第三百三十五話 女王歓迎パーティー 其の二
エルミラさんの話では、セシリアさんにあのセリオが近づいて延々と自慢話を聞かされ彼女が困っていたところへ、マルヤッタさんが術を使って擬似的に泥酔状態にさせたという。
エルフはすごい術を使うんだなあ。
しかし、エルミラさんは私に話をしている顔が何故かエロいおっさんみたいだった。
この表情は絶対BLを妄想している時だ。
嫌だなあ。私の中の格好いいエルミラさんが崩れていくよ。
(ビビアナ視点)
ニャー! 今厨房で料理を作るのにてんてこ舞いニャ!
何故か肉料理ばかりどんどん追加が入ってくるニャ!
野菜も食えニャ!
「ビビアナちゃーん! サイコロステーキまた追加ねー!」
「何だニャー!? ルナ、今日のパーティーはそんなに人が多いのかニャ?」
「いつもよりは多いけれど、極端に多いってわけじゃないよ」
「誰だニャ? こんなに食うやつは」
「なんか、アイミちゃんともう一人誰か知らない女の子がたくさん食べてるみたいだね」
「あいつかー! でもアイミは大食いだけどここまで酷くないニャ! もう一人の女はどんなやつだニャあ?」
「んー、普通の可愛い女の子だったよ。マヤ様が側にいたから大丈夫なんじゃないかなあ?」
「ううう…… それなら仕方がないニャ……」
と、ルナとしゃべりつつ、あてしはサイコロステーキを焼いているニャ。
――ジュージュージュー
お腹が空いてきたニャ……
一個だけつまみ食いしてやるニャ!
――モグモグモク
おいひい…… さすがあてし、塩胡椒の加減が絶妙ニャ。
「ビビアナちゃん! 食べてないで早く作って!」
「ああ…… 悪かったニャ……」
ジュリアに怒られたニャ。
これも何だか知らない女のせいニャ!
ジュリアは今、ミニハンバーグを焼いてるニャ。
あれも食べたい……
――ジュージュージュー
ふむふむ、これでサイコロステーキは出来上がりニャー
皿に盛ってと……
「おーい! サイコロステーキ出来たニャ!」
「ビビアナちゃーん! 今度は鶏のコルドンブルー(鶏むね肉のチーズはさみ揚げ)ね!」
「ギニャー! またか!」
まあこれは仕込んでおいた料理だから簡単ニャ。
でもあてし、疲れたニャ……
そろそろ休憩したいニャー……
マヤさんが前に何か言ってたニャ。
こういうのをブラックって言うらしい。
何でブラック? 料理を黒焦げにするほど忙しいからかニャ?
(幽霊オリビア視点)
また屋敷は私ひとりぼっちになっちゃいました……
私、屋敷から出られないからどうしようもないんですけれどね。
さっき、マヤさんが帰って来て、一緒にアイミさんと知らない女の子がいましたが……
何なんですかね。あの女の子?
とても忌まわしいものを感じました……
アイミさんも怖いけれど、あれはもっと恐ろしい…… ブルブルブル……
迂闊に近づいたら消されてしまいそうです……
――ハァ……
どうせ独りなら、若かったアノ時を思い出して楽しみましょう。
あぁぁぁぁぁ!! あなたぁぁ!!
私の×××に△△してぇぇぇん!!
(マヤ視点)
気のせいか今、遠くから大きな喘ぎ声が……
いよいよ私にも幻聴が聞こえてくるようになってしまったのか。
それはさておき――
食事の途中だが、これからダンスタイムに入る。
女王やヴェロニカも参加するのだから、下心を持った貴族たちがわざとらしくおっぱいが腕に当たってしまった、何てことにならなければ良いが。
特にヴェロニカだと…… きっと恐ろしいことになる。
――最初は軽快なスローフォックストロットの曲だ。
楽器で演奏しているのは騎士団の有志。
男女が手を取り合って踊るわけだが……
私は男として踊るので、当然のように最初はパティと踊る。
「マヤ様、こうして踊るのは何度目かしらね。うふふっ」
「出会ったときのことを思い出したら、随分背が伸びたよね。これならキスがしやすくなるかな」
「やだマヤ様ったら…… それは後でゆっくりと……」
パティは照れ照れ。
たまにはこういうことを言っておかないと機嫌を損ねる。
他のダンスペアをチラッと見てみる。
おおっ 女王はガルシア侯爵とか。
両人とも踊るのが上手くて、侯爵はとても紳士に見えるぞっ
あれは…… 何だか女王から胸を押し当てているようだ。
アマリアさんはダンスに参加しておらず、カルロス君とダンスを観覧しているが不機嫌そうな顔をしてるな。こわっ
ヴェロニカは……
うぉっ? フェルナンドさんがヴェロニカと踊ってる!
しかも動きのキレが良く、彼女をリードしながら見事に踊っている。
軽やかなステップ。
高貴で美人のヴェロニカがパートナーのせいか、なんて幸せそうな笑顔!
