第三百四十話 女の子たちが渚で戯れる
ビーチバレー、砂遊び、水泳、パラソルの下で休んだりと、先に海辺へ出た十三人が思い思いに楽しいひとときを過ごしていた。
夕方にはまだ早いが、西日がギラギラと照りつけていた。
ヴェロニカ、エルミラさん、スサナさん、マイ、オフェリア、アムは、体力バカみたいに水泳で競い合っていた。
しかしみんな、泳げたんだね。
泳げるような川は無いし、どこかにプールがあったのかな?
私は水泳が苦手だから、全然気にも留めてなかった。
――ザザザザザァ ザザァァァァ
『うひょー! またいちばーん!』
『よっと。あたし二番!』
「ふぅ、やれやれ」
「何でエルミラには全然勝てないんだよぉ!?」
「くうううっ 私はこんなに泳ぎが遅かったのか……」
『みんな速すぎるよぉぉぉぉ! ぜいぜい……』
六人は向こうの岩場からこちらの浜まで何度も競争していたようだ。
二百メートルくらいはありそうだが、よく全力でやれるよな。
断トツで一着がアム、少し後で二着がマイ、続いてエルミラさん、スサナさん。
さらに距離をおいてヴェロニカ、オフェリアの順に着いていた。
最後の二人はどちらかと言えば陸上型の体型だしなあ。
「おいマヤ! おまえも泳げ!」
「あんまり得意じゃないから遠慮しておく」
「手取り足取り教えてやるぞ。フフフ……」
「泳げないわけじゃない。じゃっ」
「コラッ 逃げるな!」
ヴェロニカがそんな誘いをしてきたが、私は逃げるように飛んでセシリアさんたちが休んでいる所へ向かった。
手取り足取りなんて言ってるが、スパルタで海へ投げ飛ばされそうだ。
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「おーいマヤ君! こっちへ来て休みなよ!」
声を掛けてきたのはエリカさん。
パラソルの下でサングラスを掛けてデッキチェアに寝転がり、トロピカルジュースを飲みながらビーチリゾートを満喫していた。
セシリアさんは…… 寝てるな。
そして若いメイドさんが一人、エリカさんの後ろで控えていた。
メイドさんも水着になっており、黒いビキニに縁が白いフリルになっているメイド服調のデザインになっている。
グアハルド侯爵のセンスだろうな。うへへ…… これはいいぞ。
「私もジュース、お願い出来るかな」
「かしこまりました」
私もご相伴に与り、デッキチェアに座ってメイドさんにトロピカルジュースをお願いする。
おっ!? あっちにあるバーベキュー小屋に同じメイド服水着を来ているメイドさんたちが集まっているな。
何か食材を準備しているようだから、やっぱバーベキュー大会をやるのか。
楽しみだなあ。
唯一の懸念が、アムとアイミに食い尽くされてしまうかだ。
若いメイドさんは後ろのケースからパックを取り出して、グラスにジュースを入れている。
ケースから微量の魔力を感じるから、ポータブル冷蔵庫だな。
「どうぞ、お召し上がり下さいませ」
「あ、ありがとう……」
ジュースを持って来てくれたメイドさんの股間部が、デッキチェアで休んでいる私の頭の真横に現れたから少々びっくり。
彼女は一礼してすぐに去ったが、エッチすぎて悶々してしまった。
たぶん私が男だというのを知らないから、抵抗が無いのかな。
「ああっ 美味しっ」
これはマンゴーとオレンジのミックスかな。
甘みが強く、冷たくてドロッとした喉腰が火照った身体を潤してくれる。
これぞ南国バカンス!
日本でこんなことしたこと無かったなあ。
水着美女がいっぱいで、しかも自分自身が水着を着て……
自分の身体が目の保養になるのだから、パティたちに子供を産んでもらうんじゃなかったらずっと女でもいいな。うへへ
「あの子たち、よくやるわねえ」
「身体を動かすのが楽しいんでしょう。私は元来グータラだから遠慮したけれどね」
「私もついていけないなあ。魔法研究してたほうが面白いし」
「で、性転換魔法の改良はどこまで進んだの?」
「ほぼ出来上がり。あとは実証実験次第ね」
「はやっ!?」
まさかもう出来ているとは思わなかった。
バカなフリして天才だな、この人は。
「何だったら今晩でも良いんだよ? にっひっひっひ」
「ああ…… ちょうどセシリアさんが同室だったね…… でもそれは彼女の同意がないといけないし、私も心構えが……」
「そんなの五分もあれば済むでしょ」
「ええええ…… そううまくいくかねぇ」
ともあれ、明日の朝には男に戻ってるかもしれないと!?
懐かしい分身君に再会出来るというわけだ。
「マヤさまぁぁぁ!!」
甲高い馴染みある声が聞こえる。
パティだ。
ようやく降りてきたんだな。
声がする方へ振り向くと、水着の美女二人と少女が一人。
マルセリナ様とサリタちゃんもいる!
