第七話 スサナさんと街巡り
20265.3.3 一部、加筆修正を行いました。
ガルシア家での朝食。
食事内容は思っていたより質素で、トーストとサラダ、コーヒーだけであるが美味しい。
トーストにつけるものはバターの他にマーマレード、蜂蜜を選べる。
サラダにはオリーブオイルをかけ、味は薄いがフルーティーな風味で実に健康的だ。
コーヒーには砂糖無しでミルクをたっぷり。
パティはムシャムシャと口に放り込んでいるが、あまり行儀が良い食べ方とは言えない。
それを見たアマリアさんはジロッと彼女を睨むが――
「それではお父様、お母様、行って参ります! マヤ様。夕方には帰りますのでごゆっくりなさいませ! それでは!」
アマリアさんから怒られる前に食事を終えて、足早に出掛けてしまった。
朝の慌ただしさはどこの世界も同じなんだなと納得してしまう。
それから、脇に控えているフェルナンドさんから声を掛けられる。
「マヤ様。今日はマカレーナの街の見物などいかがでしょう?」
「それは是非! お願いしてもよろしいでしょうか?」
「承知しました。スサナにご案内させます。彼女は体術が得意で、なかなか強いんですよ。もっとも、マヤ様はもっとお強いですから護衛としてはいりませんかな。ハッハッハッ」
ナイスだよフェルナンドさん。願ってもないことだ。
しかも可愛いスサナさんが一緒とは嬉しい。
彼女はメイド戦士だったんだねえ。
スカートをフワッと捲り、太股に装備しているナイフをシュパパパッと投げるのだろうか。
ははっ―― アニメの見過ぎかな。
朝食を終え、部屋に帰ってウキウキしながら出かける準備をする。
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部屋で待っていると、スサナさん自ら呼びに来た。
メイド服ではなく、白いブラウスに裾が細めの茶色いジョガーパンツ。
髪型はショートボブでよく似合う。
彼女の小柄な体型と童顔さはまるで少年のようだ。
十五歳くらいに見えるが歳は私に近いとか。
おっぱいはBカップぐらいで、大きくても小さくてもそれぞれの良さがあっていい。
こんな可愛らしい子と二人っきりで出かけられるなんて、まるでデートみたいでおじさんワクワクしちゃうよ。
「マヤさん、今日はよろしくお願いしますね! 私にお任せ下さい!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
歩いて出かけるのでそれほど遠くへは行かないだろうが、屋敷の周りは街の中心部なので、一通り何でもそろっているとのこと。
屋敷のすぐ近くには図書館と行政官庁、警備騎士団庁舎が並んでいて、比較的近代的な社会インフラが整っているようだ。
どの庁舎も宮殿と見間違えるほどの、中世ヨーロッパ風デザインの立派な建物。
昨日も思ったけれど、ヨーロッパへ観光しに来ている感覚だ。
魔物退治は警備騎士団と、たくさんではないがいくつかある私設の討伐隊がやっている。
ファンタジー作品のような冒険者ギルドというものは無く、討伐隊組合があってそこを通して依頼を受ける。
討伐隊は領主、つまりガルシア侯爵に承認されたものだけが活動を許されており、警備騎士団が手に余る場合は行政から依頼があって報酬で賄っている。
いつも魔物が来るわけではないから、ほとんどの者は普段普通の仕事をしていて、必要なときだけ動いている。
小さな町や村では、消防団のように討伐隊がそれぞれ組成されて活動している。
スサナさんと、昨日はもう一人出迎えてくれたイケメン女子のエルミラさんというメイドさんがガルシア侯爵直属の兵で、スサナさんもガルシア家の徽章を着けていた。
私も侯爵直属兵の扱いになっている。
昨日パティたちと一緒にいた護衛の騎士たちはガルシア家の所属でなく、行政から派遣された騎士だそうだ。
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商店がたくさん並んでいる通りへやってきた。
