第三百七十三話 フィエスタ・デ・キンセスと真面目セレナさんの秘密
2025.11.1 後半、マヤとセレナさんとのやり取りを大幅に改稿しました。
今回は新キャラのセレナさん登場で、ちょっと長めです。
実際には第二十五話で黒ぱんつの女の子として一瞬だけ登場しています。
大聖堂で成人の儀式、キンセアニェーラが行われた後は、皆でダンスをし、たくさんの料理が振る舞われる、フィエスタ・デ・キンセスが行われる。
いつもの誕生日パーティーより派手になる、十五歳成人記念パーティーなのだ。
大聖堂から馬車で移動し、近所なのでパティの同級生たちは歩いてゾロゾロと屋敷へ向かう。
エリカさんたちは馬車で先に行ってもらい、私は自ら案内役をするからと言ってこの子たちに混じって行く。みんなハツラツの二十一歳だぞ。
まるで女子大生に囲まれているようで、私の心はウハウハだ。
「マヤ様! お久しぶりですぅ!」
「やあアリシアさん、元気そうで何よりです」
「私の名前、覚えていて下さって嬉しいです! マヤ様のロベルタ・ロサリタブランドのランジェリー、とっても素敵でいつも買ってますよ!」
「ははは…… ありがとうございます。私のデザインだと知ってたんだね」
「私も私も! すっごいセクシーで、旦那もお気に入りだから夜も仲良しなんですっ うふふっ」
「ええっと…… あなたはベニータさんでしたか。それはそれは、夫婦円満で何よりです」
そんな感じでパティと勉学を共にしたマカレーナ女学院の卒業生たちに取り囲まれ、ロベルタ・ロサリタの話題で持ちきりになってしまった。
マカレーナでは私がそんなに有名になっていたのか……
パティやミランダさんにはあまり私のことを言わないでと頼んでいたけれど、女性の口コミというのは広がるのが早いものだな。
初めて王都へ行くまでは、魔法の臨時講師をやってるエリカさんの助手としてマカレーナ女学院へ何度か足を運んでいた。
その時に名前を覚えられるまで知り合えた子たちが何人か出来た。
「パティがマヤ様と婚約することはわかりやすいくらい気づいていたけれど、まさか子爵に上がって陛下の側近におなりとは、びっくりですよ。しかもカタリーナ様まで王子様に見初められて…… ああ、羨ましいいいいっ」
そう話しかけてきたのはブリアンダさんだったかな。確かカルボ男爵のご令嬢……
エリカさんが風属性魔法の発動を失敗させてクラスみんなのスカートを捲り上げた時に、クラスの中で珍しくシックな花柄ぱんつを履いていた子だ。(第二十五話参照)
雰囲気も他の子たちより大人びており、色っぽい。
「いやあ、飛行機の操縦と出掛けた時の護衛ぐらいのものだから、側近というほどでもないですけれどね。カタリーナ様についてはみんなもまさかのことで驚きでした」
と応えると、ブリアンダさんが私の腕に絡みついてきた。
おいおい…… まるでエリカさんのように胸を押しつけ、しかもサイズが一回り大きい。
何のアピールをしてるんだか。ウホホッ
「あの……」
「ねえマヤ様、私もお嫁にいかがですかあ? なかなかイイ男が見つからないんですの」
「いやあ、あまりお嫁さんが増えると、パティがまたどんな顔をするやら……」
「あははっ あの子だったらそうですよねえ。それに、大聖堂で一緒に座ってらしたエリカ様や他の女性お二人とか、競争率高そうですもんねー」
意外に常識派のブリアンダさん。確かにモテるのは光栄だけれど、これ以上奥さんが増えたらいろいろ持たないぞ。
まだ結婚願望が無いエリカさんはともかく……
あれ? ブリアンダさんって、この様子じゃヴェロニカ王女のことを知らないのかな。
「ブリアンダさん、そんなにくっ付いてマヤ様に失礼ですよっ」
「えー こんなチャンスって無いからなのに。あっ!? セレナもマヤ様を狙ってんだ!」
「そそそっ そんなことは無いですっ」
「ふーん…… 顔が真っ赤だけど。アハハハッ」
「はうううっ……」
ブリアンダさんに突っかかり逆撃を被ったのは、セレナさん。
前回、十四歳の誕生パーティーにも登場したサラゴサ男爵のご令嬢で、黒縁の眼鏡を掛けている風紀委員風の真面目っ子だ。
