第五十三話 ブロイゼンの技術者/チラリズムは芸術
2022.8.23 軽微な修正を行いました。
いつもの朝を迎え、今日は午前中に侯爵閣下から紹介があった馬車工場の、ブロイゼン出身の二人に会いに行ってみることにした。
私やエリカさんだけなら魔力量の多さと闇魔法を活かして空を飛び移動できるが、他の人も一緒に速く移動出来たらいいなと、以前から考えていた魔法を使った空を飛ぶ乗り物を作ってもらえるかどうか尋ねるためだ。
近いのでよく行く貴族向けや平民富裕層向けの商店街の端の方に、その馬車のお店があった。
建物がガラスをふんだんに使ったショールームになっており、まるで元の世界の自動車販売店のようで、店内には何輛かの馬車が展示されている。
受付のお姉さんがいたので、まずそこで尋ねてみることにした。
うむ。やや年増だが高級店だけあってなかなかの美人である。
「いらっしゃいませ」
「あのぅ、ここの工場に働いていらっしゃるオイゲン・シュタインマイヤーさんと、テオドール・ノイエンドルフさんにお会いしたいのですが」
「恐れ入りますが、どのようなご用件でございますか?」
「特注で作ってもらいたいものがあって、直談判したいんです」
「申し訳ございませんが、そのようなことについてはお断りしております」
「忘れていました。これはガルシア侯爵の紹介状です」
「……こ、これは大変失礼いたしました!
ガルシア侯爵様の徽章も確かに!
只今ご案内します!」
さすがガルシア侯爵の力だなあ。
何だか貴族特権を振るっているようでどうかと思うが、世界を救う大事なことなのでこの際は利用させてもらおう。
お姉さんはこの場を他の受付係に任せて、私を隣接の工場へ案内してくれた。
そこには図面を見たり高そうな馬車をトンカンチンと作っている二人のやや厳ついおっさんがいた。
「ん? 何か用か?」
「こちらの…… ガルシア侯爵閣下のご紹介で、オイゲンさんとテオドールさんにご用があるという方をお連れしました」
「何? 領主様の!?」
「初めまして。ガルシア侯爵直属兵のマヤ・モーリと申します。
今回はオイゲン・シュタインマイヤーさんと、テオドール・ノイエンドルフさんにお願いがあって参りました」
「マヤだって!?
あの大猿の化け物をほとんど一人で倒したっていう勇者じゃねえか!?
おい、テオドール! こっちへ来てくれ!」
「ああ? 何だ?」
「領主様んとこの、大猿を倒した勇者がここに来たぞ!」
「おお!?」
ここでも勇者か。
グラドナまで話が行ってるくらいだから、渦中だったマカレーナでは当然か。
面倒だから普段は目立たないように行動しよう。
オイゲンさんはつるつる頭で顎髭鼻髭を生やしていて、テオドールさんは短髪でマッチョの、どちらもいかついおっさんである。
彼らに紹介状と徽章を見せた。
「間違いなくあんたはマヤさんのようだな。
領主様からあんたのお願いを聞いてやってくれというのはわかった。
俺らにいったい何をしろっていうのかね?」
「魔物が蔓延っているというのは当然ご存じでしょうが、それを撲滅させるには魔物が出てくるデモンズゲートという穴を絶たないといけないんですよ。
ですが世界中にいくつあるかもわからない穴を歩きや馬車で移動していては何十年かかるか見当も付きません。
そこでお二人に、魔法で浮いて空を飛べる乗り物を作って欲しいんですよ」
私は、プライベートジェット機そのもののような、具体的に言うとエ◯ブラ◯ル社のレガ◯ー5◯◯みたいな乗り物の絵を二人に渡した。
外観の前後左右上下斜め、翼の断面、コクピット、内装、タラップの構造、車輪など頭の中の記憶を絞り出して描いた。
骨組みなど基本構造は、昔作った模型飛行機を思い出して図を描いた。
ジェットエンジン部分は風魔法を高圧で吹き出せるように頑丈に作ってもらう。
グラヴィティでは高度二十メートルあたりが限界だし、時速百キロぐらいで移動できる機体強度であれば御の字なので、本物の飛行機のようなものは求めない。
翼は揚力より機体安定性のための物と言っていいだろう。
この絵を描くためにこの数日は部屋に籠もりっきりだった。
「なんだいこりゃあ!?」
「こんな不可思議な形の物を初めて見たよ」
予想通りの反応だ。この世界の人にとってはUFOみたいなものだからね。
「理屈としては、こういう形をした馬車のような箱とお考え下さい。
飛ぶ方法は、今から私がやってみせます。
この乗り物を私に見立てて、重力魔法で浮かせて風魔法で移動させます」
工場内は天井が高い位置にあるので、私はグラヴィティで浮いて風属性の魔法を使い、飛行機のように手を広げて軽く動いて見せた。
「おお、魔法で空を飛べるのか! 初めて見たぞ!」
「俺もだ! でかい魔物をたくさん退治出来ただけのことはあるな!」
私は二人の元へ降りた。
よし、好感触だ。これを作ってもらえるかも知れない。
「わかった。俺たちの技術者魂が燃えてくるような代物だ。
