第三十九話 セシリアさんはセシルさん?
2023.9.18 加筆修正しました。
ラミレス家で用意してもらった部屋で、誰かに起こされる。
どうやらベッドの寝心地が良すぎて眠りこけてしまったようだ。
「マヤ様…… マヤ様……」
「ううん…… パティか…… んん??」
「マヤ様、夕食の時間でございます」
おや…… いかんな。
そのまま眠りこけてしまったようだ。
マヤ様っていうからパティが起こしに来たと思ったが彼女ではないし、声が大人っぽい。
その声の主は、脱衣所で着替えの手伝いをしてもらったローサさんだった。
「お疲れでしたか。着替えをお手伝いします」
「あ、あぁ…… ありがとうございます……」
ローサさんにバスローブを脱がされて素っ裸にされ、パンツやシャツから上着をまで着るのを手伝ってもらう。
びっくりするくらいスムースに着替えが終わった。
スーツのズボンに白いブラウスというコーディネートで、妙にぴったりだ。
女神様から貰った服は適当でちょっとだぼ着いているから、もしや目測か?
恐るべし、ラミレス家のメイド。
「服は全て差し上げますので、どうぞお持ち帰り下さい」
「どうもありがとうございます」
この世界に来てあまり服って買ってないから、貰えて助かったよ。
と思うのは貧乏くさい前世の性が抜けていない。
私は日本でも年に数度だけ「ファッションセンターしままち」でサッと買い物をするだけだったから。
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「それでは夕食の会場までご案内します」
ローサさんに付いて行き、夕食の会場へ。
ラミレス家の三人とエリカさんはすでに席に着いていた。
執事のロドリゴさんと、眼鏡を掛けた三十代半ばくらいの給仕係、さっき背中を流してくれたアナベルさんとロレンサさんが給仕服で、横の壁際で控えていた。
アナベルさんとロレンサさんは顔を真っ赤にしていた。
「今日一番の主役がやってきたな。お風呂のほうはいかがだったかな?」
「えぇ…、あの……
とても広々としたお風呂でゆっくりくつろげましたし、サービスのほうもとても献身的で素晴らしかったです。
お二人には感謝していますよ」
「テオドラ、そういうことだ。二人を褒めてやってくれ」
「かしこまりました、旦那様。
エリカ様、マヤ様、申し遅れました。
給仕長のテオドラと申します。
この度は二人の奉仕に満足して頂いて私も嬉しいです。
突然のサービスにて恐縮でございましたが、ラミレス家では特別なお客様には気持ちよくお迎えし満足して帰って頂くことを心得としております」
何だか強引な設定のような気がするが、良い思いをさせてもらったから深く考えるのはよそう。
「ああいや、とんでもないです。
サプライズサービスというのも面白いと思います。
お二人とも綺麗で、思い出になりました」
「ほんっとうに二人のサービスは素敵だったわ。ハマっちゃいそう。
可愛い子たちだし、身も心も綺麗になって最高よ」
「「ありがとうございます!」」
「アナベル、ロレンサ、下がってもいいわ。
片付けまで休んでいて下さい」
「「はい」」
このテオドラという三十代半ばのメガネお姉さんが給仕長で、二人に直接命令していたのか。
綺麗だけれど教育ママふうで厳しそうだ。
なのにあのお風呂のサービスなのか。
給仕長もおもてなしをしたことがあるのかな?