だがエリカさんが失敗風属性魔法でスカートを捲ったときは黒ぱんつを履いており、そういう子がセクシーなぱんつを履いているとそそられる。
彼女は時々パティと会うためにガルシア家へ訪問しているらしいが、私と会うのは久しぶりだ。
今日は薄いブラウンの髪の毛をお団子にまとめており、濃青色のドレスがよく似合う。
私は眼鏡属性もあるので、こういうお姉様も好みである。
「セレナさん、久しぶりですね。いつもパティと仲良くしてくれてありがとうございます」
「い、いえこちらこそ…… わ、私…… ロベルタ・ロサリタブランドの大ファンなんです。どうか…… 後でサインを頂けますでしょうか?」
「え? ああ…… 私のサインで良ければ、いくらでも書いて差し上げますよ」
「ありがとうございます! また、お声を掛けますので……」
「はい、承知しました」
セレナさんもロベルタ・ロサリタのぱんつを履いてくれているのか。
すごい人気だけれど、直接サインを求められたのは初めてだっけ?
芸能人みたいな格好いいサインは書けないけれど、普通に名前を書けば良いのかな。
――こうして女の子たちと話しながら歩いていると、あっという間にガルシア侯爵家へ着いてしまった。
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馬車組は先にホールへ集まりガヤガヤとしていた。
料理がテーブルへどんどんと運ばれている。
一部はジュリアさんがグラヴィティで皿をいくつも浮かせて運んで来ており、パフォーマンスというわけではないが、珍しいので来客が面白そうに喜んでいた。
スサナさんとエルミラさんは今回護衛任務から外れ、料理を運んでいる。
それでもエルミラさんは淑女に人気があって、集まってくる子らがたくさんいるから困ってるようだ。
他にルナちゃん、普段はアマリアさんらのお付きをしているクララさんとエバさん美人アラフォーコンビも、ホールで活躍している。
ビビアナは調理担当なのであんまり表へ出てこないが、どうせ厨房で摘まみ食いをしていることだろう。よく太らないよな。
「うひょぉぉぉ! なんだこりゃぁぁぁ!?」
「ほほーぅ いつもより豪勢だなっ」
と叫んでいるのは、並んでいる料理を見て驚いているアムとアイミである。
彼女らは自分で衣服を生成するとはいえ、さすがにいつもの服装でパーティーへ出られても困るので、可愛いドレスの絵が描かれている本をお手本にして生成してもらった。
アムは青くフワッとしたドレス。いつもは少年のような雰囲気の彼女だが、化粧も生成させて見違えている。
アイミは、前回の誕生日パーティーではパティのお古を着させてもらっていたが、今回は自分で生成した黒いドレス。
見た目の年齢に合わせて後ろに黒い蝶々のようなリボンがついていて、可愛らしい。
化粧も生成させたが、やたらとケバくてアムも大笑いしてしまったので、ピンクの口紅だけにした。
「食べるのはパティの挨拶が済んでからだぞ。後で特大のケーキが出てくるから楽しみにしてな」
「なんだとぉ!?」
「去年より大きいのか?」
「ああ、一回り大きいぞ」
「「ふぉぉぉぉ!」」
二人はまるで戦闘開始のような気合いの入れようだった。
こいつら、甘い物が大好きなんだなよあ。
ケーキはいつものように別注で、近所のお菓子屋さんに頼んである。
パーティーの中ほどで登場する予定だ。
さて、参加者が集まったようなので、パティの挨拶が始まる。
司会はいつものようにフェルナンドさんが進行。
「では、お嬢様。ご挨拶をよろしくお願いします」
「皆様、今日はお忙しいところ、私のためにお集まり下さいまして、ありがとうございます。今日で私は十五歳になり、大人の仲間入りをさせていただくことになります。これまでに成長が出来たのも、家族や皆様のおかげでございます。これからもご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」
――パチパチパチパチパチパチッ
テンプレのような挨拶文だが、短いのは良いことだ。
次はガルシア侯爵の挨拶だが――
