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第三百八十話 天にも昇るクレームブリュレ

「お待たせしましたあっ 最初はキッシュでぇす」


 ここは王都の南にある庶民街。

 そこにあるエトワール料理店【La Cabane (ラ・キャバーヌ)】でルナちゃんとお昼の食事をしようとしているところだ。

 家族経営のお店で、娘であるミシェルちゃんが注文したメニューのキッシュを持って来てくれた。

 二皿にそれぞれ一切れ載ってるキッシュ。早速頂こう。


「美味しそう…… いただきまあすっ」


 ルナちゃんがキッシュを口に入れて噛みしめた瞬間、表情がグッと(ほころ)んで幸せそうな笑顔になる。


「ほ、本当に美味ひい…… モグモグ」

「でしょ? ここのマスターのキッシュは最高に美味いから、ルナちゃんにも食べて欲しかったんだ。さて、私も――」


 最初のザクッとする食感の後、クリーミーな舌触りにミルクとチーズの優しい味わいが口の中に拡がる。

 そしてベーコンの香ばしく塩っぱいパンチがたまらない。


「ああ、美味いなあ」

「私、もう食べちゃいました……」


 ルナちゃんがとても残念そうな顔をしている。

 美味しすぎてあっという間に食べてしまったのだろう。


「次の料理がもうすぐ来るから、お腹に入りそうなら後でお代わりを頼んでみようか。それとも、持ち帰りが出来そうならそっちがいいかなあ」

「持ち帰りがいいです! 一枚まるごと!」

「じゃ、そうしようか」


 ルナちゃんはキッシュが相当気に入ったようだ。

 キッシュは作り置きがきくから、二枚頼んでおこうかなあ。


「はいっ お次はグラタン・ドフィノワですっ」

「ありがとう。キッシュって持ち帰りは出来るの?」

「出来ますよおっ」

「じゃあ二枚、帰る頃にお願いするよ」

「はいっ ありがとうございますぅ」


 持ち帰りが出来るようで良かった。

 グラタン・ドフィノワはポテトグラタンのことである。

 日本でも食べたことがある人は多いだろう。


「これも美味()い…… モグモグ―― これって、イスパル料理のパタタス・グラティナーダスと良く似てますよね。王宮でも作ってましたよ」

「隣の国だしね、ほぼ同じかも知れない。こっちの方がチーズのコクがあって、ポテトの歯ごたえは柔らかめかな。でも美味しいには違いないね」

「そうそう。うふふっ」


 可愛い女の子と二人で楽しく食べる。こんな幸せはあるだろうか。

 日本で死ぬ前は、一人暮らしの自宅へ帰って来たら当然誰もおらず、一人で(わび)しくスーパーの半額弁当をつついてビールを飲んでたっけ。

 そんなものだと思っていたけれど、今はそんな生活に戻りたくないね。


「――はーいっ 今日は牛肉の赤ワイン煮込みポトフでぇすっ」

「わあっ」

「おおっ」


 ミシェルちゃんが持って来てくれたのは、定番のコンソメスープポトフではなく、赤ワインで煮込んだポトフだ。

 これはスープと牛肉の良い香りで、食欲がそそる。

 ルナちゃんと私も思わず声をあげてしまった。

 赤ワインスープに肉汁がしっかり溶け込んでて、スープの色は茶色い。

 牛テール、すね肉、バラ肉など牛肉の塊に、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、玉ねぎの煮込み野菜がゴロッと入っている。

 これは食べ甲斐がありそうだ。


「お…… 美味しそう……」

「うーむ…… ゴクリ……」


 ルナちゃんはまるで、()()()()されている飼い犬のようで可愛い。

 早速食べるぞ!


 ――モグモグモグ


「んんんんんっ!?」

「ふぉぉぉぉっ!?」


 牛肉を口に入れると、噛むことなくホロッと崩れていくほどの柔らかい食感。

 肉の旨味がジュワッと口にいっぱいに広がった。


「ルナちゃん、これは危険な美味しさだ。あんまり広めてしまうと人が殺到して常連さんたちが店に入れなくなる。ここは出来るだけ秘密にしよう」

「そ、そうですね。我が家だけの秘密にしましょう」


 そう言いつつ、私たち二人は黙々とポトフを味わった。

 美味しすぎて言葉にならないとはこういうことなのだ。

 日替わりのポトフということで、次に来ても食べられるとは限らないから結局二人ともお代わりをしてしまった。

 別の牛肉の赤ワイン煮込み料理であるブフ・ブルギニョンも食べてみたかったけれど、もうお腹いっぱいになってしまった。


「マ、マヤ様…… デザートも頼んで良いですか?」

「え? ああ勿論だよ」


 甘い物は別腹ってこと?

