第四十一話 三人の手紙
2023.11.28 読みやすく加筆修正しました。
セレスを出発し、時々休憩しながらマカレーナへは夕方に着いた。
魔力のことよりも、神経やエリカさんを背負っている体勢とかそういうことでいろいろ疲れてしまう。
これは本気で空飛ぶ馬車の構想を現実にしないと、この先が大変だ。
ちょうどスサナさんとエルミラさんが給仕服姿で玄関先にいたので、彼女らに出迎えられた。
「およよ? マヤさん、エリカさん、お帰りなさい!」
「お帰りなさい。お疲れ様です」
「ただいま。
エルミラさんいきなりですみませんが、今晩またマッサージをお願いできますか?」
「お安いご用だよ。相当お疲れだったんだね。お風呂上がりの時にお邪魔するから」
「あらら! エルミラったら、今晩はお楽しみだねえ。うひひ」
「ん? 何も無いぞ、うん。何も無い」
と、エルミラさんは素知らぬ顔で誤魔化す。
エリカさんはまたも口先がεになっている。
間違いなくエリカさんからも誘うつもりだったのだろうが、今晩はエルミラさんと熱い夜を過ごすのだ。
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夕食の時間になっていたので、着替えだけしてみんなと集まった。
「マヤ様! お帰りなさい!
たった三日ぶりなのに、何だかとても久しぶりな気がします」
「ただいま。ほんとだねえ。久しぶりだ」
第一声はパティだった。
私が久しぶりに感じたのは、向こうでの出来事が濃かったせいかのかもしれない。
「マヤ殿、ご苦労だった。
ラミレス家での泊まりのことをすっかり忘れていたよ。すまなかった」
「ええ、最初は宿を取ってしまったので、三日目だけお世話になりました。
ラミレス家のおもてなしはとても素晴らしかったですよ」
「はっはっは、君もか。確かにおもてなしはすごかったなあ」
うわっ ガルシア侯爵もあのおもてなしを受けていたのか?
どの程度のサービスだったのか気になるが、パティがいるので聞けない。
「あなた。あの時は私と同じおもてなしを受けたんですってね」
アマリアさんがギロッとガルシア侯爵を横目で睨む。
ひぇー、アマリアさんまで。
お風呂場でのねっとりサービスに妄想が膨らむ。
一夫多妻制でも妻以外の女性関係に寛容ではないアマリアさんだった。
いくらこの国でも、女性の誰にでも手を付けてもいいわけではない。
特に結婚後に好きな人が出来たら、夫人にはちゃんと報告が必要らしい。
「はっはっは…… あー、うん。はっはっは……」
顔に冷や汗を出し、誤魔化しきれなくて何も言えないガルシア侯爵。
むしろ嘘を言っても泥沼になると察しているからだろう。
「マヤ様、おもてなしって何ですか?」
ガルシア侯爵の反応を見て、ジト目になって私に質問するパティ……
私にも浮気を誤魔化す心配が出てきたということか。
立派になったもんだよ。はぁ……
「え? いやあ、とてもすごい御馳走が出て美味しかったよ。うん」
アマリアさんとパティは揃ってジト目になっている。
エリカさんはクックックと声を上げずに笑いをこらえていた。
別にお風呂のおもてなしばかりのことを言ったつもりはないのだが、侯爵閣下はそっちの思い出が強かったように思える。
「それで閣下。デモンズゲートは二つとも封鎖することが出来ました。
封鎖すること自体はすぐ済むんですが、やはり出てくる魔物次第で手間がかかってしまいます。
それで予定より一日余分にかかってしまいました。
デモンズゲートは一日一つぐらいのつもりで予定を立てた方が良さそうです」
「わかった。実はもう次の依頼が来ているんだ。
明日話すことにするから、君たちは今晩と明日ぐらいはゆっくり休みたまえ」
「わかりました」
ほええ。まるで会社員の連続出張みたいになってきたな。
これはしっかり休憩を取らなければ。
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夕食が終わって、休憩してからお風呂に入ろうとしたら、まだエリカさんが入っていた。
疲れていたのか、脱衣所に着替えがあるのに全く気づかなかった。
あぁ…… まあいいや。
マッサージの時間に間に合わなくなるから、一緒に入るか。
「あらマヤ君、嬉しいな。一緒に入りに来たの?」
「たまたま被っただけだよ」
「せっかくだから、マヤ君にもおもてなしをしてあげるわ。
ずっと飛んで疲れたんでしょ」
「うーん…… じゃあ、まあ、お願いするよ」
「あぁぁ…… アナベルちゃんとロレンサさんちゃんのおもてなし……
思い出すだけでゾクゾクしちゃうわぁ」
アマリアさんもだけれど、女同士でどういうおもてなしだったんだ?