この中で一番ダンスが上手いかも知れないな。
何でもそつなくこなす、執事オブ執事なのだから尊敬するよ。
「ではマヤ様、また後でっ」
パティが離れ、次のパートナーはセシリアさんだ。
前は誰と踊っていたんだろうな。
「やあセシリアさん、楽しんでいるかな?」
「たった今からすごく楽しくなってきましたよ。うふふ」
「それは嬉しいな」
パーティー会場でセシリアさんとこうして踊るのは初めてだ。
ダンスの経験があまり無さそうで、私がリードする。
初めてではないが、腰を手にまわすと男とは思えない細いくびれだ。
股間にセシリアさんの分身があるとは思えないほど。
今日も良い匂いがする……
誰もいなかったらギュッと抱きしめたい。
今、私が女だから、セシリアさんはどういう感覚なのだろうか。
私の方がおっぱいをセシリアさんに押しつけている状態だからなあ。
そういえばどこからか熱い視線を感じるな……
誰なんだ? うーん…… チラ見であたりを見渡すと……
――わっ エルミラさんかあ。
ダンスには参加していないが警護中なのに、またあのエロオヤジ顔をしている。
私たちを見て何を考えているのか察しは付く。
個人の趣味とはいえ、そういうのはあまりエスカレートしないで欲しい。
「それではマヤ様。うふふ」
セシリアさんが離れ、次はエリカさん。
青いドレスで、胸の部分が三角にパックリ開いている。
散々と彼女の生おっぱいを見てきているのに、チラッと見てしまうのは私の性なんだろう。
「あーん、やっとマヤ君の番になったあ」
「まだ三人目でしょ」
「にゅふふ。また私の胸を見て…… 今更だけど何だか懐かしいわね」
「懐かしい…… か…… エリカさんがペンダントになって、私が女になって、こうする機会ってなかなか無いよね」
「今、性転換魔法の解析を急いでいるから、ラガから帰って来たら実験が始められそうよ。早く男に戻って欲しいわ」
「そんなに早いの!?」
「そしたら、セシリアさんとマヤ君の組んず解れつが見られる。うっひっひっひ」
「見なくても出来るでしょうに……」
希望の光がまた強くなった。
女の身体とお別れするのは寂しいけれど、早く私の分身君に会いたいよ。
今はお豆サイズになって隠れているからな。
「じゃーねえ、マヤ君」
エリカさんと別れ、次はヴェロニカ。
白いドレスが似合っていて、とても美しい。
これを直球で言っちゃうとヴェロニカはキョドる。
「さっき見てたけれど、フェルナンドさんとのダンスは素晴らしかったよ」
「そ、そうか。フェルナンド殿のダンステクニックは確かに達人のようだった。王宮の、ダンスの先生より上手だと思う」
「へぇー、それほどまでに…… すごいねえ。今度教えてもらおう」
「そうすると良い。男に戻ったらまた私と……」
ヴェロニカは照れながらそう言う。
ムスッとしてる事が多い彼女だが、この乙女になる瞬間の表情がまた可愛い。
「君との婚礼パーティーまでには上達しておくよ。フフ」
「――しょ(そ)、しょ(そ)うか……」
舌が回らないほど動揺しなくても。
普段キリッとしている女性がデレる時のギャップが萌えるねえ。
「ではな」
ヴェロニカが離れた瞬間にいつもの表情に戻る。
誰も彼もの前で見せない表情を私の前で見せてくれるのは嬉しいことだ。
次は―― アマリアさん?
「あれ? カルロス君は?」
「あなたと踊ってみたかったから、ローサに任せたわ。うふふ」
「そ、それは…… ありがとうございます」
――バイン バイン ふにゅる バイン
私とアマリアさんの胸がぶつかり合う擬音あれば、こうだ。
私はスーツを来ているから胸が押さえられているが、アマリアさんはエリカさん以上の胸ぱっくりドレスなのでこぼれ落ちそうである。
「ねえ、パティとはどれくらいキスをしたの?」
「えっ? それは…… まあ、それなりに何度も……」
「そう。あなたが男に戻ったら、正しいキスのレッスンをしなくてはね」
「あ…… はい」
と、アマリアさんは言い、妖しい微笑みを私に向けた。
何なんだ?
さっき女王と侯爵がイチャラブダンスをしていた腹いせか?
正しいかどうかはともかく、女王と私が言葉には言い表せられない濃厚キスをたくさんしていたことなんて、アマリアさんは知るはずもない。
だからレッスンなんてするまでもないのだが、キスのレッスンなんて口実で自分がしたいだけなのかもね。
精神的興奮は、下で合体するより濃厚キスのほうが遙かに強いと思っているが、アマリアさんはどんなレッスンをしてくれるんだろうな。むふふ
「愛しているわ、マヤさん」
意味深なのか、軽く挨拶のつもりなのか、その言葉を言ってアマリアさんは離れた。
次は女王。曲の流れから恐らく最後の相手だ。
「さっき、アマリアさんと何を話していたのかしら。愛してるって聞こえたわよ」
「いやあ、それはきっと家族みたいに大事に思ってくれている意味ですよ」
「ふーん、そうなの。アマリアさんの顔はそんなふうには見えなかったけれど」
何だろな。女の勘というのか、そういう匂いを感じることは敏感なのかね。
ちょっと焦るんですけれど。
「さあどうでしょうね。アハハハ……」
「まあ良いわ。私もあなたに早く男へ戻ってもらわなければ困るし」
アマリアさんのこと、どこまで察してるんだろうなあ。
でも女王は私と何度も組んず解れつしてるから、誰より自身を持ってるのだろう。
しかし私はいつまで女王の男娼を続けていかねばならんのか。
女王の美貌なら五十歳なら大丈夫だろうが、六十はさすがに……
その前に私の分身君がフニャリンコだ。
おっと、ダンス中に小さい影が視界に入ったので避ける。
子供たちが踊ってるのかな?―― って、アイミとアムじゃないか!
