第四十七話 地味子の魔法使いジュリア
少し長めです。
久しぶりの、レギュラー新キャラの登場です。
村人の言葉の訛りは、東北日本海側の方言をイメージして下さい。
2025.12.2 全体的に文章を見直しました。内容は変わりません。
今朝は早起きして、厨房へ行って昨日ビビアナに予め頼んでおいた生ハムサンドを朝食用と昼食用の二つをもらった。
「そんなので足りるかニャ? 帰ってきたらまた遊んで欲しいニャ」
「そうだね―― なかなか付き合ってあげられなくて、忙しくてごめんな」
「仕方ないニャ。その代わり……」
物陰でビビアナは、私の唇をペロペロして見送ってくれた。
ビビアナなりのキスだけれど、猫と同じだな。
舌が人間と同じ作りなので、にゅるっとして気持ち良い。
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ビビアナにペロペロされて、いい気分でマカレーナを発った。
今回は刀『八重桜』を持って行く。
ふよふよとゆっくり飛びながらお弁当の生ハムサンドを食べる。
一人だけなので、少しスピードを上げて西方面へ飛ぶ。
途中はあまり街らしいところが無く、畑や荒野が延々と続いていて、約百キロを一時間半かけて、グラドナの村に着いた。
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人口数百人規模の小さな村で、周回したら魔物に襲われているようにも見えなかったので、降りずににそのまま通過した。
村から数キロ進んだら幅二百メートルほどの川が見えてそれが国境であり、川の向こうはポトルガという外国である。
川沿いは何も無く荒野ばかりだが、森になっている部分がある。あれか?
魔素探査の魔法を掛けると、確かに濃い場所があったので向かってみる。
森に入り、もう一度魔素探査をかけて探りながら進むと、デモンズゲートがあった!
穴が小さい。
虫の魔物か小さいゴブリンが出てくるのがやっとのサイズだ。
私みたいに飛べるわけでもないのに、このデモンズゲートを見つけた魔法使いはすごいと思うよ。
早速クローデポルタムをかけようとしたら、私に反応するようにして穴の中から弾丸のような勢いで何かが出てくる。まずい!
あれは! 黒い球体!
大きさはやはりバスケットボールくらいのサイズで、二十…… 三十と増えていく。
すぐ八重桜を抜いて魔力を込めた。
すると、八重桜がふぉっと淡く光った。
レーザーにやられる前にやる。これしかない。
ローサさんに教わったように連続斬撃を黒い球体に食らわせる。
刀で直接切らなくとも、手刀で攻撃するよりずっと遠くへ届いて球体をバラバラに砕いていけてる。
それでも残った複数の球体がレーザー攻撃を仕掛けてきた。
エリカさんと出会った時に私が無意識に発した魅了魔法があったが、それを跳ね返した上級魔法【魔法障壁】が私も使えるようになっている。
ある程度はレーザーの威力を吸収することが出来たが、それでも右太股が撃ち抜かれた…… と思ったらすごく痛いだけで傷が無い。
女神装備のカーゴパンツがなかなかの防御力だった。
でも痛いのは痛いので、続けて猛反撃し殲滅することが出来た。
もう出てこないよう、すぐにクローデポルタムをかける。
デモンズゲートは瞬時に塞がった。
レーザーが当たった右の太股がすごく痛い。
木の根元に腰を下ろしてズボンを脱いだら、真っ赤にうっ血していた。
はぁ…… エリカさんを連れてこなくて良かったよ。
私はミディアムリカバリーを使って、太股を完治させることが出来た。
能力が低い状態で数ヶ月前にここへ来ていたら、私は死んでいたかも知れないな。
ここで死んだら私はどうなるのだろうか。
女神サリ様のところへ戻り、おお勇者よ死んでしまうとは何事だと言われるのか?
何故黒い球体が突然発生したのだろうか。
このデモンズゲートを発見した魔法使いがいた時は無事に帰って報告が出来ているから何も起こらなかったように思うが、魔法使いの魔力には反応しなかったということか。
ラガの古城に黒い球体が現れたのも急だったし、まさか私の強い魔力に反応して飛び出してきたということなのか?
