第五話 マカレーナの街に着く
2023.4.3 大幅な加筆修正をしました。
夕方になって、ゼビリャ区の中心都市マカレーナに着いた。
はて、この国の名は何というのだろう。
いくら外国人のフリをしていても国の名前まで聞くと怪しまれるので、何かいい質問の仕方は無いだろうか……
おお、そうだ。
「パティ、この国の正式名称はなんと言うんでしょう?」
「イスパル王国ですわ。他の国と比べたら簡単ですよね。うふふ」
なるほど…… ますますスペインっぽい国名だ。
別の世界でどうしてこんな似た名がつくのか、パラレルワールドそのものだ。
市外の一般人が街へ入るには、関所ような受付で名前を書いて、旅客税として銅貨一枚を払う必要があるらしい。
パトリシア嬢とフェルナンドさん他護衛の騎士は、ガルシア侯爵の家族と関係者なので、関所を顔パスする。
私に掛かる旅客税はフェルナンドさんが払ってくれたので、名前だけ書いてマカレーナの市内へ入ることが出来た。
無一文だからこれでは野垂れ死ぬところだったので、感謝しか無い。
銅貨一枚が高いのか安いのかわからないから、この国の相場を知る必要がありそうだ。
私たちが乗っている馬車は街のメインストリートのような道を走り、あまり凹凸がない石畳で綺麗に舗装が行き届いている。
まるでヨーロッパを観光旅行をしているような景観だ。
街を歩いている人たちを見ると、みんな普通の人間の姿をしている。
服装は意外に近代的で、二十世紀前半の欧米風か。
貴族の男性はそれっぽいジャケットやスーツとズボン、女性は長いスカートのドレスなので見た目ですぐわかる。
若い女の子はパティのような短いスカートを履いている人をよく見かける。
平民の男性は簡素なシャツとズボンが多く、女性もシャツやブラウスとスカート、ミニスカやショートパンツの女の子もいた。
異世界のアニメでよく見る、あまり仰々しい服装の人はいないが……
おっ あのとんがり帽子を被ってる女性は魔法使いかな?
この世界には魔族がいると聞いたが、他の種族もいるのだろうか?
またパティに聞いてみると、この王国では人間族が九割以上で、残りは耳族といって猫耳のような耳で他の動物の耳はなく、猫だけらしい。
特に差別は無いらしく貴族に耳族はいないが、一般市民として平和に暮らしているそう。
それは早く見てみたい。
外国へ行くと稀少ながらエルフ族がいるそうだ。
本当にファンタジーの世界に来たんだな。
---
広い街なので、関所から馬車で自転車並の速さで進んでも三十分近くかけ、パティの父親であるガルシア侯爵の屋敷の前に着いた。
門番が立派な門を開き、さらに奥へ進む。
広い敷地を二、三分かけて大きな洋館の前に着いた。
護衛の騎士たちは別の場所にある詰め所に向かったようで、馬車を降りたら馬車と一緒に御者もいなくなり、扉の前はパティとフェルナンドさん、私の三人だけになった。
すると内側からドアが開かれ、若いメイドさんが二人出迎えてくれた。
……って、メイドさんまでちゃんといるんだねえ。
決してアニメに出てくるミニスカメイドさんではなく、ヴィクトリアンメイドというものかどうかよく知らないが、ちゃんとスカート丈が長い給仕をするための服のようだ。
「スサナ。マヤ・モーリ殿を応接室までご案内なさい。
私たちの命の恩人で大切なお客様です。丁重に」
「はい、フェルナンド様!」
「というわけで、お嬢様と私は旦那様と奥様に挨拶と、この度のことについてお話しして参ります。
応接室にてしばらくお待ちください。このスサナがご案内します」
「スサナと申します。マヤ様、こちらへ」
私はスサナさんに着いていった。
スサナさんは二十歳前ぐらいで日本人の肌の色に近く、体型は小柄で童顔だが雰囲気は体育系。
元気そうな可愛らしい女の子だ。
応接室に入って椅子にかけて待っていると、スサナさんがハーブティーを入れてくれた。
これはカモミールかな。甘い良い香りだ。
スペインでは蜂蜜入りのカモミールティーが人気のようだが、これはそういうわけではなさそうだ。
美味しいのでおかわりをもらった。
約二十分後。
パティ、フェルナンドさん、そして侯爵と奥様だろうか、応接室に入って来られたので私は立ち上がった。
そしてフェルナンドさんから夫妻の紹介があった。
「こちらがレイナルド・ガルシア侯爵、そして奥様のアマリア様でございます」
「私がレイナルドだ。娘とフェルナンドから聞いたよ。本当にありがとう」
侯爵は三十代半ばぐらい。
髪の毛が濃いブラウンで顎髭面、ヘイゼルの瞳、それほど派手では無い貴族の服。
体格は良いが圧力感は無く、温厚そうな雰囲気だ。
「パトリシアの母アマリアです。
娘を助けて頂きありがとうございました。
なんとお礼を申してよいのやら」
アマリア様は三十歳くらい。
髪の毛の色はパティと同じブラウンで、シュシュで後にお団子にして留めてある。
私はお団子ヘアスタイルが大好きなのだ。
翠眼で白い肌、中世フランス風なのかバロック様式のドレスで胸元が大きくカットされている。
そこからまるで美尻であるかのような、素晴らしい胸の谷間が覗いていた。うほっ
ふむ、Gカップくらいか……
私はこんな豊乳を今まで直に見たことがない! 侯爵、羨ましいぞ!