小さなアイミがくるくる回って可愛らしく見えるので、観衆にウケてるようだ。
――ジャジャンジャンジャン!
「「「「「ワー! パチパチパチパチパチパチパチパチッ」」」」」
ダンスが終わる。
観衆から一斉に拍手が送られるが、それはほとんどアイミとアムに向けられているようだ。
あいつらそんなにダンスが上手かったのか?
『いやー、どうもどうもー!』
『アムよ。こう拍手がたくさんあると、なかなか良いものだな』
『そうだねー うふふっ』
アイミとアムは右手を下に振り、一礼する。
アムは知らないが、アイミがそんなことをするとは感心してしまった。
私と一緒に居ない時間も多かったし、いろいろ経験を積んだのだろうか。
「あの子たちに主役を取られてしまったみたいね。ウフフ」
「もう一人はアイミのお姉さんらしいですよ」
「えっ? ということはあの子も神様?」
「パレード中に、急にデモンズゲートが開いてそこから出てきたんです。害は無いと確信出来たので、パーティーに参加したいと言うから侯爵とパティに話してそうさせました」
「そう。あの時不快な感じがしてあなたたちが空へ昇ったのはわかっていたけれど、そういうことだったのね。あなたが良いと思うなら承知しました。また詳しく話を聞かせてちょうだい」
女王はそう言って、ダンス終了の挨拶をしに言った。
事後承諾になってしまったけれど、国家の最高権力者に信用してもらえるのは有り難い。
ダンス終了後はまた食事会が再開する。
お腹いっぱいだったけれど、ちょっとだけ腹ごなしにはなったかな。
アイミとアムはまた爆食いを開始した。
あんな小さな身体で食べ物はどこへ行くのだろうか。
神様は何でもありだから、深く考えるのはよそう。
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「マヤ様っ」
声を掛けてきたのはパティだった。
上目づかい、といっても背丈がほぼ同じになってしまったのだが、彼女は腰を曲げているので低く見える。
何かお願いしたそうな、そんな顔だ。
「なんだい?」
「またあの場所で踊りましょう」
「――わかった。バルコニーだね」
私とパティが二人きりになれる秘密の場所、というわけでもないがパーティ後のロマンティックな場所としてパティが好んでいる所だ。
こっそりとそこへ移動し、二人っきりで踊る。
ちょっと暑くなったのと、踊った女性の残り香がたくさん着いているので、私は上着を脱いで隅へ置いた。
私とパティはチークダンスのように密着して、私は脳内でメ◯ー・◯ェーンの曲を再生する。
ああ…… さっきアマリアさんと踊ったばかりだから、腰の感じがそっくりになってきたなとわかる。
私たちの胸が完全密着。
上着を脱いだので、パティの感触がまるわかり。
「ねえマヤ様……」
「ん?」
「キス……」
「うん」
パティが目を瞑り、唇は私を求める素振りをする。
私が女になってからパティとキスをするのは初めてじゃないけれど、こんな百合ユリでいいのかなと思いつつ唇を合わせた。
「う…… くふ……」
彼女は十五歳に満たないのに、積極的なので心配になってくる。
まだ舌は使ってないぞ。
――ポニュポニュッ ポニュッ
え? 私の左のおっぱいを揉まれてる……
あっ ちょっと感じちゃう…… って、違う!
パティが十五歳になっていないからという理由で、胸を揉むようことをしたことはない…… いやあったかな…… とにかく、こういうことは十五歳を過ぎてからだ。
私はそっと唇を離した。
「あの、パティ…… 胸を揉むのはちょっと……」
「――私…… 何もしてませんよ?」
「ええっ?」
――ポニュポニュッ ポニュッ
また揉まれた!
なのにパティの両腕は私の後ろ首にまわしたままだ。
何が起こってるんだ?
――と、下を見たら、セシリアさん!?
腕を伸ばして私の胸を揉んでる何かの正体は、彼女だった。
「きゃっ!?」
「あ、あの…… セシリアさん。ここで何を?」
「突然居なくなって…… お二人ともズルいですぅ! 私も混ぜてくださあい!」
このオチ、つい最近あったセシリアさんの歓迎会でも……(第三百二十三話参照)
セシリアさんも潜伏の魔法で私たちに近づいて、私の胸を揉んでいたのでした。
この前はパティが潜伏していたから、この二人は似た者同士なのか?