そうだとしたら、魔力を抑えながら近づくことを考えないといけない。
女神革ジャンの内ポケットに入れていたビビアナ特製生ハムパンは無事で良かった。
食べ物が粗末なことになるのは、私はとても嫌いなのだ。
女神カーゴパンツを履き直して、お昼にはまだ早いけれどお腹が空いてしまったので生ハムパンを食べた。ああ美味しい。
この国に来てから、お米はパエリアぐらいでしか食べていない。
海苔巻きのおにぎりが恋しいなあ。
ローサさんから聞いて、東の国ヒノモトではおにぎりがあるそうだ。
早く行ってみたい。
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一応、グラドナの村へ寄ってデモンズゲートを塞いだという報告だけはしておこう。
二、三分ほど飛んでグラドナの入り口にある詰め所の近く、見られないようにそっと降りた。
「ごめんください」
「あー、旅人かね? こんなところまで珍スいね」
おお、国境の村だけあって言葉が訛ってる。だが十分聞き取れるぞ。
「いえ、ガルシア侯爵の使いの者です」
「え? あっ 確かにバッジは侯爵家の! これは失礼スました。グラドナへようこそお越ス下さいまスた。今日はどのようなご用件で?」
「デモンズゲートを塞いだので、村長にそのご報告を」
「それではあなたが噂のマヤ様! それはそれは。村長の家は、この通りを二百メートルほど行った先にある少ス大きめの建物なので、すぐわかると思いまス」
「わかりました。ありがとうございます」
詰め所の職員は四十歳くらいのおじさんだったんだが、こんなところでも私の名前が広まっているのか。
ネットもテレビも無いのに有名人だなんて、こそばゆい。
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少し歩き、詰め所の人が言っていたのはあの家かな?
頑丈なドアなので強めにドアノブをノックする。――ドンドン
「ごめんください。ガルシア侯爵家の者です」
しばらくすると、五十過ぎの女性がドアを開けてくれた。
「はい。どツら様で?」
「ガルシア侯爵の使いの者です。村長にご報告することがありまして」
「あら、それは大変。少スお待ちになって下さい―― あなた! 領主様のお使いの方がいらっサったわよ!」
この適当さが田舎の村っぽくて、なんかいいぞ。
奥から村長さんっぽい人がドヤドヤとやってきた。
「初めまして。ガルシア侯爵の使いの者で、マヤ・モーリと申します」
「おお…… よぉこそおいでなさいまスた。わたスがグラドナの村長の、マリオ・アギラルです。確かにガルシア家のバッジをお着けになってまスね。どンぞこツらへ」
『そンでス、私が◯なオジサンでス』みたいなノリだなと、余計なことを考える。
私は応接室へ案内された。
さっきの女性は村長の奥さんで、コーヒーを入れて持って来て下さった。
紅茶かハーブティーばかりだったから、コーヒーなんて久しぶりだ。
「マヤ様の噂は存ズております。マカレーナへ襲ってきた大きな魔物たちを全て倒されたとか。それで、今日はデモンズゲートについてのことでスかね?」
「お話が早くて良いですね。この村の近くにあったデモンズゲートを先ほど塞いできたので、そのご報告に参りました」
「なんとそれでは! もう魔物が出てこないのでスね。ありがとうごザいまス」
「私が最初にデモンズゲートの周りを見たときに魔物の気配は無かったのですが、やはり過去には出てきていたのですか?」
「数は少なくて、大きな魔物ではなくて虫みたいな物ばかりでスたから、我が村の討伐隊でもなんとかなっていまスた」
「デモンズゲートは塞ぎましたが、ラガのほうで突然また発生するのを目の前で見ましたので、油断はしないでください」
「わかりまスた。安心スて暮らせる日はいつになるんでソうねえ……」
やっぱりグラドナに魔物が出てきていたのか。
こんな小さな村にもしっかりと討伐隊はあったんだね。
派遣された討伐隊があるのかと思っていたよ。
「あのデモンズゲートを発見したのは、その討伐隊の魔法使いなんですか?」
「はい、そうでス」
「その魔法使いを紹介して頂けますか? 発見した時の様子を聞きたいんです」
「わかりまスた。今は魔物が出ていないので、家で手伝いをしていると思いまス。今、簡単な地図を書きまスので」
村長から地図を頂いた。百メートルくらい離れているらしい。
この規模の村だと、どこの誰が何をしているというのが誰も知ってそうだ。
「コーヒーごちそうさまでした。あ、一つ大事なことを忘れていました。万一黒い球体の魔物を見つけたら、絶対に手を出さないように皆さんに伝えて下さい。大変危険な魔物で、先ほど私もやられてしまいましたから。こちらから攻撃しなければ、撃ってこないみたいです」
「え? お怪我は…… ああ、そうでスた。回復魔法がありまスたね」
