第三百五十五話 たこ焼きパーティー本番
たこ焼き用に改造したフライパンで焼いた試作のたこ焼きは、皆にとても好評だった。
これから96個ものたこ焼きが作れる改造鉄板を使って、本番調理をする。
たこ焼きパーティーを始めるぞ!
女王やヴェロニカ、マイ、目が覚めたオフェリア、スサナさんとエルミラさんも呼ぶ。
彼女らにも調理をしている最中を見てもらいたい。
そうじゃないと、たこパーにならないからだ。
アムとアイミがまだ戻って来そうにないが、そのうち戻ってくるだろう。
96個を焼くだけでは済まなそうだから、第二弾を焼くときに戻ってくれば良い。
ガルシア侯爵たちも市内観光からそろそろ帰ってくるし、グアハルド侯爵と奥さんたちも仕事が終わりそうなので、調理係には今晩の食事は不要と言うことを伝えておいた。
改造鉄板を、別の大きなバーベキュー炉に置く。
隅から隅まで満遍なく火が渡るように、炭の置き方を整理する。
炭火のたこ焼きって贅沢だよな。
火力調整はパティの火属性魔法でも細かに出来る。
ああ、料理人のビビアナは火属性魔法が使えるようになってるから、彼女にやらせたほうがいいか。
たこ焼きの生地はジュリアさんや水着メイドさんたちに指導してバケツの量ほど作ってもらった。
ラガは普通の蛸も捕れるようだし、メイドさんたちが作り方を覚えてくれたら街に普及させて、たこ焼きがラガの名物になったらいいなあ。
グアハルド侯爵にこの商売を提案してみようかな。
あわよくばライセンス料を…… なんて野暮なことはしないが。
さっき試作品を作った炉では、水着メイドさんに4cm穴のほうのフライパンを使ってもらい、ヴェロニカ用にエビだけたこ焼きを作ってもらうことにした。
彼女らはさっき見てたし、練習にもなるだろう。
さて、鉄板に油を塗りおえたので、これからたこ焼きを焼く。
女王たちもギャラリーとして見てもらっている。
「ジュリアさん、グラヴィティを使って生地を穴の中へ入れてみようと思うんだ。ジュリアさんもやってみてくれないかな?」
「はい、わかりまスた!」
生地を二つのボールに分け、二人で半分ずつ穴へ流し込むことになった。
理屈は、生地を水玉状にして穴へ放り込むんだが、上手く行くかな……
そのまま鉄板全体に生地をザバッとなみなみ入れると焼けにくく、そしてひっくり返しにくくなる。
火力の調整が上手く行けばそれが出来るかも知れないが、今は試作段階なので丁寧にやる。
「おっとっと…… 玉にしなきゃいけないのは、思っていたより難しいな……」
「ハッハッハッ マヤは不器用だな」
「ダメよヴェロニカ。せっかく作ってるところなのに」
ヴェロニカが煽る。
クソぉ、エビの代わりに蛸の吸盤部分を入れてやろうか。
「まあ! ジュリアさん、お見事です!」
パティがそう言うのでジュリアさんがやっているのを見ると――
――スポポポポポポポポポポンッ
なんと、ボールから生地の玉を連続して作り、玉がどんどん鉄板の穴へ放り込まれていく。
『へぇー、魔法もそんな使い方があるんだ』
「闇属性魔法でそんなことが出来るなんて、目から鱗だわ」
マイや女王らがそれを見て感心している。
私も眺めているうちに、ジュリアさんの鉄板のエリアは入れ終わってしまった。
「ず、随分手慣れたもんだねえ」
「あの、アイミちゃんがいつもドーナツボールをたくさん食べるものだから、こうスて揚げた方がいいかなと思いついたんでス。たこ焼きもその応用で――」
「なるほど…… あいつの大食いのおかげなのか」
結局、私のエリアの大部分もジュリアさんにやってもらった。
私がやったのって、一列分6個しかない……
レードルでやったほうが早かった。
グラヴィティに限らず、魔法の細かいコントロールは熟練したジュリアさんのほうが一日の長があると言えよう。
私など、力が強いだけで、魔法が使えるようになってから二年ほどしか経っていない。
『んんんっ!? 良い匂いがするぞ!』
『おおマヤ! たこ焼きというヤツは出来たのか?』
噂をすれば影が差す――、アムとアイミが帰って来た。
早く帰って来すぎだろ。
第二弾から大急ぎで焼かなくてはいけなくなったぞ。
「大蛸はどうしたんだ?」
『喜んで帰っていったぞ。あいつらのぱんつはとても良い匂いだったと、脚を切ったのは大目に見てやるだとさ。アッハッハッハ!』
