第三十一話 祝福の魔法
2023.8.7 全体的に読みやすく修正しました。
夕方前になってから少しだけ元気が出てきた。
フェルナンドさんにガルシア侯爵家のみんなに集まってもらうようお願いし、夕食前に応接室で話すことになった。
応接室にはガルシア侯爵、アマリアさん、体調が回復しつつあるパティ、ローサさん、エリカさん、フェルナンドさんが集まった。
「マヤ殿、改めて魔物討伐ご苦労だった。
この功績に応じて、私はマヤ殿に男爵の称号を叙爵することに決めた」
「閣下、私は叙爵する資格はありません。
パティの側にいながら守り切れず大怪我をさせてしまいました」
「マヤ様、気に病むことはございませんわ。
お父様は魔物を退治した結果について叙爵を決められましたし、私は私のミスで怪我をしてしまいました。
それをマヤ様が治してくださったのですから」
「そうだぞ、マヤ殿。
あれほどの大型の魔物を百体以上も、魔物が入り込んで早いうちに倒せたのはマヤ殿のおかげだ。
マヤ殿がいなければ街が壊滅してたくさんの領民が死んでいたんだ。
男爵までしかあげられないが、どうか受け取って欲しい」
「謹んで拝命いたします……」
「尚、叙爵は国王陛下もってのみ行われるので、マヤ殿にはいずれ王都へ行ってもらう。
審査や手続きがあるので二ヶ月ぐらいかかるが、しばらく待って欲しい」
私は一礼して応接室を退室した。
「アマリア…… 頼む」
「はい、あなた」
私はそれでも納得いかなかった。
たまたま光魔法に目覚めただけで、目覚めていなかったらどうなる?
運に任せきりではダメだ。私は何だ、何だというのだ。
「マヤ様、こっちへいらっしゃい」
アマリアさんが私を呼び止め、私室へ連れて行かれた。
そしてアマリアさんは私を抱きしめた。
「俺は…… いや、私は怖いんです。
愛している人を…… パティを失うことがどれほど怖かったのか。
パティを好きになる資格があるのか。
たまたま目覚めた力で助かっただけなんです」
「マヤ様、誰もあなたを責めることはありません。
娘を助けてくださったことは事実ですし、とても感謝していますよ。
私は初めてお会いした最初の日からあなたの中の力を確信していました。
エリカさんもあなたに何かを感じて光の魔法の勉強を早めに勧めたんでしょ。
それから、私はあのとき【祝福】をしてあげていたんですから。うふふ
みんなあなたのことを信じているのよ」
「ううう…… うっく……」
私はアマリアさんに抱かれたまま泣いた。
扉の外では、それをこっそり聞いていたパティが泣いていた。
そうだ。中身が五十歳のおっさんが二十も下の女性に慰められるのも情けない。
でもアマリアさんってなんでこんなに暖かいのだろう。
グロリアさんも旦那さんの前で堂々と私を抱いてくれたし、そういう家系なのだろうか。
(女神サリ視点)
うーん…… しばらく見ないうちに大変なことになっていたのね。
パティちゃんが死にそうだったなんて想定外だったから、私もしくじったなあ。
でもマヤさんが光の魔法を使えるようになって、これで土台が整ったわけよ。
そろそろ私と通信出来るかな。
(マヤ視点)
アマリアさんのおかげで心のつっかえが取れ、夕食はとても美味しく食べられた。
ガルシア家って本当の家族みたいでいいな。
家族で食卓を囲むなんて一生無いかと思っていた。
こんな私を受け入れてくれたガルシア家のためにも、報いなければいけない。
私は部屋に戻る。
ベッドでボーッと休んでいたらノックがあったので、扉を開けるとパティだった。
「入ってもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
「私…… まだきちんとお礼を言えてませんでした。
マヤ様…… 私の命を救って頂いて本当にありがとうございます。
どうか私のことはマヤ様のモノと思っていつまでも……」
彼女は永遠の愛の誓いと思えるような言葉を言った後、顔がポッと赤くなる。
改めて思うと、私がこんな美少女と一生を共にしても良いのか実感が湧かない。
「うん…… これからもよろしく……」
あれは運が良かったんだよ。祝福を…… あっ」
「聞きましたわよ。お母様から祝福の魔法を受けていたんですってね。
それでどんなふうに魔法を掛けられていたんですか?
まさかお母様とキ、キスを…… はわわわわ」
「いやあ そのぉ 魔法が良く効くって言うから…… ははは」
「まったく…… お母様ったら!
お母様もマヤ様が好きだから、目が離せませんわ!」
パティはさっきの照れ顔から、阿修羅が怒り顔に変わるように豹変する。
怖い……
「私も【祝福】の魔法が出来ますから、今度から私がして差し上げます!
