第三十四話 ゴブリン退治/マヤのエステ
2023.8.31 全体的に文章を見直しました。
前に侯爵閣下へお願いしていたデモンズゲート捜索の情報がぼちぼち入ってきている。
森の中にあるものと、なんとラフエルの街へ行く道の途中にある林の奥にデモンズゲートがあったらしい。
これを塞げば街道には魔物が出てこなくなるだろうし、マカレーナやラフエルの魔物襲来がかなり抑えられるのではないだろうか。
現時点で最も近いデモンズゲートなので、こちらを先に攻略することにした。
この日は朝から早速エリカさんと、前回のようにグラヴィティと風魔法を使って飛び現地の方向へ向かった。
服も前回と同じで、エリカさんは作業着みたいな服だからぱんつも見えないので安心だ。
「ヒャッハー!!」
街道に沿って飛んでいる途中、そんな叫び声でゴブリンの群れと戦っている人たちが見えた。
まさかね…… さらに近づくと……
ああ、やっぱりあの盗賊五人衆だ。
出遭うのはこれで三回目だが、何だか哀らしく思ってしまうよ。
しばし様子を見ると、どうも苦戦しているようだ。降りてみるか。
「おい! なかなか大変そうじゃないか」
「あっ! あんたは!」
スキンヘッドの男が振り向いて叫んだ。
本当に漫画みたいな顔である。
「助けて欲しいか?」
「いらねえよ! 俺たちだけで片付けてやらぁ!!」
「そうか。じゃあな」
「いやいやいや! 待ってくれ!!」
モヒカンの男が呼び止めた。
世紀末のザコキャラそのものだな。
「どっちなんだよ」
「助けてくれ! いやぁ、助けて下さい……」
「もう悪いことをしないと約束できるか?」
「ああ、もうしないから! ゴブリンが後からどんどん湧いて出てきやがる!」
うーん、確かに林の奥から出てきているので、今まさにデモンズゲートから出てきている最中なのかも知れない。
どの道みんな退治する必要があるな。
「仕方ないけれどエリカさん、行きますかね」
「ああ、わかったよ」
エリカさんはそのまままた上に浮かび、魔力を集中させた。
私は盗賊共の周りにいるゴブリンをフリージングインサイドや手刀で一体ずつ片付ける。
あの漫画の拳法家のように「シャオッ! シャオッ!」とは言っていないぞ。
その間、エリカさんの魔力がズンズンと増大していた。
「マヤ君、見てなさい。
これが氷魔法の超上級魔法【フリージングヘル】よ」
魔法は林の奥から来るゴブリンの大群に向かって放たれ、周りの温度がどんどん下がる。
おいおい、私も寒すぎるんですが。
風はなく、奥へ向かってじわじわと凍っていった。
動物はゴブリンがいるせいで逃げていると思う。
とにかくあいつらは酷くイカ臭くて頭が痛くなるほどだ。
あれ? いつの間にか盗賊共がいなくなっている。
一緒に氷漬けになっていないようだし、どさくさに紛れて逃げたのか。
今度遭ったら締め上げてやろう。
「エリカさん、やりましたね」
「ええ、でもたぶん七割方しか凍らせていないけれど、先に穴を塞いでしまうよ」
「わかった」
「その前に…… 魔力切れしちゃったぁぁん……」
エリカさんはシュルルルポテッと降りて座り込んでしまった。
え? この先どうするの?
「こんなこともあろうかと、私も新しい魔法を覚えたのよ……
マヤ君、ちょっとこっちへ来なさい」
エリカさんのところへ降りたら、急に抱きついてきた。なに?
「これは【マジックアブゾープション】といって、魔力吸収の魔法なの。
マヤ君だったら私が全回復するくらい吸い取っても余裕でしょ。ふふ……」
うーん、確かに魔力が吸い取られている感じがする。
でもこれ、普通の魔法使いにかけたら死んじゃいそうな勢いだよ?
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ マヤ君の気持ちいいぃぃぃぃぃぃ」
何ですと?
