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第三百五十七話 健気なヴェロニカと親心

 たこ焼きパーティーの後、腹ごなしの休憩でだらしなくベッドで寝転んでいた。

 セシリアもたこ焼きを作りながら食べていたので、食べ過ぎたのかちょっと苦しそう。

 その時、どこかへ出掛けていたエリカさんが帰って来た。

 ホクホクの笑顔になってるが、何か良いことがあったのだろうか?


「ただいまー いやー 儲かった儲かった!」

「おかえり。なんか売ってたの?」

「薬だよ。マカレーナで作り貯めてたのを持って来て、ラガのあちこちの薬屋へ一気に売り払ってきたからよ」

「えっ? 何か大荷物を持って来た感じじゃなかったけれど、どこにあったの?」

「飲み薬はもっと小さな小瓶にしてるし、粉薬がほとんどだったからね。このアタッシェケース一つで十分よ」


 エリカさんが手に持っている、茶色い革のアタッシェケースがそうか。

 よく異世界転生アニメで見るアイテムボックスのような便利な魔法があれば良いけれど、この世界はそこまで都合が良くない。

 あっても神様やアモールぐらいしか使えないだろう。

 アイミが着せ替えしてる時の術は、理屈が違うらしい。


「怪しい薬がそんなに売れるもんなの?」

「失敬ね。これでも世のため人のため、病気を治す薬を作ってるの。それに私のネームバリューはラガにも届いているから薬屋は喜んで買い取ってくれたわ」

「そういえばエリカさんって有名人だったね」

「エリカ様はセレスでもお名前を聞いたことがありますよ。マヤ様より有名なくらいです」

「フッフッフ」

「ぐぬぬ……」


 セシリアさんがそう言うと、エリカさんが鼻高々に。

 べ、べつに私が有名になりたいわけじゃないんだからね。

 でもなんか負けた気がする。


「で、食事はまだなの?」

「見ての通り、もう食べちゃったよ…… げふっ」

「ちょっとちょっとっ! ねえ! 早いじゃないの!? 私何にも食べてないのよ!」


 エリカさん、こんな時間だから外で夕食を食べてきたとばかり思っていたが……

 まあ、たこ焼きパーティーの時間が少し早かったからな。


「んじゃあ、グランド・オクトパスのたこ焼き食べる?」

「グランド・オクトパスって、あの巨大ダコの…… なんでそんなものがあるの?」

「アイミたちが沖からここへ連れて来て、悪戯(いたずら)してきたからマイが脚を一本ぶった斬ったんだよ」

「わけがわからないわ。つまり、グランド・オクトパスがこの砂浜へ来たってこと?」

「そうだよ」

「ああああああああああっ!! そんな面白いことがあったなんて! 出掛けなきゃ良かったあああああ!!」


 エリカさんが頭を抑えて嘆いている。

 彼女ともあろう人がそんな反応をするなんて、グランド・オクトパスはよっぽどレアな大蛸なんだな。


「ううう…… で、たこ焼きって何?」

「私の故郷の料理をイスパル風にちょっとソースを変えてね。中にグランド・オクトパスの欠片が入ってるんだよ」


 私は部屋の戸棚に置いてある、六個のたこ焼きが載った皿を取り出した。

 エリカさんに食べさせてやろうと取り置きしておいたのだ。

 私って、優しいだろう。

 ラップ代わりに風属性魔法で外気と遮断しておいたから、干からびていない。

 今、それを解除してエリカさんに手渡した。


「火属性魔法で温めて食べてね」

「これがたこ焼き……」


 エリカさんはたこ焼きの実物を見て、目が点になっている。

 多くの人はそんな反応だった。


「まあ食べてみてよ。やみつきになるから」

「――」


 エリカさんはたこ焼きに手をかざし、たこ焼きを温める。

 この火属性魔法は分子振動で温めるやり方で理屈は電子レンジと同じだが、電磁波は使っていない。

 代わりに魔力がそうしているのだ。

 原子や分子の概念がわかっているのに、乗り物はいまだに馬車というよくわからない世界だ。


「すごいニンニクの香りが立ってきたわね。どれ…… フーフーフー モグモグ――」


 おっ 渡したときに冷えてたからつい言うのを忘れてしまったが、ちゃんとフーフーしてる。

 エリカさんだから「あちゃちゃちゃ!」と言って大騒ぎになるんじゃないかとも思ったが、そこらへんは一応淑女なのか。


「なにこれ!? モグモグ―― アイオリソースの材料のニンニク味がパンチを効かせて、頬張るとフワットロッとした舌触り、その後にタコを噛みしめると甘みと酸味がジュワッと口の中に広がる…… こんな食べ物初めてよ! とても美味しいわ!」

