表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
338/388

第三百三十二話 邪神アンフィロギア

 国王マルティナ陛下、マカレーナ滞在二日目。

 今日の午後からマカレーナの街中をパレードと、夕方から周辺の街からも集まった貴族や大きな商家中心の歓迎パーティーが屋敷で行われる。

 女王の顔をひと目見ようという人たちが集まり、朝からもう警備隊や騎士団をフル動員プラス近隣の街からも応援が来て、街の通りはざわついていた。

 屋敷の中もパーティー準備のためにてんやわんや。

 親交が深いカタリーナさんの実家、バルラモン家からもメイドさんたちが応援に来て準備に勤しんでいる。

 そこらへんは老練なフェルナンドさんが中心となって指示があり、テキパキと事が進んでいた。


 ラウテンバッハにて、オープン型の馬車が特注にて用意されている。

 女王のためだけに大変だなあとぼやいていると、ガルシア侯爵は私とパティとの結婚式でもその馬車を使ってパレードをしたいそうだ。

 えええ…… そんなに目立つ結婚式するの?

 でもパティはここのお姫様だし、私はマカレーナで顔が割れてるからしないわけにはいかんのかねえ。


---


 本日は晴天なり。

 お昼ご飯を食べてから、女王陛下のパレードを決行する。

 列の最前衛はマカレーナの騎士団。

 最前衛の次はガルシア侯爵家、パティ以外の家族五人の馬車。

 一見パレードの脇役のようだが、女王の立派な護衛だ。

 ガルシア侯爵は剣、ローサさんは刀を持参しており、アマリアさんは魔法使いなのでいつでも迎撃が可能である。

 その次がオープン馬車に乗っている女王とヴェロニカ。

 両サイドにはエルミラさんとスサナさんが徒歩でガード。

 オープン馬車の後ろは、私が御者台でパティとアイミが馬車の中。

 しかも馬役はセルギウスを呼んだ。

 そして最後衛もマカレーナの騎士団と続く。

 上空には闇属性魔法グラヴィティで飛べるエリカさんとジュリアさん。

 観客に紛れてマイ、オフェリアにも警備を頼んだ。

 こんな精鋭揃いじゃ多少の暴徒が襲ってきたところでボコボコか消し炭にされてしまうだろうが、そこは緊張して警備をしなくてはならない。

 スケジュールが崩れるから何も起こらないで欲しい。

 セシリアさん、マルヤッタさん、ビビアナはパーティーで出す料理の準備をしてもらっている。

 セシリアさんはお客様の立場なのに準備を自分から引き受けてくれたので、大変有り難い。


 パレードは予定通りの時間にガルシア侯爵邸を出発。

 沿道には人々で溢れ、数メートルごとに槍を持った騎士団または警備兵が配置されている。

 女王は赤いドレス、ヴェロニカ王女は珍しく白いドレスを着ており、注目の的だ。

 公式的には女王とヴェロニカの二人が王都からの来訪になっている。

 この格好であればヴェロニカがずっとマカレーナにいたなんて気づく人は稀だろう。


「陛下ぁぁぁぁ!!」

「国王陛下マルティナ様ばんざーい!」

「ヴェロニカ王女殿下ぁぁぁ! お綺麗ですぅぅ!」

「ガルバーニャ国に栄光あれ!」


 沿道で大衆からのそういった掛け声がたくさん聞こえ、女王とヴェロニカは愛想良く手を振っている。

 ヴェロニカのあの顔は作り笑いだな。

 さて―― さっきから上空で少し気持ち悪い何かを感じる。

 最近は感じることが無くなっていたが、少し前まではよく感じていたあれだ。

 セルギウスもそれを感じていたようだ。


『おいマヤ。なんか出てきそうだな。このいやーな感じは……』

「おお、おまえもか。微弱だが気分が悪くなるようだ」


 馬車の中にいるアイミとパティにも尋ねてみる。


「ねえ、さっきから空の方で嫌な感じがするけれど、わかるかい?」

「うーん…… 私にはわかりませんわ」

『私はわかっている。おまえたちが言うデモンズゲートが発生する直前だ』

「やはりそうか…… 何が出てくるのか心当たりがあるか?」

『私の兄姉(きょうだい)かもしれぬ。前に出てきたヒュスミネルのようにな』

「そんなっ? 何でわざわざこんな時に!」


 アイミの兄姉!?

