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第三百三十六話 アムの剣術

 マルティナ女王こと国王陛下の歓迎パーティーは平穏に閉幕した。

 一部の貴族爺の中には、「陛下と共に踊る事を許さる、今日は誠に僥倖(ぎょうこう)であった!」などと言う声が後でちらほら聞こえてきたが、そんな難しい言葉を使わなくてもなあと思った。

 女王はお疲れなのか元のヴェロニカの部屋でさっさと寝てしまう。

 面倒臭いことを要求されることを思えばその方が良い。


 夜も遅くなりパーティーの片付けは最低限にして、調理やメイドのみんなにはキリが良いところで休んでもらい、明日やってもらう。

 余った料理は彼女らに食べてもらうが、アムが肉料理食べすぎであまり残っておらず、特にオフェリアががっかりしていた。また何か御馳走してやろう。

 マカレーナに移住したルナちゃんと、王宮に居るロシータちゃん、フローラちゃん、モニカちゃんは久しぶりの再会で、元の私の部屋で四人だけのお茶会をしてから二部屋に分かれて休んだそうだ。

 私も誘われたが、私が入るとあの子たちの会話は何故か私中心の話になってしまう。

 せっかくの女子会に水を差すことになるので遠慮させてもらった。

 エリカさんがガルシア侯爵邸に防衛の結界魔法を張り、交替の騎士団に夜間警備を任せ、ルナちゃんを覗いた私たちモーリ子爵家組は屋敷へ帰り就寝。


 アムはお腹いっぱいで大変機嫌良く、用意した部屋で早めに寝た。

 邪気は感じない。

 邪神なのに一風変わったやつだが、私の力がわかっているみたいだし、サリ様との関係もあるので暴れることもないだろうとアイミは言っていた。

 唯一恐れられることが、エリサレスなどの上級邪神に操られる可能性があることだと。

 万一、アムがここにいるタイミングでエリサレスが降りてきた時は要注意だ。

 また、デモンズゲートが開くときに気分が悪くなることもアイミに聞いたら、邪神の性格にかかわらずそういう仕様ではないかと言っていた。

 はぁ…… 世話が焼けるし、いつ天界へ帰ってくれるのだろう。

 ラガのバカンスが終わった時に帰ってくれると一番良いけれどなあ。

 退屈させると碌な事にならなさそうだから、何かさせることを考えないといけない。


---


 翌朝。

 ルナちゃんはガルシア侯爵邸だし、ビビアナとジュリアさんはパーティーの片付けの続きをするために朝早く向こうへ出掛けてしまった。

 マイとオフェリアも小遣い稼ぎで夜間護衛からの交替へ出掛けた。

 それで朝食は、野菜サラダとパンの簡単なものであるが、セシリアさんとマルヤッタさんが用意してくれた。

 侯爵令嬢なのに有り難いことだ。

 もう一人の侯爵令嬢は食べるだけだが、向き不向きはあるし食材が無駄にならないのであればそれで良い。

 エリカさんは地下の部屋で寝坊しているので、彼女以外で揃って朝食を食べているときにヴェロニカが話しかけてきた。


「マヤ、近頃は訓練をする機会が減っている。母上は午前中ゆっくりされるから時間がある。この後やるぞ」

「そうだな。鈍っているところだし少しやるか」


 いつもはスサナさん、エルミラさん、たまにローサさんが加わるが、今朝は私の屋敷で二人だけだ。

 どのみち今朝は、スサナさんとエルミラさんはパーティーの片付けで忙しいだろう。


『マヤ、何の訓練をするんだ?』


 アムがそんな質問をしてきたので応える。


「木刀を使ってやるんだよ。この国のスタイルじゃなくて、ヒノモトという国の剣術でね」

『へぇー!? あたし天界で昔、剣術やってたよ。あたしも混ぜてよ!』

「そうなのか? 私は構わないがヴェロニカはどうだ?」

「ふむ。天界の剣術には興味がある。一緒にやろう」