「ははっ 意外にグルメな評論だね。気に入ってもらえて良かった」

「もう無いの?」

「残った脚は魔法で急速冷凍しておいたから、マカレーナへ持って帰ってまた作るよ」

「やったー!!」


 エリカさんは大喜びで、残ったたこ焼きをもしゃもしゃと食べてしまった。

 彼女は元々食べ物に執着していないのだが、珍しく評価するほどこのたこ焼きを気に入ってくれたようだ。

 グランド・オクトパスが残っているうちに、ウスターソースを手に入れて新たにたこ焼きソースを作ってから、食べ合わせをしてみたいな。


---


 腹がこなれてきたので、お風呂へ。

 昨日と同じようにパティたちは分かれて入っている。

 さて、私は今日も合法的にみんなの裸を拝むことにしよう。


 ――チャポーン


 ありゃー 人が少ないな。

 みんなお腹がいっぱいでまだ入りたくないのだろうか。

 浸かってるのはマイとオフェリア……

 ジャグジーにはヴェロニカだけが入っていた。

 おやっ また打たせ湯の場所にローサさんが一人でいる。

 行ってみるかあっ うっしっし


「どうも。お隣失礼します」

「ああっ マヤさん……」


 私が座ると、ローサさんは恥ずかしそうに胸を隠す。

 今更なんだけれど、私の視線が気になるのかなあ。


「マヤさん、たこ焼き、ご馳走様でした。とても美味しかったです。アベルも美味しそうにバクバク食べてましたよ」

「それは良かった。またマカレーナで作りますからね」

「楽しみです。うふふっ」


 もしかしたらローサさんに避けられているかと思ったけれど、そんなことは無かった。

 ただ恥ずかしいだけなのかな。


「マカレーナへ帰ってしばらくしたらヒノモトへ向かおうと思いますが、準備はどうでしょうか?」

「お師匠様に手紙を出していますから、返事が届き次第出発しましょう。間もなくだと思います」

「帰ったらまたラウテンバッハへ飛行機の整備に出さなきゃなあ。アスモディアより遠かったんですよね?」

「はい。マカレーナから一万五千キロほどありますからね。私の脚でも三ヶ月以上かかりました」

「――それってめちゃくちゃ速くないですか? 普通の人が頑張って歩いても一年以上かかる計算になりますよ?」

「鍛えてますからっ」


 ローサさんは両腕でガッツポーズをする。

 この人、剣術の訓練以外では子供思いの優しいお母さんという印象が強かったけれど、思っていた以上にとんでもなかった。


「あ、でも手紙はもっと早く着いてるみたいですが、それはどうして?」

「油や魔力を動力源にした船がありますよ。油で動く船はそれほど速くありませんが、魔動船ならひと月もかからないと思います」

「そうか、船がありましたね。忘れてました。あははっ でも、敢えて船を使わないでご自分の脚で行ったわけですか」

「修行のうちですからね。というより、結婚前の当時はお金が無かったからですよ。フフフ」

「なるほどー」


 そんな感じでしばらくの間、珍しくローサさんと二人だけで話がはずんだ。

 私がガルシア家に来て二年余りが経つけれど、ゆっくり話して彼女のいろいろな面を知れて良かった。


「それではマヤさん、お先に……」


 ローサさんは打たせ湯からヨロッと立ち上がる。

 ん? 彼女の様子が……

 私は彼女の異変を感じ、直ぐさまに立ち上がった。


「あう……」

「ローサさん!?」


 私は、フラッと倒れかかるローサさんを抱きとめた。

 私の胸と、ローサさんの胸が緩衝し合うふわりとした感触。

 いやいやそんなことを考えている場合ではない。


「ごめんなさい…… お湯に当たってしまったようです……」

「ああっ 私こそ長話で引き止めてしまって、申し訳ありませんっ」

「いいえ、マヤさんと話していると楽しかったですから……」

「危ないですから、もう少しこのままで……」


 良かった…… 湯あたりしただけか。

 それならちょっとだけ、治るまでローサさんの感触を楽しもう。

