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第三百二十三話 セシリアさんの歓迎会は忙しい

 その日のうちに、飛行機でセシリアさんをマカレーナへ連れてきた。

 まず私の屋敷を見てもらうが、厨房の準備が整っていないので食事だけはガルシア侯爵邸へ挨拶も兼ねて行く。

 パティはこの屋敷で自分が使う予定の部屋を少し片付けてから、一人で辻馬車に乗って帰るという。


「まあ! 思っていた以上に素敵ですね!」

「ふふふっ 外壁も掃除した甲斐があったよ」


 セシリアさんは屋敷の外観を見てそう言ってくれた。

 宙に浮ける私とジュリアさんが頑張って、水属性などを駆使した磨いたのだ。

 中に入ると、ちょうど玄関ホールでルナちゃんが移動のために歩いていた。


「ただいまルナちゃん」

「マヤ様、おかえりなさい。早かったですね! あっ! セシリア様!」

「お久しぶりですね、ルナさん。うふふ」

「ようこそ、マカレーナへいらっしゃいました。ああっ その節は服をたくさん買って頂いてありがとうございました!」


 ルナちゃんはセシリアさんに向かってペコリとお辞儀をした。

 彼女が休みに時、私に見せびらかしていたのはその時買ってもらったもの。

 キュロットパンツがとても似合っていて可愛かったなあ。


「ルナちゃん、セシリアさんの部屋はもう片付いているかな?」

「はい、ばっちりです!」

「ありがとう。セシリアさん、早速見に行きましょう」

「うふふ、楽しみですね!」


 セシリアさんには二階の部屋を案内する。

 三階は来客用の部屋なのでやや狭いが、二階の住居用も部屋がたくさんあるからだ。

 幽霊のオリビアさんがいる部屋と私が使用する部屋以外はだいたい22~30㎡で、十二畳から十六畳の広さである。

 二階には先にマイ、オフェリア、アイミが住んでおり、一階の使用人の個室に、ルナちゃん、ジュリアさん、ビビアナ、マルヤッタさんが入居。

 約11㎡で六畳相当だが、皆は厨房に近いことが大きな理由で、ビビアナやマルヤッタさんは広い部屋だと落ち着かないのと掃除が面倒だからだそうだ。

 家族であってあまり使用人として扱いたくないのだが、仲良し四人で近くの部屋が良いそうなので私が口を出すことも無いだろう。

 エリカさんは地下室へ引っ越すことになっているが、ガルシア侯爵邸の地下室からまだ魔法書などの物が運び切れておらず整理が済んでいない。

 性転換魔法の実験が始まるのはもう少し先だろうな。

 ヴェロニカはまだガルシア侯爵邸に住んでいる、というか仲良しのエルミラさんともう少し一緒にいたいそうだ。

 後日予定の女王訪問時に、このままでは部屋が足りないのでヴェロニカの部屋を使うことになり、彼女にはそれまでに引っ越してもらう。

 エルミラさんとスサナさんは元々ガルシア侯爵の部下なので私の屋敷には住まない。


「ラミレス侯爵邸のセシリアさんの部屋よりはずっと狭いけれど、どうだろうか?」

「素敵です! 私はこれくらいがちょうど良いですよ。ああ…… あそこに洋服タンスを置いて…… ぬいぐるみはあそこに……」


 彼女はすでに配置のイメージが湧いているようで、早速家具を飛行機から持ち出して新しい部屋へ置いた。

 周りの女の子の中では乙女チックな雰囲気である。


「うんうん、可愛い部屋になりましたわ。ありがとうございます、マヤ様っ」

「どういたしまして」

