表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/388

第三百五十話 お忍び見物の「ヘイカ」レーテ様

 今回はマルティナ女王一行の話。

 スサナ視点です。


---


 昨日から陛下がお忍びでラガの街をどうしても散策したいと仰るので、本日午前の予定として護衛任務でエルミラも一緒について行くことになったんです。

 あーもう、せっかく部屋でゴロゴロ出来ると思ったのにぃー

 一国の代表のお供に私とエルミラだけでは忍びないので、マイとオフェリアも同行することになった。

 あと、ヴェロニカ様とロシータちゃんも一緒。

 陛下は魔法使いだし、ヴェロニカ様は剣術と格闘技に長けているから、戦闘能力が無いのはロシータちゃんだけなんだよね。

 これだけいりゃ街のゴロツキどころか、騎兵団が反乱を起こしても勝てるよ。

 ま、グアハルド侯爵の領地に限ってそんなことはないだろうけれどね。

 でも陛下に対する狙撃は特に注意しろってマヤさんに言われた。

 どこで訪問計画が漏れてるかわからないし、反王家派には気を付けてるんだって。

 グアハルド侯爵が用意してくださった馬車で移動するので、案内役には御者も兼ねてグアハルド家のメイドであるカサンドラさんとメラニアさんが担ってくれる。

 昨日もビーチで二人を見かけたけれど、美人でおっぱいデカかったのよね…… 羨ましい。

 絶対グアハルド侯爵の趣味だよ。


 出発の時、玄関前にて。

 グアハルド侯爵と執事のアブリルさんが見送ってくれる。

 陛下の格好は、一般の貴族の奥様風に水色のスカートスーツ。

 ロシータちゃんは紺色のスカートスーツ、ヴェロニカ様とエルミラは白いブラウスにスラックス、私はシャツとミニスカ、マイとオフェリアはシャツとショートパンツ、メイドたちは普通の給仕服。

 端から見たらどんな集団なのかと思われそう。


「申し訳ございません。私もお供すべきなんでしょうが、仕事が立て込んでおりまして」

「いいのよ。あなたがいたらお忍びにならなくなるわ。うふふ」

「それもそうですよね。では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 二頭牽きの大型馬車は、私たち七人を乗せて出発。

 侯爵とアブリルさんは手を振ってくれてました。

 ウチんとこの侯爵よりもアットホームな感じでいいよね。

 若くてイケメンだし。


 馬車の中。

 対面掛けで、前向きがロシータちゃん、陛下、ヴェロニカ様。

 後ろ向きが私、エルミラ、オフェリア、マイの席順。

 さすがに四人掛けはちょっと狭いか。

 侯爵家の馬車だけであって中は広いけれど、背が高いオフェリアは頭がちょうど頭がつかえて狭そう。

 何てったって、身長二メートル越えてるもんね。

 それを見たヴェロニカ様は――


「オフェリア、楽にしていいんだぞ? 腰を少し前に出したらどうだ?」

『え? それでは失礼になりませんか?』

「楽にしていいのよ。今日は楽しく行きましょう」

『はい、ありがとうございます。お言葉に甘えて……』


 陛下にも言われて、オフェリアは腰をズズッと前に出し安堵した顔になった。

 へー、ヴェロニカ様ってそういう気遣いが出来るんだ。

 初めは荒れてた感じがしたけれど、だんだんと丸くなって来てるんだよね。

 マヤさんと出会って……

 いや、エルミラといちゃラブし始めた時かなあ。

 まさかエルミラが女の人とあんなことするなんて、私と一緒の時はそんなこと無かったのに、何だか妬いちゃうよ。


 最初は大衆市場へ。

 私たちは、グアハルド侯爵家の客人貴族ということで、二人のメイドたちの手配で市場の警備隊詰所へ馬と馬車を預けて、歩いて見物することになった。

 港町だけあって、魚を売ってる店が多いね。

 わたしエビが大好物だから、焼きエビの店があったら良いなあ。


「うーん、魚が焼ける良い匂いがするわね。たまにこういう場所へ来るとワクワクするわ」

「母上は王都でも黙って市場へ出掛けてますから、みんな困ってますよ」

「あら良いじゃない。国民の生活を自分の目で見ることは大事よ。それに連れのメイドは強い子を選んでるし、一緒に変装してるからバレないわ」

「そういう問題では……」


 陛下はヴェロニカ様の言葉に聞く耳を持たず。

 国王が庶民の街へお忍びで降りてくる話は本でもよく見るけれど、現実にあるんだねえ。


「――クンクン エビの匂いがするぅ!?」

「あそこの屋台で焼かれてるのはラガの名物、エビのガーリック焼きでございます」


 メイドのメラニアさんが答えてくれた。

 これは是非とも行かなくっちゃ!


