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第三百三十四話 女王歓迎パーティー 其の一

 マカレーナ市内のガルシア侯爵邸にて、夕方から国王陛下歓迎パーティーが行われる。

 玄関前には領地内、また隣の領地から集まった貴族たちや大きな商家の馬車で活気づいていた。

 これら馬車の御者たちは馬の面倒も見ないといけないので、弁当持参でパーティーが終わるまで待機なのだから本当にご苦労様です。

 中には宿泊される人もいるが、館内は部屋数が少ないので行政御用達の宿へ案内される。


 それはさておき、ガルシア家の誕生日などを名目に貴族の社交として年に幾度かパーティーが行われているが、陛下が遠く離れた領地へ行幸(ぎょうこう)されるのは初めてなので、館内はいつもより賑わっていた。

 国王陛下ことマルティナ女王とヴェロニカ王女の挨拶を終え、パーティー会場の人々は立食形式で様々な料理にて舌鼓をうっていた。

 その中に、正式に招待されていない参加者が二名――

 アイミとアムである。

 一応ガルシア侯爵とアマリアさんにはアイミのお姉さんということで私が付いてるからと話をしているが、忙しそうであまりわかっていなさそう。

 まあ、パティも責任を持ってくれるということで二人を参加をさせた。


 女王とヴェロニカの周りには是非お話をさせて頂きたいという貴族たちの人だかりで、二人は対応に追われていた。これも仕事のうちだ。

 私は女王の護衛プラス、アイミとアムの面倒まで見ないといけなくなった。

 もっとも、一番の問題児であるこの二人の神がパーティー会場にいるなんてほとんどの人たちは夢にも思っていないだろう。

 エリカさんは、ご両親と兄上たちと一緒にいる。

 パティはカタリーナさんのご両親であるバルラモン夫妻のところで何かを話している。

 エルミラさんは警護がてらいつものパーティーようにパンツスーツ姿で、イケメン女子となり淑女に囲まれていた。

 どうやら領地内はイケメン男子の貴族が不足しているようである。

 スサナさんはメイド服を来て、ルナちゃんやビビアナ、ジュリアさんたちと一緒に給仕作業に追われている。

 マイとオフェリアは庭など外の敷地内で警備。

 あれ? 何故かマルヤッタさんが白いドレスを着ていて、セシリアさんと一緒に食事をしている。

 意外な組み合わせだけれど、いつの間にか仲良くなったのかな。

 さて、肝心のアイミとアムは――


『うっまー 何この肉、美味すぎる!』

『それはローストビーフというものだ。こっちのチリンドロン※も美味いぞ』

 ※鶏肉と野菜とトマトの煮込み料理


 どうやら食べ物で意気投合している。

 食べ方も少し教えておいたから、上品とは言えないがまずますの作法で食べていた。

 だが肉料理ばかり食ってるな。

 何も起きなそうだから私も食事に集中してみよう。



(マルヤッタ視点)


 なんと、セシリアさんの口利きでパトリシアさんからパーティーの参加許可を頂いたのです。

 私にドレスも買ってくれて、すごく良い人。

 どう見ても女の人なのに、実は男なんですって。

 人間って不思議ですよね。

 精神が女性で身体が男性の事例は、エルフでは聞いたことがありませんでした。

 セシリアさんとは、最近マヤさんの屋敷の厨房でよく会うようになって、料理が上手だから教えてもらったり、生活魔法も実践で教えてくれるんです。

 優しくて素敵な人なので、すぐに友達になりました。

 今日はこうしてパーティーで一緒に食事をしているんです。


『わあ、綺麗な料理ですね。これは何と言うんですか?』

「元々は隣の国エトワールの野菜料理(レギュム)で、テリーヌといいます。野菜しか使っていないのでとてもヘルシーですよ。お肉を使ったテリーヌもありますね」

『人間の料理は奥深いですねえ―― モグモグ―― 美味しいでふ うふふっ』


 好きな料理が載ってるお皿を取って、好きなだけ食べる。

 なんて贅沢なのでしょうか。

 旅の途中では道端のただの葉っぱをちょっと煮たりして食べてましたからね。

 ここはエリュシオンのようです。

 ん? 妙な優男(やさおとこ)が近づいてきましたよ。


「こんばんは。初めまして、とても美しいお嬢さん」

「はい?」


 何ですかこいつ?

