第三百十八話 メイド服の四人と再び幽霊屋敷へ
昼食が終わり、ジュリアさんたちが片付けて彼女らの昼食が終わるまで自室で軽く休憩をする。
昨日は夜遅かったし今朝は朝練で早起きして、それからラガへとんぼ返りしたから疲れたよ……
お腹いっぱいだし、ベッドでゴロゴロ。
ラガのビーチで水着女子がいっぱいおっぱい楽しみだなあ。
それには女王が訪問する日取りが決まらなければいけないので、明日にでも王都へひとっ飛びしてルイスさんの返事を届けよう。
飛行機の整備が終わり次第、セレスへ行ってセシリアさんをマカレーナへ連れて来なければいけないし、ヒノモトへ名代のヴェロニカと一緒に行く。
当分の間は忙しいので休めるときに休んでおこう。
――アマリアさんのド迫力ボディも良いが、ローサさんもビーチへ誘わなければな。
ローサさんのセクシーな姿は見たことがないからどんなふうだろう…… うへへ
ルナちゃんにも可愛い水着を買ってあげないとねえ。
あっ 女王も行くということはロシータちゃんも水着を着る!
モニカちゃんとフローラちゃんは流石に行かせてくれないかなあ。
――水着女子の妄想をしているとつい股間に手が伸びてしまったが……
膨らみが無いんだよ。分身君がいないのを忘れてた。
頭の中ではまだ男なんだよなあ。
街で若い男を見てもドキドキすることなんて全く無い。
エリカさんの魔法開発がうまくいかなくて、このままずっと女だったらどうなるんだろう。
ガルシア家からは用済みになってパティは新しく婿を迎えなければいけない。
アマリアさんの息子のカルロス君が十五歳になるまで約十年。
そんな若い子が三十過ぎになった私なんていらないだろう。
そんなの嫌だ――
――女として子供を産む……
普通の男と結婚して身体を交えるなんて出来ない。
私は処女のままなんだろうか。
でもセシリアさんとだったらなんとか!?
顔は綺麗だし、心優しく温かいから性格の良さは申し分ない。
セシリアさんと女として交わる――
彼…… いや彼女は女の私を受け入れてくれるのだろうか?
無意識に私の右手はズボンの中へ奥深く入って行った。
――
やってしまった……
まさかセシリアさんをオカズにしてしまうとは。
自分の中に男のアレが入っていく感覚はよくわからないけれど、何となく想像しただけでも燃え上がってしまうものなんだなあ。
うっ…… 下着を汚してしまった。着替えなければ……
ルナちゃんが回収しに来た時、バレないだろうか。
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パティは大聖堂へ行ったみたいで、スサナさんとエルミラさんはメイド服を着てお掃除などいつもの業務。
私はルナちゃん、ビビアナ、ジュリアさん、マルヤッタさんを連れて三度目のモンタネール邸へ向かった。
マルヤッタさんまでメイド服を着ていて、向かう道で四人ものメイドを引き連れているから街の人にチラチラ見られる。
飛んで行ったほうが良かったかな……
屋敷の中は昨日エリカさんが灯したままの魔光灯が光り輝いている。
電気代が勿体ないとかは気にしなくて良いし、人間の魔法使いの数百倍以上はあるエリカさんの魔力量なので何も問題無い。
最初はやはり調理場。
入った途端、みんなは難しい顔になる。ルナちゃんも……
「これは…… うぷっ カビ臭いですね」
「これだけ広くても、人数が少なかったから最低限でしか使ってなかったし、たぶん一年以上は人が入ってなかったからね」
「あっ でも【モールドリムーバル】というカビを消す魔法がありまスから。えいっ」
ジュリアさんが両手を上にあげると、あたりにスッとした空気が広がる。
無属性魔法だろうけれど、そんな便利な魔法があるとは知らなかった。
数分もすると、あちこちにあった黒カビなどが綺麗さっぱり消えてしまった。
そうか。ガルシア家の調理場がやけに綺麗だったのはジュリアさんのこの魔法だったか。
『すごいです! 人間の魔法はそんなものもあったんですね!』
「エリカさんの部屋に魔法書が無かったっけ?」
『あの人の部屋は攻撃防御系の魔法書や怪しいものばかりで生活魔法の本が見当たらないんですよ。
だから部屋の中もだらしがないんですね』
エリカさんの部屋はルナちゃんたちに片づけてもらっていたけれど、魔法書だけはそのままにしてもらった。
それなのにマカレーナへ帰ってきてまだ二日ぐらいしか経っていないにもかかわらず散らかしていたのか。
「次は消臭の【デオドライズ】を掛けまスね」
ジュリアさんが再び両手を上げると、残ったカビ臭や埃の臭いも消えていった。
この魔法は知っていたけれど私は勉強していないので使えない。
『やっぱり私はジュリアさんに魔法を教えてもらうことにします』
「こツらこそよろスくお願いスまス…… あはは」
ジュリアさんは苦笑いをしながら応えた。
彼女もエリカさんのちゃらんぽらんぶりはよく知っているからだ。
実直なジュリアさんが教えるなら私も安心だ。
だが一緒に寝るくらい仲良くなると、彼女の淫乱さがマルヤッタさんに悪影響を及ぼさなければ良いが。
「さてどうしようか。いらない窯は撤去して魔道具のコンロを置いた方がいいかな」
「あてしもそれが良いニャ。ルナだけしかいない時は残った窯を使えばいいニャ」
「私もそうしてもらえると助かります。私だけ魔法が使えませんから……」
ルナちゃんが申し訳なさそうな顔をする。
魔法が使えないことが悪いと思われてもいけない。
「ちょっと高いけれど、魔力注入量が多いコンロを手に入れることにするよ。
それなら一旦魔力を込めておけば魔法使いがいないときでも長時間使えるし」
「それなら良いニャ!」
「ありがとうございます!