 ルナちゃんはよく食べるなあ。ジュリアさんが作るお菓子も大好きだからな。

 私はミシェルちゃんにクレームブリュレを二つ頼んだ。


「わああっ これが本場のクレームブリュレ……」

「どうぞ召し上がれ」

「頂きます……」


 ミシェルちゃんはクレームブリュレを持って来たら、ルナちゃんの目は宝物を見ているようにキラキラしていた。

 白い小さな陶器に入っており、キャラメリゼされた色が香ばしさを感じる。

 日本でも流行っていたので、私も何度か口にしたことがある。

 どれ、私も食べてみようか。

 おっ 程良く冷えている。小さなお店なのに魔動冷蔵庫があるんだ。

 高い物なのに、それなりに儲かってるんだなあ。


「はにゃぁぁぁぁ…… 私、天国へ昇っちゃいそうですぅ」


 ルナちゃんは温泉へ浸かったかのような表情。

 あー極楽極楽というセリフの、あの時の顔である。


「ダメだよ昇っちゃ。――おっ おおおっ…… まるでまるで天界にいるサリ様の顔が見えてくるようだ……」


 トロッと濃厚なクリームとカラメルのコクが見事に調和して、本当に頭がフワッとしてきそうだ。

 日本のお菓子メーカーやパティシエが苦心して作り上げたブリュレとも引けを取らないか、それ以上かも知れない。

 ここのマスター、いや奥さんかな? 天才だわ……


 ゆっくり食べていたら、昼の営業時間がもう終わってしまう。

 そこへミシェルちゃんがやって来た。


「マヤ様と、えーっとメイドさん、どうでした?」

「今日も美味しかったよ。ポトフの牛肉が格別だったなぁ。むふふん」

「私も牛肉と…… あっ キッシュも捨てがたい、グラタンも、ブリュレも、みんな美味しかったですぅ!」

「良かったぁ。ねえねえ! メイドさん、私と同じぐらいの歳ですね! おいくつですか?」

「えっ? 十八です」

「わあっ! 私と同じ歳だあ! すっごくイイ顔して食べてから面白くって。うふふっ」

「え…… 私、そんな面白い顔してました?」


 ほほう、そんな雰囲気はしていたけれどルナちゃんと同じ歳だったか。

 確かにルナちゃんが食べている間は、百面相みたいで面白かった。ぷぷっ


「面白い顔してて、見てて飽きなかったよ。ふふっ」

「あー 笑ったあ! マヤ様酷いです……」

「その顔も面白い。ぷぷっ」

「えー」


 ルナちゃんは膨れ顔になる。

 パティも顔に出やすくて面白いけれど、ルナちゃんはそれ以上かもなあ。


「マヤ様は貴族様なのにメイドさんと友達みたいにすごく仲良しなんですね。でね、メイドさん。私と友達になってくれませんか?」

「ええっ でも……」

「友達になってあげなよ。王都なら時々連れて行ってあげるから」

「じゃ、じゃあよろしくお願いします…… ルナ・ヴィクトリアといいます」

「ミシェル・シャノワーヌといいます! よろしくね、ルナちゃん!」


 ルナちゃんは自分の面白い顔について釈然としないのか、ややぎこちなくミシェルちゃんと握手し、今日から友達になった。

 私も言葉に責任を持って、ルナちゃんを王都まで連れて行ってあげないとね。


「きゃー! マヤ様だぁぁぁ!」

「むぐゅ……」

「あっ!? ママったら!」


 ミシェルのお母さん、金髪ツインテール美熟女のミシュリーヌさんがコックコートのままで私に抱きついてきた。

 そしてスリスリ頬ずり。この人も相変わらずだな。

 細身だからフワッとした感じではないが、この香り…… ん?