「そういうことです」
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一通り伝えるべき事は話したので、村長宅をお暇してその魔法使いの家へ向かった。
村の通りは人通りが少なく、たまに見かける村人はお年寄りばかりだ。
日本の田舎と変わらない。
お、ここか。石造りだがお世辞にも綺麗な家とは言えない。
「ごめんくださぁい」
「はーい」
トタトタと小走りで玄関先に現れたのは、二十歳ぐらいの若い女性だった。
こんなことを思っては失礼だが、化粧っ気なくて芋っぽい。
「え? あのあのあの…… どどどどツら様でスか?」
「ガルシア侯爵家から使いで参りました、マヤ・モーリと申します。村長さんからのご紹介で、こちらに魔法使いの方がいらっしゃると伺いまして」
この女性、私の姿を見るなり変な人と出遭ったような反応をする。
仕方ない…… サリ様がくれたこの上下真っ黒の衣服では。
気にしないで自己紹介したら、安堵してくれたようだ。
「領主様のところから!? 魔法使いは私でス…… あああ失礼しまスた。何だか真っ黒でわたスはジュリア・カルネイロと言いまス」
聞き取れるけれど、かなり訛ってる感じだ。
田舎の女の子は何だか安心する。
「こちらこそ突然済みませんでした。近くのデモンズゲートをあなたが見つけられたということで、少しお話を伺いたくて」
「お父ちゃんとお母ちゃ…… いえ父と母、あと兄が畑仕事に出ているので、何もありませんがどンぞ上がって下さい」
私はお邪魔して、食卓へ案内された。
彼女は黒髪で後ろを三つ編みでまとめてあり、白いブラウスに薄い茶色のロングスカートを履いている。
言ってしまえば地味子オブ地味子である。だが私は好きだぞ。
「コーヒーをどうぞ。このチュロスは私が作ったのでお口に合うかどうか……」
「いただきます」
どれ…… おお、程良く甘く、素朴で食べやすい。これは美味しいぞ。
「とても美味しいですよ。私の口に合います。侯爵家のチュロスにも負けてません」
「えっ? ありがとうございまス。私、若い男性に何かを食べてもらったのは初めてなんでス」
ジュリアさんは私の言葉を聞いて喜んでくれた。
笑うととても可愛らしい。
よく見ると基本的な顔の作りは良いんだな。
「それで本題なのですが、川沿いの森にあった黒い穴、デモンズゲートを見つけた時の様子はどうでしたか?」
「はい。見つけた時は魔物も何もいなくて、ただ穴があるだけでスた」
「なるほど、やっぱりそうか…… 一番最近、この村の周りに魔物が現れたのはいつですか?」
「一ヶ月半前だったかな。虫の魔物がその穴の方向から飛んできまスた」
「虫だけですか…… 黒い球体は見たこと無かったですか?」
「いいえ、見たことがありません」
私はジュリアさんにも黒い球体がとても危険なことを説明した。
彼女は不安げな表情になった。
「私たち討伐隊…… 討伐隊と言っても七人だけなんでスが、それだけでいつも倒せていまスた。母も魔法使いをやっていまス」
「襲ってくる頻度もそれほど高くなかったわけですか」
「はい。月に一度ぐらいでスね。村から少ないながらもお給料が出るのはいいんでスが、交替で連絡係も兼ねて強制的に村内で待機状態になっていて、今日私はこうして家のことをやっているんでス」
魔物を討伐するにもいろいろ事情があるんだねえ。
私などかなり自由にやらせてもらってるほうだ。
「お話を聞かせてもらってありがとうございました。私はこれで…… ん?」
外から男の叫び声が聞こえる。
「ジュリアちゃん! ジュリアちゃん大変だ! あんたんとこの畑に魔物が出た!!」
「え!? お父ちゃんたちがっっっ?? どうなったの???」
「わからん。ルシアさんが魔法で戦ってる!」
詰め所にいた男が慌てて魔物の襲来を知らせに来た。
ジュリアさんは顔が青ざめている。
「どんな魔物だったんですか!?」
「東の方から大猪と、一緒に黒いボールがいくつか飛んでいた!」
「まずい! ジュリアさん、急ぎましょう!! 案内して下さい!」
私はジュリアさんもグラヴィティで浮かせて、手を繋いで現場へ飛んでいった
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!! ナヌこれぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
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現場へは一分ほどで着いた。
ジュリアさんは目を回してるようだ。ごめんな。
大猪はラフエルでも見たものと同じだが、1体だけだ。
黒い球体が十個ぐらい、大猪の周りをふわふわ飛んでいる。
なんでまたあいつが!?