中世ヨーロッパ風の清潔な景観でショーウィンドウがあるお店も多く、治安は良いがお客は貴族やお金持ちの平民が中心。
一般庶民はあまりここで買い物をしないそうだ。
通りがかったお店の前で、スサナさんがショーウィンドウのドレスを見入っていた。
ああいうのが着てみたいのだろうかね。
残念ながら私はあまり似合いそうにないと思う。
君にはショートパンツからクロップドパンツあたりが良かろうに。
そう考えているうちに歩き進めると、五階建ての大きな宿屋が見えてきた。
「私、前に宿屋でしたことがあるんですよ。何だか懐かしいなあ」
「じゃあ、ちょっと見学してみます?」
「え? そんな簡単に出来るんだ」
受付の男性に侯爵家の紋章が入った徽章を見せたら、あっさりと見学を許可してくれた。
こりゃ便利だねえ。
ロビーは広く豪華で、私が勤めていたホテルとは比べものにならない。
高そうな調度品が並んでいて、立派な絵が掲げられていた。
案内の係は化粧が濃いめのお姉さんで、彼女に着いて行く。
一般客室は二人部屋が中心で、私がゆうべ屋敷で寝泊まりした部屋と同じくらい立派だ。
スイートルームにも案内してくれた。
おおぅ。これはまさしく王様の天蓋付きベッドですよ。
「アマリア様やローサ様の寝室にあるベッドもこのタイプですよ。もうちょっと小さいですけれどね」
「へぇー それはそれは」
ほほぅ、アマリアさんには似合いそうだ。
イケナイ格好しているアマリアさんの、イケナイ妄想が頭によぎる。
おっとっと、スサナさんがいる前ではやめておこう。
元の世界にも一泊百万円なんて部屋があるホテルをテレビで見たことがあるが、それより広くて立派だ。
聞けば他の地域の大貴族や豪商が利用しているとのことだ。
スサナさんが係にチップを渡して宿屋を出た。
この世界にもチップ制があることがわかった。
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昼食の時間になり、見栄を張って同じ通りにある高級レストラン【レストランテ レコベコ (Restaurante Recoveco)】に入る。
スペイン料理でも有名な熟成牛肉のステーキを食べた。
とても深みがあるコクと香りで口に広がる芳醇な味わい、そしてびっくりするほど柔らかい。
こんな美味しいお肉を元の世界で五十年生きて食べたこと無かったし、もちろんデート中に高級レストランで食事をしたことがない。
スサナさんにも喜んでもらってよかった。
ここは案内のお礼ということで私が格好つけて全部支払ったが、店が店なのでランチだけれど二人で銀貨三枚も払った。
日本円で三万円相当だからいい値段になってしまったが、たまにはいいよね。
その土地の色を見るにはやはり庶民が利用する市場へ行くのが一番良いだろうと、マカレーナ市街の西へ向かう。
距離があるのでタクシー代わりになる辻馬車を使うが、レストランが用意してくれるハイヤーのような辻馬車に乗ることにした。
馬車は豪華で乗り心地は良かったが、西の市場まで銀貨一枚もしてしまった。
身の丈に合わせて、帰りは普通の辻馬車を使おう。
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ハイヤー馬車に乗って二十分ほどで、西の市場へ到着。
屋台がずらりと並び、人がたくさんで賑やかだ。
昨日はパティから猫耳の耳族が存在すると聞いたが、ここにはいないようで人間ばかりが見える。
ゼビリャ区はイスパル王国の南部にある温暖な地域で、屋台には色とりどりのフルーツがたくさん並んでおり甘い香りが鼻をくすぐる。
長いパンに生ハムを挟んだポカティージョのようなものが売れていたので、私とスサナさんの分を買う。
二本で銅貨一枚だった。
シンプルだがこれは病みつきになりそう。とても美味い。
ガルシア家のお屋敷で頼んだら作ってくれるだろうか。
オリーブやシーフードを串に刺したピンチョス、夕食にも出たスペイン風コロッケのクロケッタもあった。
まさしく食い倒れの街だ。
――大きな声が聞こえてくる。