「ブリュレはひょっとして、お母さんが作ったんですか?」

「そうよぉぉ どうしてわかったの?」

「あの、ブリュレの香りが……」

「ああっ! そうねえぇぇ! ヤだわぁぁぁ あっはっは!」


 やっぱりそうか。

 ブリュレの香りがする熟女。ビデオのタイトルになりそうだ。

 しかし根っから明るいお母さんだな。

 ミシェルちゃんの性格もここから来てるのか。


「あの! ブリュレがすごく美味しかったです! また食べに来たいです!」

「あらっ 嬉しいわ! んんっ? この子も可愛い! 髪型がミシェルによく似てるわねえ!」

「むにゅうっ」


 ありゃ、今度はルナちゃんにミシュリーヌさんが抱きついた。

 抱きつき癖がすごいが、他のお客さんにやってないか心配になる。


「ママっ この子ルナちゃんといってね。今日からお友達になったんだよ」

「あらそう? じゃあお土産にブリュレをプレゼントしてあげるわねえぇぇ」


 そう言って、ミシュリーヌさんはルナちゃんから離れて厨房へ戻って行った。

 入れ違いに、マスターのセザールさんが来る。


「ああ…… 騒がしくて申し訳ございません。これが、持ち帰りのキッシュです」


 セザールさんから、薄い紙で包んだキッシュが二枚入っている紙袋を手渡された。

 この国はあまり持ち帰りの文化が無いので、ちょっと無理を言ったわりには丁寧にしてくれたので有り難い。


「おおっ ありがとうございます。マスターのキッシュが美味しすぎて、お代わりしても食べきれないですから」

「ハッハッハッ 気に入っていただけて何よりです」

「エレオノールさんは最近来てるんですか?」

「ああ、つい先週でしたかな。たくさん食べて、同じようにキッシュを持ち帰ってましたよ。食欲は相変わらずで―― ハッハッハッ」

「目に浮かぶようです。フフフッ」


 エレオノールさんと会ったのはウスターソースを貰った後なのでそれほど月日は経っていないが、元気そうで良かった。

 たくさん食べているのに太っていないけれど、多少はムチッとしているのでいろいろ妄想してしまう。


「ねえパパ。マヤさんのメイドさんでルナちゃんというんだけど、私と同じ歳で友達になったの。また来てくれたらちょっとくらいサービスしてあげても良い?」

「ああ良いよ。ミシェルのことよろしく、ルナさん」

「あっ ああっ よろしくお願いします……」


 ルナちゃんは顔を赤くして照れていた。

 彼女はこういうダンディーな金髪のヒゲオヤジさんがタイプ?

 いや、彼女は数年前に家族が魔物に殺されたと聞いた。(第七十四話参照)

 もしかしたら父親と雰囲気が似ていたのかも知れない。

 ヒゲオヤジと言えばガルシア侯爵もだけれど、特別な反応は無かったな。

 うーん、わからん。


 ――ちょっと話し込んで遅くなったが、ミシュリーヌさんからクレームブリュレを受け取り店を出た。

 美味しいお土産がたくさんで、ルナちゃんはホクホク顔である。


---


 それから王宮近くの高級商店街へ戻り、ブティックで大人へ成長してきたルナちゃんにロングスカートやパンツのシックなコーディネートで服をプレゼントした。

 ルナちゃんは恐縮していたけれど、今までのお礼、ボーナスだ。

 パンツ姿のルナちゃんは珍しいけれど、今までの自分と違う姿が見られて気に入ってくれたようだ。

 ちなみにこのブティック、インファンテ家のお父上が経営しているので多少顔が利く。


 王宮へ戻り、モニカちゃんに本日泊まる部屋を案内されたのは、いつも使っていた女王の寝室の近くにある部屋。ルナちゃんと共に――


「にっひっひっひっ 食事の時間になったら呼びに来るから、二人とも頑張ってね。ふひひっ」

「ああっ モニカちゃんったら!」


 私たちはモニカちゃんに部屋へ押し込められるように入れられ、彼女はすぐに去ってしまった。

 ルナちゃんと二人きりになるのは初めて王宮へ来た初日からなので今更なのだけれど、同じ部屋で一緒に寝ることになるのか?

