第三十五話 パティの一日
2023.11.28 軽微な修正を行いました。
やや長めの回です。
(今回は全てパティ視点です)
いつもの変わらぬ朝、私はいつものように自然に目が覚める。
「ふあぁぁぁ~ よく寝ましたわ」
寝ぼけた頭で、外の光りを浴びようと窓のカーテンを開けた。
すると庭の遠くでカキンカキンと金属音が聞こえる。
日課でマヤ様とスサナさんたちが早朝の訓練をされていますの。
マヤ様はあれからもっとお強くなったようで、頼もしいですわ。
望遠鏡代わりにテレスコープの魔法で訓練を見てみます。
今度は体術の訓練のようですわね。
マヤ様は一対二で戦ってるんですね。すごいですわ。
あっ マヤ様が押されている!
あぁぁぁぁ…… スサナさんに捕まってしまいましたわね。
あら? どうしてマヤ様はあんなにニヤニヤされてるのかしら……
ぬぬぬぬぬぬ……
マヤ様ったらスサナさんの胸に顔を押しつけられてる……
まったく…… 相変わらず女の人には弱いですわね。
さて、顔を洗ってお着替えしましょ。
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それから私はお母様の部屋へ。
「お母様、おはようございます」
「おはよう、パティ」
私は毎朝お母様に髪の毛のセットをしてもらいますの。
お母様はメイドのクララさんやエバさんにやってもらっていて、時間が無いときは私はお母様にセットをしてもらいながら同時に、お母様はメイドさんにセットしてもらうこともあります。
「パチィ パチィ」
「カルロスおはよぉ。うふふ」
弟のカルロスです。
だんだん喋られるようになって、ますます可愛いの。
あぁ。私も早く子供が欲しいですわぁ。
「ねえお母様。
近頃マヤ様はお忙しいみたいで、仕方ないのは分かっておりますが寂しいです」
「そうね。夕食の後にお部屋へ伺ってみるのはどう?」
「それがエリカさんやエルミラさん、入れ替わりでビビアナの話し声がお部屋からよく聞こえてきたり、お部屋にいらっしゃならなかったり、なかなかタイミングが合わなくて遠慮していますの」
「じゃあ朝食の時に今晩如何でしょうとお願いしたらどう?」
「そうですね。それしかありませんわね」
「自分からどんどん動いていかないとダメよ。
マヤ様はあなたのことを忘れることはないでしょうけれど、大人しい方ですから積極的な女性が周りに多いと弱いのでしょう」
「がんばりますわ、お母様」
「私も時々でいいから、マヤ様とゆっくりお話ししたいわ」
「お母様も大変ですわね。うふふ」
「さあセット出来たわ。お食事に行きましょう」
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我が家のダイニングルームへ来ました。
マヤ様はもう先に席へお着きになってました。
「おはようございますっ マヤ様!」
「おはようございます、パティ」
「あのぉ…… マヤ様。
今晩お夕食が終わった後にいろいろお話ししたいですが……」
「そうだねえ。久しぶりになるもんね。いいよ
ごめんね、いつもエリカさんたちがすぐ来るから」
「嬉しいですわ。楽しみにしていますね」
お楽しみが出来たら、朝食がとても美味しいですわ。
あら、もう登校の時間だわ。早く食べないと。
「パティ、お行儀が悪いですよ」
「はぁ~い、ごめんなさいお母様」
私、がっついて食べてしまいますから、よくお母様に怒られますの。
あぁ、マヤ様にクスクスと笑われてしまいました……
「それでは行って参ります!」
「「いってらっしゃい」」
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玄関前には毎朝御者のアントニオさんが馬車を用意して待っておられます。
「アントニオさん、おはようございます! 少し急いでちょうだい!」
「おはようございます、お嬢様様。
お急ぎですね。かしこまりました」
私は毎日馬車で通学していて、御者はアントニオさんの時が多いです。
ラフエルへ行ったときから後は本当にたまにですが、マヤ様が御者をして送ってくださることがあるんですよ。
アントニオさんには申し訳ありませんが、すごく楽しみなんです。
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マカレーナ女学院校門前に到着し、馬車から降りました。
「ごきげんよう~」
「ごきげんよう~ パトリシア様」
「ごきげんよう~」
毎日皆さんとの挨拶はかかせませんわ。
「ごきげんよう、カタリーナ様」
「ごきげんよう、パトリシア様」
