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第三百六十八話 セシリアさん、セレスへ里帰り

 セシリアさんを連れてマカレーナのアリアドナサルダで買い物をした日の午後は、翌日の王都行きのためにラウテンバッハから飛行機を取りに行ったり、ランジェリーのデザイン画を描いたものの仕上げに勤しんでいた。

 そしてこの晩は久しぶりのお一人様タイム!

 ミランダさんのストリップショーをオカズにして、私の分身君をたっぷり絞った。

 余韻が残る女の快感も良いが、男は虚脱感、つまり賢者モードになるスッキリさがとても心地よかった。

 うーん…… 何か忘れているような気がするが、気分が良いのでどうでもよくなった。


---


 そして翌朝。ゆうべはとてもよく寝られた。

 今朝の分身君も朝から元気だ。

 トイレへ行って分身君を収めてこよう。


 階段を降りて一階のホールを歩いていると、ルナちゃんが空の洗濯カゴを持って歩いていた。

 朝からご苦労様です。


「やあ、ルナちゃん。おはよう!」

「おはようございます」


 すれ違いざまにお互い挨拶をしたが、彼女は無表情で愛想が無かった。

 こんなこと珍しいよな……

 俺、何か悪いことをしたのだろうか?

 トイレで用を足し、洗面所で顔を洗って部屋へ戻る。

 パジャマを脱いで、新しいシャツを着る。

 今日着る上着は昨日着ていたベストとズボンでいいやと思って、お昼前に帰って来た時に身軽な普段着へ着替えて、テーブルの上にたたんで置いたはずだが……


「あれ? 無い……」


 そういえば、ラウテンバッハから帰って来た時から、テーブルに上着があった記憶が無い。

 ということは誰かが持って行って……


「ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!!」


 きっとルナちゃんが洗濯物を回収しにこの部屋へ入ったんだ!

 しかもデオドラントの魔法で消臭するのを忘れたし、ズボンのポケットにミランダさんのぱんつが入ったままだった!

 上着にはミランダさんの香水の匂いがベッタリ。

 だからすぐ洗濯に出したんだ!


「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 私は慌てて裏庭にある、洗濯物を干してある場所へ向かった。

 そこにはみんなの普段着や下着が干してあった。

 どこかで見たようなぱんつ……

 あの黄色いTバックはジュリアさんで、隣の子供っぽいのはビビアナか。

 このスポーツタイプのぱんつはヴェロニカ…… いや、マイかな。

 こっちの黒いボクサーブリーフがヴェロニカのぱんつかも知れない。

 サイズが大きい綿パンはオフェリアだろうな。

 そして、私がデザインしたちょっとお高めなハーフバックの白いぱんつはもしや……

 パティはこういうのを履いてくれてるのか。

 紫のぱんつはエリカさん、このグレーの地味なぱんつは…… ルナちゃん?

 うひょひょ。でも、もうちょっと良いのを買ってあげたい。

 さて肝心の、私の上着とミランダさんのぱんつはあるのだろうか?


「あった……」


 それらを見つけた時、背筋が凍る思いをした。

 建物の陰に、きちんとシワも無くズボンとベストが干してある。

 日本ではスーツの洗濯がなかなか難しいのでクリーニング店に出していたが、これは恐らくルナちゃんが手洗いをしてくれている。

 そしてその横には……

 ミランダさんのぱんつがぽつんと干してある! 陰になっているのに!

 他の子たちのぱんつとは明らかに別にされているのだ。

 あわわわわわ…… ルナちゃん、完全に怒ってるよ……


「マヤ様!」

「うわっ!?」


 背後から聞こえた声はルナちゃん!?

 このタイミングで…… まさかつけてきた?

