第三百六十九話 王都のアリアドナサルダ本店→ミカンちゃんに会う
ラミレス侯爵家で話が済んだ後は、美味しい昼食。
夫人の得意料理で、イスパルの料理であるレンズ豆の煮込みシチューが出た。
セシリアさんもマカレーナの我が家でたまに作ってくれる。
「やっぱりお母様の料理の腕には叶いませんね。うふふっ」
「そんなことないよ。セシリアさんのシチューも十分美味しいから」
「あらあら、もう仲良し新婚夫婦みたいね。オホホッ」
セシリアさんは顔を赤くして照れている。
などと、アニメでもありがちなシチュエーションがここにもあった。
いやー アスモディアから帰って、平和が続いてますなあ。
昼食を頂いて休憩後、セシリアさんは久しぶりの家族水入らずで過ごすため、今度は私一人で王都へ飛び立った。
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王宮広場の隅に、飛行機を着陸させる。
勝手知ったる王宮。近衛兵にも「あっ マヤ様がまたいらっしゃった」という感じであまり意に止められなくなっている。
王宮へ入らず、そのままアリアドナサルダ本店やミカンちゃんに会うため出掛ける。
「おーい!」
「マヤ様! どちらへ行かれるのですか!?」
「アリアドナサルダへ行って、他に用事を済ませてくる! 夕方には戻るからと陛下にお伝えしてくれ!」
「承知しましたあ!」
近くに居た近衛兵に手を振って声を掛け、グラヴィティムーブメントの魔法でアリアドナサルダ本店へ向かった。
ノーマルのグラヴィティ+風属性魔法では、風音がするので静かになって良い。
本店に到着すると、人妻レジ係のカロリーナさんが私の姿を見つけるなり――
「あっ マヤ様が男に戻ってる! すぐに代表を呼んできますね!」
勢いで、すぐに引っ込んでしまった。
そんなに急ぐことかな……
と思っているうちに、アリアドナサルダ代表のロレナさんが現れた。
気味が悪いほどニコニコしている。
「こんにちは、ロレナさん。無事に男へ戻りました」
「まあまあ! マヤ様はやっぱり男の子が良いですわあ。さっ 奥へどうぞ」
「はい」
言われるがままに執務室へ押し込められる。
また、ぱんつの着せ替えごっこをさせられなければ良いが。
――執務室では、溜め込んでいた新しいデザイン画を描いたノートを渡す。
対面に座っているロレナさんがノートのページをパラパラと捲っては、鼻息荒く興奮していた。
この会社の社風なのか、アリアドナサルダの女性はどうしてこうなんだ。
あ、そういえば男性社員って見たことが無い。
「いつもいつも、こんな刺激的なデザインをありがとうございます!」
「ちなみにこっちのショーツは、お尻が垂れ気味の方にもお洒落をしてもらえるように、重力から守るためにお尻を覆いつつ、Tバックのようにセクシーさを出すために後ろを透けたレースであしらってます。その代わり、ここにも書いてあるように繊維はしっかりしたものが必要になります」
私が説明を終えると、ロレナさんはぷるぷる震えて涙を溢した。
えええっ!?
熟女を泣かせてしまったが、説明にそんな要素があったか?