「なななな…… なんだとぉぉぉ!!」
アイミが応えると、それを聞いたヴェロニカが顔を真っ赤にしてブチ切れた。
触手攻撃しなかった分ましだが、とんでもないドエロ蛸だな。
というか大蛸の意志がアイミたちには伝わるのか。さすが神だな。
「もうたこ焼きなど興味ないわ!」
「ああヴェロニカ。あっちでエビだけのたこ焼きを作ってもらってるから、それを食べてよ」
「――おお、エビのことはさっき言ってたな。それを貰おう」
ヴェロニカの機嫌が急に元へ戻り、水着メイドさんが焼いているほうへ行ってしまった。
何だかんだでたこ焼き自体は食べたかったのだろう。
そうしてるうちにたこ焼きが半焼きになってきた。
たこ焼きのひっくり返しはビビアナにもやってもらう。
「ビビアナ、さっき見てたよな。あんな感じでやってくれ」
「おっけーニャー ニャふふん」
妙に自身有り気だが、大丈夫なのかな。
私は左側から、ビビアナは右側から。
フライパンでやった時と同じように、鉄串を二本使ってひっくり返す。
量が多いし、焼け方に偏りがないように手早くしないとね。
――カチャッ クルッ カチャッ クルッ カチャッ クルッ
よしっ 四列出来た。残りは半分だ。
「まあ、一種の芸当ね。面白いわ」
『マヤさんすごいですぅ!』
『あたしにも出来るかなあ』
『えええっ!? ドーナツボールじゃないのか?』
『マヤ、早うせい!』
女王やオフェリア、マイたちから賞賛の声。アムとアイミが煽る。
ふっふっふ。私のハイテクニックをみんなに見せつける機会だ。いいぞいいぞ。
すると、ビビアナから声が掛かる。
「おーい、マヤさん出来たニャー」
「はぁぁぁぁぁぁ!? な、なんだと!?」
何が起きたんだ?
私が半分ひっくり返した時点で、ビビアナが全部ひっくり返していた。
ビビアナはすでにたこ焼きの形を整え始めていた。
いかん、こうしているうちにたこ焼きが片焼けしてしまう。
早くひっくり返すのを終わらせよう。
「うふふっ マヤさんの立場が無いわね。でも良い匂いだわあ」
『あれほど意気込んでおったのに、残念なやつだのう』
女王とアイミが煽る。
ええええ…… 女王の言うとおりだ。立場が無いってばよ。
取りあえず全てひっくり返したから、これから形を整えるようにコロコロ転がしながら焼く。
ビビアナは器用にやってるけれど、なんで?
「ねえビビアナ。初めてなのにどうしてそんなによく出来るんだ?」
「マヤさん、あてしを誰だと思ってるニャ。タコスやトルティージャを何千枚も焼いた百戦錬磨ニャ。たこ焼きは朝飯前ニャー あと、耳族は人間より器用だニャー」
「グヌヌヌ……」
そういうことか……
にわかにバイトでたこ焼きだけ焼いてきた私では、釈迦に説法だったのか。
ビビアナが先に焼けたので、水着メイドさんたちにも行き渡るように一人四個ずつお皿に取り分けてアイオリソース、鰹節、青ネギを盛る。
そこはジュリアさんやマルヤッタさん、セシリアさんにも手伝ってもらった。
私の分も焼き上がったので取り分ける。
焼きすぎてはないと思うけれど、もしかしたら気持ちだけ硬いかも知れない。
「さー出来ましたよー! 次も焼くから存分に食べて下さいねー! すごく熱いからよく冷ましてくださいよー!」
女王から順に、アムとアイミ、マイ、オフェリア、パティたち、水着メイドさんたちへ皿が行き渡る。
私は次を焼かなければいけないので、二個だけつまみ食いして残りはアムとアイミにあげた。
うむ。私のはとろみがちょっと足りないけれど、まあまあの出来かな。
ビビアナのは…… くうっ とろみが完璧だ。
ビビアナの料理スキルが想像以上に高くて、本当に負けちゃった。
「はふっ はふっ 本当に熱いわね。トロトロでアイオリソースの味がガツンと効いててとても美味しいわ!」
王族らしからぬ庶民的な言葉だったが、喜んでもらえて良かった。
サテンシルバーの水着がエロく、何故かたこ焼きを食べてる口元もエロい。
男だったらこの場で分身君が起立してるかも知れない。
『あがああああっ うまうまあああ!!』
『モグモグモグモグッ ゴックンッ マヤ! 期待以上の美味さだぞ! マカレーナでもこれを作れ!』
アムは皿からたこ焼きを流し込むように食べ、アイミはフォークで刺し一気に口へ放り込んで食べていた。
おいおい、熱くないのか?
