第三百十六話 久しぶりのイケメン領主ルイスさん
モンタネール邸から帰宅し、その夜はパティの部屋で休ませてもらうことにした。
ムフフな展開があると思いきや、あの幽霊が怖くないことがわかり彼女は緊張が解けたのか、ベッドに入ると一瞬で寝てしまった。
おっぱい触ってもわからないよな…… と思いつつ、十五歳になるまでは手を出さないと強く決めているのでやめておいた。
一応ナイトブラは着けているようである。私はノーブラ。
明日の早朝訓練があるので私も早く寝ることにした。
おっぱいプリンのプニュとモニョはいつも大人しくバスケットの中で寝ている。
部屋でパティと遊んでいるのをたまに見かけるけれど、端から見てるとおっぱいが二つ飛び跳ねているのだから妙な光景だ。
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チュンチュンチュン……
小鳥がさえずっている。うーん…… もう朝か……
何だか胸がプニュモニョしている。
私の胸がおっぱいプリンになったのか?
いや、テーブルに置いてあるバスケットはゆうべのままだ。
僅かな魔力だが中身が入ってるのはわかる。
うおわ!?
パ…… パティが片手で私の胸をプニュプニュ揉んで、もう片方の胸はモニョモニョと吸っている!?
寝ぼけて私のパジャマを開けてそんなことをしているのか……
「マヤひゃまのお乳…… おいひいでふ…… プニュプニュモニョモニョ」
夢で何故私のおっぱいを吸ってるんだ?
あっ 気持ちいい……
いやいやいや、このまま眺めているわけにはいかない。
パティが目覚めたら恥ずかしさのあまり、しばらく口を利いてくれなくなるかも知れない。
ここはそっとベッドから出て部屋から出る。
自分の部屋へ戻るとオフェリアとマイは朝練でもう外へ出ているようで、私も着替えて出た。
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朝練を終えて朝食を食べているとき、ガルシア侯爵たちには調査の報告をした。
フェルナンドさんにはモンタネール邸を購入する方向で手配を頼んだ。
たった金貨五枚で手に入るなんて、オリビア幽霊のおかげと言っても良いだろう。
「あの幽霊屋敷がモーリ子爵家として生まれ変わる!
これでようやくマヤ君も自立できるというわけだ。ハッハッハッ」
「パティはまだダメですよ。
結婚するまではまだうちの子なんですから」
「そ、そんな…… お母様……」
「では花嫁修業という形で住んでもらうのはどうでしょう?
カタリーナ様も王宮で花嫁修業しておられますから」
私がそう提案すると、アマリアさんは少し考えてから話し出す。
「――マヤ様がそう仰るなら……」
「わあ! お母様! マヤ様! ありがとうございます!」
「いい? パティ。花嫁修業ですからね。
家事も一応は出来ないといけませんから、ルナさんやジュリアさんたちにしっかり教えてもらうんですよ。あの子たちにはよく言っておきますからね。
あなたは食べてばかりでお菓子一つも作れないんですから」
「あ…… はい。お母様……」
ガルシア侯爵は苦笑いで静観している。
パティに関して決定権はアマリアさんのほうが強いようだ。
確かにパティは食べることが大好きだけれど、料理もお菓子作りもしたことが無い。
まさか漫画みたいに鍋が爆発したり、モザイクが掛かるような得体の知れない何かが出来るなんてことは無いだろうが……
アマリアさんは、ラフエルの実家でグロリアさんに料理を教えてもらっていたみたいで、前に部屋へ遊びに行ったときにアマリアさん手作りのマドレーヌを御馳走になった。
あれは美味しかったなあ。
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その後エリカさんとアマリアさんは、エリカさんの実家へ行ってご両親へ挨拶しに行ったそうだ。
死んだはずの娘が帰ってきて、しかも魔族になって不老長寿になったなんて仰天どころじゃないだろう。
私の方は使用人の食堂でルナちゃん、ビビアナ、ジュリアさん、それからマルヤッタさんを集めて食事をしてもらいながらモンタネール男爵の屋敷について一通り話した。
「ゆ、幽霊と一緒に住むんですか?