気になるなあ。
エリカさんは身体の隅々までタオルで洗ってくれたが、そんなこと彼女らは絶対していないよねっていうエリカさんなりのおもてなしもあった。
おかげで分身君が爆発しそうで我慢出来なくなり、合体してしまった。
「あー、すっきりした。じゃあマヤ君、おやすみ。
これから君はエルミラとだね。うひひ」
エリカさんは満足げな顔をして先にお風呂を出た。
私は湯船に浸かり、ローサさん、アナベルさん、ロレンサさんのおもてなしを思い出して、にやにやしてしまう。
ああ…… 早く会いたいな。
おっと。向こうの主役はセシリアさんなのに、給仕係に会う目的になってしまうのは良くない。
お風呂から上がったら、エルミラさんが来るまで手紙を読ませてもらおう。
ちなみにこのお風呂は本来パティ用で、パティ、エリカさん、私と順番が決まっているので、私とパティはかち合うことがないのだ。
私はパティの裸どころか、ぱんつすら見たことがない。
おっさんが中学生相当の歳の子に欲情したらまずい。
お風呂で温まったので、しばし自室で休憩だ。
まずセシリアさんの手紙を読んでみよう。
八枚にも及びセシリアさんの気持ちが書かれているので、要約するとこんな感じだ。
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親愛なるマヤ様へ
無事にマカレーナへお着きになられましたでしょうか。
この度は街を魔物からお救い頂きありがとうございました。セレスの市民に成り代わりまして御礼申し上げます。
マヤ様はとてもお強いと聞き及んでおりましたが、私の想像以上で感激いたしました。
私の身の上についても、私の突然の無礼な行為について嫌われる覚悟でおりましたが、マヤ様は嫌うどころかご理解ある言葉を頂き、私はまさかのことでとても言葉に表せないほど嬉しく思いました。
私は男の子にも女の子にもなれず、生まれてからずっと友達が出来ないから家族からも心配されていました。
ですがマヤ様はお友達になってくださいました。初めてのお友達。それだけで私の心がどんなに救われたでしょうか。
私の我が儘でキスもして頂きました。まるで夢のようです。勿論私のファーストキスです。マヤ様の甘くて優しい口づけ、一生の思い出になります。
またお手紙を書きます。マヤ様はこれからも魔物退治にお忙しいと存じますが、どうかお身体に気をつけてくださいませ。
あなかしこあなかしこ。
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と、過去の話と私に対する想いがずいぶん長かったので要約した。
とても綺麗な字で押しつけるような文面でもなく、彼女の性格が良さが伝わってくる。
それなのに友達が出来そうにないとは思えないが、この世界では性同一性が元の世界より希有なのか、なかなか理解がなかったのだろうか。
しかし、あなかしこってどこの国の人だ?
