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第三百十三話 サリタちゃんの思いとマルセリナ様

 見習い修道女のサリタちゃんに、僅かながら魔力が存在していることを私は感じ取った。

 普通の魔力持ちの人は産まれた時からそれなりの魔力を持っているが、この子はいつから芽生えたのか、何故こんな小さな魔力を持っているのかわからない。

 魔力量を上げる前のパティと比べ、数百分の一。

 だが暖かで優しく、質的にはマルセリナ様以上の聖なる魔力だと思った。

 サリタちゃん本人には何が何だかわからず、まだ判断力も無い年頃なので私たちに言われるがままこうしているんだと思う。

 でも眠っているものを呼び覚ますことが出来るのであれば、そうしてみたい。


 私はサリタちゃんの両手を軽く握る。

 十歳の女の子に変な興奮を与えないよう、緩やかに魔力を上げていく。


「身体が少しでもおかしく感じたらすぐ私に言ってね」


「はい。今は大丈夫です……」


 ――皆が黙って見守っている中、手を握ってから二分くらい経ったか……

 もういいだろう。私はそっと手を離す。


「終わったよ。何も…… 無かったかな?」


「――はい」


 サリタちゃんは少し間を置いて返事をした。

 (うつむ)いて、顔がほんのり赤くなってるような…… まさかね。


「あ、あの…… ホントに大丈夫?」


「何も―― ありません」


「そう……」


 ふとパティの顔を見たらジト目で睨んでいるし、マルセリナ様は反応に困っているのかオロオロとしている顔だ。

 何か誤解されてないよねえ?


「じゃあ、マルセリナ様…… もう一度マジックエクスプロレーションをサリタちゃんに掛けてもらえますか?」


「あ、はい」


 マルセリナ様は何か考え事をしていたのか、私の言葉にハッと気づいてからサリタちゃんの両手を握った。

 エリカさんが持っている魔力量測定器があればわかりやすいのだけれど、こんなことになると思っていなかったので持参していない。


「――まあ!」


 一分ほどでマルセリナ様が声を上げる。

 何か驚くことがあったのか?