「マヤくぅぅん。キスだったらもっと早く終わるよぉ
ズボン脱いでくれたらもっともっと早く終わるよぉ ふひひ」
何か嘘くさいなあ。
もし男同士でこの魔法を使われたらすごく嫌なんだけれど、たぶん手を繋ぐだけで十分な気がする。
とにかく今は気分が出ないので遠慮したら、エリカさんは拗ねてしまった。
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私たちは情報があったデモンズゲートの場所まで急いだ。
到着すると、木々の間にある穴から本当にゴブリンが蜘蛛の子のように続々出てきている。
この穴を発見できたときはたまたま魔物が出てきていなかったんだろうが、大群になるとゴブリンでもとても危険だ。
「マヤ君、ゴブリンは私が抑える。魔法は予定通り君がやるんだ」
「わかった」
【クローデポルタム】の魔法は予習してから、エリカさんから次は私がやってみろということで、そのつもりで出かけている。
私が魔力を集中している間、エリカさんは広範囲のフリージングでいったん足止めしてからフリージングインサイドなどの魔法で近い方から一個体ずつ確実に早く片付けているが、なんせ数が多いので時間がかかるし魔力切れの心配がある。
エリカさんは火属性魔法が使えないが、こういた森林の中では火事になったり風で広範囲の森林が荒れたりするのは避けなければいけないので、なるべく被害が少ない氷結魔法が都合が良いのだ。
私は詠唱を開始した。
『我、彼方より来たる魔を討つ者也。美しき世界を我は望む。地獄の不浄なる門を清め給え。再び開くこと無かれ。クローデ ポルタム!!』
こんな中ニ病的な詠唱をもし人に聞かれていたら恥ずかしいな。
うおぅっ 魔力がずずっと減っていくのが感じる。
通常の無詠唱魔法より集中力がかなり必要で、アナログ操作みたいな感じだ。
これでは最初の学習が面倒でも、無詠唱魔法が普及してくるわけだね。
シュルルルル ポムッ
おお、穴があっという間に塞がってしまった。
穴は真っ暗だったし亜空間のようにも見えたのだけれど、その中のゴブリンはどうなってしまったのだろうか。
そんなことより残ったゴブリンの掃討戦だ。エリカさんも苦戦している。
私は手刀や氷結魔法で時間を掛けて、林を荒らさないよう一体ずつゴブリンを仕留めていった。
人が入ってこない場所だから、散乱したゴブリンの死体はそのままにしておく。
過去にアンデットになったという情報も無いし、そのまま土に還ってもらおう。
火属性の魔法で焼却してしまいたいが、生憎二人とも使えないし、火事になってしまう恐れがある。
もっと早く終わるかと思ってお弁当も持って来ておらず、夕方近くになってやっと片付いて、私は大丈夫だったがエリカさんはヘトヘトぐったりになっていた。
「ねぇ~マヤ君、もう一回アブゾープションさせてぇ……」
「もう…… わかったよ」
対面で座った状態で、私からエリカさんの手を繋いだら解かされ、案の定また抱きついて彼女は魔法を発動させた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ いいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ スウッとくるわぁぁ!」
「エリカさん、変な声を出さないでよ」
「だって本当に気持ちがいいよ~ 癖になってしまうわぁ~」
吸い取られるとやや気怠いし、これを毎回やらないといけないのかなと思うと少しげんなりした。
私の方は古代魔法と魔力吸い取られ二回で少し疲れたので、エリカさんを背負ってさっさと屋敷へ帰った。
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エリカさんを玄関先で下ろし、一人で自室へ向かっていると給仕服姿のエルミラさんに会う。
背丈があるうえにイケメン女子なので、無敵のメイド戦士に見える。
「マヤ君、おかえりなさい」
「エルミラさん、ただいま。
ゴブリンが大量に湧いて出てきて、退治するのに大変でしたよ」
「それはお疲れ様だったね。
良かったら今晩、マッサージをしてあげるよ」
「え? 是非お願いします!」
「じゃあまだ後でね」
なんと、思いも寄らぬエルミラさんからの大サービス。
今晩がとても楽しみだ。
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夕食の時間。
昼飯抜きだったから、今日のメニューは特に美味しく頂けた。
食事がてら侯爵閣下には、林の穴を塞いでゴブリンは全て退治したことを報告した。
魔物が少しは減るだろうと安心されたようだ。
自室へ戻り、さあお楽しみのマッサージの時間ですよ!