 振り向くと、洗濯物をたくさん入れたカゴをもった彼女だった。

 表情はムスッとしている。


「ああ、ルナちゃん…… 洗濯いつもありがとう……」

「どういたしまして! 率直に伺いますが、何ですかあのぱんつと香水が付いた上着はは!? 正直に言いなさい!」


 ルナちゃんは強い剣幕で、私に言いたくて仕方なかったかのようストレートに問うてきた。

 さっきすれ違った時に言わなかったのは、それでも気を遣って誰も来ないであろう裏庭で、ということか。


「あれはその…… アリアドナサルダの店長がちょっと変わった人で、私にベタベタしてくるものだから……」

「だからって、なんでズボンのポケットの中に使用済みのぱんつが入ってるんですか!」

「『使って下さい』と言われて無理矢理…… 何に使うかわかるよね? 男の生理現象で……」

「そそそそれは…… 私、買い物したときに店長を一回見かけたことありますけれど、マヤ様はそういう趣味なんですかあ!?」

「嫌いじゃない、とだけ…… あと、使ってないから!」

「そうですよね。陛下ともベタベタしてましたもんね!」


 何か泥沼の方向へ行ってるような。

 女王の時も…… たぶんビーチでのことだろうが、よく見ているよなあ。

 あれは女王からくっついて来ただけで、私から露骨に変なことなどしていない。

 ミランダさんともそうだ。


「あれは…… アリアドナサルダの店長もだけれど、私の立場と円滑な付き合いのために、相手から接近したときだけやむを得なく受け入れていることなんだよ。みんなの生活のためだと思ってね」

「……わかりました。でも納得はしていません。パトリシア様やみんなを悲しませるようなことは絶対に無いようにして下さい!」

「わかった。で、それはルナちゃんも含まれることなのかい?」

「そ、そそっ そうです……」


 ルナちゃんはブスッとした顔で赤くしてデレていた。

 わかりやすくて可愛い。


「とにかく、女の人に対してだらしがないことが無いようにして下さい。ご主人様がそんなことでは恥ずかしいですから。それから、このぱんつは今度店長さんにちゃんと返して下さいね! 乾いたらデスクの引き出しに入れておきますから!」


 ルナちゃんはミランダさんのぱんつに指さし、強く言った。

 そんなことも、何から何まで世話を焼いてくれる彼女に感謝したい。


「はい……」

「では、おわりです! 間もなく朝食ですから準備して下さい」

「はいっ」


 ルナちゃんはそう言うと、カゴの中の洗濯物を干し始めた。

 長くお説教されるかと思ったけれど、案外さっぱりと済んで良かったよ……

 女王の男娼をやってること、シルビアさんと架空の亡くなった旦那との子になってるミカンちゃんが、実はシルビアさんとの一時の快楽のためだけに生まれた私の実子だなんて知られたら、モーリ家は崩壊するだろう。

 ああ、アーテルシアや、アスモディアではアモールとサキュバスたちとも……

 知っているのは僅かな人で、墓場まで持って行くつもりだ。


---


 準備して、朝食後に飛行機で飛び立つ。

 セシリアさんと二人だけで、セレスまで数十分。

 ラミレス侯爵邸の庭先に着陸するが、アポなしだったため外に居た使用人たちが大騒ぎしていた。

 おっ あの変態で三十路になるメイドのローサさんまで出てきている。(第四十話参照)

 飛行機のドアを開けて降りると、ローサさんと他のメイドたちが出迎えてくれた。

 アナベルさんとロレンサさんもいるぞ!