「何か変化はありましたか?」


「光と闇…… サリタはこの二つの属性のみ、しかも均等に持ち合わせています。

 両方の属性を持っているだけでも大変稀なのに、光と闇の属性の強さが同じくらい。

 魔力量も以前の私より多いです……

 たぶんフルリカバリーが三回は使えるでしょう」


「マヤ様の力でそんなことになっていたんですか!?」


「うーむ、だいぶん緩いマジックインクリーズを掛けたつもりだけれど、すごいことになってしまったねえ」


「わ…… 私…… どうなっちゃったんですか?」


 サリタちゃんが不安そうに尋ねる。

 こちらは落ち着いて回答することにしよう。


「うん。私が君の眠っている力を引き出すことに成功したんだ。

 君はマルセリナ様が使える聖なる力の光属性と、人間の極一部と魔族の魔法使いが使える闇属性に目覚めることが出来た。

 あとは魔法書を使って魔法を勉強すれば、きっと魔法が使えるようになるよ」


「え…… 魔族? 闇属性? 怖いです……」


「怖くはないよ。こんなことだって出来るんだ」


 闇属性で視覚的に一番わかりやすい魔法と言えば、グラヴィティの応用で自分の身体を浮かせることだ。

 今からそれをサリタちゃんに見せる。

 私は天井の高さまで上がる。


「ええ? 浮いた!?」


 無表情なサリタちゃんの驚きの表情にちょっと安心した。

 それと同時に、あれほど空飛んで魔物退治に活躍したり飛行機で飛んでいるのも知らない子がいるんだなあとがっかりもした。

 スッと下に降りてサリタちゃんの表情を(うかが)うと、ポカンと口を開けている。

 子供らしくて可愛い。


「というわけで、サリタちゃんも頑張って勉強したらこういうことも出来るよ」


「ほ、本当ですか?」


 サリタちゃんは目をキラキラさせて私を見つめていた。

 ううう…… なんて可愛いんだ。

 あと数年もすればきっと見違えるほどの美女になるだろう。


「あの、相対(あいたい)する属性を持っている場合は魔法の習得もバランスを考えないといけないのですよ。

 どっちかが多く習得してどっちかが少ないと、あまり使わない属性はだんだん力が小さくなってしまうんです。

 特に闇属性魔法は使える人が少ないですから、絶やすことは勿体ないですね」


「確かに私もそれは聞いたことがありますね」


「え? そうなの? 全然知らずに適当に魔法を使ってた……」


 パティが突然そう言うからびっくりした。

 魔法の勉強でそういうの教わった記憶が無い。


「マヤ様。前にお勉強をしてた時、私が言ったことを忘れてますね? まったくもう……」


「えええ…… そうだっけ?」


「光と闇の属性が同じくらいであれば、勉強も同時にしなければいけませんね。

 そうですね…… 闇属性の魔法はエリカさんに教えてもらう他にありませんし、光属性中級の魔法書ならば私も持っていますので、サリタちゃんはウチまでお勉強にいらっしゃいよ」


「パトリシア様、それは良い考えです。サリタ、そうなさい」


「え…… でも、教会のお仕事はどうしたら……」


「あなたの魔法の方が大事です。

 ――それでは、朝はここで仕事をして、お昼からはパトリシア様のところでお勉強をさせて頂きましょう」


 サリタちゃんが戸惑っているようだ。

 お茶を持って来ただけのはずなのに、あれよあれよと話が進んでしまっているから当然だろう。

 私はサリタちゃんの前でしゃがみ、彼女に問う。


「その前にサリタちゃんの気持ちを聞かなくちゃ。

 ねえサリタちゃん。本当に魔法の勉強をしたい? 魔法が使えるようになりたい?」


「――魔法使いたい! マルセリナ様のように人を助ける魔法が使えるようになりたい!」


「どうしてそう思ったの?」


「私は…… お父さんもお母さんの顔を知らなくて、孤児院と教会の人たちみんなに育てられてきました……

 小さいときから大きくなったらどうなるのかなって、よく寝る前に考えていました。

 ずっとここで修道女をやっていかなきゃいけないのかな。

 それともどこかへ出て働くのかな。

 私、何が出来るのかなっていっぱい考えてました。

 たくさんの人を幸せに出来ならいいなと……」


「――サリタ。そんなことを考えていたのですね。

 あなたはまだ子供ですから、まずあなた自身の幸せを一番に考えてもいいんですよ」


 サリタちゃんが思いを語ると、マルセリナ様もしゃがんで頭を撫でた。

 私もマルセリナ様になでなでしてもらいたい。

 いやいや。私も子供の時は夢がいっぱいあって、自分の未来のことをたくさん考えたものだ。

 まさか五十で死んで今のようになってるなんて、想像の斜め上なんだけれど。


「マルセリナ様、私……

 私がたくさんの人を幸せに出来たら、私も幸せになれると思ったんです。だから……」


「わかりました。その考えはサリ教の修道女として立派ですね。

 私は誇りに思いますよ。

 準備ができ次第、しっかり勉強をして下さいね」


「はい!」


「よしっ パティ、そういうことだ。

 新しい屋敷に引っ越したらそこでサリタちゃんに勉強してもらおう!

 その前に…… ひっひっひ」


「わ…… 私は夜に行きませんからね!」


「エリカさんたちがどさくさに紛れて私に変なことをしてきそうだなあ」


「――マルセリナ様。私にお祓いをして下さい」


 ボソッとパティを煽ったら、あっさりと考えを変えて付いてくることになった。

 いやホントにエリカさんだったら暗闇の中でエッチなことをしてきそう。

 ライトの魔法は絶対に消さないようにしよう。


---


 サリタちゃんは自分の仕事に戻り、私たちはパティのお祓いをしてもらうために小さな礼拝室へ移動した。

 サリ教のお祓いってどうやるんだろう。

 そもそもお祓いとは神道でやることで、キリスト教では悪魔祓い的なことはあっても日本のそういう概念は無かったように思うが……


「それではパトリシア様、私の前へ」


「はい」


 パティはマルセリナ様の前に(ひざまず)き、目を(つむ)る。

 そして両手を前に組んだ。

 マルセリナ様はパティの額に手を当てる。


「それでは……

 愛と慈母の女神サリよ。

 この者を邪悪なる霊から護り下さい。

 クストディレ アブ マネス」


 パティの身体の周りに魔力の膜が包まれたようだ。

 え? 魔力? これ魔法なの?