「えー、本日は我が愛する娘の、成人の祝いの席にお集まりいただき誠に有り難うございます。この子が生まれる日は、私はオロオロと心配するばかりで何も出来ないでおりました、ですが――」
長くなりそうだな。
次は学院長の挨拶もあるし、早く終わって欲しい。
「――ああ、長くなり申し訳ない。では……」
隣にいたアマリアさんが袖を引っ張ってガルシア侯爵の演説を制止し、侯爵はまだパティの生い立ちを語りたかったようだが、渋々と引き下がる。
ナイスだよアマリアさん。
「次はマカレーナ女学院、バルデス学院長からのご挨拶です」
だいたい校長先生の話って長いのがお決まりだからなあ。
私がいた学校では校庭での朝礼で貧血になって、倒れたやつもいたくらいだよ。
「ご紹介に与りました、マカレーナ女学院の学院長をやっております、アデリナ・バルデスと申します。パトリシアさんは…… 飛び級で勉学や魔法力が優秀でありましたが、それ以上に周りの子たちとは大きな年齢差があるにもかかわらず、とても仲良くやっておられて私は感心しました。それが、きっと将来の糧となるでしょう。ですが時々危なっかしいところがありますから、皆さんどうか助けてあげて下さいね。オッホッホッホッ」
「が、学院長ったら…… うううっ」
学院長の言葉に、パティは顔が真っ赤になっていた。
確かにパティが大魔法をぶっ放す時は危なっかしいしなあ。
おっ? 挨拶はこれで終わりなのか。
さすが学院長、わかってらっしゃる。
「それでは皆様、これよりダンスタイムです。始めにお嬢様とガルシア侯爵閣下が披露して下さいます。どうぞ!」
――ズンチャ ズンチャ ズンチャ ズンチャ
弦楽器を中心とした騎士団の音楽隊が演奏を始める。
ワルツに合わせてパティとガルシア侯爵が踊り出す。
成長した愛娘と踊る侯爵は、ぐぬぬと半泣きしているほど感無量の表情。
二人とも実に軽やかなステップで、練習をしたのだろうか。
続いて、パーティー参加者も続々とペアを組んで踊り出した。
――わっ アムとアイミが手を繋いでノリノリで踊ってるよ。
ああしていると可愛げに見えるんだがなあ。
私の最初の相手には、まるで狙っていたかのように、真っ先にセレナさんがやって来た。
あまり話したことが無いのに……
ああそうか、サインを頼まれていたんだっけ。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、セレナさん」
私が手を差し出すと、彼女は恥ずかしそうに手を取った。
化粧は薄いが、黒縁の眼鏡がトレードマークになっていてすごく似合っている。
この世界はまだ眼鏡が高級品で、縁なし眼鏡は存在していない。
だが目が悪い人が少ないそうで、眼鏡自体が要らないのだ。
ほほぅ。抱いている腰はか細いが、胸はありそうだな。
他の同級生たちと違って胸元を閉じている控えめなドレスだけれど、Dカップくらいだろうか。
ほんのりとジャスミン系香水の匂いに混じって女の子独特の香りが漂い、ドキッとする。
自分のニオイに合った香水を使っている、その選択は素晴らしい。
セレナさんとは前回のパーティーでも踊ったことがあり、一年ぶり。
さすが男爵令嬢だけあってダンスは上手で、知らないうちに私がリードされているほどだ。
彼女のことはよく知らないけれど、付き合っている男性はいるのかな。
よく学園アニメにいる風紀委員っぽいキャラのごとく、やや男性が苦手そうな雰囲気なのだが淑女としての嗜みは申し分なく、親しい男性がいるのかいないのか掴み所が無い。
フフフッ まだ侯爵とダンスを踊っているパティが、私たちが踊っているのをチラチラと見ているのがわかる。
そんな浮気なんて心配しなくても良いのに。ハッハッハッ
――ダンスの調子が乗ってきたところで、セレナさんから声を掛けてきた。
「あの…… これからサインを…… お願い出来ますか?」
「いいですよ。えっと……」
「私に付いてきて下さいませ」
「はい」
手を解いて、私に目も合わせずスタスタと先に行ってしまう。
ブリアンダさんと違って、そのあたりの行動は男性が苦手だろうというのがわかる。
あれ? ちょ…… 会場を出てどこへ行くつもりなんだろう?