おっと。すぐ胸から視線をそらしたが、アマリアさんはニヤッとした。
いかん、バレているぞ。
女性から見る、男の視線を感じる鋭さは恐ろしい。
「いやー、護衛とパティの魔法で大丈夫と思って旅に出したのだが、魔物の力が思いのほか強かったようだ。
その魔物たちをマヤ殿は一瞬にして倒したと聞いたが、君はすごく強いんだねえ。
ハッハッハ!」
侯爵は気さくで話しやすいかも知れない。
正体がよくわからない私相手なのに、貴族は選民意識の塊みたいな先入観もあったのでホッとした。
もっともいろんな人がいるだろうから、ガルシア侯爵がたまたまそうなのかも知れないが。
「護衛の依頼をしたようなので、礼をしなければいけない。フェルナンド!」
「はい、旦那様」
フェルナンドさんが小さな袋と箱を持ってきた。
「マヤ殿、これを。
金貨三枚と、ガルシア家の紋章が掘ってある徽章だ。
この徽章を身につけているとガルシア家の家臣または縁がある者として証明される。
受け取って欲しい」
この国の金貨ってどのくらいの価値なんだろう。
馬車の中でパティに話を聞いたが、この国は聖貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨、賤貨がある。
聖貨は滅多に出回らなく、一般市民に出回っている貨幣の多くが銀貨以下だそうだ。
白金貨と金貨は貴族や大商人が使っているそう。
察するに、金貨一枚が十万円相当。
思っていたより魔物を退治するのが簡単な身体になってしまったけれど、あれだけでひと月は暮らせそうな金額を貰ってしまったのか。
十万円玉じゃ使いにくそうなので、後で両替してもらおう。
証明になる徽章も助かる。
平たく言えばバッジのことだ。
侯爵家の後ろ楯があるのだから、領地内であればかなり動きやすくなると思う。
それにしても、簡単に街へ入れたり、こんな大金が手に入ったり、とんとん拍子で良い方向へ進む。
これも女神サリ様のご加護だろうか。
何はともあれ有り難いことだ。。
「間もなく夕食なので一緒にどうかね?
今晩は是非泊まっていきなさい。
何だったら何日も滞在していいんだよ」
「ありがとうございます。
少々困っていたところなので、お言葉に甘えてそうさせて頂きます。
今後のことははっきり考えておりませんので、また改めてお話しします」
「そうかそうか、ゆっくりしていきたまえ。ハッハッハ!」
「あの、お母様!」
「そうね。娘から聞きました。
マヤ様が魔法は使えないけれど奥底から神秘的なものを感じるので、私に見て欲しいということですから」
そうか、パティのお母さんも魔法使いだったんだ。
師匠というからには魔力が強いのだろうか。
「さあマヤ様、私の前に来て両手を出してもらえますか?」
近くで見ると、アマリアさんは私とほぼ同じ身長だ。
こんな綺麗な外国人女性を目の前にするのは初めてで、とても緊張する。
私は両手を差し出し、アマリアさんは私の手を彼女の美しい手で柔らかく握った。
そして目を閉じて念じている。
で、チラッと視線を下に向けると、目の前に胸の深い谷間がっ!
効果音があるなら『ドォオォオォオォン』と鳴っていそうだ。
はぁぁ! すごいもんだな。
谷間どころか、このドレスだと胸が半分溢れてしまっている。
香水の香りはややキツいが、パティとは違った大人の香りがしてクラッとしそうだ。
おっと、ガン見しているとまたバレそうだから自重しよう。
私も目を瞑ることにした。
「ふぅ、終わりました……」
始めてから二、三分くらいだったろうか、両手を放した。
アマリアさんは何故か顔が赤くなっている。
「マヤ様は確かに今のところは魔法が使えそうにないです。
ですが奥底に大きなものがあって、蓋がされているような感覚でした。
何かきっかけがあれば蓋が開くのかも知れませんが、そのきっかけが何になるのかわかりません。
この先大変かもしれませんが、いつかきっとその大きな力が役に立つ時が来るでしょう。
マヤ様はとても純粋な方ですよ」
うはは。エッチなこと考えていたのに純粋な方だって。
待てよ。それがわかったってことは、心の中を読まれてしまったということなのか?
あのとき豊乳を見てエッチなことを考えていたことも読まれてしまったのかも知れない。
顔を赤くしていたことも、そうと考えられる。
――後日、私はアマリアさんに呼ばれることになる。
「お父様! お母様!
さすがマヤ様ですわ。私が思ったとおりの方でしたわ!」
「ウワッハッハッハ! マヤ殿、これから楽しみだな!」
私はこの先、一体どうなるのだろう……
侯爵夫妻やフェルナンドさんたちは退室していったが、パティは残って夕食の時間まで私の話し相手になってくれた。
おっさんが十二歳の女の子と二人っきりになるのは緊張したが、よく喋る子で頭の回転が良く、人懐っこいから私も気楽に話せてすっかり打ち解けていった。