お誕生日会にもいらしてくれた、バルラモン伯爵家のカタリーナ様は私の一番のお友達ですの。
私たちはもう六年生で間もなく卒業ですから、少し前に選挙がありカタリーナ様は生徒会長を引退されました。
とてもしっかりされていて貴族でも驕り高ぶらず、先生や生徒からも信頼厚く、私は尊敬しています。
「パトリシア様。午前の中・上級攻撃魔法のテストは緊張しますわね」
「えぇ、卒業判定の一貫ですから頑張りましょう!」
私たちは魔法学科六年生の教室に入り、席に着きました。
「はい、皆さんおはようございます」
「「「「「おはようございます、ドロテア先生」」」」」
「え~っと…… 欠席の人はいないようですね……
これから中・上級攻撃魔法のテストを始めますが、皆さん魔力量は十分にありますか?」
「「「「「はい!」」」」」
「それではグラウンドに集合して下さい」
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マカレーナ女学院のグラウンドです。
魔法の演習で被害が出ないよう、とても広くしてあるんですよ。
「カタリナ様、私ドキドキしますわ」
「何をおっしゃいますの。貴女ほどなら十分な成績で卒業できますわ」
「私、最近になってとうとう風属性に目覚めましたの」
「ええ!? それはすごいですわ! ここで四属性も使えるなんて先生ぐらいしか……」
「マヤ様が光属性に目覚めたお裾分けで、私は風属性にも」
「あのお方、本当に不思議な方ですわね……」
「とても優しくて強くて素敵な方ですの。あぁ~マヤ様!」
「私この前は…… し… 下着を見られてしまいましたから、またお会いした時にどんな顔をすれば良いやら……」
「あら、気にされないのではありませんでしたか?」
「あれは皆の前での建前ですの……」
「マヤ様は変に思われませんわ。カタリーナ様のことを素敵だとおっしゃってましたよ」
「そ、そうですか。それは良かったです……」
「ほらそこ、無駄話をしない!
土属性で受ける人はいないわね……
それでは二回で判定しますので、一回目の火属性、水属性、風属性で受ける人でそれぞれ分かれて並んで下さい」
魔法学科六年生は二十二人で、火属性が十人、水属性が七人、風属性が五人で分かれました。
私は火属性の列に並びましたが、カタリーナ様は水属性の列に並んだようですね。
せっかく手に入れた風属性を使って、属性合体魔法のファイアストームで挑戦したいと思っています。
グラウンドでこっそり練習もしてきたから、これならA判定以上が付けられるはず……
「火属性は私が見ますが、水属性と風属性はカミラ先生に見て頂きます。
五メートル、十メートルの距離に半円の線があってそれを越えたらそれぞれがC判定、B判定です。
十五メートルの所に太い鉄棒がありますのでそれに当たればA判定になります。
棒はすぐに壊れる物ではないので遠慮無く当てて下さい。
一応、判定はSまでありますが教師が判断します」
いよいよ始まりますわね。
スタートはアリシア様かしら。
あの方は氷結魔法がお得意ですからA判定は間違いないですわね。
私も水属性魔法が使えるようになりたいです。
「それでは水属性の生徒から始めます。
最初はアリシアさん、この半円の中心の印に立って魔法を発動させて下さい。
魔法は何を使いますか?」
「【アイシクルアロー】です」
「それでは始めて下さい」
「むむむ…… えいっ!」
氷柱が何本も発射され、鉄棒に当たりました。
アリシア様、さすがですわね。
「はい、アリシアさんは一回目がA判定ですね」
「やったぁ!」
そんな感じで続き、カタリーナ様の番になりました。
「【ダンシングアイスブレード】を使います」
「それでは始めて下さい」
「はぁぁぁっ やあっ!」
空気中に多数の氷の刃が発生し、鉄棒に向かってあちこちの方向から氷の刃が連続でぶつけられている。
さすがカタリーナ様ですわ。怖いくらいの威力です。
「はい、カタリーナさんは…… S判定です。すごいですね!」
「パトリシアさまぁ~ やりましたわあ!」
周りからもすごい歓声があがっている。
カタリーナ様が手を振っているので、私も手を振って答えました。
水、風魔法のテストが終わり、火属性のテストが始まる。
そして私の番がやってきました。
「【フレイムストーム】でやります」
「風属性と一緒の魔法ですね。
カミラ先生にも見てもらいましょうか……
では始めて下さい」
魔力集中…… よしっ いける!
「はあぁぁっっ!」
炎の大きな渦が鉄の棒に向かって放たれる。
あらっ 威力が大きすぎてしまいました!