サインだけなら会場の隅っこでも良いのに。
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セレナさんに付いて行った先は、バルコニーだった。
彼女は何度かこの屋敷にお邪魔しているから、勝手がわかるのだろう。
いつもパーティーの終盤にパティと二人だけで踊る場所だ。
人気は無く、パーティーがまだ始まったばかりなので誰もここへ来る様子は無い。
「あの、どうしてここへ?」
「は…… 恥ずかしいので誰もいないところが良かったんです……」
「そうなんですか……」
うーむ…… サインをするだけなのに、極端にシャイな人には見えないのだが。
彼女はモジモジしながら、懐からペンを取り出し、私に渡してくれた。
「どこにでも字が書ける、魔動具のペンです。これでお願いします」
「ああ、サインはペンが要りますもんね。私、ペンを持って来るのを忘れてました。わざわざ用意して下さってありがとうございます。色紙はありますか?」
「色紙はありません。別の物を用意しておりますので……」
「はあ……」
「今から準備します。わ、私の姿を見て退かないで下さいまし…… でもマヤ様ならばきっとおわかりに……」
「へっ?」
セレナさんはクルッと後ろを向いて、バルコニーの手すりに手を掛けて深呼吸をしている。
「スゥー ハァァァァ…… スゥー ハァァァァ……」
まるで、意を決して勇気を振り絞るかのようだ。
たかがサインをしてもらうのにそんなことをするか?
そこへ、セレナさんはスカートの両端を掴んでゴソゴソとたくし上げようとする。
――ガバッ
はぁぁぁっ!?
セレナさんはスカートをグッと持ち上げ、白いぱんつを履いたお尻を丸出しにして、私の方へ突き出した。
あんな真面目そうな彼女が目の前で、私の想像し得ないまさかの行動に衝撃を受ける。
ショーツはフルバック。白くテカテカとした高級なシルク製のようだ。
「あ、あの……」
「ささっ さあ、私のお尻にサインをお願いしますっ」
「えっ? あ…… そういうことですか」
私はセレナさんのお尻に近寄り、ペンを構える。
これ、どう見ても油性マーカーペンのマ◯ックインキだよな。
それはともかく……
で、シルクのおぱんつはこの時のために用意してくれたのか……
フルバックで広いから存分に書ける。
ローライズだからお尻の割れ目が見えかけているので、ペロッと捲ってみたいがやめておく。
サイドのレース以外はスタンダードなデザインなので他のブランドと見分けがつきにくいが、後ろに付いているタグを見ると当然のようにロベルタ・ロサリタブランドだった。
ふわぁぁぁ…… スベスベとした白い太股の裏が美しい。
いやいや、見てないで早く書いてあげないと。
――コリコリ キュッキュッ
アルファベットで私の名前を書いた。こんなものか。
後ろを向いているから顔がよく見えないけれど、興奮しているのかハァハァと彼女の息が上がっている。
あー あれだ。ジュリアさんやミランダさんと同類の人だな。
表では澄ましているが、裏では性癖が漏れ出してしまうタイプ。
嫌いではないけれど、ミランダさんやロレナさんは既婚者だから扱いにくい。
「上等なランジェリーに下手な字で申し訳ありませんが、こんなものでよろしいでしょうか。――って、見えませんよね。ハハハ」
「ありがとうございます…… 私がこのような恥ずかしいお願いをしても、嫌がらずにマヤ様はサインをして下さった―― 私の思っていたとおりの方です」
「――そ、そうですか」
セレナさんはたくし上げていたスカートを下ろし、私の方を向く。
眼鏡が曇るほど顔を真っ赤にしていた。
しかし―― 私の性格が見透かされている?
