだあれは!!」


 そこの女とはエルミラさんのことである。

 そうか、王女は私たちが訓練をしていた時に見ていたんだな。


「でははっきり申し上げましょう。

 お怪我をされて欲しくなかったこと、あまり派手にやると王女が恥を掻くと思ったからです。」


「それが余計なお世話だと言うんだ!

 王女! 王女! 王女だからはもうたくさんだ!

 恥などどうでもいい!

 おまえが最初から手加減をしてきたことが一番悔しいんだ!」


 なんとなく察しはついた。

 王女という身分に対して変に媚びたりする者や、その裏で蔑んでいる者がいることを知っていたのだろう。

 全力で戦って欲しかった。手加減をされたことが悔しい。

 ということは王女はよほど武闘が好きなんだろう。


「わかりました。私は全力を持って王女を倒します。」

「言ったな。私はおまえを殺すくらいのつもりで行くぞ。」

「構いませんよ。」


 距離がありすぎて間合いとは言えないが、闘技場の時と同じくらいの十メートルを空けて立つ。

 エルミラさんが一応審判、というか合図の役で間に立っている。


「それでは両者とも、私が右手を挙げますので降ろした瞬間に始めて下さい。」


 エルミラさんが声を掛け、右手を挙げる。


「両者、構え!」


 私は腰を低くし、居合い斬りの構えで八重桜は鞘に仕舞っている。

 王女は闘技場の時と同じく両腕で剣を構えている。


 エルミラさんが右手を振り下ろした。


雨燕(アマツバメ)


 その瞬間、私は高速で王女に駆け寄り、刀を抜いて王女の喉元に刃先を突きつけた。

 王女は硬直し震え、半分何が起こったのかわからない、もう半分は恐怖の表情だった。


「は… ははは… ははは…」


 私は立ち上がり八重桜を鞘に仕舞うと、王女は両手と膝をついてへたり込む。

雨燕(アマツバメ)】とはローサさんに教わった型で、水平飛行ではもっとも速く飛べるアマツバメ(ハリオアマツバメは時速120km/h以上、ギネスでは170km/h)のごとく高速移動し相手を一撃必殺で斬りつけ、もはや人間業を超えて非常に難易度が高い。

 これを訓練でローサさんに掛けられたときは、さすがに自分も王女のように固まってしまったよ。


 いつまでも敗者を見ているのはそれこそ恥なので、無言でその場を離れた。

 皆もそれをわかってくれたようで、王女一人を残して訓練所を後にした。



(王女ヴェロニカ視点、構えの時点に戻る)


 なんだ? 剣を鞘に収めたまま、あれは構えなのか?

 だが全く隙が無い。

 審判の女が手を振り下ろした! よし!

 ?? ……やつがいない、どこだ?

 な…いつの間にか私の懐に…

 何が起きた!? 全く見えなかった…

 身体が震える…。何だこれは。怖い… 恐怖なのか?

 そんな…やつに恐怖を感じるなんて…。

 私では絶対に叶わない。

 騎士団長が一番と思っていたが、比べものにならない…

 まだ震えが止まらない…


---


 再び皆で食事会場へ。

 王女に呼ばれたときはまだ食事が並んでいなかったし、ルナちゃんたちが気を利かせてくれて食事の給仕係へ伝えてもらったようで、ベストタイミングで温かい食事が並んでいた。


「よーし! 気分を直してマヤ君おめでとぉ~!!