私は立ち上がり、彼女らの水着をじっくり観察する。
パティはビキニで、白がベースで色とりどりの花柄。
意外にローライズで胸も半分くらいこぼれている、とても大胆だ。
私は彼女の下着姿をはっきりと見たことが無いから、ビキニはほぼそれと同じ姿になっているので、目のやりどころに困る。
きっと勝負水着としてかけたに違いないから、褒めてあげねば。
「す、すっっっっごく似合ってるよ。可愛い!」
「ありがとうございます。で、でも…… そんなに見られると恥ずかしいですぅ」
と、モジモジしながら言っている。
胸! お腹! 股間! お尻! 太股!
あっちで泳いでいる女の子たちと違い、若干ぷよぷよしている体型は私にとってドンピシャ過ぎるのである。
これが間もなく十五歳になる女の子の身体ですと!?
いろいろ倫理的にヤバい。
「マ、マヤ様もとってもお似合いですぅ。スタイルが良くて羨ましいですわ」
「そ…… いやあ、ありがとう」
そんなこと無いよ、と言いかけたが嫌みになりそうなのでやめた。
女の子は些細なことで気にすることがある。
さて、マルセリナ様は美しく長い銀髪をお団子にまとめ、水着はビキニで色は白。
出掛ける前日に私がチョイスした物だ。
パレオを巻き、ショーツはローライズ。
セクシー且つ、聖女様らしい誠に清らかな水着だ。
マルセリナ様とは一度、ベッドの上で下着姿になってしまったので、半裸状態を拝見するのは初めてではない。(第五十八話参照)
だが白磁のような美しい肌を直視するのは恐れ多く感じる。
サリタちゃんも私が選んだ水着だ。
薄いピンクのワンピースで、ヒラヒラの短いスカートがついている。
縁が白く、スカートは白とピンクの縦模様。
うんうん、とても可愛いよ。
日本に居た当時、私に娘がいたらこのように感慨にふけることもあったろうに。
「二人とも海で水着を着たら、より可愛くなったよ」
「私が可愛いだなんて、そんな……」
「マヤ様。こんなに良い物を頂いて、ありがとうございます」
マルセリナ様は照れ照れ。
硬そうな印象のサリタちゃんも微笑んでそう言ってくれた。
「フガフガフガッ いいわっ いいわ三人とも! ああああああっ 天にも昇る心地だわぁぁぁぁ!!」
エリカさんは三人の水着に興奮し、鼻血を出しながらクルクルと変な踊りをしている。
控えめに言っても気持ち悪い。
「あ、あの…… エリカ様……」
「サリタちゃん、見ちゃダメよ」
パティはサリタちゃんの後ろから手で彼女の目を塞いでいる。
やっぱりエリカさんを魔法の先生にしなくて良かった。
「そんなことよりマヤ様、海で遊びましょうよ」
「あ、ああ…… 今遊び疲れて休憩してたところだよ。ほら、あっちでまだやってる」
「本当ですね。すごい勢いで泳いでる……」
パティが波打ち際でキャッキャウフフしたいと言っている。
もうちょっと休みたかったんだがなあ。
でも彼女らの楽しみには付き合ってあげたい。
「そうだ。向こうの誰もいないところで遊ぼうか。マルセリナ様とサリタちゃんも海が初めてなんだし、行きましょう!」
私がそう言うと、マルセリナ様は戸惑っている。
「日差しが強くて…… 大丈夫かしら?」
「それなら私特製の、日焼け止めの薬を今から塗って差し上げましょう。フガフガッ」
エリカさんが鼻血を垂らしながら言う。
だがパティがマルセリナ様を守るようにズイッと前に出た。
「私、この時のために急いで強力な日焼け止めの魔法を勉強したんですよ。残念でしたね、エリカ様」
「チィッ」
おお、さすが秀才のパティだ。
そんな魔法まであったんだなあ。
エリカさんもたぶん魔法の存在を知っていて、ペタペタと肌を触りたかったから黙っていたに違いない。
「それではマルセリナ様、サリタちゃんとマヤ様にも魔法を掛けますからね。それっ」
パティが自分の右手を私たちの方へ振りかざすと、目に見えないコーティングが皮膚に付いたような感覚がした。
だが皮膚を擦っても、いつもと変わらない。
とても便利な魔法だな。
「五、六時間も経てば自然と解除されますからね」
「さすがパティだね」
「ありがとうございますパトリシアさん」
「パトリシア様、ありがとうございます」
「どういたしまして。うふふ…… あ、エリカ様はどうせ魔法をご存じなんでしょうから、ご自分でどうぞ」
「あ……」
エリカさんが否定しないところをみると、やっぱり知ってたんだな。