「マヤ様の女性に対するお気持ち、私、感服いたしました。自身が女性になられたことでさらに向上なさったのですね」
「ああ…… まあ」
そういうわけでもないんだが、彼女に話を合わせておいた。
ランジェリーに対するロレナさんの意気込みが強すぎるのかも知れないが、悪いことでは無いし会社の代表として賞賛されることだ。
痴女行為が無ければ良いけれど、清純なレイナちゃんに移ったら嫌だなあ。
おお、そうだ。
「そういえばレイナちゃんはお元気ですか? しばらく会えていないので……」
「ええ。いつもの三人で仲良くやってますわ。マヤ様どうしてるかなあって、よく言ってますよ」
「それはそれは……」
「いつだったいらっしゃった時にお見かけしたみたいで、マヤ様に似ている女性だってすぐわかったそうですよ。王宮へお急ぎだったそうで、お話しが出来なくて残念がってましたわ」(第三百二十一話参照)
「ああ、あの時は親書を受け取って持って帰らなければいけなかったんですよね。水着の話もあったような……」
「先日、陛下からお話しがありましたよ。ラガのビーチでバカンスですって。あーん! 私もマヤ様に水着を披露したかったですぅ!」
「はは…… それはさぞ美しいことでしょう。レイナちゃんたちも誘ってみたかったんですが、陛下の公務や護衛に気を遣わなければいけなかったので……」
「承知しておりますわ。陛下のおもりは大変でしょうからね。あっ ここだけの話で…… ホホホホッ」
ウチの国の女王は、創作物みたいな悪役女王みたいな人使いが荒いことや我が儘で人当たりが悪いということではないが、個人的に手が掛かるのだろう。
私の場合は夜のお相手、ロレナさんは代表自ら王宮へ訪問販売しているので、そんなことだと思う。
「そうそう、大事なことがありました」
ロレナさんはそう言って、デスクの後ろにある金庫から小さな袋を取り出した。
同時に、饅頭でも入ってそうな白い箱をデスクから持ってきた。
饅頭なわけないから、何だか怪しい……
「売り上げに対してのリベート、今回は白金貨五枚です。キリがよくなりますから、少しばかり色をつけておきましたよ」
袋を受け取った。白金貨五枚は五百万円相当かな。
札束より軽いが、白金貨はメダルみたいで、あまり使われなく汚れや傷が少ないので、大金をもらっちゃった感は大きい。
大食いのアムとアイミがいても、これだけあれば食費は十分賄える。
屋敷のリニューアルにも使えるぞ。
「ありがとうございます。前回頂いた時より間もないのに、随分多いですね」
「マヤ様のお陰ですよ。ロベルタ・ロサリタブランド、実はエトワール国にあるリーズ・シャルロワ(Lise Charlois)というお店と提携して、試験的に委託販売させてもらってますの。そこでも売り上げが好調で、本格的な取引をすることが決まったんです。あああっ マヤ様す・て・き! あっはぁぁぁん!」
「エトワール国ですか! とうとう私も国際ブランドへ進出かあ」
ロレナさんが悶えてる…… どうかそういうのは自重してくれ。
そのブランド名が、地球のフランスにあるブランド名に良く似たものがあって、ウスターソースと並んでパチモンくさいよなあ。
それは置いておいて、食と芸術の国と謳われているエトワール国で私のブランドが売り出し始めたなんて、知らないうちにすごいことになっていた。
私一人ではとても出来ないことだから、有り難いことだ。
「いずれはシェフィード国とルクレッツィア国にも進出を考えていますが、欲張らずに今は国内とエトワール国での基盤をしっかりと築き上げたいと思っています」
「そうですね。私もそう思います」
お金も貰えたことだし、早くミカンちゃんに会いたいのでこれで失礼する。
あと、ロレナさんにいじられないうちに……
ミランダさんよりはましなんだけれどねえ。
「それでは、他にも行くところがあるのでこれで失礼します。レイナちゃんにもよろしくお伝え下さい」
「ああっ もうお帰りですの? 残念ですぅ。是非試着して頂きたい男性向けランジェリーがあるのですが…… コレなんです」
ロレナさんが、さっきお金と一緒にデスクから持って来た白い謎の箱から、煌びやかな物体を取り出し、両手で掲げた。
「な、何ですかねこれは……?」
「男性用ベビードールを作ってみたんです。可愛いでしょ?」
「ああ…… あああ……」
白を基調に、ちょっとラメが入っているんですが……
こんなのを着たら、いよいよお笑いモノだ。
「いや…… 女だった時もベビードールは着たこと無いし、試着はいいので着たい人たちがいれば売れますよ。じゃ!」
「ああっ お待ちになって!」
「旦那様がいらっしゃるじゃないですかあ!」
「あの人じゃダメなんですう! うぇぇぇぇん!」