 私にビールを持ってきてちょうだい!」

「じゃあ、私も少し飲もうかな…」


 エリカさんが一人騒ぎだし、エルミラさんは…飲むのはほどほどにしておきなさい。


「マヤ様、浮かない顔ですわね。」

「王女の心情を考えると、素直に喜べないからね。」

「あの王女でもお優しいですのね。そういうマヤ様も私は好きですよ。」

「ありがとう、パティ。」


 王女の態度にいきり立っていたパティだが、本気ではないだろう。

 パティも人の心がわかるいい子だ。大事にしたい。


「マヤ君も飲みなさいよ~!」

「あぁ…、じゃあ一杯だけね。」


 エリカさんが煽ってくるので、一杯だけビールを飲んだ。

 この世界に来て酒を飲む機会は幾度かあったが酒はあまり飲んでなかったし、この身体はまだ慣れていないからすぐ酔ってしまった。

 だが最初の一口はたまらなくうまかったな。

 一応、この国の決まりでは十八歳から飲酒は大丈夫だそうだから問題無い。


---


 食事を終え、ルナちゃんに手を引っ張られて自室へ戻った。

 酔いは覚めつつあるがまだふらふらする感じだ。

 ルナちゃんは私をベッドに座らせてくれた。


「じゃあマヤ様、後は寝るだけですから、ちゃんとお布団を掛けて下さいね。」

「ルナちゃ~ん、いつもありがとね~」

「ルナちゃん…。ルナちゃんと呼んでもらってもいいですよ。うふふ」

「そお? ふふ。可愛いもんね。」

「可愛い!? ポッ」


 頭の中ではちゃん付けで呼んでいたから、酔った勢いでつい口でもルナちゃんと呼んでしまった。

 ルナちゃんは両手で頬を押さえ顔を赤らめていた。


「じゃ、じゃあマヤ様おやすみなさいね。それでは失礼します。」


 ルナちゃんは部屋を退出し、これで仕事を終えた。

 酔って顔がまだ火照っていて眠くはないんだが、ベッドの上で大の字になり寝転んだ。

 うへへ… ルナちゃん可愛いなあ。

 カボチャパンツから覗く太股はとても健康的で素晴らしかった。


『ねえマヤさん、マヤさん。ねえちょっと!』


 うぉ! これはサリ様の声か?

 頭の中に直接響いてきたのは念話の声なのか。


『王女との戦いを見たわよ。あなたも大変ねえ~

 あれくらいならスパッと倒せたのに。』

「いやまあ、あれはいろいろあって。

 でもさっき、王宮の訓練所でまた対戦してあっさり勝てましたよ。」

『え? そうなの? なんでなんで??』

「なんだ、そっちは覗き見してなかったんですか?」

『覗き見って…、確かに違わないけれど…。』


 私は訓練所での経緯をサリ様に話した。


『そういうことね~

 王女、少なくとも何からの好意はあなたに持っているかもよ?』

「え… ホントですかぁ?」

『二本目に組み手を提案してきたじゃない。

 あなたとの戦いが楽しくなってきたってことよ。』

「確かに強いやつと戦うのが楽しみって言ってましたね。」

「その強いやつが見つかったということは、捕まえておきたくなるじゃない。

 王女本人は自分であなたに好意を持っていると気づいていないんでしょうけれど、この後がどうなるか楽しみね。うっふふふ」


 見かけはいいんだけれどなあ。

 少々厄介な相手に目を付けられたということになるのか。


『で、この後は女王とお楽しみなの?』

「もう見ないで下さいよ!」

『私は愛の女神でもあるのよ。人の愛の営みを見届けるのは自然なことよ。

 あっはっはっは。じゃあね~』


 酷い…。女神の年齢を考えてみたら無数に覗いてたんだろうな。

 ……ちょっと羨ましいかも。


---


 今晩もシルビアさんからお呼びが掛かり、女王のおつとめ。

 ベビードールではなく、上下が紫でぱんつはひらひらのTバックだった。

 どうして歳を取ると濃い色の下着を着けたがるんだろうか。


 今日は私がほとんど動く必要が無く、女王がねっとりしっぽりと手厚い技を披露してくれた。

 すっかり搾り取られてしまったが、心地よい疲労だ。

 そして膝枕でピロートーク。


「マルティナ様、王女…ヴェロニカ様はその後どうなさっていたんですか?」


「久しぶりに強い人に出会えたのに、なぜあなたが手加減をしていたのか、私が王女だからか? 悔しいなんて言ってましてね。

 あの子は戦うことが昔から好きで、内心あなたと出会って嬉しかったんでしょう。」


 そこまで母親に言ってるということは、けっこうお母さんっ子だな。

 言葉は悪いが、王女は戦闘バカだろうか。


「観衆の目がありましたし、特にガルベス公爵らがいましたからあまり派手に負けてもらっても、王女の今後に影響があってもいけないかと思ったもので…。」


「そこまで考えて下さって…、ありがとうございますマヤさん。

 あの子は歯に衣着せぬ言葉遣いで、周りに反感を買うことが多いのはご承知のことと思います。

 私の教育が良くなかったんでしょうね…。

 王女という立場も足枷になって、なかなか対等に話せる方がいないようです。

 私が知ってる限りでは、騎士団長くらいでしょうか。

 騎士団長は、あの子の剣の先生だったんですよ。

 彼は私より年上ですから、とてもお友達というわけにはいきませんね。」


 私が察したこととだいたい合っている。

 王女は友達がいないんだな。

 私もあの言動をするような人物は正直苦手だから、無理してお近づきになる必要は無い。


「あの…、ヴェロニカ様が私たちの夕食前に決闘を希望されて、それで私が勝ったんですが、そのことはご存じでしょうか?」


「え? そんなことがあったんですか? それでどのようにして…」


「ヴェロニカ様が全力で戦って欲しいと言われたので、一撃必殺の技を直前で止めました。

 その後はかなり落ち込んでいたようですが…。」


「いろいろ思い知ったんでしょうね。あの子には良い薬だったかも知れません。

 ありがとうございます…。」


 その後は会話らしい会話も無く、女王は私の頭を撫で続けた。

 ちなみに膝枕をされている私の視界は女王の下乳で、ずっと眺め続けた。


 女王とお休みのキスをして自室に戻った。

 今日はいろいろあって疲れたな…。

 酔いはすっかり覚めて、心地よい疲労もあってすぐ眠ってしまった。


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