 人妻のローサさんと裸で抱き合うなんて、この先二度と無いだろうからな。

 ローサさんの吐息、私より大きなFカップふわふわおっぱい、それでいて元々鍛えてある引き締まった身体、何もかも至高だ。

 私の方がふらふら倒れちゃいそう。


「――おおおおおおまえ! ローサ殿と何をしている!」


 その声は、私たちに指を差して仁王立ちしているヴェロニカだった。

 砂浜でも、股間を隠さず堂々としているのは王女として如何なものか。


「ち、違うんだヴェロニカ!」

「何が違うんだ?」

「王女殿下…… マヤさんは私が湯あたりして、倒れそうだったのを助けて下さったんですよ」

「うっ そうなのか……」


 ヴェロニカは私のことを信じてくれないな?

 せっかくの人助けだったのに、気分が削がれてしまう。


「ですがマヤさん…… ソコから手を外してもらえますか? キュウウン……」

「へっ!?」


 よく見たら、私がローサさんの後ろを回した右手が、お尻の割れ目、奥深くに入り込んでいた。

 無意識に手がそこへ動いたんだろうが、それにしてもどうして?

 私の中指に当たっている感触はローサさんの…… はわわわっ


「うぬぬぬ…… やはりおまえというやつは!」


 ヴェロニカは本当に仁王のような顔になってノシノシと私に向かってくる。

 私はローサさんをそこに座らせ、急いで逃げ出した。


「待てマヤぁぁぁ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」


 追いかけてくる!?

 子供の追いかけっこじゃあるまいに!


『アッハッハッ! おもしろー! 王女がマヤを追いかけてらっ』

『マヤさん何やってんですかねー』


 マイとオフェリアが、私たちの追いかけっこを笑い呆れながら見ている。

 まるでお笑い劇場を見ているように。


 ――スタタタタッ ヌルッ


 あっ しまっ 石けんの泡が床にっ!?

 ここはグラヴィティの浮遊で―― って、間に合わなかったああ!


 ――ドテッ


 私は風呂の床で滑って、スッテンコロリン。

 仰向けになって倒れた。頭は打っていない。

 だがヴェロニカがすぐに私のところへやってきた。

 私の頭のすぐ上で仁王立ちしてるものだから、いろいろなものが丸見えである。


「まーやぁぁぁぁぁ!」

「あの、王女様? はしたないですよ? 大事なところが見えてます……」

「そんなもの今更だ! 見えたぐらいで王女が務まるかああ!!」

「そりゃとても献身的な精神で…… ぐえっ!?」


 ヴェロニカは柔道でいう寝技の、腕挫十字固(うでひしぎじゅうじがため)を仕掛けてきた!

 彼女は両腕で私の右手を取り、両太股で首と肩、胸を押さえられている。

 右肘の関越を痛めつける技であるが、大帝の身体強化術のおかげでそれほど痛くない。

 だがここは痛がっているフリをしてみよう。

 裸の股間と太股に挟まれるなんて、こんなのご褒美でしかないだろ!


「ああああ痛たたたたたっ!」

「どうだ! このいやらしい右手はこうしてやる!」

「うがぁぁぁぁ!!」


 ヴェロニカの肌の匂いがする。

 実に人間らしい、生きている匂いだ。

 鍛えてむちむちとした白い太股に挟まれる、至福のひとときだ。

 ペロペロしてみたいがそういう体勢ではない。

 彼女は王宮の訓練場でもヘッドロックを掛けてきたり、ヴェロニカなりのスキンシップなのか下心も何も考えずに私に対してベタベタしていた。

 まるで小さな兄妹のように。

 他はせいぜい女兵士に対してだけで、男の兵士へはそういうことをしなかった。

 突然の求婚宣言から、随分と心を許してくれたものだなあ。(第八十五話参照)

 ――だがそろそろ……

 ヴェロニカの感触は堪能出来た。


「なあヴェロニカ……」

「なんだ!」

「大好きだ! 愛してる!」

「なっ…… なっ?」


 不意にその言葉を言う。

 ヴェロニカはこういうのに弱いのだ。

 よしっ 締めが緩んだ!