確か、詰め所のおっさんは西じゃなくて東から来たと言っていたな。
ん? あれはジュリアさんの母親か?
「いけない! 黒い球体に攻撃してはダメだ!!」
ジュリアさんの母親が、アイシクルアローを魔物に向かって発動してしまった。
そして反射的に、黒い球体がレーザーを発射した。
「お母ちゃあああああん!!!」
すでに母親の元へ向かっていたジュリアさんが、母親を庇って右胸と下腹部の二カ所を撃たれた。
「ジュリアあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
母親が泣き叫ぶ。
まただ。私はまた守れなかった。
だがそんなことを考えている暇は無い。
私は八重桜に魔力を込めて、大猪もろとも黒い球体を滅多斬りにした。
数秒で殲滅させることが出来た。
――ジュリアさんの母親が、彼女を抱いて号泣している。
すぐにフルリカバリーをかけなければ。
「お母さん! すぐにフルリカバリーをかけますから!」
「え!?」
私は患部に手をかざし、勢いで魔力をフル出力でフルリカバリーをかけた。
幸い心臓には擦っていないようである。
患部があっという間に完治してしまった。
ただ気を失っており、脈を診たら問題無さそうで良かった……
「あなたは……??」
「申し遅れました。ガルシア侯爵の使いで参りました、マヤ・モーリと申します」
「え? マカレーナを救った勇者の!」
勇者って呼ばれたのは初めてだよ。
だいたいこの世界では魔族も魔王も敵じゃないから、今のところはひたすら魔物を倒して穴を塞ぐのが目的で、終わりがわからない。
教会へ行っても生き返らないし、勇者の剣みたいな物ってあるのかね。
畑の向こうから男が二人駆けつけてきた。
ジュリアさんのお父さんとお兄さんらしい。
「おい! これはどうしたというんだ!?」
「魔物に襲われていたところを、マカレーナの勇者様に助けて頂いたの。ジュリアが大怪我をスていたのに、マヤ様の魔法で一瞬に治ってスまって……」
ジュリアさんの父親と兄は、服が血まみれのジュリアさんと、バラバラになっている大猪の残骸を見て呆然としていた。
ジュリアさんが気がついたようだ。
「あ…… お母ちゃん…… 無事だったんだねえ…… お父ちゃん、お兄ちゃんも……」
「あんたって、無茶スないでよ! うわぁぁぁぁぁん!」
お母さんはジュリアを抱いて泣いている。
ジュリアさんは何が起きているのか半分わからない様子で戸惑っている。
「あんた魔物にやられて死にそうだったんだよ! それをマヤ様のフルリカバリーで治スてくださったの」
「え? 大司祭様じゃないと使えない伝説のフルリカバリーを!?」
「あ…… 私がフルリカバリーを使ったことは、村の皆さんには秘密にしておいて下さい。大司祭様にもそう言われましたので…… お願いします」
「わかりまスた。家族だけの秘密にスます」
私がフルリカバリーを使える情報が拡散してしまったら、強制的に全国の重病患者を治しに出向かなくてはいけなくなって、それだけで一生を終えてしまいそうだからだ。
マルセリナ様も、お金をいくら積まれてもむやみに使わないようにしている。
マルセリナ様の魔力ではすぐに尽きて命を失う恐れもあるそう。
体感的にフルリカバリーの使用魔力は、軽く1000以上あると思う。
マルセリナ様も一般の魔法使いより遙かに魔力量が多いのだろう。
「私、魔物に撃たれる前より身体がスごく調子いいの。元気スぎるくらいよ」
「たぶん、私のフルリカバリーの影響だと思います……」
焦って、魔力を込めすぎたなあ。
パティやエリカさんの魔力容量が増えたように、ジュリアさんにも何らかの身体の変化があるかも知れない。
ジュリアさんが立ち上がって、身体をフンフンと動かしている。
ああ…… 撃たれて服が破れた部分から胸がポロンとはみ出し、下腹部のほうも大事な部分が見えそうになっている。
彼女はそれに気づいていない。
「ジュリア…… 若い男性の前で失礼よ」
「へ? ――あっ? きゃぁぁぁぁぁ!!」
母親が注意してジュリアさんは気づき、自分の手で必死におっぱいと股間を隠す。
久しぶりに女性のそういう正常な反応を見た気がした。
エリカさんといいビビアナも私の前では恥じらいが無くなってきてるし、ラミレス家やグアハルド家のお風呂でもアレだったもんなあ。
「わたス、マヤ様のお嫁に行く!」