『やったー!』


 ヴェロニカにもアムについて話しているが、アイミのこともあるのでアムも「神」という意識を感じさせない人当たりで接することが出来るのも、不思議な感覚だ。

 アムがどれ程の腕の持ち主なのか、見せてもらおうか。


---


 屋敷の庭。

 ガルシア侯爵邸の庭よりは狭いが、剣をぶつけ合うには十分な広さがある。

 そこへ、アム、ヴェロニカ、私の三人で木刀を持って集まった。

 あ、アイミもお邪魔虫として観戦するみたいだ。

 ヴェロニカは前に忍者装束を着ていたが、結局タンクトップとズボンに落ち着いている。

 今日もはつらつおっぱいだ。


『あたしはこの世界の作法とかよくわかんないけれど、天界流でやらせてもらうからね』

「わかった」


 私は木刀を中心にして両手で構える、所謂(いわゆる)上段の構えで。

 アムのあれは下段脇構え…… いや、片手だからただ木刀をぶら下げているだけに見える。

 デタラメなのか本当に天界流なのか、どう出てくるのか見当が付かない。


『んじゃ行くよっ』


 アムは高速でこちらへ走り込み、いきなり身体ごと回る回転斬りを仕掛けてきた。

 なんじゃそりゃー!?

 私は咄嗟(とっさ)に木刀を下げてギリギリで避けることしか出来なかった。

 アムは直ぐさま私へ木刀を向けて来たので、応戦する。


 ――カンカンカンッ カコッカコッカコッ カンッ


 やはり片手で…… 動きがとても丸くて滑らかだ。

 もしかしたら元は二刀流の剣術かも知れない。

 私の剣が簡単に払われ流されてしまう。

 力を使って無さそうなのに、想像以上の達人なのか?

 身体の動きもしなやかで、まるで拳法も組み込まれているようだ。


『あっはっはー! すごい! マヤってすごいよー 全然当たらない!』

「必死に避けてるだけだよっ うはあっ」


 ひいいいっ いくら木刀でも当たったら身体がもげてしまいそう。

 アムは余裕そうで、笑っていやがる。


『おーいマヤ! 押されてるぞ! ヒャッヒャッヒャッ』


「うるせー!」


 アイミが煽ってるのが聞こえるが、そっちのほうまで気にしていられない。

 脇見した瞬間に、ボコボコにされてしまうだろう。


「ぬりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ちょっと本気を見せておかないと嘗められそう。

 私は連続の突きで攻撃する。

 だがまるで透明人間に攻撃を仕掛けているように向こうへ突き抜ける。

 どうなってるんだ?

 私の視神経の処理が追いつかないほどの、高速の動きをしているのか。


『いやー マヤって本当にすごいねえ。これじゃあ母上が逃げ帰ってくるわけだ』


 おいおい何を言っているんだ?

 これで本気を出していないなら、アムは絶対にエリサレスより強いぞ。


「ちょ、ちょっと! 一旦停止!」

『んー?』


 私がそう言って攻撃の手を止め、アムも素直に止めてくれた。

 良かった…… 調子に乗ってぶちのめされると思った……

 ヴェロニカが目を丸くして、放心状態でこちらを見てる。

 そりゃ訓練でやって来た数ランク上の動きでやっていたからなあ。


「ハァ…ハァ…… あのさ…… アムの剣術の先生って誰なの?」

『あー あたしの先生はアーレスおじさんだよ』

「アーレスって、もしかして(いくさ)の神?」

『そうそう、よく知ってるね! 剣神アーレスだよ』

「ひえぇぇぇぇ!!」


『ほーう、アーレスか。私は会ったことないが天界一強いと聞いたことがある。マヤ、相手が悪かったな。ウヒャヒャ』

「そ、そんな……」


 アイミがそう言った。

 アーレスとは、ギリシャ神話オリュンポス十二神の一柱であるアレースに当たるのではないか?