「お店に展示して、お客様に試着してもらってくださああい! それでは!」
泣き叫ぶロレナさんを横目に、私は大慌てで執務室から飛び出し、アリアドナサルダから逃げるように出て行った。
まあ、次にここへ来るのはヒノモトの国へ行く前だから、その頃には忘れてくれると願いたい。
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エスカランテ家へ到着。
今日はたぶん二時間ぐらいしか滞在出来ないと思うけれど、一刻も早くミカンちゃんの顔を見たい。
迎えてくれたメイドのマノラさんの話では、今日はエスカランテ子爵がいらっしゃるというので、応接室に通され少し待つ。
アポ無しで着てしまったのでみんなびっくりするだろう。
「おおっ マヤ殿! 男に戻ったか! ホッとしたよ……」
「ご心配をお掛けしまして申し訳ございません」
「ああ良かった。マヤさんはやっぱり男の方が素敵だわ」
「どうだシルビア? そろそろ二人目を考えてくれないか? 次は男の子がいいなあ」
「お、お父様ったら!」
「わうわうわうー!」
子爵夫妻とシルビアさん、ミカンちゃんが集まり、賑やかな団らんになる。
今日はミカンちゃんが元気に起きており、手脚をバタバタさせて何かお話しをしたがってるように声をあげていた。
そうか、二人目か……
シルビアさんの歳を考えたら、早い方が良いよなあ。
「おーいミカン、パパだよー こっちおいでー」
「わうわう! ぷー!」
「うーんそうかそうか。そんなに会いたかったかあ」
「はい、パパのところへ行っておいでー」
そんな初々しいやり取りをしながら、隣に座っているシルビアさんからミカンちゃんを受け取り抱っこする。
あああ…… 赤ちゃんのイイ匂いいいっ
うっ 顔を叩かれた。なかなか会いに来ないから怒ってるのかな。
ん? 以前より魔力量が多くなってるような。
「ねえシルビアさん、ミカンちゃんの魔力量が多くなって来ているけれど、何か変わったことはあった?」
「いいえ。確かに魔力量は伸びてきていますが、変化はありませんね。そもそもまだ文字が読めませんから。うふふっ」
「そりゃそうだよねえ。アハハッ」
と笑いつつも、私が最初に掛けた魔法は【魅了】で、無意識にアマリアさんをエッチな気分にさせてしまった。(第九話参照)
そしてエリカさんに魅了を使ったことを指摘されて、初めて私自身が魔法を使えることがわかった。(第十二話)
そういう例があったからあまり放っておくことは出来ないが、魅了の話をシルビアさんへ離すのは気が退ける。
私のほうでしばらく注意してみよう。
「ミカン、すごいなあ。これならエリカ殿のような魔法使いになれるかな?」
「そうなれたら良いですわね。オホホッ」
夫妻があんなことを言ってるが、エリカさんは確かに高位の魔法使いだけれど、性格は絶対に似て欲しくないよ。
「あなた、今晩はお泊まりになりますか?」
「いや、今日は王宮で…… 夕食も向こうで頂いて。まあ陛下のご機嫌取りもあるので。あっ でも明日の晩はお邪魔させて頂くよ」
「そうですか。大変ですわね。うふふっ」
「ほう、マヤ殿は個人的に陛下のお話も相手にされるのか。さすがだねえ」
「はははっ まあ……」
シルビアさんは事情を知っているので、嫌な顔一つせずに微笑んでくれた。
子爵は何も知らないので、確かにお話しはしますよ。ええ、そうなんです。
私はシルビアさんの袖口をクイクイと引っ張り、合図を送る。
わかってくれるだろうか……
「お母様、マヤさんとお話しがありますので、少しの間ミカンを預かってもらえませんか? 何でしたら婆やにでも……」
「わかったわ。はーいミカンちゃん! 婆のところへいらっしゃい」
「わうわうわー!」
私は夫人にミカンちゃんを預け、シルビアさんと二人で彼女の私室へ向かった。
私の合図の意味をわかってくれたようで、良かった……
そして、私室へ入ってドアを閉めたら――
「ああっ あなた! 会いたかった!」
シルビアさんから急に抱きついてきて、ディープキス。
彼女は部屋着用の果物柄がついた白いワンピースを着ており、薄手で騒ぎ心地が良い。
キスから一旦離れると、私はこう言った。
「せっかく男に戻ったのだから、初めてはシルビアさんが良い!」
「嬉しいですわ!」
私は彼女をベッドへ寝かせ、ワンピースを着たまま……
そう。私が男に戻った身体のDTはシルビアさんに捧げるのだ。
彼女も私もすでに準備万端。
すぐに始め、十数分で終わってしまった。
ふぅ…… これで安心だ……
二人目はパティとマルセリナ様との結婚式後、シルビアさんと正式に結婚した後に仕込まないと辻褄が合わなくなるから、気を付けているぞ。