「みんな! あそこへ行ってみようよ! 美味しそおおお!」

「スサナ、陛下のために出掛けてるんだから勝手なことを言うんじゃない」

「えー」

「私も食べてみたいわ。行きましょう」

「さすが陛下ですぅ!」

「――」


 エルミラは少しブスッとした顔をしてるけれど、結局付いてきてるし。

 へへーん、何だか勝った気分。

 早速イキなおっちゃんがエビを焼いてる屋台を覗いてみた。


「ひぇー! でっかい!」

「これは食いでがあるな」

「美味しそうね。王都でもこの大きさのエビはなかなか入ってこないわ」


 ヴェロニカ様や陛下も喜んでるみたいだ。

 このエビのガーリック焼き、串に刺してあってエビの頭と尻尾は残ってるけれどご丁寧に胴体の殻が剥いてあって食べやすそう。


「いらっしゃーい! お姉さん、王都から来たのかい?」

「ええ。この港町は珍しいものがたくさんで興味が尽きないわ」

「それなら尚更このエビのガーリック焼きを食べてってよ! 他の土地じゃ食べられないよー!」


 社交辞令とはいえ、屋台のおっちゃんにお姉さんと言われてニコニコ機嫌が良い陛下。

 その陛下が(ふところ)から小さな赤い財布を取り出す。

 ロシータちゃんがお金を管理しているのかと思ってたから、意外だよ。


「お兄さん、それを九人分頂けるかしら?」

「へーい! たくさんのご注文ありがとうござーい! 銅貨九枚でございます!」

「随分安いわね」


 陛下は赤い財布から銀貨一枚を出し、おっちゃんに渡した。


「お釣りは結構よ」

「へへっ ありがとうござーい!」


 おっちゃんは銀貨を両手で受け取り、深くお辞儀をした。

 そういえば陛下って国からいくら給料を貰ってるのかな?


「太っ腹ですねえ! さっすがです陛下…… ぶっ モゴモゴッ」

「バ、バカ!」


 後ろからヴェロニカ様に口を塞がれた。

 あ、おっちゃんの前で陛下と言っちゃった…… マズッ


「へいか?」

「ああいや、うちの奥様はヘイカレーテという名前でな。ハッハッハッ」

「へー、そうなんですかい。じゃ、準備するんでお待ちになってくだせえ!」


 ヴェロニカ様が何とか誤魔化してくれた。

 でもヘイカレーテだなんてすごく苦しくない?

 この国でそんな名前の女の人、聞いたこと無いよ。


(バカッ おまえ何を言ってるんだ!)

(ごめんなさい……)

(ヘイカレーテ、なかなか良い名前ね。今度は私も使ってみようかしら)

(母上、お(たわむ)れが過ぎます……)

(オホホホホホ)


 小声でそんな話をしている間、おっちゃんがエビを焼いてる。

 ああああああ…… さらに香ばしい匂いが…… 屋台に吸い込まれそう。


「へい、お待ちどおさまです! そこのテーブルを使ってくだせえ!」

「やったー! ありがとー!」


 うわっ でっかー!

 実際に手に持つと、より大きく見える!