ねっとりサービスをしてくれそうで、可能であれば受けてみたい。
二人のサービスに不満な点は全く無かったし、戦いの疲れも吹き飛んだ。
アナベルさんの開脚…… むふふ
いや、顔に出るから今は思い出すのをやめよう。
「それでマヤ殿、エリカ殿から聞いたが偵察しに行ったんだってね。
また魔物が出て遅くなったと聞いたが」
「では詳細を報告します。
もう一つオオムカデの群れが草むらに隠れていたのが見つかりまして、全て退治しました。
その後も南東の森を往復しながら周辺を隈無く飛んで偵察したところ、魔物の群れは確認出来ませんでしたので、穴を塞いだことですので当分は大丈夫と思われます」
「そうか…… そうだったのか。
マヤ殿には街を助けてもらったばかりか、苦労をかけてしまったな。ありがとう」
「いえ、これも使命だと思っております。
それに普段は楽しく生活させてもらっていますので、ありがたいことです」
「また明日の朝、話をしたい。明日はもうマカレーナへ帰るんだろう?」
「ええ、特に何も無ければそのお話を伺った後に帰るつもりです」
「わかった。ロドリゴ、そのように取り計らってくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「さあ、話が長くなるから食事をしよう。
エリカ殿、マヤ殿、存分に味わってくれ」
そういえばお腹が減っていたのも忘れていた。
コース式で、前菜、マッシュルームのアヒージョ、ハチノスの煮込み、パエリアと運ばれてきて、ワインを飲みながらとても美味しく頂けた。
食事中の話は、今回の魔物退治の様子や変な盗賊の話、マカレーナでの生活の話など私やエリカさんの話で持ちきりだった。
最後のデザートは苺のババロア。
とても美味しくて、パティが好きそうだ。
食事がそろそろ終わるころ、セシリアさんの目線が私のほうをチラチラと向けている。
そうだ、彼女は私とお話がしたいんだったっけ。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。
素晴らしい料理をありがとうございました」
「喜んでもらえて何よりだ。今晩はゆっくり休んでくれたまえ。
あぁ、マヤ殿はセシリアの話し相手をしてあげてくれないかな」
「わかりました。勿論そのつもりでございます」
セシリアさんは目がキラキラとしていた。
ラミレス侯爵はあれで子供思いなんだろうね。
エリカさんは口がεの形になっていたから、また何時でも相手をすると目でサインした。
「マヤ様、私のお部屋でお話ししましょう。ご案内します」
夜にいきなり女性の部屋で、しかも親公認だなんてドキドキしてしまう。
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セシリアさんの部屋へ。
白と淡いピンクが基調の女の子以上に女の子らしい部屋で、良い香りがする。
動物のぬいぐるみもいくつか置いてある。
何というか、微笑ましい。
小さなテーブルがあり、セシリアさんに勧められ椅子に腰掛ける。
彼女はお茶をを入れてくれた。
この色と香りはラベンダーかな。
睡眠に効果あるのでベストチョイスだ。
今更だが、この世界は地球にある物だらけで安心する。
セシリアさんは私のことを聞きたがっていたので、無難なところを話した。
東の国よりさらに遠いところから旅をしてきて、今はガルシア侯爵にお世話になっている身の上話から、屋敷でやっている訓練や魔法の勉強など、夕食での話の延長だ。
うんうんと一生懸命聞いてくれるのが健気で嬉しい。
なんとセシリアさんも少しだけ魔法が使えるようで、水属性の魔法と極初歩的な火の魔法が出来るそうだ。
あまり戦闘は出来ないので、普段は生活魔法として使っているとのことだ。
このラベンダーティーも、魔法で水を出して湧かしていた。
「とても楽しいお話をありがとうございました。
マヤ様って、とても女性にお優しいですのね」
「いやあ、周りが素敵な女性ばかりだからそうしているだけですよ。
相手に問題があれば厳しくします」
「マヤ様……
マヤ様を見込んで私の大事なことを聞いてもらいたいんです。
私、わかるんです。
初めて会っても目や表情、話し方でその人となりが。
子供の時からあることで学校でもいじめられていて、友達も出来ませんでした。
でもマヤ様はお話がしやすくて、びっくりでした。
もしマヤ様だったら……」
「何か深刻な悩みをお持ちのようですね。
私で良かったら聞きますよ」
「それではお言葉に甘えて……
まず、私の本当の姿を見て頂けますか?」
セシリアさんは席から立ち上がり、シュルシュルと可愛らしいワンピースのパジャマを脱ぎだした。
「あらら…… あの……」
ドキッとするような、色白な美しい身体…… 肌も綺麗……
って、あれ?
あれれれれ?
胸がぺったんこ。
パジャマを脱ぎ終え、身に着けている物はレースの白いセクシーなぱんつだけになってしまった。
だがよく見ると股間がふっくらと……
そのぱんつも脱いで、ハラリと足元に落ちる……
あれれれれれれれれ?
見慣れた分身君が!?