「終わりました。これで一晩は持ちますので」


「ありがとうございます」


 パティは立ち上がり、マルセリナ様にお辞儀をした。

 気になるからちょっとマルセリナ様に質問してみよう。

 なんか私でも出来るような気がする。


「マルセリナ様、このお祓いって魔法なんですか?」


「そうです。光魔法プロテクションの一種です」


「じゃあ…… 礼拝室でやらなくてもいいし、光属性が使えるパティや私でも出来る魔法なんですよね?」


「それは受けられる方の気分…… コホン、神聖なる儀式ですから礼拝室でやる必要があります。

 プロテクションはサリ様に(つか)える者のみ許される魔法なのですよ」


 あ、言い直したぞ。

 結局ただの光属性魔法で、本来ならどこで誰がやってもいいんじゃないか。

 するとパティが横で小突き、小声で話し出す。


「マヤ様、お察し下さい。寄付で教会が成り立っているわけですから誰でもプロテクションが使えるようになっていたらダメじゃないですか」


「あぁ…… 左様か」


 やはりそんなことか。

 まあ葬式でお経を上げるのにもお坊さんに頼まないとダメだもんな。


「マヤ様、何か?」


「いえいえ。お答え頂きありがとうございました」


 さて、これで用が済んだから帰ってお昼ご飯を食べたらいよいよモンタネール家の屋敷を見に行くぞ!

 いつの間にかパティはベタッと私にくっついて腕を絡めている。


「マルセリナ様、ありがとうございました!」


「ありがとうございます。うふふ」


「こちらこそサリタのことは本当にありがとうございました」


 マルセリナ様にお辞儀をして出ようとすると、マルセリナ様に引き留められる。


「あの、私からもお二人にお伺いしたいことがあるのですが……」


「はい、何でしょう?」


「マヤ様と私、いつ結婚が出来るのでしょう……」


 ああっ!!

 忘れていたわけじゃないけれど、一番最初にするはずのパティとの結婚式がいつかも正式に決まっていないので、他の女の子たちとどうするか考えるのは後回しにしたままだった。

 今、きちんと説明した方が良いだろう。


「今、私がこんな(なり)なので、エリカさんが元に戻してくれる魔法を作って男に戻ったらパティが十五歳にもうなっている頃なので、それで結婚式をあげるつもりです。

 絶対に男に戻って見せます! その後になりますが……」


「マルセリナ様! 私、前にマヤ様から聞きました!

 マルセリナ様と私で合同結婚式が出来ないかと!

 私、尊敬するマルセリナ様と一緒に結婚式を挙げてみたいです!」


 確かに合同結婚式のことは聞いた。

 ベッドの上で下着姿になって……(第五十九話参照)

 その後パティに話してみたら大感激し涙するほど喜んでいた。

 パティにとって身内以外では最も敬愛するマルセリナ様なので、私は断る理由も無いし希望を叶えてあげたい。

 焼き餅焼きのパティでもマルセリナ様とだったら、ベッドで三人一緒に寝るくらいさせてもらえるかな。むふふ


「そうでしたか…… 安心しました。ポッ

 早く男性のマヤ様に戻って下さいね。ポポッ」


 マルセリナ様の顔はポンポンと赤くなっていた。

 そんなに結婚したいと思っていたんだ……

 ガルシア侯爵夫妻とも話して、合同結婚式が出来るよう話を進めてみるか。


---


 今度こそ大聖堂から外へ出て、ガルシア家への帰り道。

 結婚式の話が出たのでパティはとても気を良くし、行く時よりもさらにべったりくっついてお胸もべったりと。

 帰り道はいろいろ話ながら歩いて行ったが、ふと思ったことがあったので話題にした。


「ねえパティ。祝福の魔法ってさ、お祓いの代わりにはならないの?」


「祝福はですねえ、あくまで運気を上げる魔法なので幽霊を避けるのとはちょっと違うんですよ」


「そっかあ。じゃあ私は祝福を掛けてもらおうかな。たっぷりと」


「ヤダあマヤ様ったら! そんなことならいつでもして差し上げます!」


 祝福の魔法とは、掛けてもらうためにキスをするのだ。

 手を当てるだけでも良いけれど、キスの方がより効果が高まる。

 パティがそう言うなら、女同士でキスをしてもOKということなんだな。

 夜出掛ける前に、いっぱいしてもらうとしよう。うぷぷ

(マヤは、第六十一話でパティとカタリーナがキスしてたことを知らない)


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