炎の渦が鉄の棒を遙か先に越えて三十メートル近くまで伸びてしまった。
「あ…… あ…… パトリシアさん。S判定です……」
先生たちがびっくりされている。やり過ぎてしまいましたわ。てへぺろ
思っていた以上に魔力を力んでしまったようで、もしかしたらこれもマヤ様の影響かも知れませんね。
「パトリシア様…… これは一体。威力は上級クラスですわよ」
「私自身もびっくりしました。魔力量も成長したみたいです」
二回目のテストは魔法を変えるか、属性を変えて行いました。
カタリーナ様は風属性の【プラズマケージ】で、またSランク判定でした。
中級を越えて上級の電撃魔法で、プラズマ電流で敵を取り囲むとんでもない魔法です。
私の二回目は【バーニングトルネード】で行きます。
これも上級魔法なので、うまくいくかなあ。
「ふうぅぅぅぅぅ~ やあっ!」
炎の渦が鉄の棒を囲み、鉄の棒がオレンジ色になるほどの高熱になってます。
A判定いけましたわね。
どうやったらS判定になるのかしら。
「あのぉ… パトリシアさん。
鉄の棒が溶けてしまうのでそれくらいに……」
「あぁっ わかりましたっ先生!」
「パトリシアさん、Sランクです」
「よしっっ」
私はガッツポーズをとりました。
自信はあったけれど、上手くいって良かったです。
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テストは滞りなく済み、ドロテア先生からお話がありました。
「皆さん、ご苦労様でした。今年の六年生は攻撃魔法が全員A判定以上で非常に優秀だったので、先生はとても嬉しいです。
テストはもう少しありますが、悔いが無いようにして卒業しましょうね。」
次はカミラ先生からもお話がありました。
「はい皆さんお疲れ様でした。
全員A判定以上は私もとても嬉しいです。
ただあくまでA判定は社会に出てプロフェッショナルとしてやっていくには最低限のレベルなので、この先も精進に努めて下さい。
S判定のカタリーナさんとパトリシアさん、お見事でした。皆さん拍手!」
生徒と先生から歓声と拍手が湧き上がる。照れますね。
これから魔物と戦っていくにあたって力が付きましたが、マヤ様のお力になるどころか邪魔にならないように精進しなければ。
ムーダーエイプが現れたあの時は私の大変な失態でした。
傷つき、マヤ様に命を助けて頂き、あげくにマヤ様に大変な心配をかけてしまいました。
マヤ様には感謝してもしきれません。一生をかけてご恩を返さなければ。
え? 一生だなんて…… マヤ様と結婚して…… うふふ
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テストが終わり、そのまま昼食を食べにカタリーナさんと食堂へ向かいました。
お腹がへったなあ~
「パトリシア様、いつの間にあのような強力な火炎魔法を…… びっくりしましたわ」
「カタリーナ様こそすごい威力の電撃魔法でしたね。
私は風属性に目覚めたばかりだから電撃魔法はまだ無理ですの」
「パトリシア様ならばきっと早い内に出来るようになりますわ。
私、魔法は得意なんですが、一般科目はとうとう卒業間近まで苦手なままなんですよ」
「私たちは卒業後のこれからですよ。
それに苦手だなんてご謙遜なさって、成績はずいぶん良かったじゃないですか」
「あれは死に物狂いでやっとの成績なんですっ うふふ」
カタリーナ様はそう笑って答える。
カタリーナ様は私が飛び級のことを妬んだりしない。
本当に素敵で大切な親友、大好きです。
私たちは食堂に着いて、ビュッフェ形式のメニューで好きな物を取っていきました。
ピザに甘いオムレツ、ポテトサラダにプリン! 私の好物がいっぱい!
窓際の席が空いていたので、二人で座りました。
「パトリシア様は相変わらず食事に夢中で、無言になってしまいますわね。
でも、とても可愛らしくて美味しそうに食べるので、見てて楽しいわ」
「モグモグ…… ゴックン
え? 食堂のメニューはいつも美味しいですからね。
卒業であと何回も食べられませんから、寂しいですわ。
モグモグ……」
「健康のためにもっと野菜を食べてくださいね。
どうしてあなたはあんなに食べているのに太らないのかしら……」
そうかぁ、カタリーナ様とこうやって一緒に食事をするのもあと少し。
そうだ!
