第六十二話 召喚獣セルギウス登場
やっと召喚魔法の登場です。
2024.9.20 軽微な修正を行いました。
とうとう来た!
何がって、王都から男爵へ叙爵の知らせである。
珍しく侯爵閣下がお昼に帰ってきたと思ったら、その知らせだった。
昼食の時に閣下から発表されたので、その場にいたパティ、アマリアさん、ローサさん、子供達、カタリーナさん、エリカさん、マルセリナ様、それから横に控えていたフェルナンドさんとビビアナが大いに祝ってくれた。
そして貴族になることで、晴れて一夫多妻制が適用されてマルセリナ様らとも結婚できるようになる。
何にせよ叙爵してからだ。
早速王都への旅支度と、メンバー選考である。
まず、当然ながら私。
二人目、パティ。ガルシア侯爵の名代として、初の公務になる。
三人目、エリカさん。パティの護衛として、念のため。
四人目、エルミラさん。直接攻撃でパティとエリカさんの護衛に当たる。
たった四人である。
どっかの懐かしいRPGみたいなパーティーみたいで、勇者が私、戦士がエルミラさん、魔法使いがエリカさん、賢者がパティだ。
戦闘力、防御力としてバランス良く申し分ないだろう。
私とエリカさんだけならば飛んでいくことも出来るが、パティを連れて行くことが大前提なので馬車で行くことになる。
そして馬車の操車が出来て以前は旅慣れていたエルミラさんを選んだ。
王都【マドリガルタ】まで約五百キロもあり、復路は途中で若干遠回りしてセレスに寄ることにする。
片道十日を見て、マドリガルタへ滞在する期間も合わせて一ヶ月プラス一週間くらいのかなり余裕がある行程を侯爵閣下から勧められて、私もそれを了承した。
のんびり道中もたまには良かろう。
アレだ。パティが某ご老公様ポジションで、私とエルミラさんがお付きの武士、そしてうっかりエリカさん。
「この紋章が目に入らぬか!」と、こりゃウケる。
空飛ぶ乗り物については先日ブロイゼンの二人のところへ顔を出しに行ったが、まだ設計段階だった。
設計図を見せて頂いたがさすがプロで、詳細に描かれており図が完成したら資材さえ揃えば組み立ては早く出来るそうだ。とても楽しみである。
私だけ独断専行というわけにもいかないので、お昼の魔法勉強会の前にエリカさんに話しかけてみた。
「マヤ君、馬の手配はいらないわ。御者役も不要よ」
「エリカさん、それどういうことなの?」
「じゃじゃーん! とうとうここで召喚魔法の初披露をすることが出来るわ!
勉強会の時にみんなが集まったら、魔獣を召喚してみるわね」
おお! ずっと前にエリカさんから話を聞いていたが、この世界の召喚魔術をやっと見ることが出来るのか。
アニメやゲームでは派手な演出で召喚獣が出ていたけれど、実際どうなのか気になる。
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そして勉強会の時間になる。
というか王都行きのメンバーは準備に忙しくなるので、エリカ先生もいなくなるから自習になる。
光属性魔法ならばマルセリナ様がみんなに教えてくれるそうだ。
ビビアナは私たちがいない間、ちゃんと勉強してくれるかな。
屋敷の庭に、いつものメンバーの他に、マルセリナ様やスサナさん、エルミラさん、アマリアさんとローサさんも子供達を連れて見に来た。
一気に庭が賑やかになってしまった。
「さあさあ皆さん、この辺に出てくるからちょっと離れててねえ!
何が出てくるのかお楽しみだよ!」
何か見世物会みたいになっているだが大丈夫かね?
魔獣って魔物と違って知性があると聞いているが。
皆が輪になって、真ん中に召喚される魔獣が現れるようになる。
子供達やパティ、ビビアナは目がキラキラわくわくしている。
「じゃあ始めるよお!」
エリカさんは右手を広げて掲げる体勢になって声を掛けた。
「おーい、セルギウス出ておいでえ! おーい、セルギウスぅぅぅ!」
は? 何それ。
呪文を唱えることもなければ、魔法陣みたいなエフェクトも無い。
そうすると煙か霧のような渦が私たちの輪の真ん中に出来て、バチバチッと音がした。
まるで昭和のコントやアニメのようが出現の仕方である。
だんだん煙が薄くなって、魔獣の姿が見え始めた。
「あ! おんまさんだぁ!」
「おんましゃんおんましゃん!」
カルロス君とアベル君がはしゃいでいる。
かわいいなぁ。
子供達が叫んでいるように、馬形の魔獣が現れた。
グレーの毛並みに、額に角がある。
一角獣か!