王宮でそれを使わせてもらっていたのでとても便利でしたよ!
確かに庶民には高価な物ですよね……」
「良いって良いって。ルナちゃんの為なら奮発しちゃうよ。
あと窯を残しておけば、釜炊きのほうが美味しい料理があるからね」
「それは言えてるニャ!」
食器や調理道具は棚に残ったままだけれど、気持ちを新しくするには新しい物を買った方が良いな。
「全体的にくすんだ雰囲気だから、壁を白基調にしてみようか。
窯周り以外はそんなに直す必要が無いね」
「私もそれで良いと思いまス」
「すみません! あと換気と水廻りも強化したほうが良さそうですよ」
ルナちゃんが手を上げて発言する。
換気も魔道具を入れた方が良いな。
水廻りは水属性魔法がジュリアさんしか使えないから、完全水道化しよう。
「そうか。王宮で仕事をしていた分、使い勝手はルナちゃんが詳しそうだね。
もうちょっと相談して、バルラモン家の伝手で業者に頼むとしよう」
調理場については一先ずこれでまとまった。
バルラモン家はカタリーナ様の実家で、建設資材の製造と販売をやっている。
そこの顧客ならどこか良い業者が見つかるだろう。
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次は使用人の個室と休憩所。
初日に見たとおり寂れっぷりが酷く、八室あって使った形跡があるのは二室だけ。
まるで古い病室のようだ。
泊まり込みの使用人は二人だけということならば、どちらかがデボラ・サンチェスが使っていた部屋なのだな。
彼女についてはフェルナンドさんを通して調査を依頼している。
「どうかな? 向こう(ガルシア家の使用人個室)より狭いし、改修はするつもりだけれど……」
「改修して頂けるならそそそれで構いません!」
『私はこれで十分ですよ』
「私も…… 掃除すれば全然問題無いでス!」
「あてしは寝るだけだからどこでもいいニャー」
「ビビアナは寝てるだけじゃなくて何もしてないだけだろ」
「ニャはは」
ビビアナは頭を掻いてヘラヘラ笑っている。
料理は美味いがそれ以外はだらしがないんだよなあ。
みんな使用人個室で良いのか妥協しているのか、決めるのは三階の部屋を見てもらってからにしよう。
「うーん…… 私としては君らにあまり見窄らしい生活をして欲しくないのだけれど……
取りあえず保留にして、三階の来客用個室に行ってみようか」
階段の踊り場には夫妻の絵画があるが、この四人はあまり美術品には興味が無さそうでそのまま二階、三階へと上がる。
普通と言えば普通の絵画だし、ガルシア家にも絵ぐらいは飾ってあるからだろう。
その分食べ物には興味津々であるが。
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屋敷の三階。
モンタネール男爵は屋敷の中でホテルでもやるつもりだったんだろうかと思うくらい、三階には来客用の個室が多く用意されている。
皆だいたい同じ造りなので、その中の一部屋を覗いてみた。
流石にガルシア家で借りている私の部屋よりは狭いが、バス・トイレが別々に完備されており、家具は布団無しのベッド、洋箪笥とクローゼット、鏡台、丸テーブルと椅子二脚など一通り置いてある。
「こんな感じだけれど、どう? 気に入ったら使ってもらおうかと思ってる」
「ま、マヤ様! こんな立派なお部屋は掃除が大変ですよ!」
「あ…… そっちなのね。確かに掃除はねえ……」
「お仕事が増えちゃいますよ。だったら下の部屋でいいです」
ルナちゃんは快適さより効率と利便性を選択した。
特にルナちゃんは王宮の給仕係だった故に、手間を掛けて徹底的にやるので無駄な作業はしたくないのだろう。
「えー この部屋使いたいけど自分で掃除するのかニャ?」
「当たり前でしょビビアナちゃん!