怖いんですけれど…… 取り憑かれたりしませんか?」
ルナちゃんはブルブル震えながら言う。
「大丈夫だよ。アイミが術を使って人間とあまり変わらないようにしてあるから。
浮いたりすることは出来るけれど、屋敷の外へは出られないようだ」
「あてしたちがご飯を作ってやる必要はあるのかニャ?」
「幽霊は物を食べる必要が無いはずなんだけれど、具現化したらどうなるんだろうね。
後でアイミに聞いておこう」
そうそう。あの具現化した身体を維持するためにはどういう理屈なのかさっぱりわからないからな。
「あのぅ、じゃあ私たツもお屋敷を見に行きたいんでスけれど、いいでスか?」
「そうだねえ…… 昼食の片付けが終わって君たちがご飯を食べた後に見に行こうか。
だいぶん寂れているから掃除が大変かも知れないけれど、改装したほうが良さそうなら使いやすいように考えて欲しい」
「本当でスか? でしたらみんな魔力を持っていまスから、魔道具で調理がしやすい環境にして欲しいでス……
あっ でもお金がたくさん掛かるなら無理しなくても……」
「アリアドナサルダの収入が良くなってきているから、何とか出来ると思うよ。
仕事がしやすいように出来るだけ希望は叶えたい」
「ありがとうございまス!」
ちょっと値が張るけれど、ガスコンロみたいな魔道具があるからそれをいくつか手に入れないとね。
ガルシア家の調理場はマルシアさん基準なので釜炊きである。
モンタネール家の調理場にも窯があったので、それを撤去したら広く使える。
パン窯は残しておいたほうがいいな。
「マルヤッタさんは何か希望がある?」
『魔法書を読ませてもらうのにエリカさんの地下室へお邪魔したんですけれど、あの人ってスキンシップが激しいから鬱陶しいんですよね。
どこか別の部屋があればいいんですけれど……』
「ああ、それは困ったね……
あの屋敷の一階にちょうど書斎があってね。
整理して人間が使ってる魔法の魔法書ぐらいは揃えてみようかな」
『それは嬉しいです! 是非よろしくお願いします!』
あの書斎にどんな本があるのが見てなかった。
男爵の趣味がわからないけれど、エッチな小説でもあれば私の部屋へ持って行こう。
それから先は彼女たちが屋敷を見てみないことにはわからないので話は一旦終了。
まだ大事なことがあり、女王から預かった親書をラガのグアハルド侯爵へ本日届けることにしていた。
マカレーナからラガまで約二百キロ。
一人でぶっ飛んでいけば片道一時間も掛からないので、お昼ご飯までには十分に戻れる。
私は貴族の正装に着替えてすぐ飛び立った。
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四十分ほどでラガのグアハルド侯爵の屋敷付近に到着。
二年近く前になるが、前回来た時は二時間半掛かったから有り余る魔力のおかげでで随分速くなったものだ。(第四十四話参照)
一目がつかない裏通りに降りてから、然り気無く歩いて正門の前に着いた。
軽装の鎧を着ている門番の青年が一人だけいるので、彼に話を通す。
二人ぐらいいるはずだが、トイレかな?
と考えつつ、前回は直接玄関前に降りたのを今頃思い出したが、もういいや。
「こんにちは。陛下からの使いの者ですが、親書を届けに参りました」
「――へ!? あ…… はい!?」
門番の彼は混乱していた。
出来るだけ自然にしたつもりだが、貴族の女が一人だけで歩いて手紙を届けに来たのだからやっぱりおかしいよな。
「あの…… これを見て下さい」
私はジャケットに着けている四つの徽章を見せた。
王家とガルシア家、ラミレス家、さらにグアハルド家。
これだけ着けていれば間違いない。
彼は私のおっぱいの膨らみをチラッと確認してから徽章をジッと見つめる。
こいつもムッツリだな。そのくらいなら私もやってるから許してやろう。
そうすると彼の身体がガクガク震えだした。
「ははーっ!! 失礼しました! どうぞお通り下さいませ!」
「それでグアハルド侯爵はいらっしゃいますか?」
「はい! 本日はお出かけになっておりません!」
「ありがとう」
彼が門を開けると、私はニコッと作り笑いで通り抜けた。
彼は照れ顔。チョロいな。
玄関まで少し距離があるので、駆け足で向かう。
玄関前にいる警備の騎士二人にも同じように話して、通してくれた。
何デレデレしてんだよ。もっと気を引き締めろ。
玄関に入ると、小さな女の子と手を繋いでいる女性が歩いていた。
「あら、あなたはマヤ様…… あいや、女性ですわね……
人違いでした。失礼しました」
第二夫人のオリビアさんだった。
あの幽霊夫人もオリビアという名だったけれど、こっちのオリビアさんに幽霊のことを話す必要は無いし面倒なので黙っておこう。
「人違いではありませんよ。オリビアさん、ご無沙汰しております。マヤです」
「ええ!? だって…… どう見ても女の人…… えええ!?」
「話が長くなりますので詳細は省きますが、魔族の国へ行って訳あって魔法で一時的に女になった…… と言えば信じて頂けますでしょうか? あはは……」
「あなた魔族の国って…… アスモディアへ行かれたんですか!?
うーん…… それならば有り得ないことでは無いのかも……
それで今日はどのような御用件でいらっしゃったのですか?」
「陛下からの親書を届けに参りました。
内容は国内の各領地へ訪問なさるということです」
「なんですって!? それは大変!!
