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第八十二話 ヴェロニカ王女との対戦 前編

 王宮から馬車を十数分走らせると、闘技場に着いた。

 外見はローマのコロッセオ風で、某ドームのよう見上げるほど大きい。

 今日は王女と私の対戦でしか使われないようで、観客はおらず人影は疎らだ。

 闘技場の係員のお姉さんが迎えに来たので、まだ時間があるから控え室に行く前に場内を案内してもらうことになった。


 場内は王宮のように綺麗で、近代的な感じすらある。

 グラウンド、野球場で言うとフィールドの部分に出てみた。

 これは広い…。たった二人だけで戦うのにこんなに広くて何の意味があるのかわからないが、邪魔はまったくありそうにないので戦いやすいと言えばそうだろう。

 左右に二カ所、ガラスで囲まれた箱にVIP観覧席があるのでどちらかで女王が観覧すると思う。

 一先ず感覚を覚えたので控え室に案内してもらう。


 廊下の窓から、馬車から降りてくる人物が見えた。

 頭が薄く太っている貴族のおっさんだ。

 パティがそれを説明する。


「あれは女王陛下の叔父にあたるガルベス公爵ね。

 前に謀反を起こしてお父様が退治した悪者の親玉と言われているけれど、なかなか尻尾を出さなくていけすかないやつよ。」


「おっ もう一人来たよ。」


「あの細い髭面は、オリベラ侯爵ね。

 ガルベス公の腰巾着みたいなやつで、領地は持っていないけれど王国各地でいろんな経営をしていてしこたま金を稼いでいるやつよ。」


 まるでどこかのガキ大将と腰巾着そのものではないか。

 この王国はクリーンで平和かと思ったけれど、そうでもない所もあるんだな。


「あいつらは明確に反女王派と謳っている訳ではないけれど、女王陛下が気に入らないようだし、自分の仲間をやられたお父様も嫌っているようね。

 この対戦であいつらには直接得が無いと思うけれど、きっと暇つぶしと嫌がらせのために違いないわ。」


 王女が私と戦っても得にならないのはわかっていたが、やはりそんなことか。

 勝っても負けても私たちのどちらかが恥を掻くだけ。

 そう思うと王女がかわいそうになってきた。

 それから続々と馬車が乗り付けてきたが、全体の人数はたいしたことなさそうだ。


 控え室にて。

 といっても準備することは特になく、手に持っている八重桜と一緒にフィールドへ出るだけである。

 椅子に座って待っていると、シルビアさんが現れた。

 ということは女王も来たのか。


「マヤ様、お疲れ様です。女王陛下からの伝言がございます。

 勝っても負けてもその後で陛下がいらっしゃる観覧席へお越し下さい。」

「わかりました。」

「私が言える立場ではありませんが…、頑張って下さい。」

「ありがとうございます、シルビアさん。」


 シルビアさんがエルミラさんに話しかけている。

 どうやら私たち側からの審判をして欲しいという話で、エルミラさんは快く受け入れた。


 係員のお姉さんが迎えにやってきた。いよいよ対戦が始まる。

 私はフィールドへ向かうゲートへ向かった。


「マヤさまっ! どうかお勝ち下さい!!」

「マヤ君ならきっと勝てるだろう。でも焦ってはダメよ!」


 パティとエリカさんが応援の声を掛けてくれた。

 緊張するなあ。


---


 ゲートからフィールドへ出た。

 広いフィールドの真ん中へ向けて歩く。

 審判は四方に四人いて、近衛兵長、副騎士団長、なぜか門番長、そしてエルミラさんがいる。

 左側のVIP観覧席は女王とマルティン王子、シルビアさん。

 右側のVIP観覧席にはガルベス公とオリベラ侯が見える。

 スタンド席には見知らぬ貴族らが数十人と、パティとエリカさんが見える。

 あっ いつの間にか二人の隣にサリ様がいる!

 確かに見に来るって言っていたからな。

 声掛けしているようだが、少し距離があって何を言っているのか良く聞こえない。


 私がフィールドの真ん中に立った時、遅れてヴェロニカ王女殿下がゲートに現れた。

 軍服に鎧姿の王女が私と十メートルほど空けた前に立つ。

 鎧というよりもっと軽く、腕の小手とふくらはぎ、胸と肩を防御してる金属製のプロテクターを装備している。

 金髪お団子頭で、見た目はくっころ女騎士そのものだ。


「なんだその普段着は! 私が腕をうっかり切り落としても知らんぞ!」


 私はそれに反応せず王女を見つめている。

 黒い球体のレーザー攻撃でも撃ち抜かれなかった女神パワーの服なので、切られることはないのは安心だ。


「ではルールを説明します。一本が十分までの三本勝負。

 先に二本勝った方がこの勝負の勝者になります。

 勝ちの判定は相手が「参った」と言ったとき、相手が地に手を着いて倒れた時です。

 細かいことは審判が判定します。

 尚、魔法、魔力は一切使用不可です。

 怪我をしても恨みっこ無しの真剣勝負です。」


 審判の近衛兵長がそう説明した。

 魔法が使えないのか…。

 要するに転かしてしまえは良いわけだな。

 だが万一怪我をさせてこっそりリカバリーの魔法を使ったら失格になるかも知れない。

 思っていた戦い方と変わってしまったが、ローサさんとの稽古でも魔力を使っていなかったから問題無い。気力で勝負だ。


 エルミラさんが不安そうな顔をしている。

 なに。それでも私は怪我はしないし、王女にも怪我はさせないさ。



(VIP観覧席のガルベス公爵・オリベラ侯爵視点)