私たツは今ガルシア侯爵に雇われている身だけれど、今度からマヤさんに雇われるのだから今まで通り自分のことは自分でしなくちゃ」
「ああ、ジュリアさんそれなんだけれどね。
私がこの家の主人になるときは、主人と使用人の関係じゃなくてみんな家族としてやっていきたいんだ。
勿論得手不得手があるから家事は君たちに任せて、私は飛行機の操縦士とランジェリーデザイナーとしての収入でみんなを養うことになるね。
それにビビアナとジュリアさんは…… 私と結婚するんでしょ?」
「おこづかいはくれるのかニャ?」
「ちょっとビビアナちゃんってば……」
「服やおやつ買ったりするには困らないぐらいのお金はあげるよ」
「それなら良いニャ」
ビビアナは安上がりだな。
いや、家事専門の家族には均等にお金をあげないと。
王家を離れるヴェロニカや、パティ、エリカさんもきちんとした収入を得てもらわないとやっていけないと思う。
意外なのはアイミで、道路造りなど最初は無償だったが今はそれなりにお金をもらっているらしい。
あいつの金の使いどころは買い食いぐらいしかないから、随分貯め込んでいるだろう。
「わ、私もマヤ様とけっこ…… いえ何でもありません……」
『へえー じゃあ私もマヤさんと結婚しようかな。男のマヤさん知らないけれど』
「ちょ…… マルヤッタさん? そういうことを軽く言われるとびっくりするよ」
『そうなんですか?』
ルナちゃんもそれっぽいことを言いかけていたが、まさかまだ付き合いが短いマルヤッタさんまで結婚という言葉を口にするとは思わなかった。
エルフ族の結婚観はそんなに軽いのか?
「マ、マヤ様! 自分が女になっちゃうほど女に好かれる体質なんですか!?」
「あわわわ…… マヤさんのお嫁さんがどんどん増えていきまス……」
ルナちゃんが言うその体質、サリ様が最初に天界で『必ず結婚出来ますよ』という願いを叶えてくれる効力が強すぎたのではないかと、薄々感じている。
私自身が女でいる間は全員女の花園の館になってしまう。うぷぷ
「この屋敷はマヤさんとその嫁軍団のアジトになるのかニャ? ぷぷぷ」
「嫁軍団のアジトって……
それでマルヤッタさん。無理に結婚しなくても滞在している間は衣食住ぐらい保証するから」
『滞在と言われましても、人間の国が想像以上に面白そうなので百年くらいはいようかなと考えていたところです。
でも人間の寿命って短いじゃないですか。
マヤさんにとっては一生私と添い遂げることになりますから』
「ひゃ、百年!? それが人間だと数年の感覚と同じというわけか。
でも私はまだマルヤッタさんのことをよく知らないし…… モジモジ」
マルヤッタさんは小柄で可愛らしいし、やや素っ気ないところがあるが性格が悪いわけではなく常識派で私でも扱いやすい。
二人だけの時間を作った方が良いのかな。
みんながいるのでそれも難しくなってきているが。
『二十年くらい一緒にいたらわかりますよ』
「いやいや、その時私は本当におっさんになってしまう。
私が若いうち…… せめて五年後までに…… ごふっ」
ルナちゃんに、肘で小突かれた。
たぶん私がその気になっているのを制止しようと思っている。
「ま、まあそのことは追々に…… ハハハ
早い内に引っ越しだけは済ませておきたいから、下の部屋の改装が済むまではこの三階の部屋を使ってもらうことになるね。
ここは掃除して布団さえ持って来ればすぐ使えそうだ。それでいいね?」
「わかりました。じゃあ皆さん! 明日から徹底的にこのお屋敷を掃除しましょう!