「カタリーナ様、卒業しても時々ウチに遊びにいらしてくださいね」
「勿論ですわ。パトリシア様も是非ウチに」
「「うふふふふ」」
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楽しい食事の時間は終わり、午後は経済学と政治学のテスト……
またテストですの。
この学校は貴族が多いため、高学年はこのような学問をやっています。
あぁ… カタリーナ様がまた難しい顔をしています。
私はお父様の補佐をするつもりでこの科目を頑張ってきました。
得意とは言えないんですけれどね。
その前に、お父様には申し訳ないけれど、マヤ様と旅に出て魔物が出てくるデモンズゲートを塞いでいかないといけない。
もしかしたら何年もかかるかも知れない。
頑張って、早く平和な時を迎えたいものです。
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テストが終わりました。
カタリーナ様はなんだか嬉しそうな顔をしています。
「パトリシア様、テストの山が当たりましたの。うふふ」
「あら、それは良かったですわ。私は何とか大丈夫でした」
「あれだけ頑張っていらっしゃったから、良い成績が出るといいですわね」
テスト後のこんな他愛ない会話も思い出になるのですね。
飛び級をしてしまったから学業の年数がそれだけ短くなってしまったので、今思うと普通に学校を楽しんできたカタリーナ様や皆さんが羨ましく思います。
「今日はテストだけで少し早めに学校が終わりましたわね。帰りましょう」
「はい、もう馬車が待っていると思いますので、校門までご一緒に」
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校門前には、なんとマヤ様が御者として待っていました。
「お疲れ様、パティ。
アントニオさんがちょっとお腹痛いみたいで、私はお昼過ぎで事が片付いたので代わりに来ました。
そんなに酷い症状ではないらしいので、ご心配なくとのことです」
「そうでしたか……」
アントニオさんはお気の毒ですが、マヤ様が迎えに来て下さると嬉しいですね。
「ああ…… ご無沙汰しております。カタリーナ・バルラモンでございます。
そ、その節は失礼をいたしました……」
「え? あぁ…… その…… こちらこそ申し訳ありません……」
カタリーナ様ったら黙っていればいいのに、ご自分で蒸し返してしまって、マヤ様も困ってらっしゃるわ。
でもちょっと面白いです。うふふ
「マヤ様もよろしければ、パトリシア様とご一緒にバルラモン家へ遊びにいらしてくださいね」
「ええ? そういう話をされていたんですか?
是非そうさせて下さい。楽しみです」
「あら、マヤ様もお誘いして頂けるなんて感激です。私も楽しみですわ」
「ちょうど私の所の馬車も来ました。それではパトリシア様、マヤ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、カタリーナ様」
「ごきげんよう――」
カタリーナ様は馬車に乗って颯爽とお帰りになりました。
「マヤ様どうなされたんですか?」
「ええ、ごきげんようの挨拶は初めて使ったかなと思って」
「マヤ様はいつも面白い方ですわね。うふふ」
「んん?」
「マヤ様、それでは私たちも帰りましょう」
「はい」
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馬車はあっという間に着くし、箱形の馬車なので外で御者をしているマヤ様とはお話出来ないし、乗り心地を味わうしかないです。
マヤ様の操車はとてもお上手になりました。
屋敷に帰ると、早速お母様に魔法のテストについてご報告しました。
「私も魔法を教えたのですから、S判定で当然ね。ふふ」
お母様は厳しいです。
部屋でしばらく休んでいるとフェルナンドさんからお父様がお帰りだと知らせがあったので、執務室へ報告しに行きました。
「おーおー、パティ。頑張ったんだねえ。私はとても嬉しいよ」
どちらかと言えばお父様は私に甘いですが、むやみにお金をくれたりそういったことは昔からされないです。
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お夕食の前にお風呂です。一日の楽しみの一つですの。
マカレーナの街は水道が完備されていて、雪が降らない暖かい地域なので太陽で温めるところが多いです。
お湯が温まりやすくて助かりますが、お湯が温まらない天気が悪い日や寒い季節は貯槽型の魔導具に魔力込めて温めます。
魔法使いの中には、魔法が使えないご家庭向けに魔導具へ魔力を込める商売をされている方が大勢いらっしゃるんですよ。
我が家にはお風呂が六カ所あり、そのうち一カ所は私のお風呂で、マヤ様とエリカ様にも使って頂いてます。
順番はいつも私、エリカ様、マヤ様になっています。
少し前に私がお風呂から出るとき、裸のエリカ様と遭遇してしまいました。
大きな胸はお母様のを見慣れていますが、エリカ様の胸はとても綺麗でスタイルも良くびっくりしました。
