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第三百十一話 ヴェロニカ、訓練で泣いちゃう

 ゆうべはヴェロニカの部屋で、ヴェロニカとエルミラさんに匂いを嗅がれまくられた。

 特にヴェロニカは、王女であることのたかが外れて本能のままに私の身体のあちこちを嗅いでいたのだから、正直言うとドン引きするほど驚いた。

 それはヴェロニカ vs エルミラさんの(いくさ)にいつの間にか変わってしまい、美女同士のすごいショーを見せられてしまった気分だ。

 何のことは無い。この二人は今まで肉欲に縁が無かった分、振った炭酸飲料のキャップが外れたように爆発して快楽を求め合う仲になってしまったのだ。

 二人とも肉弾戦派で体力が有り余っているから満足するまでずっと続く。

 声はあまり出さないように理性が働いているようで、戦っている時に痛みや苦しみを我慢しているような表情をしているのが自分のSな心をくすぐった。

 女の快楽は男の数倍以上感じると身をもって知っているので、彼女らを見てよく我慢出来ているなと思った。


 屋敷の二話で早朝訓練。部活の朝練と変わらない。

 スサナさんとエルミラさん、ヴェロニカ、私に加えてオフェリアとマイ。

 朝から血圧が高そうなメンバーが集まった。

 スサナさんたちはこの時オフェリアたちと初顔合わせ。

 私もスサナさんと久しぶりに会うことが出来た。


「マヤさんが女の子になって、魔族の女の子を二人連れて来たあ? 状況が把握出来ないよお!」


「いろいろあって、詳しくはまた…… ハハハ

 こっちがオーガ族のオフェリアで、彼女が三眼族のマイだよ」


『よ、よろしくお願いします……』


『よろしくぅ。えへへ』


「へ? ナニ喋ってんのこの二人……」


「ああ、しまった。スサナさんとエルミラさんにはエリカさんに翻訳魔法を掛けてもらってなかったんだ。

 まあ自己紹介は拳で語ろう、ということでいいよね?」


『わかってるじゃん、マヤ。あたしは早速この子とやらせてもらおうかな』


 マイはスサナさんに向かって目で合図をした。

 二人とも体術のスタイルは似ているからやりやすいかも知れないな。


「ええ? ああ…… お手柔らかにお願いします……」


 スサナさんはマイの強さを何となく察したのか、不安げな表情だ。


「じゃあオフェリアはエルミラさんと、私はヴェロニカとね」


『綺麗な人だなあ。本当に強いの?』


「人間の騎士よりずっと強いから期待していいと思うよ」


「マヤ君、そんな説明しないでくれよ。私が魔物みたいじゃないか」


「騎士団より強いのは事実でしょ?」


 パワーだけならオフェリアが圧倒的に分があるが、しなやかで無駄が無い動きのエルミラさんであれば勝てる見込みは十分にある。

 もっとも、オフェリアが力業で気功波を何度も撃たれるとエルミラさんが不利なのだが、今は体術だけの訓練なのでオフェリアが見習うところもあるだろう。


「マヤ、ゆうべやった型でやってくれ。楽しみだな」


「勿論だとも」


 ヴェロニカはワクワクして私を見つめている。

 朝練なので三組まとめて組み手をするつもりだったが、それぞれの戦い方を見たいというマイやヴェロニカの声があって一組ずつ順にやることにした。

 まずはスサナさんとマイ。

 お互い挨拶をすると、マイからいきなりスサナさんへ攻撃を始めた。


「うっひぃぃぃ!! 速っ 速すぎるってば!!」


『おっ? やるねえ! これほど(かわ)されるなんて思わなかった!』


 パンッ パンッ パァァンッ ババッ

 二人の手脚が討ち合う音が攻撃防御のすさまじさを表している。

 スサナさんも連続回し蹴りで応戦するがなかなか当たらない。


『捕まえた!』


「うわぁぁぁうぉうぉ!?」


 マイは回し蹴りをしているスサナさんの足首を強引に捕まえた。

 だがその瞬間……


「うりゃあ!」


 捕まえた勢いを利用して払うようにあっさりとマイを地面に転がしてしまった。

 マイほどの武術家がこうも簡単に倒されてしまうとは正直驚いた。


「ふう…… あたしって回し蹴り攻撃が多いからね。

 こういうのは対策済みだよ。にひひー」


『うーん…… ちょっとなめてかかったかなあ』


『あらら、マイが負けちゃうなんて……』


「だがマイの猛攻は(すさ)まじかった。あれでまだ本気ではなかったとは、私でも苦戦していたに違いない。魔族というのは身体的に人間と格が違うというのか」


 ヴェロニカはマイの戦いっぷりを見て感心している。

 スサナさんは倒れたマイに手を差し伸べ、立ち上がった。

 やられたのにマイはなんだか嬉しそうだ。

 スサナさんはガルシア家に来る前に武術は師匠から習ったとは聞いていたけれど、それ以上のことは知らない。

 大した師匠である。


「次はオフェリアとエルミラさんだね」


『よーし! 私は勝っちゃうぞ!』


「よろしく」


 オフェリアはさっきの対戦を見てからやる気満々で、エルミラさんはオフェリアの巨体に臆することなく微笑んでいる。

 エルミラさんは棒術か槍術(そうじゅつ)を得意としているが今回は武器無しだ。

 勿論素手の攻撃も訓練しているので強さは保証する。

 さて、それがオフェリアに通じるかどうか……


 ズダダダダッ

 オフェリアの巨体がエルミラさんに向かって突進する。

 ただの猪突猛進にならなければ良いが……

 エルミラさんが身構えると、オフェリアの右拳は胸の位置までグッと退いている。

 あの動きは連続高速パンチをやろうとしている。

 まともに受けたらエルミラさんだと大怪我をする!