 エビのガーリック串焼きを各人一本ずつ受け取って、皆が席に着いた。


「さあ皆さん、頂きましょう」

「ヘイカレーテ様、御馳走になります!」

「はは…… ヘイカレーテ様、頂きます……」


 わたしの後でヴェロニカ様が恥ずかしそうにそう言ってる。面白すぎぃー

 マイなんてプークスクスと声を殺して笑ってるよ。


「「「「「頂きます!」」」」」


 みんなが一斉に、国王陛下だろうが王女だろうが、身分を気にしないでワイルドにかぶりつく。

 ああ、ヴェロニカ様は元々、兵士に交じって食事をしてたんだっけ。

 一番上品に食べてるのはメイドたちなのが可笑しいよ。


「ほくっ ほくっ あつつっ うんまーい!」

「うむ、エビの旨味がすごいな。ガーリックの味もよく利いている」

「そうね。歯ごたえがとてもプリプリしていて、新鮮な証拠ね。確かに王都では味わえないモノだわ」

「美味しい…… でもこんなに大きなの、全部食べられるのかしら」

「うーん、こんなエビ食べたの初めてだよ。美味しいなあ」


 ヴェロニカ様と陛下、ロシータちゃんにも高評価のようだ。

 不満顔だったエルミラもいつの間にか笑顔になってる。

 いやー 陛下に付いてきて良かった。


『アスモディアじゃなかなか海の物を食べられないから、これって中身が食用のイモムシにしか見えないけれど結構美味いね』

「え? アスモディアってイモムシ食べるの?」

『食べますよ。これよりもうちょっと大きくて、同じように串焼きにするんです。かぶりつくとプチッと弾けてジューシーで、甘いミルクみたいな味なんですよ』


 マイとオフェリアがそんな話をするものだから、人間のみんながちょっと退いてる……

 プチッとだって。うわあああ……


「はー美味しかった! ヘイカレーテ様、ご馳走様でした!」

「どういたしまして。うふふっ」

「スサナ…… もうそれを引っ張るんじゃない」

「はーい」


 陛下も楽しんでるし、面白かったのになあ。

 またどこかで使ってみよーっと。

 みんなが食べ終えて、屋台を後にする。


「おっちゃーん! 本当に美味しかったよー!」

「おーう、ありがとなー! また来てくれーい!」


 どうしよう。明日もう一日あるから、また行こうかなあ。

 私たちは再び、ぞろぞろと九人で通りを歩き始める。

 すると―― 向こうから男の悲鳴が聞こえてくる。

 んんっ? だんだんと近づいてきた。


「ねえエルミラ、あれ何だろうね?」

「ああ、ただ事じゃなさそうだ」

『どれどれ、あたしの目でちょっと見てみようか』


 マイが額にある第三の目をギョッと見開いた。

 その目ってそういう時に使うんだねえ。


『げげっ!? 全裸の男が四人走ってきてる!』

「ええっ!?」

「まあっ?」

「何だと!? 何が起こってるんだ!」

「えええ…… 気持ち悪いです……」


 陛下やヴェロニカ様、ロシータちゃんも反応する。

 全裸の男って……

 イケメンだったら良いけれど、そういう感じじゃなさそうだね。

 オフェリアはもう目を塞いでる。

 この子、男にあまり免疫が無いみたい。


『あ、男たちが走ってきた方向、マヤとアイミたちの魔力を感じる。たぶんあいつらが何かやったんだよ』

「なーんだ、マヤさんかあ」

「あっはっはっ マヤ君ねえ」

「はぁぁぁぁ…… マヤか。全くあいつときたらいつもトラブルばかり起こすのか」

「確かにマヤさんとパトリシアさんの魔力も感じるわね。ヴェロニカ、きっとマヤさんが片付けた後で、パトリシアさんもいるから無茶はしてないと思うわ。そんな男たちは放っておいて、私たちは見物を楽しむことに専念しましょう」

「はぁ…… 母上がそう仰るなら……」


 そういうことで、私たちは構わないことにした。

 すると男たちがこちらへ向かってきて、目の前を通り過ぎようとしている。


 ――ドドドドドドドドドドドドドッ


「ぎゃひーっ」

「くっそぉぉぉぉ!! 若い女に見られてるぞ!」

「恥ずかちーっ!」

「ちょっと快感!!」


 何だアレ……

 本当に全裸のぶっサイクな男ばかり、布で股間を押さえて通りを走り抜けていった。

 何かやらかしそうな風貌だったねえ。


『マイさん、もう行っちゃいました?』

『ああ、もう行ったよ。見るからに粗末なやつらだったから、見なくて正解だったな。ハッハッハッ』


 目を塞いでいるオフェリアがマイに尋ねた。

 マイはヘラヘラと平気みたいだけれど、長寿で警察官だし、男の裸は見慣れてるのかな?

 オフェリアは安心して塞いでいた手を外した。


「きゃあっ!?」

「うげえ……」

「逃げるのに必死な顔をしてるな」


 このメイドを含めた九人の中で叫んだのはロシータちゃんだけ。

 メイドの二人は無表情。さすがだ……

 エルミラが言うとおり、向こうから逃げてきたように見えた。


「な、なんて(みにく)い……」

「そうねえ。マヤさんの若くて綺麗な身体を思えばそうよねえ、ヴェロニカ?」

「は、母上! こんなところで何てことを! しかも見てきたかのように!」

「そうなんだろうねと思っただけよ。うふふっ」

「母上は意地悪です……」


 ここでそんな冗談を言う陛下もすごいなあ。

 ヴェロニカ様は顔を赤くして、可愛いねえ。


「陛下、ご自分の国なんですから他人事(ひとごと)みたいに言うのはダメですよ」

「ロシータの言う通りね。スサナさん、エルミラさん。悪いけれど詰所へ戻って警備隊を呼んできてくれるかしら?」

「はい、承知しました」


 エルミラがそう応える。

 せっかくもっと買い食いを楽しもうと思ったのに、面倒臭いなあ。

 すると――


「コラーッ!! 何をやっているううう!!」

「うぎゃー! ちくしょー! 運が()ええっ!!」

「なんで俺たちがこんなことにいいいっ!?」


 通報があったのか、六人の警備隊員がやって来てあいつらを捕まえていっちゃった。

 あー行かなくて済んで良かった。


「どうやら警備隊が仕事をしてるようね。これで安心だわ」

「良かったー! 仕事しなくて!」

「こらスサナ! 陛下の前で露骨にそんなこと言うもんじゃない!」


 と、エルミラに怒られてしまった。

 チッ いつもくそ真面目なんだよなあ。


「まあまあエルミラさん。羽を伸ばしたいときに仕事をしないで済んだのだからそれで良いじゃない? うふふ」

「そ、そうですか……」

「母上…… 兄様に仕事を放り投げてここへ来ている方が仰ることではありませんよ」

「あらら? 何のことかしら?」

「――」


 ヴェロニカ様は黙り込む。

 さすがに陛下の図太さには叶わないみたいね。

 きっと王宮でも同じ問答が繰り返されていたに違いない。


 落ち着いたところで、私たちはまた面白そうなお店がないかゾロゾロと散策を始める。

 ううっ イカが焼ける匂いが私を誘惑するぅ~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