エリカ様は私の裸を見るなり、いやらしいおじさんみたいにニヤニヤしていました。
一体何を考えていらっしゃるのでしょうか。
あと、お父様とお母様のお風呂、ローサ様のお風呂、住み込み使用人の方のお風呂が二カ所、お客様用のお風呂があります。
お父様は、お母様かローサ様と一緒に入ることがあるんですって。
ということはいつか私もマヤ様と!? 恥ずかしいですわ…。
スサナさんとエルミラさんは仲良しで一緒に入ることが多いみたいです。
ビビアナは食事の片付けが終わってからなので、大変ですね。
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夕食の時間です。
今日はビビアナが、私の好物のタコスを作ってくれました。
とても美味しくて毎日食べても飽きません。
でもお母様が、毎日は食が単調になるので良くないと言うんです。
私は食べることに一生懸命なので、あまりおしゃべりをしません。
またお母様が、家では良いけれど、社交の場ではやめなさいと言います。
私はお母様によく怒られてますね。
マヤ様とエリカ様は本来使用人なのですが、私たちガルシア家と一緒に食事をされています。
エリカ様は貴族ですし、マヤ様は私やフェルナンドさんたちの命の恩人ということでそのまま一緒に食事をされて、今はもう家族のような方です。
まして私は死に目を救って下さいました。とても恩を返しきれません。
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食事が終わり、いよいよ約束していたマヤ様とお話タイムです。
いつもはマヤ様のお部屋へお邪魔しますが、今日は珍しく私のお部屋へご招待しました。
お部屋は綺麗にしたし、ティーセットも準備しました。
後はマヤ様がいらっしゃるのを待つだけね。
コンコン
あっ マヤ様ですわ! 私はドアを開けました。
「やあ、パティ。お邪魔します」
「さあどうぞ、お入りになって」
マヤ様も私もパジャマです。二人だけのパジャマパーティーです。
「女の子の部屋に入るのは緊張するなあ。とてもいい匂いがするよ」
マヤ様はよく匂いについて気にされているようなので、お香を焚いておきました。
エリカ様のお部屋で勉強するときは緊張されないのかしら。
地下室は元々殺風景というのもありますが、慣れてらっしゃると思うと妬きますわ。
私からは今日の学校での出来事やカタリーナ様のことを中心にお話ししました。
マヤ様はいつもニコニコしながら私の話を聞いてくれます。
もしかしたらつまらないお話の時もあるかもしれないのに、気を遣って下さってマヤ様はとてもお優しいです。
「このハーブティーは良い香りで、とても美味しい。
パティはお茶を入れるのも上手なんだね」
マヤ様が褒めて下さった。とても嬉しいです。
お茶の入れ方は爺ことフェルナンドさんから習ったんです。
爺が入れたお茶は私なんかよりもっと美味しくて、スサナさんとエルミラさんの他メイドさんは全て爺から教育されています。
マヤ様からのお話は、やはり魔物退治とデモンズゲート封鎖のことからでした。
もう五カ所もデモンズゲートを閉めたようで、ゼビリャ区は大方済んだのではないかということですが、今度から別の地域へも行くので一日では帰ってこられないんですって。
毎日お顔が見られなくなるなんて、寂しすぎます……
それからマヤ様がやってきた異世界のお話。
魔法が無い世界なのに、馬車より速い乗り物や空を飛んで一日で遠くの国へ行ける乗り物、念話みたいに遠くの国の人と話が出来る道具、イスパル王国によく似た国があること、お話を聞いていると時間が経つのを忘れてしまうくらい興味深く面白いです。
「パティ、そろそろお休みの時間だね」
「え!? もうそんな時間ですの? 楽しい時間はあっという間ですね……」
「パティ、こっちへおいで」
マヤ様は私を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。
ああ、もう幸せすぎます!
マヤ様の心臓の音が聞こえます。
鼓動がとても早くて、私でドキドキしてくださってるなんて嬉しいっ
マヤ様大好きっ 大好き過ぎて壊れそうです。
言葉は無くとも愛が通じ合うってこのことですのね。
「パティ、こっちを見て」
「はい……」
マヤ様は私にそっと口づけをしてくれました。
唇同士で挟んで…… マヤ様の柔らかい唇を感じます……
「じゃあねパティ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
マヤ様は最後に、おでこにキスをしてくれました。
私はしばらくポーッと部屋で立ったまま……
マヤ様のキスの余韻を感じながら、ベッドに寝転がり枕を抱きました。
「あああああああマヤ様マヤ様マヤ様!!
どうしようどうしようどうしよう!!
もう好きっ 大好きっ 好き好き好きっ」
私ははしたなく、枕を抱きながらベッドの上で転がってしまいました。
今晩はとても良い夢が見られそうです。