第五十話 女神の使徒マヤ?
2023.10.20 加筆修正しました。
自室のベッドでエルミラさんと朝を迎える。
二人とも素っ裸だ
「おはよう、マヤ君。うふふ」
「――おはよう…… うーん……」
エルミラさんが寝転びながら肘をついて、私の顔を眺めていた。
ゆうべは今まで以上にエルミラさんと愛し合い、思い出のベッドとなった。
エルミラさんがベッドから出て、服を着始めた。
明るくなった部屋で、エルミラさんの白く美しい身体に窓からの光りが眩しく反射する。
そんなエルミラさんを私はしばらく眺めていた。
「なあに、マヤ君。恥ずかしいよ」
「エルミラさんの身体が綺麗で、見とれてしまってね」
「いつも私の身体を褒めてくれてありがとう。じゃあ、また後でね」
何だろう……
別れたわけでもないのに、愛し合った後に離れると湧き上がるこの寂しさは。
いつでも会えるのに、また会いたくなってくる。
思わずベッドに染みついたエルミラさんの残り香を嗅いでしまった。
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そして何事も無かったように、スサナさんとエルミラさんとでいつもの早朝訓練。
もう一年近くこれを続けているんだなあ。
一年? そういえば彼女らの誕生日っていつだっけ?
訓練が一息ついたときに聞いてみた。
「私は半年前だよ」
スサナさんはそう応える。エルミラさんは…
「私は…… 三ヶ月前だね。それでマヤ君どうしたの?」
「え? どうして誕生日を教えてくれなかったの?」
「この国の平民はあまり誕生日というのを気にしなくて、誕生日パーティーもしないんだ。
あれは貴族のお祭りだね。
その代わり、理由も無くちょこちょこと宴会で騒いでるよ」
そういうことか。この国の国民性だと分かる気がする。
グラドナでも肉を持って来ただけで突然野外の宴が始まったからな。
ジュリアさんの旅立ちはそれほど理由になってなかった雰囲気だ。
「そうかあ……
マヤさんがここに来てからもうすぐ一年になるんだねえ」
「スサナさん、覚えててくれたんだ」
「あの頃のマヤさんは可愛かったのにねえ。にひひ」
スサナさんはまるで少年のように笑う。
彼女は童顔で可愛らしいけれど、去年と変わった様子が無い。
伸びしろがもう無いのだ。
「私は可愛いマヤから格好いいマヤに成長したのだよ」
「あっはっは! マヤさん言うねえ」
パティはもうすぐ卒業だし、ジュリアさんが加わった。
いずれ何らかのパーティーをやってみたい。
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朝食だ。
早速ジュリアさんが給仕服を着て準備をしていた。
厨房から持って来た半熟カステラはジュリアさんが作った物で、隣の国ポトルガのメニューらしい。
国境の村らしい食文化だね。
地球ではポルトガルのパン・デ・ローという名の食べ物で、長崎へ行ったお土産にその半熟カステラを買って食べた思い出がある。
トロリとした味わいで勿論美味しかった。
ジュリアさんの半熟カステラも美味しくて、ガルシア家のみんなにも好評だった。
ガルシア家での彼女の点が上がったようで、連れてきた私も嬉しい。
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今日はパティが休みである。
お昼は二人で大聖堂のマルセリナ様の所へ行ってみることにした。
エリカさんとジュリアさんは、午前中から二人でまた買い物へ行くという。
昨日買い物へ出かけた分は、取り急ぎで最低限の物ばかりだったらしい。
エリカさんは張り切ってジュリアさんを連れて行った。
不安でしかない。
私は前もって魔力量測定器をエリカさんから借りていて、大聖堂へ持って行く。
午前中はパティの部屋でお茶会。
彼女は終始ニコニコでとても機嫌が良い。
それからマルセリナ様のお昼休みに合わせるためにお昼ご飯を早めに食べて、パティと私は大聖堂へ行く。
彼女も張り切っているようだ。
久しぶりみたいに見えるが、これでも週に一度くらいはマルセリナ様のお昼休みに私だけ顔を出していたんだよ。
今回は間が空いてひと月ぶりになってしまった。
信徒でない者が教会へ頻繁に出入りするのも不自然なので、名目上は信徒として時々パティと一緒にミサへ参加したりしていた。
マルセリナ様にも、私が女神サリ様によって転生したことを話した方がいいだろうか。
信じてくれてなくて、神への冒涜です!なんてことになったら困る。
「マルセリナ様、お久しぶりです」
「本当に久しぶりですね。寂しかったですわ」
「済みません。デモンズゲートを塞ぎにあちこち飛び回ってました」
「ホントです。忙しくてマヤ様は私もなかなかかまって下さらなかったんですよ」