でも形が整っていて可愛らしい。
頭の中ではそう思っても、口は固まったままだった。
はい、セシリアさんは男の子でした。
そうか、そういうことだったのか。
それにしても骨格からして女性のように丸みをおびた身体つき。
色白で肌がきめ細やかでありとても綺麗だ。
くるりと回り、後ろ姿も見せてくれた。
お尻が綺麗過ぎてくびれもあり、後ろから見たら全くの女性だ。
声が女性そのものだから、男性だなんて全然わからなかった。
身体のつくりは女性寄りなのだろうか。
「マヤ様、こういうことなんです。
私の本当の名前はセシルといいます」
「セシルさん。いや、セシリアさんですね。わかりました。
セシリアさんは身体が男の子で、心が女の子なんですね」
「え? なぜそれがすぐわかったのですか?」
「私が昔いた土地では、そういうことについての理解がだんだん進み始めたからですよ」
元の世界では実際、トランスジェンダーについて世間の話題になってきていたし、なかなかデリケートなことだ。
それに、ホテルのお客さんの中にもそういった方たちが時々いらっしゃったんで、特別に珍しいことではなかった。
「マヤ様にお話をして良かったです……
もしかしたら気持ち悪がられて嫌われてしまうかと思っていました。
私、男の子でもないし女の子でもない扱いをされて、学校では相手にされず今まで友達が全然出来ませんでした。
理解してくれるのは、家族とお屋敷の皆さんだけでした。
でもマヤ様が身内以外で私のことを理解して下さるのは、マヤ様が初めてです」
「とりあえず、服を着ましょうか。お茶を飲んで待っていますから」
「はい、失礼いたしました」
セシリアさんは下着を着け、ワンピースのパジャマを着直す。
パジャマ姿が可愛くて、女の子そのものなんだがなあ。
ふぅ、ラベンダーのお茶が美味しい。
「あの…… マヤ様。こんな私ですが…… お友達になって頂けますか?」
「勿論喜んでお友達になりましょう」
「ありがとうございます。嬉しい……」
セシリアさんは目が潤んでいた。
そういう表情もまた可愛らしい。
「もう一つ、お願いが…… いえ…… そんなことまでは……」
「言ってみてもらえますか? 怒ることはないですから」
「その…… 私はまだしたことがなくて……
キ、キスをしてもよろしいでしょうか?」
あうう……
男性とキスをするのは……
思い出したくなかったが、若いときに飲み会で騒いでいて、悪友が酔ってふざけて私にキスをしてきたっけ。
ま、若気の至りだ。
だがセシリアさんについては、恐らく人生の一歩を踏む大事なことなのかもしれない。
自分で裸になってまで勇気を出して打ち明けてくれた。
私のことを信用してくれたんだ。
人の心を少しでも救う助けになるのならば……
彼女の性格も押しつけがましさは感じられない。
よし。ここは私も決心しよう。
裸だったら躊躇したが、可愛いパジャマを着ていればいいんじゃないか。
「セシリアさん、いいですよ」
「え!? 本当にいいのですか?」
私は無言でセシリアさんに近づいてゆっくり抱き寄せる。
緊張するな……
私の唇が、そっと彼女の柔らかい唇に触れる。
男とキスをしている感じがしないから、私もドキドキしてしまう。
抱いている身体は華奢で、女の子と変わらない感じだ。
あとすごくいい匂い。
唇に触れるだけのキスだったが、彼女の唇の感触がはっきり覚えられるくらいの長いキスになってしまった。
「ありがとうございます。マヤ様…… うぐ…… ぐすん」
セシリアさんは思いあまって泣き出してしまった。
私は再び彼女を抱き寄せた。
何だか年下のか弱い女の子みたいに愛おしさを感じてしまう。
「すみません。取り乱してしまって……」
「いいんですよ。私もいろいろあって、泣くことはあります」
「え? 私と同じくらいの歳なのにすごくしっかりしてらっしゃるから、そうは見えないのに……」
「私は十八歳ですが、セシリアさんは?」
「あら、私は十九歳なんです。私のほうが年上だったんですね。」
中身は君のお父様とあまり変わらないおっさんだけれどね。
さっきの雑談で歳まで聞かなかったけれど、それで学校を卒業してからラミレス侯爵の執務の手伝いをしているということか。
さて、お名残惜しいが自分の部屋で帰って寝るとしよう。
「マヤ様は明日の朝にお帰りなんですよね。寂しいです……」
「はい。でも私は一日でマカレーナからここへ来られますから、また近いうちにお会いできますよ」
「お手紙書いてもよろしいですか?」
「勿論です。私も書きますね」
セシリアさんはにっこり微笑んだ。
うう…… めちゃくちゃ可愛い。
でも股間には可愛いものが付いているんだよね。
「それでは、お休みさせて頂きますので失礼します」
「お部屋までご案内いたしますわ」
セシリアさんは私の手を繋いで部屋まで案内してくれた。
彼女は部屋の前で挨拶に頬へキスをしてくれ、顔を赤くして帰って行った。
とてもいい子過ぎる……
男とわかっていても、異性として好きになったかも知れない。
今日はよく眠れそうだ。