第三百五十六話 本当のたこ焼きソースを作りたい!
夕方になり、グアハルド侯爵一家の仕事が終わり、ガルシア侯爵一家、マルセリナ様とサリタちゃんも街から戻ってきた。
彼らが帰ってくるなり、メイドのほうから「今晩の夕食は、砂浜でマヤ様主催のたこ焼きパーティーです」と伝えられ、何が何だかわからず皆が砂浜まで出てきた。
薄暗くなりかけ、さすがにこれから水着は着ないで、シャツやキャミソールにショートパンツなど軽装である。
マルセリナ様とサリタちゃんは、上下白の質素でほぼ寝間着の衣服だ。
水着は特別で、祭服や修道着以外はやや粗末であるが、それが神に仕える者としての決まりだそうだ。
当のサリ様は、高くてエッチなぱんつを履いているというのに。
それで、屋敷から砂浜へ降りる階段の下で、皆を出迎える。
エリカさんはまだ帰っていない。どこをほっつき歩いているんだ?
「皆さん、お帰りなさい!」
「マヤ君! なんだね? そのたこ焼きパーティーというのは?」
「そうですよ。今日の夕食はお休みと聞いてびっくりしました」
「ありゃ、詳しく聞かれてなかったのですね。バーベキュー小屋から良い匂いがしてるでしょう? あのグランド・オクトパスの料理を作ってるんですよ。いろいろあってアイミたちがここへ連れてきて脚を貰ったんです」
「グ…… グランド・オクトパスですって!? 私たちでも滅多に食べられない高級食材ですよ!」
「船に乗ってたあたしでも見たこと無いのにいいい! ずるううい!」
ルイスさんと、船団の元乗組員だったダリアさんでも驚くほどの高級食材だったのか、あいつは……
今もジュリアさん、ビビアナ、セシリアさん、マルヤッタさん、水着メイドさんたちはどんどんたこ焼きとエビたこ焼きを作っている。
とにかく、みんなにはバーベキュー小屋へ行ってもらった。
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「あら、おかえりなさい。お先に頂いているわよ。不思議ねたこ焼きって。いくら食べてもとまらないわぁ。モグモグ――」
女王がルイスさんたちに声を掛ける。
股間が際どいサテンシルバーのハイレグビキニで、さながら立食パーティーのようにお皿を持ってたこ焼きを食べている女王の姿に、ルイスさんとガルシア侯爵はデレデレしていた。
おいおい、ルイスさんと女王の年の差ってほぼ親子だぞ。ルイスさん大丈夫か?
その旦那たちの様子を見たアマリアさんやアブリルさん、オリビアさんたちがギロッと睨む。
私もパティに二の腕を抓られたり、どこの夫婦も同じだよな。ハハハ……
焼き上がったたこ焼きを乗せた皿を、早速ガルシア侯爵夫妻やルイスさんたちに配る。
「こ、これがたこ焼きかね……」
「まるでお菓子ね。でもアイオリソースの香りが食欲をそそるわ」
「この中にあのグランド・オクトパスが入ってるんですか?」
「はい、一個に蛸の欠片が一個ずつ入ってます。まだ中がとても熱くて口の中が火傷したらいけないから、フーフーしながらゆっくり食べて下さいね」
子供たちもいるので食べ方をきちんと説明しておく。
アマリアさんやローサさん、アブリルさん、オリビアさん、小さな子供がいる奥さんたちが代わりにフーフーしていあげている姿が微笑ましい。
十歳のサリタちゃんは自分でフーフーしてるが、それがまた可愛らしい。
「フーフーフー はふはふっ」
要領が良い子なのか、フォークで少しずつ崩しながら上手に食べている。
彼女を見ていると、まるで我が子のように思えてしまう。
「サリタちゃん、美味しい?」
「――モグモグ 美味しいです。モグモグ――」
食べることに夢中のようだ。
子供にもそれだけ美味しく食べてくれるのなら、たこ焼きパーティーを催した甲斐があったものだ。
マルセリナ様も喜んで食べてくれている様子。
「マヤ様、とても美味しいです。こんな食べ物があるなんてびっくりしました」
「これは私の故郷の料理で、イスパル風にアレンジして食べやすくしてるんです」
ただ、たこ焼きソースが無いだけなんだけれどね。
めんつゆやケチャップとかを混ぜて作る方法は知ってるけれど、結局中濃ソースが必要になってくるので私には無理だ。
「ガーリックの味が効いてて、その後に蛸の甘みが来て不思議な感じですね」
「私の故郷のソースはもっとフルーティーで甘辛い味なんです。この国ではそういう物が無くて、本来のたこ焼きを味わって欲しかったんですが……」
「フルーティーですか…… エトワール国の北西にあるシェフィード国にそういったソースがあるとその国から来た信徒から聞いたことがあります。たしか、ウスターソースと……」
「ウスターソース!? 今、その信徒さんはマカレーナにいらっしゃるのですか?」
「いえ、その方がいらしゃったのは五年くらい前で、すでに帰国なさっています」
「そうですか…… 残念です」
「その信徒さん、そのソースが大変お好きなようでこの国にも有るのかと尋ねて来られたんです。勿論有りませんから、国から持ってくれば良かったと嘆いておられましたね」
「へぇー、そんな話があったんですか」
教会でソースの話をしてるなんて、ちょっと面白い。
でも、まさかウスターソースがこの世界にも存在するなんてびっくりした!