 ルナちゃんは別の部屋へ案内されるかと思っていたが、モニカちゃんの計らいなのか、彼女自身、私とルナちゃんがイチャイチャするのを勧めているのはどういうつもりなのか。

 で、彼女と寝るのは初めてになるんだけれど――


「あの…… ちょっと休憩してから、前みたいにお風呂で洗ってくれるかな……?」

「はい…… では、先にちょっと準備してきます……」


 久しぶりなので、お互い照れくさくなっていた。

 初めての王宮入りから三日目で、ルナちゃんは白いキャミソールとカボチャパンツだけの姿になって、全裸の私をお風呂で洗ってくれた。(第八十一話参照)

 ルナちゃんがマカレーナへ来てから、人目もあるしそういうことはしなくなっていた。

 だが今晩の機会を逃すわけにはいかない。

 ルナちゃんともっと距離を縮めたい。


「今、お風呂にお湯を貯めていますので。お召し替えする服も準備しますね」

「うん」


 ルナちゃんがお風呂から戻って来て、荷物からパジャマなどを出して準備してくれているが、何だか間が持たない。

 それから彼女はお土産に貰ったクレームブリュレを、部屋に備え付けてある魔動冷蔵庫に入れておく。


「お風呂上がったら、冷たくなったブリュレを食べましょうね」

「うん、それ良いね」


 私が姫ソファーに座ると、やることを終えたルナちゃんが若干距離を空けて、隣へちょこんと座る。

 ますます間が持たなくなるが、ベタッとくっ付かれてもそれはそれで何だか恥ずかしい。


「あの…… 友達が新しく出来て嬉しかったです。小さい頃の友達がほとんど魔物にやられて居なくなったし、王宮ではモニカちゃんたちだけ仲良くしてたし…… ああ、マカレーナではジュリアさんやビビアナちゃんたちと仲良くなれたし、マヤ様に感謝してるんですよ」

「そっか…… うん。ルナちゃんを連れて行って良かったよ。お店でも言ったけれど、出来るだけ王都へ連れて行くよ。もし私が王都で忙しくても一人でお店へ行けるよね?」

「はいっ それは大丈夫です。王宮の近くから南の町へ辻馬車の直行便が出てますから」

「うん――」


 そこで会話が途切れてしまった。

 私もそんなおしゃべりな男ではないから、こんな時チャラ男だったらどう話してるんだろうね。

 まあ、ルナちゃんがチャラ男と好んで話すわけないけれど。


「そろそろ、お風呂にお湯が貯まってそうだから見てきますね」

「うん」


 さっきから私は「うん」ばかり言ってる。

 私の方が緊張してるよなあ。

 慣れている女の子だけに、余計にそうなる。


「お湯、貯まりました。さっ 服を脱ぎましょう」

「――う、うん」


 言葉が出ない。

 私はルナちゃんに立たされ、あれよあれよと上着とズボンを脱がされて、シャツと黒いビキニパンツだけの姿になってしまう。

 後ろにいるルナちゃんは――


「少しそのままでいて下さい、私も脱ぎますから。こっちを見ないで下さいね」

「あ…… うん」


 ルナちゃんもキャミソールとカボチャパンツになるんだな。

 脱ぐ仕草を見られるのはやっぱり恥ずかしいのだろう。

 あれ? カボチャパンツって今も履いているのか?

 アリアドナサルダでは普通の下着を買っていたと思うけれど……


 ――ゴソゴソッ ファサッ ファサッ シューッ パッ


 脱いでいる音が、じらされているみたいでゾクゾクしてくる。

 後ろを向いてみたいけれど、見ちゃいけない見ちゃいけない……


「マヤ様、そのまま後ろを見ないで両手を挙げて下さい。シャツを脱がしますから」

「うん」


 言われたとおり万歳して、ルナちゃんはシャツを上げて私の頭を出すと、私は手を下げて彼女はシャツを手から抜いてくれた。

 一瞬、ルナちゃんの胸が背中に当たったと思うけれど、キャミソールにしては感触が変わっていたな。

 そうか、今日はそういうブラかも知れない。

 いよいよビキニパンツを脱がされる……

 ルナちゃんは後ろからパンツの両側を指で掴み、躊躇(ちゅうちょ)無くスーッと下へ降ろした。

 分身君がびよーんと現れる。

 ビキニパンツを脚から外して、私は全裸となった。


「もうちょっとそのままでいて下さいね」

「うん」


 ゴソゴソと聞こえる音は、脱いだ服を片付けているのかな。

 前を向いたまま、まっすぐ行けばバスルームだ。


「マヤ様…… 今晩は思い出を下さい……」

「えっ?」


 後ろからルナちゃんが抱きついた。

 え…… この感触…… 生肌の胸!?

 背中にはっきりとポッチが当たっているのがわかる。

 変わった感触なのは、そういうことだったのか……

 じゃあ、お風呂はルナちゃんも全裸?

 いやそうとは限らない。下は履いているかも知れないぞ。

 しかし、思い出を下さいという、意味深げな言葉があった。

 ――この先、ど、どうなってしまうの?


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