 私を全く無視した目線で、失礼なやつですね。


「私はエステバン伯爵家の次男、セリオと申します。よろしければ食事をご一緒してもよろしいですか?」

(彼は第二十一話に登場)

「はい、喜んで。私はメリーダ区領主ラミレス侯爵家の三男、セシリアと申します」

『こ、侯爵家の…… そうでしたか。お近づきになれて光栄に存じます」


 セシリアさんが三男と言ったのに、気づいていないようです。

 こいつは人の話を聞かないやつかも知れませんね。

 追い返したいところですが、彼はまだ何もしていないし…… 様子を見ます。


 ――それからというもの、セリオという伯爵家の次男坊はエステバン家の自慢話をするだけで、セシリアさんはニコニコと聞くだけですね。

 家がやったことで、自分の功績ではない話。つまらないです。

 たぶんセシリアさんは困ってますよ。

 彼には退散してもらわないといけませんね……

 さて、どうしましょうか。


「――さらに我が家は宝石商も始めましてね、きっとセシリア様にもいつか気に入った物を差し上げることも出来ますよ。ハッハッハッ」

「はぁ…… そうですか」

「この後、ダンスがあるそうですが私といかがです?」

「――わかりました」


 セシリアさんは間をおいて承諾の返事をしました。

 エルフには習慣が無いのですが、これが社交辞令というんですかね。

 わっ こいつ、勝手にセシリアさんの手を取りましたよ。


「ああっ 何て美しい御手(おて)。こんな綺麗な手の女性は初めてです。毎日でも触りたいですね」

「――あの…… 私……」


 ああもう我慢出来ません。何てずうずうしい野郎なのでしょうか。

 この場から居なくなってもらいましょう。

 ――Metsämme Jumala, johdata tämä mies juopumuksen ja unen maailmaan.

 (我らが森の神よ、この者を酔いと眠りの世界へ導き給え)


「――あれ? 急に目が回って…… 何だか眠くなってきた……」


 早速効いてますね。人間はこんなに術が掛かりやすいなんてびっくり。

 彼はフラフラ。立っているのがやっとで正気ではなくなっています。


「セリオ様、いかがなさいました?」

『ふふっ ちょっと術を使いました。あっ ちょうど良いところに…… エルミラさあん!』


 私は、たまたま近くを歩いていたエルミラさんを呼びました。

 あの方ならスムースな対処をしてくれるでしょう。


「マルヤッタさん、どうかしましたか? ――あっ こいつは! 何かされましたか?」

『大したことではありませんが、しつこい方でね。私の術を使って、彼を酔いと眠りを擬似的に身体へ作用させてるんですよ』

「エルフの術でそんなことが……」

『そういうことで彼を丁重に、馬車まで送り届けて頂けますか?』

「わかりました。酔ってもうお休みになられたいということで、お帰り頂きましょう」

「――ううう……」


 セリオとやらは、エルミラさんに肩を抱えられ、パーティー会場から出て行きました。

 これで一件落着ですよ。フフン


『ではさようならあ』

「あの…… お気を付けて……」

『あんな彼にでもセシリアさんは優しいですねえ。私は大好きです。うふふっ』


 私はセシリアさんの腕に抱きつきました。

 あいつじゃないけれど、本当に綺麗な手です。

 いくらセシリアさんが男でも、あんなバカに触らせるのは勿体ないですよ。

 あああ…… 良い匂い……

 私のセシリアさんに対するこの気持ち、何でしょうね?


「マルヤッタさん、ありがとうございます。私、知らない男性からあのようにされるなんて初めてでしたから、どうしたら良いかわからなくて……」

『あれは良くない男です。家に帰り着いて起きた頃には、セシリアさんどころかパーティーへ参加したことすら忘れていますよ。フフフフフフ……』

「そ、そうなんですか。すごい術ですね……」


 ちょっとやり過ぎたせいかセシリアさんが苦笑いしていますが、まあ良いでしょう。

 あの男にウダウダと語られて食事が停まってしまいましたが、これで再開です。

 うーん、このトルティージャ(オムレツ)はいつものよりバターが濃厚で美味しいですね。

 おや、エルミラさんがこちらへ戻って来ましたよ。


「セシリア様、マルヤッタさん、彼は無事に馬車でお帰り頂きましたよ」

「それは良かったです。ありがとうございます」

『これで綺麗に片付きましたね。それでエルミラさん、彼のことをご存じみたいですが、前に何かあったんですか?』

「ああ…… 二年ほど前、パトリシア様の誕生パーティーでダンスをしている時に、どさくさに紛れてキスをしようとしたんですよ。その後父親にこっぴどく叱られたみたいですけれどね」

