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第四十八話 ジュリアさんの旅立ち

 2025.12.2 全体的に文章を見直しました。

 グラドナの村長宅へ戻ったら、村の本通りがお祭りになっている。

 なんだこれ?

 家の外に村長がいたので、デモンズゲートを(ふさ)いだことを報告する。


「おお、マヤ様。おかえりなさい」

「村長、お祭りを始めたんですか?」

「大猪の肉を村の皆に振る舞っているのと、ジュリアの門出を祝うことになったんでスよ」


 門出って…… は!?

 もう結婚する方向へ持って行かれているのか?

 まず村長にデモンズゲートを塞いだことと、魔物は見つからなかったということを報告した。


「ありがとうございまス。マヤ様にはお世話になりまスた。暗くなったら(うたげ)が始まるので、どうぞそれまで休んでいて下さい」

「はい。その前にジュリアさんのお宅へ行ってきます」


 これはジュリアさんと話をする必要があるな。

 身体の変調についても少し気になる。

 私はジュリアさんの家まで向かった。


---


「おかえりなさい、マヤ様! 今美味しい料理を作っているんですよ」

「あの、ジュリアさん。ご家族も交えて大事なお話をさせて下さい。少しの時間でよろしいですから」


 食卓にて、ジュリアさんと、ご両親が集まってくれた。

 お兄さんは外で宴の準備をしているらしい。

 私は、ガルシア家の現状と、私が今は平民だけれど間もなく男爵へ叙爵する予定はあるが確定ではないこと、婚約確定が一人、他に恋人が三人いることも話した。

 当然ジュリアさんはびっくりした後、不安げな表情になる。

 ご両親も戸惑っている様子だ。


「そ、そういうことだったんでスね…… 貴族様かと思っていまスた。もし結婚できなくても、お(めかけ)でもいいのでマヤ様の(そば)に置いて下さい! (わたス)、この村にいたらいつ結婚できるかわかりません。このチャンスを逃したくないんでス。マヤさんは私の命の恩人で、とても好きになりまスた。愛していまス!」


 私の言葉を聞いても、ジュリアさんは強く推してくる。

 (めかけ)でも良いって、どんだけ結婚願望が強いんだ。

 後継ぎはお兄さんがいるし、どうにか自分の子供が欲しくて親を安心させたいんだろうなあ。

 そういう古風な考え方なのか。


 サリ様の力も間違いなく働いている。

 ジュリアさんの求婚はあまりに突拍子もないが、最初にサリ様が仲間を集めなさいと言っていたように、彼女がキーとなる人物になるというのか。

 仲間がみんな女の子で、みんな嫁になるってそれどうなのよ。

 サリ様の神力設定とはとんでもないな。


「ジュリアさんの気持ちはわかりました。命をかけてお母様を(かば)った優しい女性なんですね。ですが少し時間を下さい。気持ちがいろいろ整理できなくて、即答できません……」

「ジュリア…… 父ちゃんもあまり無理言っちゃいけないと思う」

「マヤ様…… ジュリアは小さい頃から本当に優しい子で、いつも私たちに気を遣って助けてくれるんでスよ」


 お父さんは消極的に抑えている。

 可愛い娘のことだから、ジュリアさんの気持ちを尊重したいことはわかる。

 だが押しつけがましく感じてならない。


「お父ちゃん、お母ちゃんったら…… マヤさん、(わたス)不躾(ぶしつけ)で我が儘なことを申しているのは承知していまス。でもマヤ様は明日お帰りになるんでしょう? 今度いつお会いできるか……」


 ジュリアさんの目は、ジワッと潤んでいた。

 純粋な子だろうけれど、純粋故について行けないこともある。

 この場を収めるには私も腹を括らなければいけないが、ちょっと強引な理由だけれどこれしか思いつかない。


「そこで、もう一つお話があります。私がフルリカバリーを掛けた後に元気になったと言われましたが、その他に身体の変調はありませんか?」

(わたス)、お料理で水属性の魔法を使ったんでスが、魔力が全く減った感じがしないんでス。あと魔法のコントロールがしにくくなって……」

「そうだ。ジュリアさんはどの属性の魔法が使えるんですか?」

「土、水、風が使えます。あと魔素探査は勿論でスが、眠り、テレスコープとかいろいろつかえまスよ」

「それだけ使えればすごいじゃないですか」

「これでも村一番の魔法使いなんでス。えへへ」


 村の討伐隊として雇われているならば、村一番の人を使うのは当然だ。

 あと、ジュリアさんがいなくなったらどうするつもりか疑問が残る。

 お父さんに聞いてみよう。


「村の討伐隊からジュリアさんが抜けたらどうするんですか? デモンズゲートは塞ぎましたから当分大丈夫だと思いますが……」

「なに。今までもジュリアが四六時中出払っていたわけじゃないし、家や畑仕事のほうがずっと多いんじゃないかな。これでも(わたス)たツは頑張ってきたから、なーんも心配要らないよ」

「――そうですか…… わかりました」


 不安が残るが、村のことは村の人たちに任せよう。

 もう一つ問題はジュリアさんの魔力について。

 やはり魔力量が増えていそうだし、魔法のコントロールがしにくくなったというのがわからない。

 これは魔力量測定器で測ってみて、エリカさんか誰かにマジックエクスプロレーションを掛けて見てもらうしかないだろう。

 魔法もそれなりに使えそうだし、私と同じ侯爵家の直属兵として雇ってもらえるか侯爵閣下に聞いてみようか。


一先(ひとま)ず考えはまとまりました。結婚の話はおいおいすることにして―― ジュリアさんをマカレーナへ連れて帰りたいと思います。身体の変調が気になりますから向こうで診てもらって経過観察することと、私と同じ侯爵家の直属兵として雇ってもらえるか、ガルシア侯爵に頼んでみます」