お風呂に入って身体もしっかり綺麗にしたし、まるで出張サービスを待つかのようにワクワクドキドキをしてしまう。
コンコンとドアノックの音がした。
予定通りエルミラさんだ。
もしエリカさんだったらどうしようかと思ったよ。
「やあ、マヤ君。待たせたね」
「とんでもないです。よろしくお願いします!」
エルミラさんは、シャツと珍しくショートパンツの姿で、白く長い美脚を惜しげもなく披露していた。
脚を眺めているだけでうっとりする。肉付きの良い脚なので挟まれたい。
「ん? どうしたの?」
「エルミラさんの脚が綺麗で見とれていたんですよ」
「男の人からそんなこと言われたの初めてだよ。
ほら、こんなに筋肉が付いちゃって、ちょっと恥ずかしいな」
「そんなことないですよ。
健康的だし、魔物と戦ってきた立派な脚ですよ」
「ありがとう。じゃあ、シャツとパンツだけになってくれないかな」
おお、そうだった。
私は服を脱いでシャツと短パンだけになった。
「ベッドの上で、うつ伏せになってね」
私は頭を枕に乗せてうつ伏せになり、エルミラさんは早速ふくらはぎほぐしを始めた。
おぉ~ 気持ちいい。
鍛えているだけあって普通の女性より力強い。
エルミラさんがやっているのはどちらかと言えばスポーツマッサージだな。
脚のストレッチもやってくれているが、自分自身こんなに身体が柔らかくなっているなんて今更気づいたよ。
続いて、足つぼマッサージ。
「ぬぐぉっ あたたたたたたた!」
「痛いのはそれだけ身体が悪いってことだよ」
エルミラさんはかまわず続けている。
だが痛気持ちいい。
「エルミラさん、上手ですけれど誰かにやっているんですか?」
「ああ、スサナによくやってるよ。お互いに交替でね。
その前はローサさんとやっていたんだ」
美女同士でマッサージして組んずほぐれつといういかがわしい妄想をしてしまった。
次は肩のマッサージ。
肩を回したり押したり、めちゃ気持ちいいです……
「これ、どこで習ったんですか?」
「ローサさんから教えてもらってね、なんでも東の国の施術みたいだよ」
またも東の国か。気になるから今度ローサさんに聞いてみよう。
最後は手のひらや指のマッサージ。
自分でも出来るが、誰かにやってもらったほうが気持ちいいよね。
「エルミラさん、今度は私がやりますよ」
「え? マヤ君もマッサージできるの? それじゃあお願いしようかな」
「私の生まれ故郷の、ちょっと変わったマッサージです」
「へぇー 別の世界のマッサージなんて楽しみだな」
実は昔、仕事を頑張ったご褒美として、いやらしくない方の男女共用エステサロンに何度も通っていた。
昔の彼女にもよくマッサージをしていたので、エルミラさんに実験的だがやってみようと思う。
まずフェイシャルエステをやってみよう。
水魔法でわずかにミストを出しながら、鼻の周りやほっぺた、顎周りをマッサージしていく。
「マヤ君すごい! 顔のマッサージなんて初めてだよ。すごく気持ちいい」
「これでエルミラさんの顔がもっと綺麗になりますよ」
「私が綺麗だなんてそんな……」
「エルミラさんは謙遜しすぎです。綺麗すぎるくらいですよ」
彼女はかなりご機嫌な様子だ。
次はうつ伏せになってもらい、ふくらはぎに膝裏、足と指のマッサージ。
アロマオイルがあればいいんだけれどそんなものはここに無いから、ベッドが濡れないぐらいのミスト魔法で代用する。
膝の裏を両手の親指でグリグリとやっている時に……
「あっ あひぃ ふぅ……」
エリカさんといい、今日は変な声をよく聞く日だ。
私は理性が強いのには人並み以上なのがモットーなのだ。
「ちょっとシャツを上げますね」
背中を始める。
何も考えずにシャツを捲り上げたけれど、ブラを着けてないのね。
気にしないで無心で、腰の方から背骨に沿って、シャツに手を潜らせて肩へ。
そして二の腕と首、それを何度か繰り返す。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ マヤ君何これ すごく気持ちいいぃぃぃぃ」
だんだんエリカさんと化するエルミラさんだった。
続けてさらに大きく手のひらで掴むように腰から背中、肩、頸椎からリンパ腺のあたりをマッサージする。
エルミラさんは小さな声をずっとあげていたが、だんだん無言になってきた。
このほうが集中出来ていいよ。
仰向けになってもらい、また脚から鼠径部までグリグリとマッサージを繰り返す。
それからお腹のマッサージで、エルミラさんはとても引き締まった固いお腹なのでかえってやりにくいが、横っ腹から下腹部に向かって優しくマッサージ。
「スゥ~ スゥ~ スゥ~」
あれ? 寝ちゃったよ。
まあ…… いいか。
ベッドは広いしこのまま自分も寝てしまおう。
まさか自分がこんなにマッサージが出来るだなんて思ってもみなかった。
エルミラさんが隣で寝ている……
彼女とは先日最後までいたしてしまったけれど、だからって寝ているときに手を出すのは良くない。
一緒に布団を被る。そして潜ってみた。
スぅぅぅぅぅハぁぁぁぁ
女性独特のミルクっぽくて甘い、とてもいい匂いだ。
今晩は良い夢を見られそう。
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そして翌朝。
「あああああああ…… 私……」
エルミラさんの声で目が覚めると、私の横で赤面顔になって叫んでいる。
「ああ、おはようございます」
「マヤ君、ごめんなさい。
私、マッサージ中に気持ちよくなってそのまま寝ちゃったんだ……」
「気にしないでいいですよ」
「うーん…… マヤ君がそう言うなら……
じゃあ、私は部屋へ戻るから。また後でね」
エルミラさんは忙しなく部屋を退出していった。
シーツにはエルミラさんの残り香があり、漏れなくクンカクンカしておく。
おっと、股間の分身君がとても元気になっているので諫めておかねば。
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朝の訓練はローサさんも含めて四人で行ったが……
エルミラさんは独占欲が無いのか天然で口が軽いのか分からないが、マッサージのことがスサナさん、ローラさんからアマリアさんへと話が伝わってしまった。
そして話を聞いた全員にエステをしなければならなくなった後日談がある。