マヤ様はお布団の手配をよろしくお願いしますね!」
ルナちゃんが仕切り出す。
王宮で訓練を受けているのだから彼女が適任だろう。
ならばルナちゃんをメイド長…… いや、家族なのだからそういうのは無しだ。
「じゃあ私は埃を取る魔法の【ダストリムーバル】を使うので、細かいところのお掃除はお願いしまスね」
『そんな魔法もあったのですか。私も早く覚えなければいけませんね』
「ビビアナは、これから私と一緒に調理道具と食器を買いに行く」
「やったー! マヤさんとデートニャ!」
「買い物だけだぞ。すぐ帰るから」
こちらもまとまったようだ。
ビビアナは夕食の調理が非番になっているので、素人の私ではよくわからないから商店街へ出掛けて道具と食器を選んでもらう。
お金を出してグラヴィティで運ぶのは私。
この子らが見て回る必要最低限な場所はこれで良いだろう。
だがせっかくなので……
「例の幽霊夫人がいる部屋へ挨拶しに行こうよ」
「ええええ…… 行くんですか? なんか怖いです……」
「大丈夫だよ。もう取り憑いたりしないし、見た目は普通の貴族夫人だから」
ルナちゃんが怖がっているが、他の三人はケロッとしている。
アイミがいればもっと安心だけれど、私がいれば問題無いだろう。
――私たちは二階へ降りてモンタネール男爵の部屋の前に着いた。
『あ…… く…… う………』
「ひいぃぃぃぃぃ! マヤさま中から何か聞こえますうぅぅぅぅ!」
ルナちゃんが、私の腕にしがみついた。
確かに部屋から女の人の声のようなものが聞こえるが、オリビアさんかな。
『うぐ…… ううう……』
「ややややっぱりぃぃ!!」
『マヤさん、これが幽霊の声なんですか?』
「ニャニャニャ…… 何だか苦しそうに聞こえるニャ。あてしも怖くなってきたニャ……」
「そう言われると苦しそうに聞こえるな」
オリビアさんに何かあったのだろうか。
中へ入って確かめなければ!
「マ、マヤさん! ちょっといいでスか?」
「どうしたの?」
私がドアノブを手にして開けようとすると、ジュリアさんが私の袖口を引っ張り引き止めた。
「あああの、ちょっとお耳をいいですか?」
「うん……」
ジュリアさんが耳打ちで話しかけてくる。
本人は無意識だろうが、耳たぶに唇が当たってゾクゾクしてしまった。
(あのですね…… きっとあの時の声ですよ)
(あの時って?)
(自分で慰める…… アレです……)
(え……)
ジュリアさんの顔は真っ赤になっていた。
待て待て幽霊がそんなことを……
ジュリアさんはアレの達人だからすぐにピンと察しがついたのだな。
「先にマヤさんと私が先に入りまスから、皆さんはここで待っていて下さいね」
ジュリアさんが言うように、先に私と二人でソロッと中へ入った。
魔光灯は点いたままだ。
奥へ進み陰からそっと覗くと……
『あひ…… ううう……』
やっぱり!!
ベッドの上で幽霊夫人が四つん這いになり、下半身裸で自分の右手を使って慰めていた。
ルナちゃんたちを連れてこなくて良かった……
これは静かに撤収した方が良さそうだ。
「はふ……」
ジュリアさんの変な声が聞こえたので振り返ると……
ええええええっ!?
自分のスカートを捲って、中を自分の手で弄っていた。
ジュリアさんはド淫乱……
まさか女性のアレを見て自分もつられてやってしまうとは思わなかった。
(ちょっとジュリアさん!)
「あひっ あっ!!」
バダン
ジュリアさんは快楽でよろめいて、豪快に床へ倒れてしまう。
『誰!? ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
幽霊夫人オリビアさんはジュリアさんに気づいてしまい、悲鳴を上げた。
ジュリアさんもスカートが捲れたままコケて、エッチな黄色いTバックのお尻を丸出しという酷い格好である。
「あの…… 声がしていたのでつい…… お邪魔してます。ハハハ……」
私は頭を掻きながらヌッとオリビアさんの前に出た。
オリビアさんはベッドの上でへたり込んでいる。
『うううう…… マヤさんでしたか……
いや…… あの…… 幽霊から身体が具現化されて、試しに一人でイケナイ遊びをしてみたら久しぶりでハマっちゃったんです……』
オリビアさんはシュンとして俯いている。
自分だけの楽しいアレを他人に見られたのはショックだろうけれど、よく説明出来たな。
ああそうか。このベッドは男爵とデボラさんの情事の場で、彼女自身それを絵の状態でずっと覗いていた故にか。
やっぱり幽霊夫人は元から変な人だよ。
「ああ、まあそういうことならまた続けて下さい。ではではー」
私は呆けてるオリビアさんをよそに、コケてるジュリアさんを連れてそそくさと部屋を出た。
ああもう、別の意味でビックリしたな。
外で待ってる三人は…… あれ?
『ああっ マヤさん! さっきの悲鳴はなんだったんですか?
二人ともそれを聞いてビックリしちゃって……』
マルヤッタさんがしゃがみ込んでいる下にはルナちゃんとビビアナが目を回して倒れていた。
幽霊がいるとわかっていて、得体が知れない悲鳴が聞こえたら余計に怖いよな。
はぁ…… 気付けの魔法で起こすか。
――そういうことで、帰りはグラヴィティでみんなまとめて飛んで帰宅したとさ。