元の世界でも、私のことをこんなに思ってくれた友人はいなかったかも知れない。
セシリアさんはこれから一生大事にすべき友人になると思うし、力がある貴族とコネクションがあるのはこの先とても有効だろう。
次はアナベルさんの手紙だ。
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マヤ・モーリ様へ
拝啓。もう無事にマカレーナへお着きかと思います。お疲れ様でした。
この度のご奉仕は私自身、男性相手が初めてで給仕長から命令があった時はとてもびっくりし不安でありましたが、マヤ様のお人柄の良さには救われた気分でございます。
こんな男性もいらっしゃったのかと、改めまして私の経験の無さに恥ずかしく思いました。
私の粗相があった時もマヤ様は動ぜず、私のことを綺麗だとおっしゃってくれた男性は生まれて初めてでした。
嬉しい反面恥ずかしさもあって、最後にお詫びの言葉もなくお風呂を退出したことについて、大変失礼なことをしてしまい、改めてお詫びを申し上げます。
またお越しの際は、精一杯ご奉仕させて頂きます。
それまでどうかお元気で。
アナベル・バレンシア
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実直且つ簡潔で読みやすい手紙だ。
退出の時にお詫びが無かったことについては、事の直後に謝っていたから私は気にしなかったけれど、従事者としては減点対象になるから、私が朝食の時に言うまで気が気でなかったのかもなあ。
きっと私が最上級の大切なお客様と聞かせられていただろうから、一つの間違いも無くご奉仕をしなければならないのが前提だったのかも知れない。なかなか厳しい。
そんなことよりも、次回の精一杯ご奉仕が楽しみだ。むふふ
そしてロレンサさんの手紙
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マヤ様へ
この度は私のご奉仕を受けて頂き、ありがとうございました。
まず、大変な粗相と最後にご挨拶も無く、大変申し訳ありませんでした。
私は殿方の裸を初めて拝見し、とても緊張してしまいました。
私は小さい頃にお父様の裸しか見たことがありませんので、若いマヤ様の裸に興味を持ってしまい、失礼ながらもずっと見つめてしまいました。
そうしているうちにお腹の下から不思議な感じになり、最後に一瞬今まで感じたことも無かったような感覚が身体を走り、マヤ様のお背中に持たれてしまいました。
あれはいったいなんだったのでしょうか。
その後マヤ様に大変失礼なことをしてしまいました。ごめんなさい。
ですがマヤ様から洗髪の時にお気遣いの言葉を頂いて、安心しました。
どうか再会の日まで、お元気で。
ロレンサ・アラルコン
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うーむ、これはロレンサさんが性知識不足で挑んだご奉仕であるに間違いない。
文面がやけに露骨なのだが、彼女は気になって仕方がなかったんだろうなあ。
そもそも性知識が無い少女なのにあんなことをさせるのは非常識だと思うが アナベルさんが彼女に指導をしていた。
この世界においてはそれが普通なのか……
二人にもきちんと返事を書く必要があるだろう。
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コンコン。
ノックがあった。きっとエルミラさんだろう。
ドアが開くと、やはりシャツとショートパンツ姿の彼女が現れた。
美脚が眩しすぎる。
「マヤ君、こんばんは」
「やあエルミラさん、どうもありがとうございます」
「私にはもう敬語はいいってば。もう君と私の仲だ」
「ええ、わかりました」
「ほら敬語」
「ははは……」
エルミラさんは私に心を許し、彼女の方も私に心をもっと開いて欲しい気持ちがあるのがわかった。
心から信頼し合える人と出会うのは五十年間生きてきた中でもなかなか難しいこと。
特にエルミラさんは純粋な女性なので、傷つけないよう大事にしたい。
「じゃあ早速マッサージを始めるよ」
「よろしく」
「じゃあ下着だけになって、ベッドの上に座ってくれないか」
私はシャツとボクサーブリーフだけになる。
前回とほぼ同じ内容のストレッチとマッサージをしてくれた。
特に腰のマッサージがとても気持ちいい。
エルミラさんは香水を着けていないけれど、女性の独特の香りがとても強い。
言い換えれば体臭がキツいと言えるが、甘いミルクのような香りなのに悪く言えない。
はぅぅ…… 良い匂いでクラクラしてしまう。
さっきエリカさんとお風呂でイチャラブしたばかりなのに、我慢が出来なくなってきた。
マッサージが一通り終わったところで……
「ねえ、エルミラさん。もうちょっと一緒にいて欲しい」
「いいよ。私もそのつもりだったから、君と朝まで一緒にいたい」
朝まで一緒にいたい。
女性からこんな言葉を聞いた男は理性を保てるだろうか。
しかしエルミラさんが女性上位で被さると、彼女はイケメン女子だから私が女の子になった気分になってしまう。
エルミラさんとの二回目は、初めてベッドの上で行う。
彼女が私の腰の上に乗っかり、慣れないながらもゆっくり顔を近づけキスをしてくれた。
改めて見ると、なんて格好いいイケメン女子!
ああ、素敵。こんな彼に全てを捧げたい。
なんて、世の女性はイケメンに抱かれると思うことだろう。。
彼女は周りを気にすることをなく、存分に気分を解放し楽しめたようだ。