そこへ振り向くと、ある屋台の前でゴロツキ三人が騒いでいた。
距離を取って後ろから聞いていると、商品の古着について文句を言っている。
もう少し聞いていると、ケチつけて嫌がせをしているだけだった。
嫌だよねえ。日本にもこういうやつらがいたよ。
何の特徴も無いやつらだが、目が汚れているのがすぐわかる。
「マヤさん。ガルシア家で働いている立場上、これは見逃せませんよ」
「じゃあ自分が出ますよ」
スサナさんはコクリと頷いた。
穏便に済ませたいところだが、男たちの風貌からして血の気が多そうだから無理かも。
スサナさんにちょっと格好いいところを見せたい気持ちもあった。
「おい」
私は男の一人に後からポンと肩を叩く。
触りたくもなかったが、声を掛けただけでは気づきそうにない。
「何だおめえは! 邪魔するなボケがあっ!」
「ボケはオマエらだろ。大の男が三人も古着ぐらいでごちゃごちゃ言うな」
「この若造が生意気な!」
「恥知らずのバカに生意気と言われるのは心外だな。この場はさっさと去れ」
「ムギィィィィィィ!! やっちまえ!」
煽りの言葉が過ぎたとは言え、何という短絡思考のやつらだろうか。
頭が悪い三人は物騒にもいきなりナイフを手に持ち、私にかかってきた。
だが昨日と同様、魔物と戦った時のように私の心は冷静で恐怖を感じない。
私はアメリカ海兵隊のMCMAPっぽく、腕を取って引き寄せてから相手の身体を落とし、ナイフを奪ってキック。
もう一人はナイフを持った腕を払って掴んだ腕をひねり蹴り飛ばす。
スサナさんは脚で回し蹴りをしてナイフを落とさせ、さらに回って後頭部に一発。お見事!
三人とも地面にうずくまり、戦闘が始まってから三十秒くらいで終わった。
戦闘というほどでもないか……
力の調整がどうかと思ったが、殺気が無ければ殺してしまうことがないようで、安心した。
周りの人たちから歓声と拍手をもらい、ちょっと照れる。
古着店の店主にペコペコされた。
「マヤさん、鮮やかですぅ! フェルナンドさんに聞いたとおりですね!」
「スサナさんこそ、回し蹴りがすごく格好良かったですよ」
「いやいやいやぁ えへへ」
スサナさんは頭を掻きながら照れている。
まるで少年のようなあどけなさだった。
「じゃあ私は警備隊を呼んできますので、マヤさんは見張っていてくださいね」
数分もするとスサナさんが警備隊員を五人連れてきて、事務的な聞き取りが終わるとゴロツキたちを引き取ってもらう。
そろそろ夕方になろうという時間になっていたので、私たちは普通の辻馬車を拾い屋敷へ帰った。
仕方が無いけれど、尻が痛くなるくらいに乗り心地が悪かった。
この先もこのような馬車に乗る機会があるだろうから、慣れていくしかない。
日本の自動車には強く有り難みを感じた。もう二度と乗ることは無いのかな……
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私たちが帰るとちょうどパティも馬車に乗って学校から帰ってきたところだった。
だがパティはスサナさんと私が並んでいるのを見て、ムススーッと膨れてしまった。
「マヤ様、お二人でのデートはお楽しみだったようですわね。今度の休みの日には、か・な・ら・ず私とデートしてもらいますからねっ!」
パティの言葉に、スサナさんはあはははと言いながら困った顔をしてまた頭を掻いている。
パティがプンプンして屋敷の中へ入った後、スサナさんは私にこっそり耳打ちで――
「マヤさんっ 今日のデートはとても楽しかったですよ。ふふっ」
「おうふっ こちらこそどうもありがとう……」
そう言って、彼女も中へ入っていった。
耳に息がかかり、こそばゆくなってドキッとした。
もうちょっと気の利いた言葉を言いたかったが、私は女慣れしていないからそれしか言えなかったのが悔しい。
しかし―― 彼女はあれをデートと思ってくれていたのか。嬉しいなあ。
今日のことでスサナさんは私に好感を持ってくれたみたいだけれど、それだけで勘違いして恋人面にならないように気を付けねば。