 お泊まりしてお風呂で洗ってもらいたいけれど、残念ながら午後には私だけ王都へ発ってしまう。

 王都で二泊した帰りにセシリアさんをマカレーナまで連れて帰る予定だ。


「「「「「お嬢様、マヤ様。おかえりなさませ!」」」」」

「皆さん、お出迎えありがとうございます。お久しぶりですね」

「どうも、突然すみません」


 ローサさんが前に出て、私たちに尋ねる。


「お嬢様、今日はどうなさったんですか? ――ん? ややっ!? そのお胸は!?」


 早くもローサさんが、セシリアさんの胸に気づいたようだ。

 誰でもわかりやすいように、胸元を大きくカットしたドレスを着てもらっている。

 自前のドレスを用意することが間に合わなかったので、エリカさんに借りたのだ。

 濃いめのドレスを着ることが多いエリカさんにしては珍しい白だ。


「エリカ様が開発した新しい魔法で、とうとう本物の女になることが出来ました。うふふっ」

「エリカ様の!? そっそっ そうでございましたか。あ、あの…… 失礼します」


 ――ぽにゅっ ぽにゅっ ぽにゅっ


「キャッ!?」

「ええっ!?」


 ローサさんはセシリアさんの言葉を聞いても疑心暗鬼な表情をしていたが、急に自らの両手でセシリアさんの胸を揉み出した。

 主人のご子息、いやご令嬢相手に何をやってんだこの痴女メイドは。


「ありがとうございます、お嬢様。皆さん、間違いなくお嬢様は女性になっていらっしゃいます!」

「「「「「ええええええええっっっ!?」」」」」


 それを聞いてメイドさんたちは大声で驚いていた。

 まあ、魔族の魔法、それも魔女アモールの魔法であれば魔法が普及しているこの国ですらデタラメもいいところで、驚くのも無理はない。


「ささっ 旦那様と奥様にもご報告いたしましょう!」

「あああっ」


 セシリアさんと私はローサさんとアナベルさんたちメイドさんに押し込められるように屋敷へ入った。

 何故か私はアナベルさんとロレンサさんに両側から腕を組まれて。うへへっ

 こんな姿をルナちゃんに見られたら、また怒られるだろうな。


---


「あ、あんまり変わらないようだが……」

「いいえ旦那様、胸がご立派になってますよ」

「おおっ!? 確かにこれは立派な膨らみだな。ふむふむ……」

「あなた! 娘をいやらしい目で見ないで下さいまし!」

「うっ すまぬ、セシリア……」

「うふふっ お父様ったら」


 応接室へ通され、集まったのはラミレス侯爵夫妻とイケメン執事のロドリコさん。

 ロドリコさんが胸の膨らみを指摘して、ラミレス侯爵がスケベ親父のごとくいやらしい目線でセシリアさんの胸の谷間を見ていた。

 それを夫人が怒っている。何とも賑やかな家庭だ。

 ロレンサさんが暖かいお茶を入れて、一息ついて歓談が始まった。


「それにしても不思議なことが出来るのだねえ。おおそうか! 先日はマヤ殿が女性だったのが今は男性! つまりそれと同じ魔法で!?」(第三百二十二話参照)

「ええ、その性転換魔法にエリカさんが改良を加えて、私が女から男へ戻ると同時にセシリアさんも女性になることが出来たのです」

「魔族の魔法、我々の想像を絶するな……」

「でもセシリア、あなたの夢が本当に叶ってしまうなんて…… 良かったわ……」


 夫人が涙し、ハンカチで拭く。

 セシリアさんの過去の話は聞いているが、いじめられたり家族で悩みがいろいろあったそうだ。

 本当に女になれたことで、娘の夢か叶ったことは親心として胸がつまるほどの思いだろう。


「奥様、喜ぶのはお早いですよ」

「まあ、どうして?」


 脇に立っていたローサさんが、夫人に向かってそう言う。

 あれほどセシリアさんの胸をモミモミしたというのに、まだ信用していないのか?


「奥様、お嬢様、どうぞ隣の部屋へ。旦那様とロドリコは絶対に覗いてはなりませんよ」

「えっ? あ、ああ……」


 ローサさんは、セシリアさんの手を引っ張り、夫人と三人で隣にある控え室のような部屋へ行ってしまった。

 私は(とが)められていないが、何故か行ってはいけない気がする。

 何をするつもりなのだろうか。

 指向性がある音声増幅魔法で、ちょっと聞いてやろう。

 エリカさんの部屋から簡単でしょーもない魔法書を見つけては覚えていったので、こんな時に役に立ってしまう。


(お嬢様、女として大事な部分がございます。それを確認させて下さいませ)

(それはどこでしょう……?)

(失礼します、お嬢様っ)

(キャアッ!?)


 また、失礼しますと言って、無理矢理何かやってるな?

 大事な部分って、まさか……


(おほっ 奥様! 香りはすっかり女の子そのものです! 膨らんでません! スッキリしています!)

(ローサ、あなただけ見てもわからないわ)

(申し訳ございません、奥様。これなら如何でしょう?)


 ――ファサッ


(キャッ?)

(あら、本当ね。確かに男の子じゃないわね)

(お、お母様……)


 これはきっと、ローサさんがセシリアさんのスカートの中へ入ってクンカクンカして、さらにスカートを(めく)って夫人に見せているのだと思う。

 ローサさんの変態っぷりが(あら)わになり、夫人も一緒になって何をやってるんだ。


(奥様、これから本番です)

(ゴクリ…… お願いするわ)

(あああの……)

(ではお嬢様、下げますね)

(ええええっ!?)


 ――シャサッ パッ


(おおおおっ? 素晴らしい……)

(あらまあ、綺麗に無くなっているわね)

(うううっ……)

(お嬢様、ちょっと脚を広げて下さい。奥様、これは如何でしょう?)


 ――クパァ


(ひいっ!?)