 肉弾戦ではその天界一強い、つまり宇宙一強い神が先生で、今その弟子と戦っていたわけか……

 よく私の身体が持ったよ……


「じゃ、ヴェロニカ。次は君だね」

「なっ!? うっ…… わかった……」


 もしかしたら()じ気付いて遠慮するかと思ったけれど、さすがだね。

 私は楽しく観戦するとしよう。


『ねえマヤ、木刀一本貸してよ。面白いモノを見せてあげるから』

「ん? そうか」


 私は自分が持っていた木刀をアムに渡した。

 すると両方の木刀を下げた下段の構え……

 やはり二刀流か。

 だがあれは構えというものだろうか。

 ただ下向けに持っているだけに見える。


『ヴェロニカ。よろしくね』

「お、おう…… よろしく頼む」


 ヴェロニカを呼び捨てするのも王族と私だけだったのに、人間を超越する神がここに二人もいるからなあ。

 ヴェロニカもそれについて怒ることはない。


『それっ』


 アムがヴェロニカへ向かうと、やはり二刀流の回転斬りで攻撃を仕掛けてきた。

 身体ごと反時計回りでプロペラのように回転し、左手の木刀の向きがいつの間にか変わっている。

 普通の人間に合わせた速さに落としているようだが、真剣だったらとても危険だ。


 ――ツカカカカカカカカカカカンッ


 ヴェロニカもなんとか応戦をしている。

 王宮でそれなりの実戦訓練を受けているのでこういった二刀流の対処法も受けているのだろう。

 だがアムは実力の千分の一も出していない。


『どう? 楽しいでしょ?』

「ぬくっ…… フフフ…… とても楽しいぞ!」


 ヴェロニカは勝機を見いだしたような微笑をした。

 なんとアムが回転斬りの背を向けた僅かな隙に右手の木刀、棟の下を払った!


 ――パンッ


『ありゃりゃ!?』


 アムが右手に持っていた木刀がアイミの方へ回転して飛んで行ってしまった。


 ――ヒュルヒュルヒュル…… ストッ


『うひゃあ!!』


 アイミの足下に、回転していた木刀が勢いよく地面に突き刺さる。

 狙ったわけでもないのに、そんなところへ飛んで行く不思議。


『ふぇー! びっくり! ヴェロニカやるじゃん!』

「フゥ…… たまたまだ……」

『そりゃあたし、本気を出していないからね。でもまさかね、木刀が飛ばされるとは思わなかったよ。うーん、頑張った頑張った!』


 アムがそれを言い終えた後、ヴェロニカの身体がぐらっと傾いたので、私が後ろから受け止めた。


「どうしたヴェロニカ!?」

「いや…… 体力を使い果たしただけだ……」

『あれでも普通の人間の限界を超えてるから仕方が無いよ』

「訓練はこれで終了だな。中へ入って休もう」


 私はヴェロニカをお姫様抱っこして屋敷へ帰る。

 本当のお姫様だけにね。ふふふ……


「コ、コラッ そこまでしなくていい!」

「まあまあ。甘えるときには甘えておいたほうがいいよ」

「――」


 ヴェロニカは顔を赤くして黙ってしまった。

 可愛いなあ。このままベッドへ運んでイチャコラしたい。


『あー腹減った。朝ご飯の後の()()()()が食べたい!』

『そうだな。私も今朝のは物足りない。もっと食べたい』

「えええ…… どんだけ食うんだよ…… いつか私の収入で足りなくなるぞ。()()()()とか()()()()って言うなよ」

『それだ! ()()()()()でもいいぞ!』

「うがー!?」


 我が家のエンゲル係数はしばらく高くなりそうだ。

 まあ実際、食費は好調なアリアドナサルダの収入に対して大した影響は無い。

 他に大食らいなのがパティとオフェリアで、女の子ばかりだから小食なのだ。


---


 その頃、ガルシア侯爵邸。

 女王が、ロシータちゃん、モニカちゃん、フローラちゃんを従えて、庭のガゼボ(東屋(あずまや))で朝食後のお茶を飲んでいた。


「何もかも解放されて、全く別の土地でお茶を飲むのもオツだわね。あなたたちもお茶に付き合いなさい」

「はい、ありがとうございます」

「やったー!」

「ごちそうになります」

「アマリアさんから頂いた、この辺で名物のミントを使ったお茶よ。頭がスッキリするわ」


 フローラちゃんがミントのハーブティーを入れて、皆に配った。

 ミントはアマリアさんが好きなので、朝食にもよく出る。

 アマリアさんとキスをした時もミントの香りがすることがよくあって、フワッと良い気分になるのだ。むふふふっ


「今日は午後に大聖堂や孤児院、養老院とかいろいろまわらなければいけなくて忙しいけれど、明日からいよいよラガのビーチよ。楽しみになさい」

「「「はい!」」」


 とうとう、女の子だらけの水着大会の時が来る!

 昔、それに似たタイトルのテレビ番組で見たことが、リアルで見られるのだ!

 うひょひょー!


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