「ああっ マヤ様と一つ屋根の下に住めるなんて夢のよう!」

「そうそう、一つ言い忘れたことがあるんだけど……」

「何でしょう?」

「もし魔法が成功して私が男に戻れたら、性転換魔法でどういうことが出来るかわかるかな?」

「それは……」

「セシリアさんが正真正銘の女になれるんだよ」

「えっ…… ええっ? と、ということは子供が産めるようになるんですね? マヤ様との子供が!」

「理屈ではそうなるけれど、本当に産めるかどうかはわからない。でも希望の光は見えてきたということだよ」

「それでも嬉しい…… 本当の女になれる夢が叶うのですね……」


 セシリアさんは半泣きで、私に抱きついた。

 イイ匂いだなあ……

 男なので胸がぺったんこなのは残念だけれど、女になったらふわふわぼいんになるのだろうか。

 母親のイメルダさんはそこそこ大きそうだったので、期待しても良いかな。


---


 今晩はガルシア侯爵邸でセシリアさんの歓迎会。

 セシリアさんはやや遠慮気味だったが、領主の侯爵家令嬢というパティと同じ立場なので何もしないというわけにはいかない。

 ラミレス家のパーティーでも顔出しだけしかしなかったという話で、侯爵は心配していたそう。


 屋敷のホールで立食形式のパーティー。

 身内ばかりとはいえ、私がマカレーナへ来てから周りに女の子がたくさん集まったので、ずいぶん大所帯になってしまった。

 よくわからない元邪神様に、魔族二人、エルフまでいるんだから。

 ルナちゃん、ビビアナ、ジュリアさんは給仕係であるが、今回は交替でパーティに参加してもらううことにした。


 セシリアさんの挨拶が始まる。

 よその土地で初めての主役なのだから、やはり緊張しているな……


「あああのっ マヤ様からご紹介にあずかりました、領主マルコ・ラミレス侯爵の息子、セシリア・ラミレスと申します。この度はエリカ様と一緒にマヤ様が男性に戻るためのお手伝いをさせていただくことになりました。しばらくの間皆様にはお世話になります。どうぞよろしくお願いします」


 ――パチパチパチパチパチッ


 セシリアさんは勇気を振り絞って、ちゃんと男性だと自己紹介することが出来た。

 えらいぞ。


『へぇー あの方は男性なのですか。とても綺麗だし、人間とはすごいですね』

「セシリアさん、あのスカートの下はどんなぱんつを履いてるのかな。むふふっ」


 マルヤッタさんやエリカさんが小声で独り言を言っているのが聞こえる。

 エリカさんは不純でしかないけれど、魔法に手を加える当の本人がそんなことで良いのだろうか。

 食事が始まり、主役のセシリアさんを中心に人が入れ替わり立ち替わりで会話が弾む。


「初めまして。パティの母、アマリアです。あの子の友達になってくれたそうで、ありがとうございます」

「いえ、とんでもございません。あの方はとても明るくてお優しくて、私が持っていないものをたくさんお持ちです。尊敬しますよ」

「まああの子がね…… 今後もよろしくお願いしますね。オホホホ……」


 と、アマリアさんは大きなバストをたゆんたゆんとさせながら去って行った。

 セシリアさんはそれを羨ましそうに見ていたけれど。


(わたくし)、ガルシア侯爵の第二夫人ローサです。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそよろしくお願いします! ――キャッ!?」

