第三百四十四話 脱衣所と嫉妬
大浴場の脱衣所へエリカさんと二人でやってきた。
棚に置いてある籠に、脱いだ服やバスローブが入っているものがたくさんある。
ほとんどの人はもう入っているのだろう。
奥に一際目立つ大きな人影と、普通の背丈の人影が……
オフェリアとマイが服を脱ごうとしているところだった。
「おーい」
『おっ マヤとエリカさんか』
「みんなもうお風呂へ入っちゃってるんだねえ」
『お風呂が楽しみなんだよ。マヤ、早速なんだけどさあ、マッサージしてくれない?』
「ああ…… まあいいけれど、みんながやりたがって来るから少しだけだよ」
マイが私のマッサージを要望する。
チャオトン村にあるマイの実家でやってあげたのが家族にも好評だった。(第二百七十七話参照)
オフェリアの隣にある棚の籠が空いていたので、私はそこでバスローブを脱ぐ。
今日の私は、上下ベージュピンクでレースをたくさんあしらっている高級ランジェリーを着けているのだ。勿論私のデザイン。
それをオフェリアは羨ましそうに見ていた。
彼女は上下スポーツタイプの下着を着けている。
『マヤさんのそれ、可愛いなあ。私のサイズではこんなの無くて……』
「そうか! そうだね! 帰ったらすぐ作ってもらうよ!」
『あいや、催促したわけじゃないんですけれど…… ありがとうございます』
と言いながら、オフェリアはブラとぱんつを脱いでいる。
確か、彼女の裸は初めて見るんだよなあ。
身長差が三十センチ以上あるので、すぐ隣にいるとまるでおっぱいと会話しているようだ。
思わず吸い付きたくなるが、そこは自重しておく。
下の方をチラッと見たら…… 意外に薄いんだなあ。
オーガだからもっと豪快かと思ったが、それはただの先入観のようだ。
『マ、マヤさんあんまり見ないで下さい。恥ずかしいです…… エッチ……』
オフェリアはそう言って、顔を真っ赤にして片手でサッと股間を隠す。
このくらい恥じらいがあったほうがいいのに、周りの女性はどうも開放的な人が多い。
「ああっ ごめんごめん。ちょっと気になったもので。アハハハ……」
そう言いつつ私もブラを外して、おっぱいをぷりんとさらけ出す。
『オフェリア、代わりにマヤの裸を見てやりなよ。人間の裸もなかなか綺麗だぞ?』
『えっ…… それは……』
マイがオフェリアを煽る。
見たければ見ても良いけれど、ちょっと恥ずかしいかな……
私もそう思うくらいだから、オフェリアに悪いことしたな。
「ひっひっひっ それっ」
「ひゃん!?」
すでに裸になってるエリカさんが後ろから、急に私のぱんつをズリ下ろした。
女になってから変な声が出るようになってしまったが、男に戻ってもそうだったら気持ち悪いから気を付けよう。
「コラッ 何をする!?」
「オフェリアさんっ マヤ君のお尻ってさあ、こんなにムチムチして可愛いんだよぉ~ スリスリ」
「ええいっ 鬱陶しいっ」
エリカさんが自分の顔を私のお尻にスリスリしている。
人前でやらずにベッドの上でやってくれっ
『へぇ~ マヤってエリカさんとそういう関係なんだあ。うっひっひ』
「いやいや、マイまで揶揄わないでよっ」
まあ、実際そうなのだが――
そういえばマイとは、私が女になってから出会ったので男の私を知らない。
男に戻ったら彼女はどういう反応をするのか気になるが、これからマッサージをするみたいにスキンシップが無くなっていくのかなあ。
――あれ? オフェリア……
顔を真っ赤にして私の股間をガン見してる。
(わっ マヤさんツルツルにしてる…… 人間も私たちと変わらないのかあ。おっぱいも…… 綺麗だし、大きくても可愛い。いいなあ~ こんなおっぱい)
オフェリアもむっつりだけど、やっぱり気になるのかなあ。
いや、女同士だからむっつりとは言わないのか?