そこのあなた! すぐルイスへ今のことを伝えて応接室まで来てもらって頂戴!」
「はい! 奥様!」
オリビアさんに命ぜられた若いメイドは直ぐさまルイスさんの所まで駆け足で向かった。
ガルシア家でもだったが魔族とかアスモディアと説明すると、常識外れのことでも信じてくれるものなのか。
私はオリビアさん親子と応接室へ向かう。
「あの、どこかへお出かけではなかったのですか? お邪魔だったんじゃ……」
「この子と庭へお散歩するだけでしたから構いませんよ。
それよりエリカ様は今日いらっしゃらなかったのですか?」
「今日は大事なことがあって実家に帰っています。また今度連れてきますよ」
「そうでしたかぁ…… 残念ですぅ……」
オリビアさんはエリカさんの大ファンらしい。(第四十五話参照)
あれからエリカさんは一回死んで生き返って魔族になったなんて話したら、頭がパンクするだろうからやめておこう。
応接室へ案内されるとメイドさんからお茶を出されている間にルイスさんがとんで来た。
「マ、マヤ殿!? ハァ…… ハァ……」
「お久しぶりですルイス様。突然の訪問失礼します」
慌てて来たルイスさんに向かって、私は立ち上がって挨拶をする。
前と変わりなく、とてもイケメンだ。
「あ、あれ? マヤさん? 女の子? どうしてえ!?」
「マヤ様はアスモディアでいろいろあったそうで、今は女の子なんですよ」
「はあ、どうも。いろいろありました。あははは……」
「アスモディアだって!? そんなところまで……
あなたのお話はあれからも兼々伺っておりますが、私たちからどんどん遠い存在になっているような気がします……」
ルイスさんもか。
やっぱりアスモディアって人間から見たら何でも有りなんだねえ。
「そうですわ! まさかロベルタ・ロサリタというランジェリーブランドを起ち上げられるなんて……
私もとても気に入ってますのよ。ルイスったら夜になったら…… うふふ」
「ああああオリビアってば、マヤ殿の前で恥ずかしいじゃないか……」
なに二人してノロケているんだ。
恥ずかしいって、この前は私とエリカさんがここのお風呂に入っているとき、ルイスさんも裸の奥さん六人連れて堂々と入ってきたではないか。
ああ、夜は特殊性癖になるのかね。うん、ルイスさんならあり得る。
だが……
「待って下さい。私のブランドだって公にはしていないのに、どうして?」
「そこはアリアドナサルダと長い付き合いがありますから……
奥さんが六人いますし、使用人も女性が多いですからね」
「ああ…… そうなんですね」
ラガのアリアドナサルダから漏れただけか。
まあ絶対秘密にしている訳じゃないから良いけれどね。
「それより、今日の大事な用事を…… これです」
「はい、ありがとうございます」
私はルイスさんに直接親書を渡す。
早速開けて読み始めた。
「わかりました。案外時期が早いですが、正式な日取りが決まれば陛下をお迎えしましょう。
返事を書きますので少し待ってもらえますか?」
「いえ、私はすぐに帰らなければいけませんので、口頭で陛下にお伝えします」
「――陛下宛にそういうわけにはいきませんので、執務室へ戻ってすぐ書いてきます!」
ルイスさんは慌てて応接室から飛び出した。
根は真面目なんだろうなあ。
お昼過ぎに女の子たちと幽霊屋敷を見に行くなんて言えない。
ルイスさんが戻ってくる間、お茶を飲みながらオリビアさんが話し相手をしてくれた。
ロベルタ・ロサリタのことや、アスモディアのことなどすぐに時間が過ぎていく。
オリビアさんの小さな娘は三歳ぐらいでフローラちゃんという。
ミカンちゃんも成長していずれはこうなると思うと、楽しみで仕方が無い。
さすがに退屈そうにグズってきたので、フローラちゃんをグラヴィティで浮かせてあやしたら大喜びしていた。
「マヤ殿! お待たせしました! あっ フローラが浮いてる!?」
「魔法で浮いてるんです。とても楽しそうですよ」
フローラちゃんが空中で犬かきみたいに泳いでいるので、そのままオリビアさんに向かわせて抱っこしてもらった。
ミカンちゃんが大きくなったら私もこうして遊んでみよう。
「フローラと遊んでくれてありがとうございます!
はい。これを陛下にお渡し下さい」
「承知しました。早い内に王都へ届けに行きます」
「陛下にもビーチにお誘いをしておきました。
なかなかマヤ殿がいらしてくれないから…… 是非ご一緒に!」
「ええ、いつか行こう行こうといつも思っていたんですが、いろんなことがあり過ぎまして……」
私は頭を掻いて誤魔化したが、本当にいろんなことがあってしっかり時間を取ってレジャーを楽しもうという感覚が無かった。
ガルシア家のみんなにもお世話になってるから、出来るだけたくさんの人を連れて行きたい。
私のストーリーにもやっと水着回が登場するぞ!
ムフフふふふふ……