スケベ心を向けるのはせめて男の私だけにくれたら良いのに、可愛い女の子好きの女は何かと心配を増やす。
「ふわぁぁぁ~ よく寝ました…… あら…… パトリシア様……?」
爆睡していたセシリアさんが起きた。
よく寝たのなら、今晩はさっきエリカさんが言っていたアレを頑張ることが出来るんだろうが……
うーん、複雑な気分だ。
「あらっ ではセシリア様にも日焼け止めの魔法を掛けましょう! それっ」
「ふぇぇぇ?」
セシリアさんはまだ寝ぼけてる状況が理解出来ていないけれど、パティが魔法を掛けて連れ出すつもりのようだ。
「さあ皆さんっ 行きましょう!」
「あれぇぇぇぇ!?」
パティはセシリアさんの手を引っ張り、私たちは誰もいないほうの砂浜へ向かった。
---
――ザザーー ザーー ザザーー ザー
「サリタちゃん! それえぇ!」
「キャッ 冷たいですっ」
「ああっ サリ様が与えたもうた母なる海…… こうして浸かると私の身体と一体になってくるようです……」
「これが海の水なんですね。磯の香り…… まるで別の世界へ来たみたいです」
パティとサリタちゃんが水を掛け合っている。
まるで姉妹のようだ。
マルセリナ様とセシリアさんは接点が無く、実質今日が初対面。
彼女が男だってことをマルセリナ様にはまだ説明していないけれど、そのうちに。
今気づいたのだが、二人とも雰囲気が似てるからどっちが聖女様なのかわからないくらいだ。
「でへへへ…… 最高に素敵だわ。水着の可憐な美少女が四人、海で戯れている絵は何日分のオカズになるのかしら」
「またそんなことを言ってる……」
私の横で座ってパティたちが遊んでいるのをイヤらしい目で見ているのはエリカさん。
マルセリナ様はもう二十五歳、間もなく二十六歳になるのだから美少女というには厳しくないか?
元々童顔だから少女に見えなくはないが……
「マルセリナ様にも、えいっ」
「キャッ やりましたわねっ それっ」
「私もっ」
――パシャッ パシャッ パシャッ
マルセリナ様も混ざって水を掛け合っている。
エリカさんじゃないけれど、若い女の子たちが楽しく遊んでいるのを見ていると、私も幸せになってくるよ。
「ほらっ エリカさんも行くよ!」
「あああ……」
私はエリカさんの手を引っ張り、海の中へ入る。
膝下まで浸かるくらいのごく浅い場所だ。
近くにいたセシリアさんに向かって、海水を掛ける。
「おーいセシリアさーん! それっ」
「キャッ」
「もっといくよー! それそれっ」
「マヤ様ったらっ それっ」
「マヤ君に総攻撃だ! そーれそれそれそれそれっ!」
「ぎゃー! やり過ぎだああ!」
――ザババババババババババッ
水属性の魔法を使ったな!?
私だからと思って、まるで消防車の放水のような高圧力の海水をぶっかけられる。
「むふふふふふっ マヤ君のおっぱい! 美味しそおぉぉ!」
「ああっ!?」
「まあっ!」
エリカさんが放った水流のせいで、ブラが持ち上がってしまい私の胸がぷるんと露出してしまう。
咄嗟のことだったので、セシリアさんは目を塞がずにガン見してるよお。
恥ずかしい……
サリタちゃんには見られてないよな?
私はブラをさっと戻した。
やっぱりワンピースのほうが良かったかなあ……
――ザッパァァァァァァン
突然、やや大きめの波がやってきた。
私でも足が持って行かれそうになるくらい。
サリタちゃんの身長では心配だ。
「おーい! 大丈夫かああ!?」
「大丈夫でーす!」
「ちょっと面白かったです」
「さすが、母なる海は力強いですね」
三人とも浜に打ち上げられて座り込んでいた。
良かった、溺れてなくて。
で、セシリアさんとエリカさんは……
ゲッ!?
「あ、あの…… エリカ様……」
「フガフガ…… このぐにょっとした感触…… とても久しぶりだねえ~ むひょひょっ」
二人も浜辺に打ち上げられていたが、セシリアさんは座り込んでパックリM字開脚。
その彼女の股間に、エリカさんは顔を突っ込んでいた。
偶然とはいえ何てことを!
いや…… 人のことは言えないが……
「おほっ なんだか急にゴリゴリしてきた!」
「きゃあああ!?」
「コラ、エリカさん離れなよ!」
私は急いでセシリアさんからエリカさんを引っ張って離した。
きっとセシリアさんは意志に関係なく反応してしまったに違いない。
彼女は恥ずかしすぎたのか、両手で顔を塞いでいる。
まあ、わかるよ。男にとって分身君は別の生き物なのだから。
しかしまたこんなオチかい!