地球でもウスターソースの発祥がイギリスだと聞いていたから、前にも言ったように正にパラレルワールドみたいだ。
シェフィード国についてはこの国へ物品があまり輸入されていないうえにほとんど知識が無いけれど、もしかしたらエレオノールさんが何か知っているのかも知れない。
今度、王都へ行ったときに聞いてみよう。
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ルイスさんたちがいる場所へ。
奥さんたちとたこ焼きをフーフーモグモグ美味しそうに食べていた。
皆に気に入ってもらえて良かった良かった。
プリシラちゃんとアナちゃんに声を掛けてみる。
「あっ マヤ様! このたこ焼きという食べ物、とても美味しいでふ!」
「これ、やみつきになる! いくらでも食べられるよ!」
高評価のようで、二人とも笑顔で食べている様がとても可愛い。
実際グランド・オクトパスを目の当たりにしたら評価が変わってくるかも知れないが。
「グランド・オクトパスは凍らせてまだたくさん残っているし、メイドさんたちに作り方を教えておいたからしばらくの間は食べられるよ」
「やったー! このタコ、普通のタコよりすんごい美味いからね!」
プリシラちゃん大蛸大絶賛。
むしろ私はこの世界で普通の蛸を食べたことが無いから味を知らない。
アイオリソースとグランド・オクトパスの組み合わせだからこのたこ焼きが成り立っているのかも知れないから、検証してみる必要があるな。
明日帰る前に、市場で牡蠣と海老も一緒に買ってくるか。
次はルイスさんに話しかけてみる。
「グランド・オクトパス入りのたこ焼き、如何ですか?」
「すごいですよマヤさん! 見た目は地味なのにグランド・オクトパスのこんな美味しい食べ方があるなんて驚きですよ!」
「小分けして急速冷凍して保管してもらってますから、また後日食べられますよ。メイドさんたちにも作り方を覚えてもらってますから。ああ、マカレーナと王宮向けにも頂きました」
「そうなんですか! ありがとうございます! マヤさんたちが捕ってきたグランド・オクトパスですから、勿論持って行ってもらって構いません!」
ルイスさんも笑顔でたこ焼きを受け入れてくれた。
それならあの話もしてみようか。
「それでこのたこ焼きなんですが、ラガの名物料理にしようかと考えてるんです」
「このたこ焼きという料理をラガの名物料理に? それは良い考えですね!」
「ですがグランド・オクトパスは簡単に捕れるものではないので、普通の蛸を使って調理出来るようにするのが課題です」
「確かにグランド・オクトパスと普通の蛸では、味に大きな差がありますよね……」
「このたこ焼きの味付けでは普通の蛸と合うのか疑問が残ります。そこで、私の故郷のたこ焼きではシェフィード国で作られているウスターソースというものを改良して使いたいと思っているんですが、ルイスさんはウスターソースの入手法をご存じでしょうか?」
「それが、ウスターソースの存在は知っているのですが、それがどんなソースなのか、輸入ルートすら私にはわからなくて…… 少なくとも私の領地ではシェフィード国の物品の取り扱いが無いんです。お力になれず申し訳ございません」
「いえ、王都の料理人に心当たりがありますし、それでもダメだったら陛下の伝手で私が直接シェフィード国へ買い付けに行こうかとも考えてます」
「そうか! マヤさんには飛行機がありましたね! それで陛下にお願いしたら手に入らない物はないですよ、きっと!」
ルイスさんもたこ焼きをラガの名物にすることには、積極的にやってくれそうだ。
ウスターソースさえ手に入れば、ソースを改良してたこ焼きどころかお好み焼き、豚カツなら出来そうだ。
焼きそばはどうだろうか。この国にはルクレッツィア国のパスタしか無いから自分で作るしか無いかもな。
ソースの改良で必要になるみりんは、白ワインと砂糖か蜂蜜を使えば代用出来るから、それに鰹節を加えたらめんつゆが出来るから、いよいよ日本の食べ物に近い物が出来そうだ。
そろそろ日本食が恋しくなってきたからな。
近いうちにヒノモトの国へ行くことになりそうだから、そこの食材も合わせて今後はさらなる豊かな食生活になれるよう努めたい。
「二人とも、私の噂をしていたのかしら。うふふっ」
私たちの話を聞きつけたのか、色気をムンムン漂わせている女王がたこ焼きの皿を持ちながら私たちのところへやって来た。
まだ食べていたのか……
「ああ、陛下にお願いしてみようかなということがあって」
「それはなあに? 私のボディの話じゃなかったの?」
マルティナ女王は何を言ってるんだ……
そんな話がここで出来るわけないだろ!
