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第四十六話 魔力量測定器でビックリ

2022.12.7 微修正を行いました。

 ラガを発ち、マカレーナに着いたのは夕方だ。

 玄関先で、何故かタイミング良く駆けて来たのは、学校から帰宅したばかりと思われるパティだった。


「マヤ様! おかえりなさい!!」


 パティは元気よく私に抱きついてきた。


「どうしたの? よく私が帰ってきたのがわかったね。」


「私、何となくマヤ様とエリカ様の魔力を感知したんですよ。」


「へぇ~ パティもそういうことが出来るようになったんだ。

 ああ、私もつい最近出来るようになってね。

 エリカさんは前から出来たようだけれど。」


「基本魔力が高くなってきたら誰でも出来るようになるんだけれど、個人差はあるわね。

 マヤ君があれほど魔力量があったのに、出来たのがついこの前からだなんて、何故だかはわからないけれど。」


 横にいたエリカさんがそう答えた。

 魔法のベテランが側にいると頼もしい。


「マヤ様。私、あと半月で卒業なんです。

 そうしたらマヤ様と一緒に活動出来そうなんですが、私は飛べないので無理ですね…。」


「そうでもないよ。空飛ぶ乗り物の構想があるんだ。

 私さえいれば誰でも遠くへ、とても速く移動出来るかも知れないね。」


「ええ!? そんな凄いことをマヤ様はお考えに!!」


 パティは瞳が星の形になったようにキラキラしている。

 まだまだ子供のように純粋な心を持っているんだね。

 それより卒業か…。

 パティと初めて会ったのは、彼女が進級する時の休暇中にラフエルへ出かけていた時だったらしく、日本の学校で言えば春休みだ。

 この世界に来てからもう一年になるんだなあ。

 いろんなことがあって、これがたった一年なんて感じられない。

 歳を取ってからの一年は毎日同じ事の繰り返しで、時は光陰矢のごとしだ。

 二十年前がつい最近のことのようにすら思える。

 若くなってこの世界の何もかもが新鮮で充実していると、時間が長く感じる。

 そうなると私がこの世界に降りた日が誕生日と考えてもいいのか。

 この世界も一年が三百六十五日で元の世界と同じなんだけれど、季節的にずれているからこの際リセットしたほうが良かろう。


---


 夕食前なので、ひとまず自室に戻ってから、行政官庁から帰宅していたガルシア侯爵に、ラガの街で起きたことを執務室にて報告した。


「ムーダーエイプはともかく、黒い球体の魔物は私も初めて聞いたし、厄介だな。

 デモンズゲートが出現する瞬間を見ることが出来たのはある意味収穫だったね。

 神出鬼没だから予め防ぎようが無い訳か…。」


「今のところ、魔素が濃い地点を全て探して把握し、魔物が発生したらそれに備える手立てしかありませんね。」


「困ったものだが、しばらくはマヤ殿とエリカ殿に頼るしかないな。」


「おまかせください。頑張りますよ。

 それにいろんな場所へ行けて案外楽しいこともありますから。

 あーそうだ。グアハルド侯爵から、いつか落ち着いた時にガルシア家の皆さんをプライベートビーチにご招待したいという話がありましたよ。」


「本当かね! それは楽しみだなあ。」


 深刻な話がお楽しみの話になってしまった。

 そういう楽天的な話が好かれるのはお国柄だろうか。

 と思ったら、話が切り替わった。


「ところでラガの件より前に話した場所なんだが、国境付近にあるグラドナという村の近くにある森でデモンズゲートが発見されてね。

 魔物は出現していなくて被害も無いから後回しにしたんだが、放置するわけにも行くまい。

 帰ってきて早々に悪いが、明日行ってきてくれないかね。

 グラドナは我が領地の最西端の村だ。」


「わかりました。それほど遠くないので、私一人でスピード上げて日帰りで行ってきます。」


「マヤ君、大丈夫なの?」


「魔物単体の力は私ならそれほど強くないし、黒い球体が出てきても対策に心当たりがあるから、心配しないで。」


 エリカさんはそれでも不安げな表情をしていた。

 パティが大怪我をしてライトニングカッターを連発した時は、エリカさんに心配をかけたからなあ。

 彼女の気持ちは大事にしたい。


「閣下、一つお尋ねしたいことが。」


「なんだい?」