祝福魔法の最大の効果は……
その…… お互いが…… は、裸になって…… 契りを……」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「まさかとは思いますが、もうお母様と!!??」
「いやいやいやいや!
侯爵閣下にも申し訳ないし、そんなことは断じて無いよ~ そんなことは……」
「それなら良いですが、じゃあ私が今からキスして祝福の魔法を掛け直しますね!」
「じゃあ…… よろしくお願いします……」
パティはコクッと頷いて、ゆっくり口づけをしてきた。
パティの暖かい魔力が流れ込んできているのがわかる。
そしてパティの思いが伝わる甘いキス。
「くふぅ……」
パティは私の唇をはむはむするように、いつもより長い長いキスをする。
私はベッドに座ったままパティに押し倒されてしまった。
パティはスイッチが入っちゃったのか、十三歳の女の子からここまで積極的に迫られるのはどこで知識を得たのだろうか。
うーん…… 恋愛小説を読むのが好きみたいだからそこからなのかも知れない。
「マヤ様……」
パティは唇を離し、私の名をつぶやく。
祝福の魔法のおかげか、私の気分まで暖かくなった。
「このまま、抱いていてもいいかな?」
「ん…」
私はパティのふっくらした身体を……
んん? ふっくら?
私の胸に被さってるこの感触は、もしかして胸があれからまた大きくなったのか?
十三歳でこの大きさは、むほっ 将来が楽しみである。
「マヤ様…… とうとう男爵閣下になられるのですね」
「まだ決まったわけでは無いよ」
「お父様は国王陛下の信頼が厚いですから、きっと大丈夫ですわ。
お父様って、ああ見えてすごいのよ」
うーん、侯爵閣下と国王陛下の間に何があったんだろう。
パティに聞くと侯爵は昔、王都でしばらく暮らしていたらしい。
その時謀反を企てていた輩を捕らえた上に、それらによって冒されていた経済的損害を建て直したそうだ。
それは確かにすごい。領地の運営も良好のようだし、政治的手腕は有能なんだろう。
「さあ、そろそろお休みの時間だね。
そうだ。エリカさんから聞いて、マルセリナ様からお呼びがあったんだ。
明日はパティも大聖堂へ行ってみる?」
「そうですね、お邪魔で無ければ。うふふ」
「邪魔じゃないよ」
パティと軽くキスをして、彼女は部屋を退出していった。
その頃エリカさんは……
「くぅ~ せっかくお姉さんが慰めてあげようと思ったのに、部屋の前へ行ったらパティちゃんといちゃいちゃしてぇ~ スンスン」
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翌日のお昼、パティと私は大聖堂のマルセリナ様の部屋にいた。
「エリカ様からお話は伺いました。
マヤ様、まずはこの街を救って頂き本当にありがとうございました。
教会を代表してお礼を申し上げます」
「いえ、マルセリナ様から回復魔法を教えてもらったからパティの命を救うこともできました。感謝の念に堪えません。」
「マルセリナ様、私からもお礼申し上げます。ありがとうございました。
今回のマヤ様の功績によって、男爵の称号を授かることになりましたの」
「え、それでは貴族になられるということは、私とも…… あっ」
「私とも?」
「その…… パトリシア様といらっしゃる機会にお話しした方がよろしいのでしょうか。
私、マヤ様のことをとてもお慕いしております」
「それって、マヤ様のことを愛してらっしゃるという意味でございますか?」
「はい、そうです。
ご一緒に光魔法の勉強をしているうちにマヤ様の暖かさに触れまして、女神サリ様の力までも感じる……
私は元々男性に縁がありませんでしたから、もうマヤ様しか……
マヤ様以上の男性はこの先出会うことは無いだろうと。
それに私も歳を取るばかりですから……」
マルセリナ様は照れ顔で一生懸命話している。
パティがいるのにまさかここでマルセリナ様から愛の告白を受けるとは思いもしなかった。
きっとパティは不機嫌な顔をしてると思っていたら……
「マヤ様! マルセリナ様から告白されるなんて素晴らしいですわ!」
え!? てっきりいつものように焼き餅を焼かれると思っていた。
いくらパティがマルセリナ様のことを尊敬しているとはいえ、一夫多妻が当たり前の国は尊敬している相手ならば恋敵にはならないのだろうか。
マルセリナ様は二十三歳。
この国では十五歳から結婚が可能で結婚適齢期は十八歳から二十歳と言われているから、焦るお年頃なのかも知れない。
「それでマヤ様が貴族になられるということであれば一夫多妻制が認められますから、パトリシア様だけでなく私にも希望が……」
マルセリナ様の白い顔がますます赤くなる。
桃みたいで美味しそうにも見えた。
「マルセリナ様のお気持ちはわかりました。
しかし…… パティの他にもお互い好いている女の子たちがいますから気持ちの整理がつかないというか……
勿論マルセリナ様のことは好きです」
「まあ、そうですのね。承知しました。
もしかして、その中にはエリカ様もいらっしゃるのですか?」
「まあ、そういうことになります……」
「マヤ様は、メイドの耳族の娘、うちの討伐兵の二人にまで好かれているんです。
しかもお母様にまで。一体どうなっているんでしょうねえ」
パティが私をジト目でチラッと見る。
焼き餅なのか寛容なのか、どっちなんだい?