『でやぁぁぁぁ!!』


 オフェリアの重い連続高速パンチが撃ち放たれる。

 あれは私でも受け止めるのは大変だぞ!

 それでもエルミラさんは逃げないのか!?


「はぁぁっ!」


 エルミラさんはパンチを受ける紙一重で飛び上がり、オフェリアの頭に手をついて倒立状態になると身体をきりもみで方向を変えた。

 まるで体操選手のような華麗な技で、見とれてしまう。

 オフェリアは何が起きているのかわからず呆けた表情になっている。

 エルミラさんはそのままオフェリアの頭を掴んだまま、方向転換した身体をオフェリアの後ろへ持って行き彼女の背中に膝でキックした。


『ぐぇぇぇぇぇ!!』


 エルミラさん、遠慮が無いな…… 痛そう。

 だがオフェリアは負けじと、自分の頭を掴んだままのエルミラさんの手を逆に捕まえてそのまま身体を後ろへ倒そうとする。


「ちょ、ちょっと待って! わっ わあああ!!」


 ドスーン!!


「ゴフゥッ……」


 エルミラさんは後ろに倒れたオフェリアの背中に押しつぶされてしまった。

 これヤバくない?


「うぉぉぉい!! エルミラさああん!!」


「えええ!? エルミラってばあ!」


「エルミラあ!」


『うわあああ……』


 皆がエルミラさんを心配して口々に叫ぶ。

 オフェリア本人がまだ状況をわかっていない。


『あれ? えっ?』


「オフェリア! 早く退くんだ!!」


『えええあああ…… はい』


 オフェリアが起き上がると、エルミラさんは気絶して伸びていた。

 鼻血も出てるな……


「エルミラさああん! おおおい!」


 エルミラさんのほっぺたをペチペチ叩いても目を覚まさない。

 呼吸はしているようだ。


「どれ、見せて見ろ」


 ヴェロニカは、エルミラさんの骨が折れていないか身体を触って確かめている。

 そこまで重体なのか……


「うーむ…… 骨は折れていないと思うが、細かいところまではわからん」


「そうか…… 回復魔法をかけてみるか」


 私は座ってエルミラさんを後ろから抱きかかえた。

 ミディアムリカバリーでいいか……

 いや、念のためにフルリカバリーを掛けておこう。

 息を大きく吸って、魔力を高めた。

 私の身体が少し光っているのが自分でもわかった。


『これが、マヤがフル発動している回復魔法なのか…… 初めて見た』


「あっ これってお嬢様が大怪我をされた時に使った魔法ですよね?」


「エルミラ……」


『ううう……』


 オフェリアは自分がしてしまったことを理解し、半泣きだ。

 たぶん人間相手の加減がわからなかったからだろう。

 ましてこの巨体。

 だが身体のことを言うとオフェリアが傷つくからやめておく。


「うっ…… はぁ……」


「あっ 気が付いたよ」


「良かった。もうちょっとかな」


 フルリカバリーの仕上げに掛かる。

 これでもう大丈夫だろう。


「あっ ふうっ…… ん…… あはっ はぁん……」


「ありゃりゃ、やっぱりそうなるか」


 エルミラさんは、スオウミでリューディアさんにフルリカバリーを掛けた時のように、ドキッとする喘ぎ声をあげた。


「あわわわ…… エルミラってばあ」


 スサナさんは親友のそんな声を聞いて顔を真っ赤にしていた。

 エッチなエルミラさんを知ってるのは私とヴェロニカだけだからなあ。


『マヤ、何やってんの? 回復魔法を掛けてるんじゃないの?』


「私がやると何故かこうなるんだよ」


『まあな。マヤはエッチだし』


「否定はしない……」


 マイとそんなことを言ってるうちにエルミラさんが気が付いた。

 彼女の顔は真っ赤に火照っている。

 身体の回復と性的興奮以外に何か身体に作用してないかな。


「え…… ああ…… ん? まままマヤ君? あうっ ひいっ……」


 エルミラさんは軽く身体をビクッとさせた後、落ち着いた。


「大丈夫? 痛いところは無いかな?」


「うん、何ともないよ。ありがとう」


『申し訳ありませえええん!!』


 オフェリアはエルミラさんに向かってジャンピング土下座をしている。

 またかよ……

 エルミラさんは自ら立ち上がり、それからオフェリアの前でしゃがみ寄り添う。


「あのオフェリアさん、私も未熟だったし実戦だったら本当に負けていたよ。

 だから気に病まないで…… って、言葉が通じないんだっけ?」


「いや、私たちからオフェリアへはイスパル語がわかるようになってるよ。

 ということだオフェリア。