「へっ?」
ちょっと待て―― 今何と。
「マヤさんは命の恩人だス…… 村には若い男の子がいないから、いつ結婚できるかわからない! 私の裸も見られたから、マヤさんに身も心も捧げまス!」
動機としてはありだと思うけれど、ねえジュリアさん。
さっき会ったばかりですよ。
うーむ…… この世界じゃ二十歳でも結婚を焦る時期なのだろうか。
それに若い男性には慣れてないのか、強い一途さがあって想い込んだら止まらない子なのだろうか。
普段から結婚願望がとても強かった故に、突然結婚すると言い出したのか。
いやいや、これらは私の予想に過ぎない。
「まあ! それはいいわね。マヤ様が旦那様ならあなたも幸せね」
おーい、お母さん。
お父さんとお兄さんはこちらを呆然と眺めている。
何とか言って下さいよ。
「あの…… その話はまた後ということで…… 大猪の魔物の肉は食べられるということはご存じですか?」
「お、おおぅ。それは初めて聞いたよ」
ジュリアさんの発言については流して、お父さんがやっと反応した。
私はラフエルの街で大猪を解体して食べたことを話した。
食べ過ぎるとアッチのほうが元気になりすぎることも。
「じゃあ肉をいったん魔法で村まで運びますから、肉を綺麗に処理できる人たちを集めて村に配って下さい」
「ああ、わかった」
――今になって、村の討伐隊がここに到着した。遅いってば。
うーん、村の精鋭というのが見たところ若くて四十、平均五十以上のおっさんばかりではないか。
おいおい、六十歳以上と思われる爺様もいるぞ。
これではジュリアさんの嫁のもらい手がいないわけだ。
若い男たちは余所の土地へ出て行ったのかなあ。日本の過疎化問題と変わらない。
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ジュリアさんの家族と討伐隊は村へ戻り、一緒に私もグラヴィティで大猪の肉を村まで運んだ。
マカレーナを早朝に出発したから、この時点でやっとお昼頃なんだよね。
私は再び村長宅へお邪魔する。
先ほどジュリアさんらが魔物に襲われたことについて、村の東にデモンズゲートが新たに発生してるだろうから、これから探し出して穴を塞ぎに行くことを話した。
「わかりまスた。何から何までありがとうございまス。わたスたちは何も出来ませんから、せめて我が家へ泊まっていって下さい。夕食までには大猪の肉も処理出来るでしょうから、ご馳走を振る舞いまスよ」
日帰りのつもりだったけれど、大猪の肉は美味いから捨てがたいな。
早く帰っても特に予定は無いから、よしっ 泊まろう!
「お言葉に甘えさせて頂きます。では、行ってきます」
「どうかお気を付けて……」
私は東の方へ向かって飛んでみたが、マカレーナから向かうときに通ったばかりなので、この辺に森なんて見かけなかったはずだが…。
最初にグラドナを通過してから川の側の森でデモンズゲートを塞いで、グラドナの畑で魔物を退治してからその間が約四時間か……
魔物の動く速度を考えると、グラドナからだいたい十キロから二十キロ離れたところにデモンズゲートがある可能性がある。
もう少し東へ進んでみよう。
――あれから三時間くらい該当地域を細かに魔素探査を掛けながら荒野の上を飛び回っているが、なかなか見つからない。
もうすぐ夕方になってしまう……
あああ…… 生ハムパンを早弁したから腹減ったよ。
日が暮れる前に見つからなかったら明日にしようと思ったが、ついに魔素探査に引っ掛かるところがあった。
森ではなく、ここは荒野に木が固まって生えているだけだった。
こんな場所は荒野にたくさんあるから、視覚的にはわからない。
降りてもう一度魔素探査をかけてみたら…… デモンズゲートがあった!
穴のサイズがでかい。
いつもならば直径二、三メートルのものが多いが、六、七メートルはあるこの穴はまさしく大猪が出てきたものだろう。
ラフエルに現れた大猪のほうは遠くのデモンズゲートから流れてきたようで、街の近くにデモンズゲートがあったという報告は今のところ無い。
現在、魔物は出てきていないようなのでさっさとクローデポルタムを掛け、デモンズゲートを塞いだ。
魔物を見逃していないか、念のためこのデモンズゲート跡を中心に小一時間ほど周りを偵察する。
魔物がいないのを確認出来たので、これで切り上げてグラドナへ戻った。