 ヒュスミネルはアスモディアに現れ、アモールの光輪技で捕らえてサキュバスの三人が精気を吸いまくってボロボロにしたんだ。

 だがここにはアモールもサキュバスもいない。

 邪神をどうしたら倒せるんだ?

 マカレーナが血の海にされることは絶対にさせない。


『マカレーナに出てくる意味は、目標がおまえとエリカ、私しかおらん。たまたま今日だったとしか言えないな』

「――きっとエリカさんも気づいているはず。おいアイミ、美味い料理が食えなくなったらいかん。早く上へ行くぞ」

『うっ わかった……』


 アイミを素直に動かすには食べ物か私の身体。

 今は女だから食べ物で釣るしかない。


「じゃあセルギウス! 上へ行ってくるからパティのことは頼んだぞ」

『承知した!』

「ああっ マヤ様! どうかご無事で!」

「うん!」


 私はアイミの腕を引っ張って、グラヴィティで空へ昇った。

 魔力感知が出来る女王が私に気づいたようだが、騒ぎを越さないようにチラ見をしただけだった。

 無事に処理をして、ラガのビーチへ連れて行ってあげたい。


---


 マカレーナの上空三百メートル。

 二、三十メートルくらいの場所で監視していたエリカさんとジュリアさんは、随分高い場所へ移動していた。

 ここらにデモンズゲートが発生するのか?


「おーいエリカさーん! ジュリアさーん! やっぱりアレを感じたの?」

「ええ、何というか身の毛がよだつ感じがしているね」

「わたス、ちょっと吐き気を催スてしまスた。うううっ」

『フンッ 空に上がると余計に嫌悪感が増してきたわ』


 彼女はもう邪神ではなく私によって浄化されてしまったので嫌悪感があるんだろうが…… え?


「うぉ!? アーテルシア!」


 腕を引っ張っていたアイミが、いつの間にかアーテルシアの姿へ戻っていた。

 力の強さはアイミの時よりアーテルシアのほうが強い。

 アイミは臨戦態勢になったというわけか……


『いよいよ来るぞ……』

「こ、ここへか!?」

「空間の歪みがすぐそこへ出来ているわ!」

「ひいぃぃぃっ 怖いでスう!」


 すると、私たち四人がいる場所から十メートルと離れていないところに小さな黒い渦が現れた。

 渦の真ん中が大きくなり、黒い楕円形の穴が現れる。

 まさにデモンズゲート!

 何が出てくるかわからないので、私たちは距離を取った。

 穴の奥の暗闇から人陰が見える!

 やや小走りで出てきているので、私たちは身構えた。

 姿を現したのは―― 女の子?


『いやー、出迎えご苦労ご苦労。アーテルシアとそのお仲間さんたちっ』


『あー…… おまえ誰だっけ?』


『アンフィロギアだ! おまえの姉ちゃんだってば! 昔遊んでやっただろ!』


『忘れた。アンフィ…… ギャー? 変な名前だな』


『ああもういい! アムって呼んでくれていいぞ!』


 髪の毛は黒い、クリクリくせ毛のショートヘア。

 背はそんなに高くなくて胸はCカップくらいか。

 白いTシャツに薄い茶色のショートパンツ、というか昭和の小学生が履いていた半ズボンみたいだな。

 まるで少年のような風貌だが、これがアーテルシアの姉で邪神?