ほとんど話したことが無いのに何故?
パティが話したのだろうか。
いや、私がこんなムッツリスケベなことでヘラヘラしてるなんて、他人に話せるはずがない。
その前に、彼女へ聞きたいことがある。
「質問があるのですが、履いているショーツに書くより、履いてない状態のショーツを渡してもらえたら、もっと簡単にサインが書けたと思うのです。どうしてですか?」
「それではダメなんですっ」
「えっ?」
「ダメッ ダ、ダメ…… ううっ」
セレナさんはぷるぷると震え、ダメと小さく叫んだ後は言葉を詰まらせているようだ。
わざわざ履いているぱんつにサインを書かせた理由とは?
「あのっ わわっ わたっ 私は…… ままっ マヤ様のことをお慕い申しておりますっ」
「なっ!?」
突然の告白に、私はたじろぐ。
お慕い申して…… 単に私のファンでなかったということか。
ただ彼女と私の接点からして、ロベルタ・ロサリタブランドの愛用者と、パティの友達以外に無い。
私が好かれる要素とは?
セレナさんの容姿は、私は好みであるが。
「はぁっ はぁ…… その…… 今まで、こ、告白を申し上げることがなかなか出来ず、ずっと悩んでおりました…… はぁっ はぁっ」
精一杯の告白だったのか、彼女は息が上がっている。
純粋な女性なのだろう。
まだガルシア家に居るときに彼女がパティと一緒なのを幾度と見かけたけれど、挨拶以外に話す機会が無かった。
思い悩んでいるのはその時からだったのか。
そういえばパティの後ろでいつも恥ずかしそうにしていたな。
さっきダンスを誘ってくれた時は澄ましていた様子だったけれど、真っ先に私の元へ向かった真意がやっとわかった。
「はぁっ…… ご、ごめんなさい。すごくドキドキしてしまって……」
「いえ……」
「今、私がマヤ様にお願いしたことの通りで、あれが私の素性です。マヤ様であればご理解下さると考えて、あのような行動に出ました……」
なるほど…… 自分のその性癖を理解してくれる男性を探していて、私を試したというわけか。
だとしても、誰にも試すことが出来ないこのような行動を突然行うには、何か理由があるはず。
「――どうして私のことを好きになってくれたのか、具体的に教えてもらえますか?」
「私…… 以前よりパトリシア様からマヤ様のことをいろいろ伺っておりました。素敵な方だという印象は持っておりましたが、恋愛感情は生まれてきませんでした。ですが、以前からよく利用していたアリアドナサルダでマヤ様がロベルタ・ロサリタというブランドを起ち上げられてから、私の心は一変しました」
「ほほぅ……」
「あの…… 誰にも考えつかなかったようなセクシーなデザイン、女性の身体のことをよく考えてくれているデザイン、とても衝撃的でした。こんな素敵なデザインのランジェリーをパトリシア様にお話ししたら、マヤ様がデザインなさっていると伺いまして…… それからお慕いしております…… ロベルタ・ロサリタブランドの大ファンなんです」
「――そういうことだったんですね」
彼女が告白をした後は落ち着いて息が上がらなくなり、それからまるでオタクのように口が滑らかになる。
やっぱり話の出所はパティか。
自分が好きなデザインの下着を、私がデザインしたとわかって、私のことを好きになってくれた――
それだけでは単純すぎる。まだ理由が他にあるはずだ。
「お察しの通り私は表向きだと真面目な性格で通っています。ですが、私の素性はそんなものではありません。恥ずかしい話ですが、私、自分自身の下半身が大好きなんです…… 昔からいろんなショーツを買い求めては、鏡で見て楽しんでいました。今は千着ぐらい持っています」