「このおねーちゃん、ママみたいにイイにおーい」


 なんと、三歳になっているローサさんの息子アベル君が、セシリアさんのスカートの中へ入り込んでいた。

 そうか、ローサさんもスカートの中はイイ匂いなんだな。むふふっ

 将来そっちは有望かもしれないが……

 愛娘のみかんちゃんには会わせないほうが良いかもな。


「こ、こらアベル! そこから出なさい! ごごごごめんなさい! セシリアさん。女の人のスカートの中へ入るのが癖になってしまって……」

「ああ、いえ…… オホホホ……」


 ローサさんが怒るとアベル君はすぐに出てきた。

 セシリアさんは苦笑い。

 良かった…… アベル君は、セシリアさんが男と気づかなくて「あれ? このおねーちゃん◯ンチ◯がある!」なんて言っていたら大変だった。

 次はガルシア侯爵だ。


「スマンね、ウチの息子が……」

「小さな子がやったことですから気にしていませんよ」

「出遅れてしまったね。私はレイナルド・ガルシアだ」

「初めまして。今日からお世話になります。どうぞよろしくお願いします」

「うむ。君のお父様ラミレス侯のことはよく知っているよ。君とも一度会ったことがあるんだが、まだこんなに小さかったから覚えてないかな」

「おぼろげですが覚えております。お父様と違って、とてもダンディーで格好良かったですから。オホホホ」

「そうかそうか。ワハハハハッ 君もこんなに綺麗になっていてびっくりだ。なんて美しいんだ! ドキドキしてしまうよ」

「ありがとうございます。オホホホ」


 ガルシア侯爵がそんなことを大声で言うものだから、アマリアさんが向こうギロって睨んでいるよ。怖いよー

 セシリアさんもおべっかが上手いなあ。

 それとも小さな時にもう男性好きが目覚めていたのだろうか。

 給仕を休憩して料理をバクバク食い漁っているビビアナがやってきた。


「初めましてニャ。あてしビビアナ! よろしくニャ!」

「よ、よろしくお願いしますビビアナさん! 私、耳族の方とお話しするのは初めてです」

「そうかニャ? マカレーナの東にはいっぱいいるから、今度連れて行ってやるニャ。耳族の子供はモフモフで可愛いニャー」

「モ、モフモフ!? それは是非!」


 そういえばビビアナの弟と妹がモフモフで可愛かったなあ。(第二十話参照)

 しばらく会えてないけれど、今はもうちょっと大きくなってるかな。

 その後も人が入れ替わり立ち替わり挨拶に来て、セシリアさんはゆっくり食事が出来ないほど。

 オフェリアの巨体とマイの三つ目にはビクッとしていた。

 アイミは股間についてとても露骨なセクハラ発言をしやがったので、私は怒った。


『おまえの股の間のモノは、女のマヤにはまだ使っておらんのかのう? うひひ』

「キャッ!? ええっ!?」

「おいこらアイミ! すごくすごく失礼だからやめろっ」

『冗談だ。このくらいの煽りを(かわ)せないようでは、本当の女になったら将来の貴族社会でやっていけないぞ。ククク』

「おまえが言うかっ」


 アイミが幼女の姿なのでセシリアさんはあまり気にしていないようだが、変態おっさんみたいな言葉遣いだったのでそっちにびっくりしていた。

 アイミの言葉も一理はあるが、嫌な貴族社会である。


「ふう…… こんなにたくさんの方とお話しするのは初めてです」

「疲れた?」

「ええちょっと……」

「上のバルコニーへ行って、風に当たろうか」


 私はセシリアさんをバルコニーへ誘う。

 誕生パーティーの時、パティと二人っきりのダンスをして、キスをした場所だ。(第二十一話参照)

 それはセシリアさんには黙っておくが……


「はぁ…… 涼しいです」

「そっか……」

「――」

「――」


 無言になって間が開いたが、セシリアさんから徐々に距離を詰めてきた。

 場所柄ムードたっぷりなので、彼女がそういう気分になってきたのだろうか。


「マヤ様――」


 セシリアさんが目を閉じて、キスを求めている。

 やっぱりしなければいけないのかな。

 男同士なのに、なんか慣れちゃった私もどうにかなってしまったなあ。

 心が男で身体は女の私、心が女で身体が男か女かよくわからないセシリアさん。

 とても複雑である。

 うーん…… 誰も見ていないよね?


 ――ジーーーーッ


 この気配…… まさか?


「ほらそこっ ぶちゅっと!」

「パティ!?」


 パティはまた潜伏の魔法を使って、しゃがんで下から覗いていた。

 興奮すると潜伏魔法の効力が薄れるから私が気づいてしまうんだな。

 パティのBL癖は矯正しないといけないかも知れない。


 間もなく、水着回になりそうです。

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