「ああ、いえ…… シェフィード国のウスターソースというのをご存じですか?」
「話には聞いたことがあるけれど、王宮の料理では使われたことがないわね。私たち、普段はそんなに高級食材を使った料理を食べているわけではありませんから」
「そうでしたか…… それで、陛下の伝手で私が直接シェフィード国へウスターソースを買い付けに行けないかと、考えたところです。普通の蛸を使ってこのたこ焼きをもっと美味しくするためには、ウスターソースが材料として不可欠なのです」
「シェフィード国とは国交があるにはあるけれど、あまり輸出入が盛んではないわね…… わかったわ。王宮へ帰ったらシェフィード国王宛てに手紙を書いて送っておくわね」
「ありがとうございます!」
「シェフィード国、私も付いて行こうかしら。そうそう、シェフィード国王には飛行機のことも手紙に書いておかなければいけないわね。返事が来たら教えるから」
「ああ…… その前に近々ヒノモト国へ行こうと思ってますから、その後になります……」
「どんなに早くても三ヶ月後になりそうだから、余裕はあるわ。その前に早く男に戻りなさいね。じゃ、そういうことで――」
女王は皿のたこ焼きを全部食べてしまったので、またお代わりにバーベキュー炉の方へ向かった。まだ食うのか!
それよりウスターソースを買い付けに行く話が、何故か国王陛下の海外訪問の話になってしまった。
仕事が増えてしまったけれど、飛行機を作るお金は出してもらったし、お金はもらえるから仕方ないよね。
「マヤさんすごいじゃないですか! 陛下とあんなに早く話がトントン拍子で進むなんて、領主でもなかなか出来ないことですよ?」
「まあ、お互いたくさんお世話したりされたりなので…… ハハハハ」
女王は早く男に戻りなさいと言った。
絶対溜まってるだろうな。
こんな要望って、私が女王の男娼をやってるから多少の我が儘を聞いてもらえてる意味合いが強いからなんだが、そんなこと口が裂けても言えない。
あまり女のままでいると女王の欲求不満が溜まるばかりだから、我が儘を聞いてもらえなくなるかも知れない。
早いところエリカさんには、性転換魔法を成功させて欲しいものだ。
――たこ焼きパーティーは大成功で、誰にも満足してもらって終わることが出来た。
パーティーの後半の私はちょっと手伝うだけで、ジュリアさんとビビアナはほぼ焼きっぱなし。
それでもちょこちょこ摘まみ食いはしていたようで、二人には大変ご苦労様でしたと抱き合って激励しておいた。
ビビアナはいつもの天真爛漫な反応だったが、ジュリアさんは抱き合っている間に「ふひひっ」という声がかすかに聞こえた。
アムとアイミの大食いもあって、材料はほぼ使い切ってしまうのは予想通りだった。
でも、ここに来られなかった調理の人たちや他の使用人の分もたこ焼きを取っておいた水着メイドさんの手際の良さには感心した。
とうとうエリカさんはパーティーが終わるまでに帰ってこなかったけれど、何をしているんだろう。
たこ焼き回、やっと終わりました^^;