 私は直ぐさま抜け出して、四つん這いになってヴェロニカの肩を押さえ付ける。

 じっとヴェロニカの目を見つめ、再び愛の言葉を(ささや)く。


「ヴェロニカ、ずっと愛している。いつも君のことを考えている。大好きだ!」

「しょしょ…… しょんなこと当然だろ……」


 ヴェロニカは顔を真っ赤にし、目をそらした。

 彼女からどんどん力が抜けていくのがわかる。

 私は彼女の顎をクイッとこちらへ向けた。


「私の目を見てくれ。本気だ」

「ひゃいっ?」


 ヴェロニカは情けない声を出して、お互い見つめ合った。

 彼女の顔は今にも爆発しそうである。


『あ、あのさあマヤ…… そんなに見せつけられるとあたしたちも恥ずかしいんだけど……』

『マヤさんの、エッチ……』

「マ、マヤさんと王女殿下…… ボムッ」


 そんなところへ、マイたちがこちらを見てそう言った。

 ローサさんは隠している手の隙間から覗くように私たちを見て、頭が爆発していた。

 女同士なんだからそんなに興奮しなくても。


「あう…… マヤ…… 大好(だいしゅ)き…… ボムッ ブバァァァ!」

「ありゃりゃりゃ!」


 ヴェロニカは盛大に鼻血を出して気絶してしまった。

 マイたちの言葉で客観的な状況把握をしたような表情をしていたが、それすらも覆ってしまうくらい気持ちが爆発したのか。

 ああそうだ。ヴェロニカと初めてのベッドでは、気持ちが高ぶりすぎて大泣きしていた。

 彼女はそういう女の子だった。(第二百十四話参照)


「きゃっ!? 王女殿下!」

『わっ ちょっとマヤさんってばっ』

『ああっ マヤ! 早く膝枕して差し上げろ!』

「わかった」


 私は自分の太股でヴェロニカに膝枕をして、ローサさんが持って来てくれた濡れタオルで、鼻血を拭いてあげた。

 こう眠っている顔を見ると、おしとやかそうな美女に見えるんだがな……


「マヤさん、さっきはやり過ぎですよ。王女殿下のことはよく存じ上げませんが、わわっ 私と同じように恋愛経験が少なくて…… 真っ直ぐでとても健気な女の子だと思うんです。だから言葉一つでも気を遣って大事にしてあげて下さいね」

「ああ…… 面目ありません……」


 ローサさんに叱られてしまったが、言うとおりだ。

 実年齢五十も過ぎて、情けないなよあ。

 他に方法があったかも知れないけれど、他に考えようが無かった―― というのは言い訳か。

 兎に角、目が覚めたらどう反応しようか。

 私はそのまま彼女の手を握って、膝枕をし続けた。


「――まあどうしたの? マヤさん」

「陛下……」


 一糸まとわぬ女王が、同じくロシータちゃん、モニカちゃんを引き連れてお風呂へ入ってきた。

 うわあああ…… この状況、どう弁解しよう。

 女王はヴェロニカに寄り添い、こう言った。


「ここはいいから、あなたたちは先に身体を洗ってらっしゃい」

「はい、陛下」


 ロシータちゃんとモニカちゃんは、スタスタと洗い場へ向かった。

 美味しそうなぷりぷりお尻だなあと思いつつ。


「ちょっと興奮させちゃいまして、鼻血が出たので休ませているんです」

「そう…… 何があったのか知らないけれど、この子は小さい頃から感情が高ぶるとよく鼻血を出していて、私もよくこうして膝枕をしていたわね。うふふ」

「そうだったんですか……」

「その役目は私じゃなくて、もうあなたなのね。ちょっと寂しいかな」

「――」


 女王は、我が子が親から離れ、大切な相手が出来たことを実感した。

 ヴェロニカを見つめ、寂しげな顔をしていたのが私の胸にギュッときてしまった。

 ミカンちゃんが生まれるまで子供がいなかった私だが、いつか私もこのような気持ちにさせられてしまうのだろうか。

 ううっ ミカンちゃんはまだまだお嫁に行かないよー!


「――マヤ…… 私も好きだ……」

「気づいたか…… 良かった」

「ヴェロニカ、気分はどう? うふふっ」

「は、母上!?」


 ヴェロニカが女王の存在に気づくと、カッと目を見開いて上半身を起こした。

 何が起きていたのか状況がわからずキョロキョロしていた。

 見守っていたローサさんやマイたちもホッとしている。


「マヤさんのことがそんなに好きなのね。安心したわ」

「あわわわわわっ 母上!」


 ヴェロニカは座り込んだまま、また顔を赤くして口をつぐんでしまった。

 そっと彼女の手を握ると、照れくさそうに、僅かに微笑んだ。


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