「熱いのに、よくそんなに早く食べられるな」
『神の身体は人間と作りが違うのだよ』
「しーっ ここで神って言うな。知らない人たちもいるんだからっ」
子供の姿のアイミが言うことだから結果的に水着メイドさんたちは気にも留めてないが、少々ビビってしまった。
神だから何でも有りなんだねえ。
『ホクッ ホクッ マヤさんすごく美味しいですよ、これ。アスモディアでは絶対に食べられませんね』
オフェリアがとてもいい顔をして食べている。
大柄なのに可愛いよな。
みんなの声を聞きながら、再び鉄板に油を塗る。
生地を流し込むのはいっその事、ジュリアさんに全てお願いする。
その間、ヴェロニカがエビたこ焼きを食べてるところへ行ってみた。
「申し訳ございません。私にはマヤ様のように綺麗にお作りすることが出来ませんでした…… 王族の方に失敗作をお出しするなんて……」
金髪でお団子頭の可愛い水着メイドさんが申し訳なさそうにそう言っていた。
うーん…… 確かに崩れておりいびつな形であるが……
「なに、味は良いぞ! 気にすることは無い」
「ふふっ ヴェロニカは優しいな」
「なっ…… この程度のことで臣民に怒っていては、王族の恥さらしだからな」
彼女は最初に出会った時と比べて随分丸くなったものだけれど、王族の恥さらしって言うなら、出会った当時に私への当たりがキツかったことをすっかり忘れてるな。
それはまあ良い。私もエビたこ焼きを食べさせてもらおう。もう冷えてるかな。
「もぐもぐ…… 美味しいよ。ちゃんと焼けたら中がトロトロしてもっと美味しくなるから、今度は頑張ってね」
「そうなんです! マヤ様がお作りになったたこ焼きはトロットロで…… ああっ あれはまるでスィーツのような舌触りでした。私、もう一回挑戦してみます!」
「――うん、次はトロットロになるといいね」
金髪お団子頭のメイドさん、半分口を開けながら舌をペロペロなんてしていたから、何か違うことをしている想像をしてしまった。
第二弾は今ジュリアさんが生地を入れたばかりだから、まだ焼けてないよな。
次はルナちゃんたち四人が固まってる場所へ行く。
「あーんマヤさまあ、ソースが垂れちゃったあ。ここ、ペロって舐めてくれませんかあ?」
「ちょっとモニカちゃん! 下品だわ!」
私が来た途端、わざとらしくソースをこぼしておっぱいに垂らしていた。
はちみつやチョコレートソースならまだしも、ニンニク臭が漂うソースだぞ?
揶揄うにしたって、女の子としてそれはどうかと思う。
「フローラちゃん、モニカちゃんを拭いてあげてくれるかな?」
「はい、わかりました」
王宮でパティを世話していたときから何かと用意が良い彼女は、どこからか湿ったタオルを持って来て、モニカちゃんの胸に垂れたソースをサッと拭いた。
「えー、ざんねーん」
「こんなところで露骨に舐めるわけないでしょうに」
「じゃあ誰も居なかったら舐めてくれるってことですかあ?」
「モモモモモモニカちゃん! エッチですぅ!」
「ふふーん、ルナもやってみれば良いのにー 主人様からのご褒美でー」
「ば、ば、ば…… ばふうっ」
「あーらら、冗談なのに」
モニカちゃんのツッコミに、ルナちゃんが顔を真っ赤にして爆発する。
今日は顔が爆発する女の子が多いな。
前にも思ったが、王宮では私が裸になって身体を洗ってくれていたのに、マカレーナへ来てからそれが無くなって、初心な女の子へ戻っちゃったのか。
おっと、そろそろたこ焼き鉄板のところへ戻らねば。
――カチャッ クルッ カチャッ クルッ カチャッ クルッ
よーしっ 今回は集中してひっくり返したから、早く進んだぞ。
ビビアナは…… チラッ
「ニャーハハッ マヤさん、またあてしの勝ちだニャ」
「ぐぬぬぬうっ」
ドヤ顔でたこ焼きの形を整えて焼く段階に入っている。
ダメだったか……
やっぱりプロにはかなわないのか。
普段一緒に調理なんてする機会が無いから、よくだらけてるビビアナの違う面が見られて良かったとは思うが…… ちと悔しい。