「ふん、あの小ぞうがガルシアの家来というではないか。

 魔物を倒してくれるというなら利用するだけのことだし、たかだか男爵号などあっさりくれてやっても良い。

 だがあの小生意気な王女にはいい加減恥を掻かせてやりたいからな。」


「おっしゃる通りで、ガルベス公。

 ガルシアめの所の小ぞうが負けてもあやつが恥を掻くだけだし、私らにとってはただの余興ですな。」


「全くだ。王女が怪我でもしてくれたら、それを理由に小ぞうを処断するまでだ。」

「それが本当の目的ですかな? はっはっは」

「ふははははははっ」



(VIP観覧席のマルティナ女王陛下・シルビア視点)


「マヤ様、私は信じています。二人とも無事でいてくれることを願います。」

「マヤ様なら大丈夫ですよ、陛下。」



(マヤ視点)


 間合いは剣道等と違いかなり距離があり、十メートルはあろう。

 王女が短めのロングソードを構える。

 王女の力量がわからないから一本目は様子見か。

 私も八重桜を構えた。


「そんな細い剣ではすぐ折れてしまうな。ふっ」


 王女は煽るのが好きなのか。

 彼女は知らないのか、よく鍛錬された日本刀は最強なのだ。

 だが西洋剣と日本刀は根本的に性質が違うので、使い方を間違えたら八重桜が折られてしまうかもしれないから気を付ける。

 王族が使う剣だから、訓練所で折れたような(なまくら)刀のわけはないだろう。


「まだ出てこないのか。ならばこちらから行くぞ!」


 しめた。向こうから出てきたのならやりやすい。

 王女は剣で猛撃をしてきたが、こちらは刀の負担にならないよう、払うように剣の攻撃を流す。

 動きは速いがどちらかといえば直線的で、しなやかさがやや欠けている。


 カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンッッ


 人が疎らなグラウンドで鳴り響いていた。



(ヴェロニカ王女視点)


 くっ なんだこいつは! 私の剣が全て流されている。

 あの細い剣が思っていたより強靱だ。初めて見たぞ。

 このままでは埒があかない。いったん退くか。



(マヤ視点)


 王女が退いた。戦法を変えてくるかも知れないから慎重に行こう。

 ん? 王女が剣を地面に向けて構えてる。何をする気だ?

 その瞬間、王女は剣を天へ振り上げると、地が裂けるような衝撃波が私に向かってきたので、(すんで)の所で躱した。


「見たか。これが私の奥義、【地衝裂斬】だ。だがこんなものではないぞ。」


 王女は再び剣を地面に構え、振り上げた。

 今度は一回だけでなく、連続でやってきた。

 ぎりぎりで躱しているつもりだが脚に少し当たっている。

 女神ズボンじゃなかったら大怪我をしているところだ。

 王女はガンガンと剣を振り続けている。


「ふはははっ どうだ! いつまで躱しきれるかな!?」


 アニメの悪役で聞いたようなセリフだが、それに似つかわしくない美しい王女だ。

 この技のつけ込む隙は…そうか!


「今終わらせますよ。」

「なに!?」


 地を這っているなら空がガラ空きだ。

 私は地衝裂斬の連撃を少し当たりながらも躱しつつ高速で前進し、王女の手前で飛んで彼女の上を飛び越えた。

 そして彼女の真後ろに着地し、しゃがんで回し蹴りをして足払いをする。

 すると王女はあっさりコケた。


「ぬあぁぁぁぁっ!!!」


「マヤ殿に一本!!」


 近衛兵長やエルミラさんら四人の審判が一斉に右手を挙げる。

 スタンドから歓声があがり、パティがキャーッと言ってるのが遠くから聞こえる。

 王女はすぐに立ち上がった。


「近衛兵長! 剣を使わないで攻撃するのはルール違反じゃないのか!?」

「王女殿下、剣だけを使うルールとは一言も申し上げておりません。

 お二人がたまたま剣をお使いになられているだけで、使って違反になるのは魔力だけです。」

「くぅ…。」


 技を食らった脚が痛い。ズボンを少し捲ったら赤く内出血している。

 今は魔法を使ったらダメなのかな…。


「近衛兵長。今は回復魔法で治療をしてはいけませんか?」

「ふーむ、戦闘時間外ですから認めましょう。」

「ありがとうございます。」


 私はミディアムリカバリーで脚を治療した。

 回復魔法を使うなんてずいぶん久しぶりな気がするよ。


「王女様、お怪我はありませんか? 治療しますよ。」

「いらん! 怪我は無い!」

「それは良かったです。」


 ふぅ、とりあえず一本目は勝てたが、二本目はどうしようか。

 あまりあっさり勝ってしまうと王女に恥を掻かせるだけの戦いになるから、それは避けたい。

 まさか魔力を使わず生身であんな技を使うとは思わなかった。

 サリ様の言うとおりだったね。


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