地球で仲良くしていた女の子にもコロコロと言うことが変わる子がいたが……
「パトリシア様の奥様にまで好かれているなんて、マヤ様はすごいのですね」
好かれているのはありがたいが、人妻じゃ不安がありすぎる。
でもアマリアさんはすごく素敵な女性で、惹かれないほうが難しい。
「マヤ様、もう一度エクスプロレーションで見させてもらってもよろしいですか?」
「はい、わかりました」
私は前のように両手を差し出し、マルセリナ様の白磁のような綺麗な手で握られた。
ん? 前回は白絹のような手と言ってたような。
「マヤ様から、パトリシア様のとても暖かい魔力をたくさん感じますわ。
これは祝福の魔法を掛けられたのですね。
とても想いを込められています」
パティが真っ赤な顔をして照れているが、あれだけチュッチュしてたらねえ。
マルセリナ様はこのままエクスプロレーション探査を続けている。
「マヤ様の魔力容量が前回と比べて桁違いに増えています。
フルリカバリーの後にライトニングカッターをたくさん使えたのも納得いきます。
闇属性、水属性、光属性…。あら、風属性にも目覚め始めてますわ」
「やったぁ! 風魔法があればかなり魔法の応用が利く!」
「マヤ様、この魔力容量だとフルリカバリーが一日に十数回は使えると思います。
私でも一日に一回だけしか使えないので、とてつもない魔力容量なんですよ。
エリカ様からお聞きになられたと思いますが、マヤ様の力を悪用しようとする者が出てくるでしょう。
最低限の方にだけ知っているように周りの方にも周知徹底をお願いします。
パトリシア様もよろしくお願いします」
「「わかりました」」
「やはりマヤ様から女神様の強いご加護が感じられます。
本当に不思議で、それも私がマヤ様に惹かれている理由の一つなんです……」
マルセリナ様はまた照れ顔になったが、いつ見ても可愛いな。
それにしてもサリ様のご加護の力ってそれほど強いのか?
ご加護がありながらこの先怪我をすることがあったら、死んでいてもおかしくないと考えるべきなのか。
「次はパトリシア様にもエクスプロレーションをやってみましょう」
「え? 私もですか? お…… お願いします」
むほっ パティも何か暴かれるのか? おっと不純な動機はいかん。
「これは…… マヤ様の強い魔力を感じます。
まるでマヤ様の魔力が注ぎ込まれたような……」
「もしかして……
私が光属性に目覚めた時に身体が光っていたのを覚えてますが、そのときにパティが側にいて光を浴びたからでしょうか?」
「考えられますね……
それからパトリシア様は確か風属性が無かったと思いますが、これで目覚めているのがわかりました。恐らくマヤ様の影響でしょう」
「私…… そんなことになって……
私の身体の中にマヤ様が入ってるなんて嬉しい……」
そういう言われ方すると何だかエッチだな。
「パティ、良かったじゃないか。これからは風魔法が使えるようになるんだね」
「えぇ、これでお母様と同じ四属性の魔法が使えるようになりますわ。
四属性以上は上級魔法使いの仲間入りになりますから、私ももっと精進しなければいけませんね」
「あまり長居をしてもいけませんから、これでお暇します。
マルセリナ様、ありがとうございました」
「あ、マヤ様…お待ちください」
マルセリナ様が耳打ちで私に話しかけてきた。
ゾクゾクゾク…… 耳に当たる吐息がこそばゆい。
「私もいつか【祝福】の魔法を掛けて差し上げますね。うふふ」
むひょ、どういうふうに祝福の魔法を掛けてくれるのか楽しみだ。
大聖堂から出て辻馬車を待っているときに……
「マヤ様、先ほどマルセリナ様から何を言われたんですか?」
「いやあ、またおいで下さいということだよ」
「ふーん、そうですか」
またジト目で見つめられる。何だかんだで気になって仕方ないんだな。
お屋敷に帰り、早速エリカさんにお願いして風属性の魔法の勉強を庭のテーブルで始める。
珍しくパティも参加しており、エリカさんはまたパティに怒られるのでパンチラはしてこないようだ。
これは良い傾向なのか残念とも言えるが、勉強は集中出来たと思う。