オフェリアの名誉のためにもここは黙って……
『オフェリアもマヤの大事なところが気になるんだあ~ にっひっひ』
『ひゃいっ!?』
結局マイに指摘されてしまったオフェリアは、サッと両手で目を塞ぐ。
今更だけど、なんか可愛いから許す。
私は、まだお尻にスリスリしているエリカさんを引っ剥がし、下げられたままのぱんつを脱いで籠の中へ入れた。
「さあ、みんなお風呂行くよ」
『うっひょー 大きいお風呂楽しみぃ!』
『みんなとお風呂、恥ずかしいなあ……』
「可愛い女の子のおっぱいいっぱいむっひっひひっ」
「エリカさん、それもうドン引きレベルだってばっ」
お風呂へ入る前から騒がしい私たちだった。
マイとエリカさんはタオルで股間も隠さず堂々と大浴場へ入っていく。
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『へぇー! あたしんとこのお風呂場と比べものにならない広さだねえ!』
「マイんとこの木のお風呂は、あれはあれで趣があるよ」
『わあ、本当に広い! 私でも泳げそう!』
「しゅ、しゅごい…… 大きいおっぱい可愛いおっぱい勢揃い…… あっ 鼻血出そ……」
私とエリカさんはこの大浴場が初めてではないが、前はルイスさんと六人の奥さん、それから私たち二人だけだった。(第四十四話参照)
その時の人数と比べたら、エリカさんではないが女性の裸体がこんなにズラッと見えると興奮してくる。
しかも美女ばかりで、まるで理想郷の妖精たちのようだ。
それが目の前で現実にあるのだから、それだけでも死んで転生して良かったあ!
――と、とりあえず身体を洗おう。
精神は男なのだから、挙動不審な行動は控えねば。
といっても、後ろでエリカさんがキョロキョロと女の子たちを見ているが……
マイとオフェリアは掛け湯をしてからさっさとお風呂へ入ってしまった。
「あら、遅かったわね」
「あっ マヤ様とエリカ様だあ!」
「マ、マヤ様!?」
「あ…… どうもー」
洗い場の先客で、マルティナ女王がモニカちゃんとロシータちゃんに手のひらで洗ってもらっている。
うへへ…… 私も洗ってもらいたい。
むはあっ? そうだ。
女王やモニカちゃんはともかく、ロシータちゃんの裸を見るのは初めてだ。
だから彼女はモニカちゃんが私の名を言ったらビクッとしていた。
ロシータちゃんにとって私はまだ男のイメージが強いらしい。
女王が座っている椅子が凹形、俗に言うスケベ椅子だ。
というかこの洗い場にはこれしか無いようだ。
普段ルイスさんたちは六人の奥さんたちにべったりと洗ってもらって、以前一緒に入ったときよりすごいことをしてるんだろうなあ。
私の屋敷にも大浴場を増設してみたいけれど、パティがそういうハーレム行為を許さないかも知れない。
「マヤ君もー ああいうふうにしてもらいたい顔をしてるよー ふひひっ」
「いや…… 一人で洗うし」
ゲッ エリカさんに勘づかれた。
やっぱり私ってすぐ顔に出ちゃうのだな…… トホホ
「モニカ、私はロシータに洗ってもらうからマヤさんを洗ってあげなさい。うふふっ」
「はい! 承知しました! うっしっし」
「えええっ!?」
女王よっ 何てことを言うんだ!
あの笑いは絶対面白半分だし、エリカさんに加わってモニカちゃんは悪乗りしそうな返事!
どうせならロシータちゃんに洗ってもらいたいぞ!
そうこうしているうちに、エリカさんが私の右側、モニカちゃんが左側についた。
当然スケベ椅子に座らされている。
あまり騒ぎになりたくないから、さっさとやってくれ。
「じゃあ始めますからねーん」
「モニカちゃん、一緒に綺麗になろうねえぇぇ」
「じゃあエリカ様も石けんを全身に塗りたくって下さーい」
「はーい。たっぷりとねー」
何が可愛く「はーい」だよ。
エリカさんとモニカちゃんは、備え付けの液体石けんを瓶から出して身体中に塗りたくってる。
日本みたいなポンプ式の入れ物を作ったら売れるのかな。
で、何が始まるのか想像がついてしまう……
「やっぱり最初はこれよねー」
「マヤ様、覚悟して下さいねー にっひひ」
「えっ ええ……」
この間、モニカちゃんとエリカさんには自分達の身体を張ったすんごいことをされてしまう。
女王やエリカさんたちの態度から、私が構ってくれないという不満からの、三人の共謀だとわかった。
そしてついに――
「んっ!?」
エリカさんとモニカちゃんの手によって、天に昇ってしまった……
みんながいるのに背徳感が……
私がクタッとなったので、二人はやっと攻撃を止めてくれた。
「マヤさんわかった? これが女のやっかみよ」
「うぐぅ……」
「ちょっと可哀想だったかなあ」
「たまにはいいわ。別に痛いことをしてるんじゃないし。むふふっ」
女王が言うやっかみって……
嫉妬、妬み、羨み…… そんな意味だ。
私に対する悪い感情のイジメではないだろうが、あんまり構ってくれないから駄々をこねてるだけだと思う。
それをこんな形でやるなんて、女王らしいといえば女王らしい。
あ~ぁ、ロシータちゃんは私たちを見ないよう背を向けて女王にマッサージしてる。
ありがとう、私の無様な姿を見ないでくれて。
それからエリカさんが泡を流してくれて、落ち着いた。
くっそー 男に戻ったら三人ともすんごい仕返しをしてやるぞ。