「え!? ホントでスか?」

「良かったなぁぁっ ジュリア!」

「母ちゃんも安心スたよ。頑張っておいで!」


 ジュリアさんとご両親は、張り切って(うたげ)の準備を再開した。

 マカレーナへ連れて帰るだなんて私も安易に事を進めてしまったけれど、なるようになれだな。

 私も適当な人間だ。


 ――村祭りには大猪の肉が振る舞われた。

 参加しているのはほとんどおっさんおばさんで、十五歳未満の子供を除き、若い人は私とジュリアさん兄妹(きょうだい)だけだった。

 お兄さんは二十二歳らしい。彼もお嫁さんを探すのは大変だろう。

 おばさんたちはジュリアさんの門出を「ジュリアちゃんあっちでも頑張んなよ、元気でね」と、おっさんたちは「勇者と仲良くやれよ、子供は何人になるかね」とからかっていた。

 実に昔の田舎らしい近所づきあいだ。


 みんな大猪の肉をガツガツ食べちゃっている……

 夜遅くか明朝になって元気になりすぎるんだよなあ。

 高齢出産なのに、十ヶ月後は村の人口が増えるかも知れない。


 私も調子に乗っていろいろ食べてお腹いっぱいになり、お酒も飲まされ、どのみち疲れ気味だったので村長さん宅で早めに休ませてもらった。


---


 朝になった。

 大猪の肉は控えめに食べたけれど、分身君が元気良すぎて暴発しそうになっていた。

 トイレに行けばたぶん治まるが、あの状態でおしっこをするには大変なのである。


 朝食も村長さん宅で頂いた。

 もはやこの国定番の生ハムサンドだが、それぞれ違いがあって美味しい。

 村長夫婦は終始ニコニコしており、仲よさそうだ。

 え? もしかしてそうなの?

 五十代半ばの夫婦でも普通に現役だという話は聞いたことがあるからなあ。


---


 村長夫婦にお礼を言い、お(いとま)した。

 ジュリアさん宅へ向かう。


「あ、おはようございます!」


 迎えてくれたのはジュリアさんだった。

 肉を食べたはずなのに意外に普通で、ちゃんと言うこと聞いて控えめに食べたそうだ。

 ご両親は…… 二人でくっついてニコニコ仲良くしている。あんたらもかいっ。

 お兄さんは早朝から畑仕事に行ってしまったそうだ。

 発散するためか? 野菜で遊んでいたらイヤだな。


「ジュリア、今度帰ってきた時は弟か妹がいるかもね。うふふ」

「お母ちゃん、マヤ様の前で恥ズかスいこと言わないでよ!」


 うーむ…… (うたげ)の時に思った通り、十ヶ月後には村のベビーブームが本当に来るかも知れない。

 さて、出発のためにジュリアさんには身支度をしてもらう。

 と言っても、飛んで行くにはあまり荷物を持っていけないので、ほぼ身一つ状態で行くことになった。

 服を買うお金ぐらいは出して上げないと。


 飛んでいくにしても、ジュリアさんは闇属性魔法のグラヴィティが使えない。

 畑へ飛んで向かった時のように、私がジュリアさんにグラヴィティを掛けて飛ぶしかないが、本当は本人が掛けないと安定性が悪くなる。

 私の荷物は八重桜しかないので、八重桜をジュリアさんに背負ってもらい、私がジュリアさんを背負って飛ぶことにした。


 朝の十時になり、そろそろ出発しようと思う。

 お昼には間に合わないかも知れないが、ジュリアさんが乗り物酔いするかも知れない。

 遅くなってしまうが、マカレーナへ着いてから食べてもらうことにした。


「ジュリア、元気でな。たまには手紙を書くんだぞ」

「病気しないで、街は怖い人がたくさんだから気をつけるんだよ」

「お父ちゃんお母ちゃんこそ、病気にならないで元気でね」

「マヤ様、どうか娘のことをよろしくお願いします」

「任せて下さい! 娘さんは命に代えてもお守りします」


 ジュリアさんがご両親と抱き合っている。

 そして私はジュリアさんを背負い、出発した。

 ゆっくり浮かび、加速も緩やかにして進む。


「お父ちゃあん! お母ちゃあん! 行ってきまあす!!」


 ジュリアさんはご両親が見えなくなるまで手を振っていた。

 泣けるなあ…。目がうるうるしてきた。

 畑の家を飛んでいると、お兄さんが見えた。


「お兄ちゃぁぁん!! 行ってくるねぇ!!」


 お兄さんはジュリアさんの声に気づき、手を振り返している。

 荒野の上空二十メートルぐらいのところを、いつもよりスピードを落として時速三十から四十キロぐらいで飛ぶ。

 時々休みながらジュリアさんに負担をかけないようにしている。

 彼女のゴーグルも用意が無いので、どのみちスピードは出せない。


 いつもエリカさんを背負っているから気にしていなかったが――

 私が当たり前のようにジュリアさんを背負ってしまったので、後になって今更恥ずかしいのかスカートの裾を掴んで抱きついている。

 ロングスカートだし人目がつかないところを飛んでいるので、下からぱんつが見えることはないだろう。

 行きは一時間半かけたのを、帰りは四時間かけてマカレーナにたどり着いた。


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