「ブロイゼン出身の技術者がこの街にはいませんか?」


「それなら二人、街の馬車工場にいる。

 あそこの馬車はすごく高いけれど乗り心地が断然良くてね。

 それでどうしてそのことを?」


「魔力で空を飛ぶ乗り物を構想しているんですよ。

 高速で飛んでも頑丈で軽いものを作ってもらおうかと思いまして。

 その馬車工場の方を紹介して頂けませんか?」


「なんだって!? それなら後で私が紹介文を書いて上げよう。

 あの人たちは頭が凄く固いが技術は一級だ。資金も協力しよう。」


「ありがとうございます。

 報賞金の使い道がないのでそれを使いたいと思いますが、足りない分はお願いするかも知れません。」


「私も少し出すよ。この先、馬車みたいに座って楽していけるなら。」


「ありがとう、エリカさん。」


 資金的に何とかなりそうでこれで構想の一歩が踏めたわけだが、会ってみるまで実際いくらかかるのかわからないし、簡単な図面も作っておかねばならない。

 私は技術者でなく一介のサービス業サラリーマンだったから、頭の中に残っている飛行機や新幹線、自動車など簡単な構造の記憶を辿るしか無い。

 私は乗り物好きで、旅行でよく飛行機や鉄道を使っていただけなので記憶はまったくの素人レベルであるが、外見はそれなりに覚えている。

 そのへんはブロイゼンの技術者を頼って、作ってもらえるかどうかお願いしてみよう。


---


 お風呂に入ってから、夕食だ。

 出先での夕食も美味しかったけれど、やっぱりガルシア家の食卓が落ち着くなあ。

 パティがムシャムシャ一生懸命食べているのを見ていると、可愛らしい。

 もう居候して一年になるから、家族みたいに思える。

 エリカさんが話しかけてきた。


「ねえマヤ君。前に言ってた魔力量測定をしてみたいから、後で私の部屋へおいでよ。

 パティちゃんもどうなってるか気になるから、一緒にいらっしゃい。」


「むぐむぐ モグモグゴックン え? わかりました。」


「パティ、口に詰め込みすぎるからすぐ飲み込めなくなってお話が出来ないんです。

 行儀が悪いので落ち着いて食べなさい。」


 パティがアマリアさんに叱られているが、いつもの光景だ。

 自分の魔力量は私も気になるから、是非やってもらおう。


---


 夕食後、パティを連れてエリカさんの地下の部屋へ行った。

 パティはエリカさんの部屋へ初めて行くという。

 そういえば彼女がエリカさんに魔法を教えてもらっていたときは、庭のテーブルだったもんな。


「うわぁ、魔法書がいっぱい。

 ベッドの上に下着を脱ぎ散らかしてちゃダメじゃないですか。

 えっ これは… なななななんですかっ 透け透けじゃないですかっ」


 パティは手に取って、興味津々に透け透けの赤いぱんつを眺めている。


「あら、なんだかんだ言ってそんなに気になるんだ。

 それなら今度ランジェリーショップへ連れて行ってあげるよ。

 マヤ君が喜ぶかもね。にひひ」


「い、いりません!」


 パティのぱんつは見たことがないが、妄想するなら純白正統派ぱんつだな。

 身体は出会った時と比べても立派なレディになりつつある。

 だが、パティが透け透けぱんつを履いている姿は想像が出来ないな。


「ぱんつのことよりも、これが魔力量測定の魔道具だ。

 魔族が作った物を持って来ているんだ。」


 エリカさんはデスクの引き出しからそれを取り出した。

 見た目は小さな体重計っぽい板だ。


「やり方はここに手を置くだけでいい。

 パティちゃんからやってごらんよ。」


 パティが板に手を置くと、すぐ画面に数字が表示された。


「え…? 3345… ちょっと、どうなってんの?」


「どうなってるのって言われましても…。」


 少なくともこの国の人間においては前に聞いたとおり、魔力量について数値化する概念が無いので、パティはピンとこないようだ。


「人間の上級魔法使いでも300から500くらいなのよ。やっぱりマヤ君の影響?」


「私はあれから風属性の魔法が急に使えるようになりましたからね。

 マヤ様のフルリカバリーは身体の回復以外にも何か付与されるんでしょうか。」

 

 私のフルリカバリーは何でもありなのかね。

 だいたい魔法書記述通りにやってたんだから、どうなったら魔力量増加になるのか理屈がわからん。


「私もやってみるわ…。 ええ!!? 12856???