 訓練に事故はつきものだし、そのためにも私がいるから。

 もしいなくてもパティやここの奥様が回復魔法を使えるから心配しなくていいさ」


『そうですか……』


 エルミラさんが手を差し伸べ、オフェリアが手を取って二人とも立ち上がった。

 うんうん、これで二人の友情が芽生えるかな。


「では私とマヤの番だな。来い!」


 ヴェロニカは待ちかねたように攻撃の構えをとった。

 期待通り、マイに習った拳法で相手をしてやろう。

 ヴェロニカは颯爽と私に飛びかかる。

 彼女は軍隊格闘術が基本で、容赦なく連続蹴りで攻撃をしてくるので私も蹴りで(かわ)す。

 もし捕まって絞め技を掛けられると私でもなかなか抜け出せないので厄介だ。

 おっぱいは気持ち良いけれどな。


「ハァァァァァ! たぁ! とぉ!」


「ヴェロニカ、ワンパターンだぞ」


「何おお!!」


 彼女は簡単に挑発にのってしまった。

 戦法が変わり、パンチとチョップが攻撃の中心になる。

 だがこれで有利になったわけではなく、手で捕まりやすくなる。

 これから私も戦法を変えて中国拳法風の攻撃と回避に移る。


 私は鷲の型で、鋭い爪の足を自分の手に型をとって攻撃する。

 時々彼女のおっぱいを握ったりする。


「おまえというやつは、真面目に訓練をしててもそういうことをするかああ!!」


「でも隙だらけだぞお! へっへっへ」


「ぬううう!」


 ヴェロニカの頭に血が上る。

 ここで私はまた戦法を変えて、水鳥の型で攻撃をかけることにする。

 鳥の翼のように手を広げ、飛び上がってきりもみ宙返りでヴェロニカの後ろに回り込む。 さっきエルミラさんがオフェリアに掛けた技の応用をやってみる。


「エルミラさあん! こういうやり方もあるよ!」


 ヴェロニカの後ろをとったらすぐに肩を捕まえ膝カックン。

 体勢が崩れたらヴェロニカの手脚をとって、レスリング技のロメロスペシャルだ!


「ぐぁああああ!!」


「どう!?」


「マヤ君! そんな器用で素早い動きは人間業を遙かに超えてるよお!」


「そ、そうなのか……」


 確かに大帝の術で痛い思いをして潜在能力を全解放したんだった。

 自分でも自覚が無いほど力が上がっているから、手加減するのも大変になってくるのか。


「ぎゃぁぁぁぁ!! マヤ! もういい!! 私の負けだあ!!」


「ああっ ごめんごめん! 今外すよ!」


 私はヴェロニカをロメロスペシャルで手脚を固めていたのをゆっくり外した。

 相当苦しかったのか、ヴェロニカは座り込んでぐったりしてしまう。


「ううう…… うっく、うっく……」


「あの…… ヴェロニカ……」


「あー マヤさん王女様を泣かしたー いけないんだー」


『マヤ、技をキツくし過ぎたんじゃないか?』


 スサナさんとマイが私を煽ってくる。

 そう、ヴェロニカは泣いてしまった。

 エルミラさんとオフェリアも後ろで困った顔をしていた。


「えっと…… ごめん。そんなに痛かったか?」


「違う、そうじゃない。ううう……」


「じゃあどうしたの? 私は察しが悪いからはっきり聞かせて欲しい」


「おまえは…… 私じゃどうにもならないくらい強くなってしまったんだな……

 後ろへ回ったあの時、全く動きが見えなかった。

 私は完膚なきまでに叩きのめされたのだ」


「そうだったのか……」


 きっとプライドが高い彼女の心が傷ついたからだろう。

 だからって負けてやる必要は無いし、為にならない。


「だからな……」


「え? 何?」


 ヴェロニカはスクッと立ち上がり、両手で私の胸ぐらを掴んだ。

 ちょっと怖いんですけれど。


「前にも言ったろ! 私よりずっと強い男と結婚すると!

 おまえしかいないんだよ!

 それがなんだ! 何で女なんだ!

 絶対男に戻れ! すぐ戻れ! いいな!!」


「あ、ああ…… エリカさんと全力で早く戻る方法を見つけるよ」


「ふんっ」


 ヴェロニカは私を突き放すと、スタスタと一人で屋敷へ戻ってしまった。

 皆を見ると、スサナさんとマイはニヤニヤ笑っていて、エルミラさんとオフェリアは苦笑いをしていた。

 とんだ早朝訓練になってしまったが、皆も含めて結果的に良い方向へ進んだと考えていいのか?

 何だかんだでもう朝食の時間になろうとしていた。

 これで解散。ヴェロニカもお腹が減っていたのかな。ふふふ……


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