「千着も!? すごいですね」
一度、セレナさんの部屋へお邪魔してみたい。
いくつもの引き出しの中がぱんつで詰まっていそう。
よほど自分の下半身に自信があるのか、確かに太股は美しかった。
ぱんつの下がとても気になる。
「それで、マヤ様がロベルタ・ロサリタのデザイナーだということ知り、男性なのに私の心のツボに刺さるセクシーなショーツを次々と登場させて、もう私のことを理解して下さるのはマヤ様しかいないと確信したのです」
わかった……
結局、セレナさんの性癖にささるのは私しかいないという話か。
ただスケベな男というだけじゃなく、私がデザインしたぱんつの全てを見て、私がどんな人物かを理解してくれたというわけか。
こんな女性はなかなか希有だ。
もし仲良くなったら、私のデザインの仕事を手伝ってもらえるかも知れない。
「わかりました。ですが私はまだセレナさんのことをよく知りませんので、即答しかねます。パティと三人で話し合って、これからは時間を作って仲良くさせてもらうというのはどうでしょうか?」
「ももっ 勿論でございますっ パトリシア様は一途な方ですから、こっそりお付き合いするわけにはいけませんからね。今こうして二人で会っているのも、あの子にはとても申し訳ない気持ちです」
この辺は常識を持っているのだな。
ベッドの上ではすごいことになるのか、その辺は追々に……
「それでお願いがあるのです」
「ははっ はい。何でしょう?」
「三人で話をする時、先ほどセレナさんから告白されたことは無かったことにして欲しいんです」
「ど、どうしてですかっ?」
「セレナさんが今仰った通り、二人で会ってパティに申し訳ない気持ち…… 告白済みとうことをパティが知ったら彼女はきっと失望しますよ。だから口裏を合わせて欲しいんです」
「――承知しました。三人でお話をする時に改めて私の気持ちを申し上げます」
「そういうことで、私からパティへ話すと怪しまれるので、セレナさんのほうからその期日を話してもらえますか?」
「はい、そのようにさせていただきます」
私たちは互いに握手して、この場を終わりにした。
あまり長居していると、パティに何かしら疑われてしまう。
セレナさんを先に帰し、一分ほどの時間差を作ってホールまで戻った。
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だが帰った途端に、パティに問いただされてしまった。
ガルシア侯爵とのダンスを終えて、次の相手を断って食事をしていたところで私が帰ってきたのをすぐ見つけたのだ。
「マヤ様、どちらへ行かれていたんですの?」
「いやあ、セレナさんにサインをねだられてね。前に私が使っていた部屋へ紙を取りに行ったついでに、その辺で少し話をしただけだよ。ほら、パティが私のことを彼女に話してたみたいで、ロベルタ・ロサリタブランドに興味を持っているそうじゃないか」
嘘ではない。紙以外は……
「そうだったんですかあ。確かにセレナ様はロベルタ・ロサリタに興味津々でしたから、お話をしましたらとても喜んで下さいましたわ。うふふっ」
「それで、三人で大事な話をしたいそうだけれどなんだろうなあ? セレナさんからそのことについて日にちを決めたいと、後で話があるそうだよ」
「承知しましたわ。マヤ様がヒノモトの国へお立ちになる前に機会を作りましょう」
「ありがとう」
三人で話す事を、ちょっと惚けて言ってみた。
あああ…… その時話す内容が…… またお嫁さんが増えるかも知れないのか。
せっかく美味しい料理が並んでいるのに、胃が痛くなってきそうだ。