パティ、庇ってるのかチクリと言ってるのかどっちなんだ。
私は早速これまでの経緯と、私がフルリカバリーを掛けた三人が魔力量の極端な増加があったこと、ジュリアさんが闇属性に目覚めたことをマルセリナ様に話した。
「それで私がフルリカバリーを掛けたらパティも風属性に目覚めたんですが、フルリカバリーはそういうこともある魔法なんでしょうか?」
「私がフルリカバリーを掛けたことはそれほどたくさんではありません。
あくまで大きな病気や怪我を治すだけのもので、何か他のものが付与されることはありません」
ということは、フルリカバリーを掛けただけでは何も起こらないのか。
私の魔力の影響なのか。
「例えばですよ。
私が怪我をしていないマルセリナ様に、今フルリカバリーを掛けたらどういうことになるんでしょう?」
「身体が元気な状態で魔力消費量が大きいフルリカバリーを掛けることは常識的にしないので分かりかねます。
ミディアムリカバリーの場合、元気な人に掛けたら疲れが取れて幾分元気が出るぐらいの効果しかないという話は聞いたことあります。
そうですね……
マヤ様なら魔力量が多いですから、実験で私にフルリカバリーを掛けてみられますか?」
「マルセリナ様。
何が起きるかわかりませんから、それは私にやらせてください!」
心配してくれたのか、パティがマルセリナ様を牽制する。
「いいえ。立場的にも私自身が確かめたいことですから、私に掛けて下さい。
あなたの身体も大事でしょう?
年上の私がやらずに何としましょう」
「わかりました……」
マルセリナ様が、私に抱きついてきた。
手を繋ぐだけかと思ったのに、まさかのことで私はすごく緊張している。
パティは、はわわわわという表情をしてこちらを見ている。
私は彼女の腰を抱いて、ゆっくり魔力の出力を上げてフルリカバリーを掛けた。
「はうっ マヤ様の魔力が流れ込んで来るのがわかります……
ああっ 身体が熱い! あぁぁぁぁぁぁ!!」
耳元で色っぽい声を出すから、ぞわぞわっとしてくる。
「マルセリナ様!!」
パティが叫ぶ。
危険を感じ、すぐフルリカバリーを止めて椅子に座らせた。
「はぁ はぁ はぁ……
大丈夫です……
マヤ様の魔力はすごいですね……」
「マルセリナ様、何か身体の変化は感じられますか?」
「そうですね…… お待ちください。
少し落ち着いてからお話しします」
うーむ、やっぱり健康体にフルリカバリーを使うのは良くないのか。
マルセリナ様には悪いことしたな……
落ち着いてきた様子なので、マルセリナ様は口を開いた。
「それでは…… コホン。
体感的にはずいぶん活性化したと言いますか、力がみなぎっています。
まるで若返ったように……
あら、私ったらオバさんみたいですね。
身体は痛くないですよ」
あそこでフルリカバリーを止めたら身体に害は無いということか。
魔力量はどうかな。
「ではマルセリナ様。
エリカさんから借りてきたこの魔力量測定器の上に手を置いて頂けますか?」
「まあ、エリカ様はそんな物をお持ちでしたのね。それでは……」
「――20372。え?」
「それはどういう数字なのでしょう?」
「フルリカバリーの使用魔力量がおよそ1000なんです。
マルセリナ様はフルリカバリーを使うのが一回で精一杯と前に伺いましたから、二十倍くらい魔力容量が増えたことになります」
「え? そんなことって……??」
マルセリナ様は今何が起きているのが受け入れられないみたいだ。
パティが私に話しかける。
「マヤ様! 私にもう一度フルリカバリーを掛けてもらえますか?」
「危険かも知れないから、気が進まないよ」
「それでも!
マヤ様が大怪我をされたら、誰がフルリカバリーを掛けるんですか!
私はマヤ様を信じています。だから……」
「うーん…… わかった。気をつけてやってみる」
パティにはもう一度魔力量測定器で計ってもらった。
3352と出た。
ムーダーエイプと戦った後に私からの光を浴びて魔力量が増えた彼女。
それから計った数値が3345だから、微増している。
通常の成長だとこんなものなのか。
「じゃあ、パティ。フルリカバリーを掛けるよ」
「お願いします」
私はパティを抱き寄せ、マルセリナ様の時より慎重にゆっくり魔力の出力を上げた。
「あっ くぅ…… 大丈夫です。
もう少し続けて下さい」
「わかった」
「だんだん熱くなっていってます……」
「もう止めた方がいいかい?」
「まだです。
――あぁ! 熱い!熱い!」
私はフルリカバリーの出力を急停止した。
やはり健康体にはリスクがあるから、むやみにすることではないようだ。
「パティ、痛みは無いか!!?」
「はぁ はぁ 大丈夫です。痛みはありません……」
パティが落ち着いた後、再び魔力量測定器で計ってみた。
「10091だね。すごいよ! 三倍くらい増えた!」
「マヤ様! ありがとうございます!