 私、この前計ったら1092だったのよ!

 これならラガから単独で帰れたわけよ。」


「じゃあ今度からマジックアブゾープションは必要ないね。」


「えぇ~ もっとマヤ君を抱っこしたいよ~」

 

 まあエリカさんに抱っこされるのは嫌いじゃない。

 胸の感触がとてもよろしい。


「むう~ エリカさんは魔物討伐の時にそんなことをしてたんですか!」


「仕方ないじゃない。大魔法は魔力量1000ぐらい使うから必要なのよ。」


「手を繋ぐだけでいいんじゃないですか?」


「そ、それは…。ぐぬぬ」


 エリカさんの言い訳は、パティにあっさりツッコまれた。

 抱っこしてくるのはただ気持ちいいだけというのは、黙っておこう。

 パティがキレそうだ。


「うー、コホン。ではマヤ君も測定器に手を当ててごらんよ。」


「うん、それでは…。」


「え、えぇ…? えぇぇぇ?? 297614????」


 こういうシーンはアニメだと器械が爆発するか測定不能になるはずなんだけれど、全くそういう様子が無い。

 それどころか、測定器の数字が表示されている部分がまだ三桁は余裕がある。

 魔王様みたいな人がいたり、エリカさんの師匠という人、いや人じゃないか。

 魔族の魔力量っていったいどれだけあるんだよ。


「マヤ君の魔力量が29万かあ。本当に上級魔族ぐらいだったんだね。」


「エリカさんのお師匠様はどのくらいあるか知ってるの?」


「あのばばぁは、はっきり聞いたこと無いけれど、一千万以上はあるはずよ。」


 ああもう、何があっても驚かないよ…。

 そこまで魔力があるなら国の一つや二つ無理矢理支配出来そうなものだけれど、それが無いということは何か利害関係があるのだろうか。


「パティも、もしかしたらフルリカバリーが出来るようになるかもしれないね。」


「そうですわね! マルセリナ様に今度相談してみましょう。」


「エリカさんも使えるようになるんじゃないの?」


「私は闇属性が強いから、相性が悪くて使えるかどうか。

 でも私もやってみようかしら。」


 フルリカバリーが使える人が増えると、この先とても助かるだろう。

 だいたい私自身が大怪我をしたときは、自分で魔法を発動出来るどころではないだろう。


「わかりました。ありがとうございます、エリカ様。

 マヤ様、戻りましょう。」


「あ…」


「エリカさん、どうかしたの?」


「いや、いいんだ。おやすみ。」


 エリカさん、もっと私にいて欲しそうな感じだった。

 いつも一緒にいた分、パティに譲ってあげたんだろうから大人だね。

 私も、何人もの女性に好かれてるだなんていい気になって驕り高ぶらないよう、気をつけないといけない。


 エリカさんの部屋を出て、廊下を歩いているときにパティがお茶をしようと誘う。

 パティもエリカさんに気を遣ったのかな。

 断る理由も無いので、パティの部屋で二人のお茶会を楽しんだ。

 彼女はカタリーナさんと一緒にいた時など学校での話を中心に、あどけない表情をしながら一生懸命話してくれる。

 私は本来あまり他人の話に興味が無いしそれは接客業をやっていて致命的だが、娘みたいな歳の子が慕ってくれて話してくれることは、一緒に気持ちを分かちあって上げたいと思う。

 でもよくホテルの支配人になれたよね。

 聞いてるフリして、はいはい良かったですねぇと作り笑顔で応えただけなのに。


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