だがこれだけは断っておく。
作業は本業の合間にしか出来ない。
それから初めてのことだからいつ完成できるのか検討がつかない。
材料費だってかなりかかりそうだ。
世のため、魔物討伐のためであるなら頑張ってみるけれどな」
「それについては承知してます。
お金についてはこれを前金に持って来ました」
私は袋に入れてある白金貨四十枚を見せた。
エリカさんが六枚、私がほぼ全財産の十四枚、ガルシア侯爵に二十枚もポケットマネーから出してもらった。
ガルシア家は身分に見合わないくらいの質素な生活をしているのはこの一年でよくわかっていたから、こつこつと貯めていたのだろう。
侯爵閣下には頭が上がらないよ。
本物のプライベートジェット機は二十億円以上するらしいが、動力や電気系統も無い飛行機の形をした箱なのでそこまでかからないと思う。
でも白金貨四十枚では一割にもならないかも知れない。
いろんな土地で魔物を退治して稼ぐしかないなあ。
「ありがとう。そのお金は受付に預けておいてくれ。
この乗り物についてもう少し詳しく話を聞かせて欲しい」
二人はわざわざ小一時間も時間を割いてくれて、私の説明を熱心に聞いていた。
話が終わった後は、時々工場を覗きに来て欲しいと聞いてから、受付へお金を預けて預かり金証明書をもらって屋敷へ帰った。
---
ちょうどお昼時で、昼食を食べてから久しぶりにエリカさんと魔法の勉強をすることにした。
天気がいいので屋敷の庭のガーデンテーブルで、大聖堂でマルセリナ様との勉強から帰ってきたパティ、給仕服姿のジュリアさん、何故かエリカさんそっくりの衣装でやってきたカタリーナさん、エリカさん、私と大所帯の勉強会である。
エリカさんの普段着はとんがり帽子ミニスカ魔法使いのコスプレみたいなものから、最近はミニスカスーツに変わっている。
そこへカタリーナさんが真似してミニスカスーツを着て、ドリルカールは合わないのでストレートヘアに変わっている。
たぶんエリカさんに対する憧れで衣装の真似をしてるんだろうけれど、これはなかなか綺麗でおじさんは嬉しいぞ。
丸いテーブルが二卓あって、エリカさんとカタリーナさん、パティと私とジュリアさんという組み合わせになっている。
斜め前にカタリーナさんがいて、綺麗な脚を動かしたり脚を組み直したりするたびに、白い大人ぱんつがチラチラと見えてしまう。
カタリーナさんのぱんつは、エリカさんがマカレーナ女学院で講義をしたときに、エアーコンプレッションウォールの解除を失敗して神風が吹いてスカートが捲れたときに見えた、その時以来である。
ああ、パンチラというのはエロチシズムを感じる素晴らしい瞬間だ。
ロマンと言っていいだろう。
このところパンモロだったり裸が多くて有り難みが薄かったから、チラ見が出来たのは久しぶりだ。
男性視点のまったく身勝手な気持ち悪い考え方ではあるが、女性が履いている下着はなんて美しく神秘的なんだと思う、至福のひとときだ。
これだけで一日が頑張れそうな気がするし、一日の終わりの時は疲れが吹っ飛んだような気分になれる。
ただの布なのに女性が身につけると芸術になるのだ。
そんなふうにカタリーナさんのぱんつを観賞していたら、隣にいたパティに肘鉄を食らってしまった。
パティの位置からもカタリーナさんのぱんつが見えていそうだから、気づかれた。
でもパティはカタリーナさんに何も言わない。
親友に恥を掻かせたくないからだろう。パティは優しいな。
ジュリアさんは、ベッドの上以外はとても清楚な女性で、エリカさんみたいに色目を使ったりわざとぱんつを見せたりしない。運動もまだあの一度だけである。
せっかく闇属性の魔法が使えるようになったので、今はグラヴィティの勉強をしている。
グラヴィティをマスターしたら飛んでいけるのが三人になるので、ジュリアさんにもいずれ魔物の遠征討伐に参加してもらうことになるだろう。
グラドナから帰ってきて半月ぐらい経ったが、あれから魔物討伐の依頼が侯爵閣下から無い。
嵐の前の静けさのようで嫌な気がするが、その間に虫と鳥の魔物が街へ三度襲ってきている。
いずれも他の討伐隊が仕事をしてくれているので私たちの出番は無かった。
夜の運動は意外に毎日ではなかった。
どうもエリカさんは女の子の日が少し長めだったようで、その間にビビアナやエルミラさんが部屋に来てくれてマッサージしたりされたり、ちゃんとお話もしている。
パティとのお茶会も忘れていない。
女性というのは、周りの女の子同士で仲良しであっても、異性とは二人っきりでいたい気持ちが強い。
それは男でも同じか。
だからかち合わないように、誘われるまたは誘う声かけにも気を遣う。
みんな私と一緒にいてくれて笑顔になっているときは本当に嬉しい。
昔の私のことを思ったら考えられない幸せな環境にいるが、魔物を討伐する厳しい先で、女神様からのプレゼントと思っておこう。