「まあ……」

『そんなことだろうと思いましたよ。でも今日は解決しましたから安心です』


 エルミラさんは格好いい女の人だなあ。

 容姿は私と正反対で、憧れてしまいます。


「ところでセシリア様、あの…… お願いしたいことがあるんですが……」

「なんでしょう?」

「マヤ君が男に戻ったら、アンドレとカミーユの誓いのシーンをまた見せて頂きたくて…… えへへ」

「こ、こんなところでその話を…… ポッ」

 (第百二十一話参照)


 ん? なんの話ですかね?

 アンドレとカミーユ? この国ではなく外国の名前のようですが。

 えええ…… エルミラさんの格好いい顔が崩れてエロオヤジみたいな顔になってます!

 セシリアさんは顔が真っ赤だし、この二人の間に何があったんですか?

 あ、マヤさんもいるから三人か。


「わかりました。マヤ様にもお願いしてみます。私ももう一度交わって…… ドキドキ」

「嬉しいです。あんな素敵な構えをリアルで見られるなんて、人生の宝ですよ」


 交わって? 構え?

 剣なんでしょうか。でもセシリアさんは魔法使いで剣士ではありませんよ。


『あの、お二人とマヤさんに何かあるんですか?』

「えっ? あっ その……」

「プライベートのことなので詳しくはお話し出来ませんが、とてもとても尊いことなんです。うへへ……」


 ああ…… やっぱり、エルミラさんの顔を見てると(ろく)な事ではない気がします。

 それにマヤさんのおふざけだとすれば…… 何となく察しが付きます。

 私は関わらないようにしたほうが無難ですね。



(オフェリア視点)


 私とマイは屋敷の周りを警護。

 お小遣いをたくさんくれるというからやってるんだけれど……


『お腹空いた…… 美味しそうな匂いがするし…… パーティーに行きたいな……』

『仕方ないだろ。あんなお貴族様たちと一緒にドレス着て、ごきげんようですわーなんてあたしたちに出来ないって』

『でもなあ……』

『パーティーが終わったら残った物食べていいってさ。あいつらあんまり食わねえから、あたしたちはそれだけで腹一杯食えるぜ』

『そうなの? やったー!』


 よっしゃあ! 食べまくるぞお!

 いつもより豪華な料理だから楽しみだなあ。


『ところでね、マヤさんと一緒にいる女の子って誰なの? 抑えてるつもりだろうけれど禍々しい妖気が漏れてるし……』

『あれって、アイミのお姉さんらしいよ。つまり邪神…… でもマヤが普通に接してるから害は無いのかな? あんなのと、あたしたちがやり合ってもまともな勝負にならないよ』

『ひぇー マヤさん何考えてるのかな…… ブルブル』

『そうだねー、マヤさんを信じるしかないねー』


 マイさんはあっけらかんと応えたけれど、怖くないのかなあ……

 マ、マヤさんだからきっと大丈夫だよね?



(マヤ視点)


 ――ああ、お腹がいっぱいになってきた。

 食べるのはちょっと休憩かな。

 アイミとアムは食べる勢いが止まらない。

 このままだとオフェリアたちの食事が無くなってしまうんじゃないか?

 その時はジュリアさんにでも(まかない)いを作ってもらおう。


 ――あれ? エルミラさんに抱えられている男は……

 そうだ! パティに強引なキスをしようとした憎きセリオ・エステバン!

 しばらく見ることが無かったけれど、パーティーへ参加する許しが出たのか?

 今日は何かあったんだろうか。後で聞いてみよっと。


 後日わかったことだが、エステバン家の馬車はセリオを帰してからエステバン夫妻を迎えに行くためにまた隣町まで往復したそうだ。

 御者の人は大変だったねえ。

 そして、こんな噂も聞いた。恐らくメイドの聞き耳から漏れたのであろう。

 翌日彼は、父親であるエステバン伯爵に何故先に帰ったのかと問い詰められ、何も覚えていないと言ったら私に恥を掻かせるなと激怒し、父親が彼をぶちのめしたという。


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