これでマヤ様の足手まといにならず、たくさんお助け出来ます!」
「パティは元から足手まといじゃないよ」
「うふふ。」
パティは満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
「あの…… マヤ様。
あなたの魔力が注ぎ込まれて、体内の魔力から綺麗な女性が話しかけてくるんです。
『マヤさんを助けなさい』と……」
「え? それはどんな姿でしたか?」
「白いワンピースを着ていて、黒毛に赤紫の色が付いた髪の若い女性です」
「サリ様だ!」
「「え? えぇぇぇぇ!?」」
マルセリナ様とパティが同時に叫んだ。
こうなった以上、マルセリナ様にも私の素性を話さなければいけないか。
パティやエリカさんたちには前に話したが、私は思い切って、別の世界で死んで女神サリ様と出会い、この世界に降りてきたことを話した。
「マヤ様は、女神サリ様の使いでいらっしゃいますか?」
「そう大層な者ではありませんが、女神サリ様に魔物の討伐と魔物が発生する原因を見つけてそれを正して欲しいとお願いされました」
「私にもう一度、マジックエクスプロレーションを掛けさせてもらえますか?
前に感じたことがもっとはっきりすれば、確信できるかも知れません」
「わかりました」
私は両手を差し出した。
マルセリナ様は白磁のような手で私の手を握る。
「――とても広大な、魔力の海を感じます。
以前エクスプロレーションをした時と比べものにならないくらい大きくなっています。
あれは…… マヤ様の後ろに見える女性は…… サリ様!!」
マルセリナ様はびっくりして手を離し、バランスを崩し尻餅をついてしまった。
残念。司祭服ではぱんつが見えそうにない。
待てよ……
もしかして私はサリ様にずっと監視されていたのか?
一人悶々したり、エッチなことをいっぱいしたぞ。
「あ…… あ…… まさしくマヤ様は女神サリ様の……」
マルセリナ様は両膝をついて手を組んで神様を拝む体勢になった。
「あぁ、マヤ様は女神サリ様の使いです。
私は一生、この身をあなたに捧げます。
どうかマヤ様にお仕えさせて下さい」
「あああの…… どうか頭を上げて下さい。
私は神の使いみたいなそういう偉そうな者ではないです。
以前は宿屋の雇われ店主でしたから、どうか今までのように接して頂けますか?」
「いえ、そういう訳には参りません。
今まで大変なご無礼だった上に、女神様の使徒である方に対してどうして対等以上になれましょうか」
あー マルセリナ様は案外頑固だな。
そうだ。この逆転の発想でいこうか。
「マルセリナ。私はこの世界で動きやすくするために身分を隠している。
だからあなたにも協力して欲しい。これは命令です」
「はい! はいぃぃぃぃっ! 仰せに従います! マヤ様!」
「マヤ様。やり過ぎじゃないですか?」
「あぁ…… 今そんな気がしたよ。ははは……」
「あの、マルセリナ様。
私が女神サリ様によって転生してきたことは、ガルシア家の若い人たち五人しか知らせていません。
そういうことで、神父さんや信徒さんの他、誰にも私の立場は一切隠して下さい。
それから、パティも魔力量が大幅に増えています。
パティは間もなく卒業しますから、その後でフルリカバリーを教えてあげてくれませんか?」
「はい。はいっ! 承知いたしました!
お昼休みでしたら何時でもお越し下さい!」
「パティ、それでいいよね?」
「はい、マヤ様! うふふ」
何だかマルセリナ様の印象がずいぶん変わってしまった。
時間が経てば慣れてくれるかな。そうであってほしい。
残念ながらマルセリナ様の休憩時間が終わってしまうので、次回はジュリアさんをマジックエクスプロレーションに掛けて欲しいとお願いをして、お暇させてもらった。
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午後はお忍びでショッピングと、オープンカフェでお茶を楽しんだ。
近頃はエリカさんと一緒が多かったから、私自身も久しぶりに気分転換になった。
パティはそれを感じてくれたのか、身体の密着度が高かった。
思春期の成長は著しいので、一年前と比べたら身体がますます大人びてきたなあ。