(そうね。ここは紛れもなく女ね。セシリア、お母様も嬉しいわ……)

(ああ…… はい……)

(うううっ お嬢様、私も嬉しゅうございます。これでお嫁に行けますね)

(そ、そうですよね)


 セシリアさんのぱんつを下ろして、観察しているのか。

 これは…… 夫人も大概だな。

 この家の女性は、夫人からして感覚がズレているのかも知れない。


「セシリアが驚いてる声がしたが…… あの子たちは何をやっているのか」

「さあどうでしょうねえ。服のサイズでも測ってるのでしょうか。あのドレスはエリカさんからの借り物ですから、少しばかり合わないのでしょう」

「おおそうでしたか。エリカ殿も素敵なドレスをお持ちですなあ」


 ラミレス侯爵が不審に思ったようで、家庭の安寧のため私から適当に誤魔化しておいた。

 そういえば、ドレスもプレゼントしたほうが良いかなあ。

 しばらく隣の部屋でゴソゴソと音がしていたが静かになったので、音声増幅魔法を切る。

 侯爵とロドリコさんと三人で待っているうちに、セシリアさんたちが戻って来た。

 セシリアさんは顔を赤くして恥ずかしそうに下を向いていた。


「あれ? ローサさん、鼻血が垂れてませんか?」

「ああっ ズズズッ これはお見苦しいものを見せました。申し訳ございません」


 ローサさんは、その辺に置いてあるティッシュ入れの木箱からティッシュを取り出し、丸めて鼻の穴に詰め、部屋の脇に立つ。

 元々美人さんなので滑稽な姿である。

 何事も無かったかのように夫人とセシリアさんはソファーに掛け、話が始まる。


「あなた、セシリアは正真正銘の女ですよ。これで安心しましたわ。オホホッ」

「そうか、良かった…… で、新しいドレスはこしらえるのかね?」

「えっ? ドレス? ああ、それも必要ですわね」

「なんだ、ドレスの話ではなかったのか」

「ああっ お父様、お母様、お話しがあります」


 セシリアさんが察して夫妻の話を誤魔化してくれた。やれやれ……


「なんだい?」

「なあに、セシリア?」

「私、マヤ様と婚約します」

「へ?」


 あれ? 俺、セシリアさんへ正式にプロポーズしたっけ?

 セシリアさんの性格だと、初めての相手と結婚すると思っていそうだけれど……

 でもセシリアさんが男の時で、むしろ女の初めてを捧げたのは私だ。

 そしてセシリアさんは現在、処女になっている。

 えええっ? どうなってるんだ?


「おおそうか! マヤ殿が貰ってくれるのならば安心だ!」

「あなた! この子の嬉しい話が今日は二つもあるなんて、私は感激です!」


 夫人はまたも涙してハンカチを拭いている。

 ううう…… もう後戻り出来そうに無いな。

 セシリアさんはダメってことではないし、性格はとても良いから本当の女性になったのならば、私のほうこそ彼女を嫁にするには歓迎なのだが……


「お嬢様、おめでとうございます!」

「ああっ あの可愛かったお嬢様がとうとう…… おめでとうございます!」


 ロドリコさんとローサさんも乗り気で祝ってくれている。

 婚約するにしてもまだ騒がれたくない。

 こう言うしかないか。


「あの、すみません。正式な婚約発表はしばらく控えて頂きたいのです」

「それはどうしてだい?」

「実は三ヶ月後、いえもう二ヶ月半後にガルシア侯爵家のパトリシア嬢と、マカレーナ大聖堂の司祭様と結婚式を挙げることになっているんです。それで集中しないようにしばらく期間を空けたいと……」


 ラミレス侯爵が尋ねるので、私はそう応えた。

 複数の貴族令嬢と結婚するには、式と発表を分散させておきたい。

 世間がざわつくのと、私が好色家みたいに思われるのも嫌だ。

 ヴェロニカとの結婚は、王家と周りの大貴族側との決着がまだ終わってないし、どのみちアウグスト殿下とカタリーナさんとの挙式の後になるだろう。


「パトリシア殿との結婚は聞いていたが、司祭様とも…… さすがですなマヤ殿! めでたいこと続きだ! ワッハッハッハッ わかった。また相談してから発表しよう」

「ありがとうございます。セシリアさんもそれで良いよね?」

「はい、勿論でございます。親愛なるパトリシア様については十分承知しております」

「ありがとう、セシリアさん」


 こうして婚約についての話は一段落した。

 セシリアさんの勘違いから始まったけれど、彼女がその気ならば女性になったことでもう私が断る理由が無くなった。

 これでまた一人、私と結婚してくれる女性が増えた。


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