『おー! エリカじゃねえか! 久しぶりだな。うおっ!? なんだこの人だかりは?』
あ…… 馬がしゃべってる。魔物を初めて見たときよりびっくりした。
馬の口でどうやって発音出来るんだろう。
「おんまさんがしゃべったぁ! すごーい!」
『ん? そこの子供。俺は馬じゃないぞ。ユニコーンのセルギウスっていうんだ』
「せうぎうす?」
『おうよ。格好いい名だろう』
「あっはっはっはっは!」
「こらカルロス! 失礼よ!」
アマリアさんがカルロス君を叱ったら黙った。
こんなところはお母さんだねえ。
カルロス君も叱られて泣かないのはすごい。
『俺は優しいからな。子供が言うことにいちいち目くじら立てないよ。
で、エリカ。いつの間にか魔力量がえらく増えてるじゃねえか』
「このマヤ君の力で増やしてもらったのよ。うふ」
エリカさんは横から私の腕に抱きついてきた。
いつも胸を押し当ててくるからだんだんおっぱいの有り難みが無くなってくる。
『ん? その兄ちゃんは人間にしてはとんでもねえ魔力量を持ってるが、何者なんだ? 上級魔族並じゃねえか』
「初めまして、マヤです。訳あって魔物退治しにこの街にいます」
まさか馬に敬語を使って話すとは思わなかったぞ。
こいつもけっこう魔力量を持ってそうだ。
今のエリカさんよりずっと多いじゃないか。
『ふーん。アスモディアでも魔物は出てきているからな。
それでエリカ。何させようと俺を呼んだんだ?』
「王都まで私たちを馬車に乗せてひっぱって欲しいのよ」
『はぁぁぁぁ!? そんなもん普通の馬に牽かせればいいだろ!』
「普通の馬じゃ遅いしつまんないのよ。頼むよー、人間の国のうまいもん食わしてやるからさ」
『何だよそれ』
「ジュリアちゃん。地下倉庫に人参があったでしょ。何本か持って来てくれないかな?」
「はい、わかりまスた!」
「ん? エリカは倉庫なんかに何しにいってるニャ? つまみ食いかニャ?」
「ギクッ ちょっとコーヒー豆を分けてもらってるだけよ……」
「ふーん、何か怪しいニャ」
夜中に腹が減って倉庫を漁ってるエリカさんの姿が目に浮かぶようだ。
まあフェルナンドさんが細かくチェックをしているから、被害があるような量ではないんだろう。
これから人参を倉庫から出すのもちゃんとノートに書く必要があるらしい。
ジュリアさんが人参を持って戻ってきた。
野菜+給仕服のジュリアさんの姿ってすごく安心する。
「はい、人参を持って来ました!」
「とりあえず一本、セルギウスに食べさせてみてよ」
「はいセルギウスさん、人参をどうぞ」
ジュリアさんがセルギウスに人参をあげている。
農家の娘が馬に野菜をあげているって、見たそのまんまじゃないか。
『ニンジン? なんだこれ…… モグモグ…… ん? んんんん????
美味いじゃないか! 人間はこんな美味いものを食ってるのか!』
一角獣が美味いと言っている。馬だけに。ぷっ
「ジュリアさん、カルロスとアベルに人参を一本ずつ渡してくれるかしら」
「はい、奥様」
ジュリアさんはアマリアさんに頼まれ、子供達に人参を一本ずつあげた。
アマリアさんとローサさんは子供達を抱っこしながらセルギウスに近づいて、人参を持った子達がセルギウスに人参をあげている。
「せうぎうすさん、はいにんじん」
「しぇ…… しぇうぎうしゅしゃん、にんじん……」
『モグモグ…… おー、子供達ありがとうよ。ニンジンおいしいよ』
なんて微笑ましい光景なのだ。
観光牧場で子供達が馬に人参をあげているようにしか見えない。
しかしこんなユニコーンを目の前にして子供達はよく泣かないな。
喋るせいもあるかも知れないが、こいつの優しいところを子供達なりに感じ取ってるのかな。
『よしわかった。俺が馬車を引っ張ってやる。そこんじょそこらの馬と一緒にするなよ。壊れにくい上等な馬車を用意してくれ。』
「ありがとう、セルギウス。出発は明後日の朝にしようと思ってる。
人参は明日たくさん買って用意しておくし、旅の途中でも手に入りやすいだろうから」
『うむ、よろしく頼むよ、マヤ』
こうして一角獣のセルギウスとは話がついて、召喚状態からいったん引っ込んで消えていった。
人参でオッケーだなんて安上がりにも程があるが、エリカさんは何故人参をあげたのか気になるので聞いてみた。
「ああ、アスモディアの食べ物って人間からしたら基本的にまずいのよ。
だから人参じゃなくてもいいんだけれど、この辺って人参をたくさん作っているし、馬っていったら人参じゃない。それだけよ。はっはっは」
すごい適当なところがエリカさんらしい。
そんなにまずいんだったら、エリカさんはよく八年間もアスモディアにいられたもんだ。
「アスモディアも麦や芋や葉っぱモノの野菜、多少の果物は作ってるよ。
でもそれだけだし、何より魔族って調理技術がダメだから味が単調なのよ。
こっちに帰ってきた時は泣くほど料理が美味しかったわ」
いつかアスモディアへ行くときは食事対策を考えたほうが良さそうだ。
さて、馬車の選定をしなければいけないと思ったが、すでに侯爵閣下が用意してくれていた。
あのブロイゼンのオイゲンさんたちがいる工場で作られた高級馬車だ。
なんとちゃんとカーボンが入った普通の黒いゴムタイヤで、ショックアブソーバーとサスペンションも乗用車のごとくしっかり作られている。
天然ゴムがこの世界でも取れるんだな。
これなら今お願いしている空飛ぶ乗り物も期待していいのかも知れない。
馬車はちょうど四人乗りで座席は進行方向。
長距離向けだから荷物はたくさん積める。ほとんどミニバンだ。
ここまで作れる技術があって、どうして動力は馬のままなんだろうか。
ただ二頭引きなのでセルギウスに引っ張ってもらうには一頭引きに少し改造してもらわないといけないし、色が赤系統だから派手で目立つので、侯爵閣下に許可をもらって塗装もしなおしに工場へ行くことにした。
工場まで私が一人で馬車を引っ張っていたから、街を歩いている人に奇異な目で見られたし、工場の人たちにもびっくりされた。
セルギウスに何かあれば私が引っ張っていくことも出来ることになるが、それはなるべくなら避けたい。
無理を言って、明日の昼までに改造してもらえることになり、馬車を預けて帰った。