『で、何しに来たのだ? 今日は祭りで美味いモノが食えるのだから、邪魔したら容赦せぬぞ』


『おっ 下を見たらそのようだねえ。いやね、おまえと母上、あとバカのヒュスミネルを倒したやつがいる世界ってどんなところなのかを見に来たっていうわけさ。それで、倒したのはそいつらなの?』


『私を倒したのはそこにいる元男のマヤ、母上を倒したのはマヤとその魔族の女エリカだ。ヒュスミネルを倒したのは外国の魔族でここにはおらん』


 おおおい、そんな正直に言っていいのか?

 やだよ、こわいよ。早くビーチリゾートに行かせてよ。


『へー、その可愛い女の子と美人なお姉さんが? すごいねー』


「あ、ああ…… どうも」

「美人なお姉さんだなんて、わかってるじゃなーい」


 エリカさんはブレないねえ。

 アスモディアの大帝やアモールの次くらいに強い私たちがここにいるのに、私はそのアムって邪神の余裕さにかえってチビりそう。


『母上はどうしている? ヒュスミネルは?』


『母上はブチ切れて天界のずっと奥深くに引きこもってるよ。あたしは何百年も付き合いが無いからそれ以外は知らないねー。ヒュスミネルはミイラみたいに干からびててさあ、マジで笑っちゃった。いくら神でもあれで生きてるとは思わなかったよ。なんでああなったの?』


「魔族のサキュバスに精気を吸い尽くされてあのようになりました」


 と、私は事実を述べた。

 このアンフィロギアという邪神、ギリシャ神話でいう口争いの女神アムピロギアーに似ている。

 口喧嘩の神って、変なの……

 邪気は感じるけれど、最初のアーテルシアやエリサレスのようは恐怖感は無い。

 何だろうな。関西弁はしゃべっていないけれど、大阪の女の子って雰囲気がする。


『そうだ。君、元男ってアーテルシアが言ってたよね? なんで女の子になったの?』


「え? 魔族の国の屋敷で滞在中に男のままでいたら、そこのメイドのサキュバスに精気を吸われるから魔女の魔法で女にしてもらったけれど、元に戻るには何故か人間だと効かなくてこのままに……」


「ウプッ うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! おもしろーい! それで男のヒュスミネルは()()()になって失敗したってか! 女神だったらそっちがやられてたかもねー」


 嘘ついたら怖そうなので本当のことを言ったら、バカウケされてしまった。

 人生お笑いモノだよまったく…… 悲しい。


『アーテルシアは男へ直せないのか?』


『治せない。そこのエリカが治す魔法を研究中だ。おまえは治せるのか?』


『治せない』


『チッ あっ そ』


 一瞬期待してしまった私が(おろ)かでした。

 アーテルシアは私が男の方がいいから、治せないと聞いて不機嫌な顔になる。


『あたしさあ、復讐だとか人間を支配するとか興味ないのよ。何か面白いことないかなーって』


 面白いことがないかを欲するのは、アーテルシアと同じだな。

 性格が我が(まま)かも知れないが、害は無さそうだ。

 さてどうしようか……


『でね、お祭りとか面白そうじゃない。何か他にあるの?』


「ああ、数日後には海でバカンスの予定だけれど?」


『えーっ!? いいなあ。あたしもしばらく一緒にいさせてよ!』


「う…… 絶対人を傷つけたり物を破壊しないと約束してくれるならいいけれど……」


『わかったわかった。よし決まりだねっ アーテルシアや母上を倒した相手とやり合うなんて利口じゃないよ。さっきアーテルシアが行ってたねえ。美味いモノが食えるって』


 うーん、パーティーに飛び入り参加が出来るかなあ。

 ドレスを着させて、貴族令嬢のごとくしなりしなりと動いてもらわないと……

 ――無理か。行儀悪そうだしなあ。

 料理だけ取り分けてアイミたちと一緒に食べてもらうか、取りあえず後で考えよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