第三百八話 ドタバタ出発準備
今晩は王宮へ帰らず、そのままエスカランテ家にて一ヶ月ぶりに夫婦水入らずの時を過ごした。
ミカンちゃんは子供用のベッドへ寝かせ、私はシルビアさんからシルク製のパジャマを借りた。
長袖にズボンスタイルで、身長は彼女と同じくらいなのでサイズは丁度良い。
色はパールホワイトで、良い物を持っているよな。
――ベッドへ入り二人並んで寝る。
「ふぅー やっぱり人間の国で寝るのは落ち着くなあ」
「あなた、アスモディアではさも大変だった言い草ですけれど、寝るときは何かあったんですか?」
「ああ、ほら。魔族っていろんな種族がいるから、夜に活動する魔族が外にいるとちょっと騒がしいことがあってねえ」
「そうなんですね。ちょっと怖いです」
あながち嘘ではないけれど、アモールやサキュバスと夜の活動をしていたとは言えない。
アスモディアのことはよく考えてから話さないと、うっかりなことを口にしたら大変なことになりそう。
私は布団の中でもそもそと、シルビアさんの手を握った。
「――あのね、久しぶりに…… 女同士で何だけれど……」
「うふふ。仕方ない人ですね。いいですわ。
でもミカンが起きちゃいますから程々にしましょうね」
「うん……」
この夜、私とシルビアさんは静かにしっかりと愛し合った。
お風呂でイチャイチャしたエリカさんとモニカちゃんはノーカウントとして、女同士で本気になって頑張ったのは女王とシルビアさんで、これで二人目。
やっぱり女の人にしてもらうと、どこが良いのかよく分かる。
シルビアさんの母乳……
やっぱり美味しくなかったのは黙っておいた。
自分のはまだ飲んでいない。
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晩はミカンちゃんが起きて夜泣きすることもなく、私たちもぐっすり眠ることが出来た。
私はミカンちゃんと夜を明かした日は僅かだが、シルビアさんの話では夜泣きをあまりしないでよく寝る子だそうだ。
シルビアさんの負担が少なくて、離ればなれになっている私にとっても有り難い。
エスカランテ家で朝食をとってから王宮へ帰る。
シルビアさんがミカンちゃんを抱っこして玄関前で見送ってくれる。
二人とはまたしばしのお別れ。
「うううっ バイバイミカンちゃん。
クンカクンカスーハースーハー……
ミカンちゃん良い匂い……
すぐ会えると思うけれど、今のうちにミカンちゃん成分を吸っておくんだ」
「あなたったら……
この子が大きくなった時に真似されないようにして下さいね」
「赤ちゃんの時だけだよ。ああ、それにしてもどうしてこんなに良い匂いなのだろう」
「わうわうわうう」
私が匂いを嗅いでいるのを面白がっているのか、ミカンちゃんはご機嫌だ。
こんな可愛い子を誰にも嫁にはやらんぞお。
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王宮に戻り、皆に出発の準備をしてもらう。
最初にマルヤッタさんがいる部屋にお邪魔すると、彼女は山吹色の膝丈キュロットスカートに、白いパフスリープの可愛いブラウスという服装に変わっていた。
「マルヤッタさんおはよう。随分可愛い服を着てるんだねえ」
『えへへ。昨日のお出かけで、パトリシアさんに買って頂いたんです』
「それはそれは。楽しいお出かけだったようで何よりだ」
『それがですねえ……』
「何かあったの?」
『オフェリアさんに合う服がどの店にも全く無くて、お店の中で大声で泣いてしまったんです。
それであの巨体ですから、目立って騒ぎになったんですよ』
「やれやれ。マカレーナに帰ったらオーダーメイドで服を作ってもらうと言ってなかったかな」
『私、人間のお店があんなに可愛い服でいっぱいだとは思いませんでした。
目移りして選ぶのに大変だったんですから、きっとオフェリアさんもそうしたかったんですよ。
なのに自分に合う服が一つも無いなんて悲しいじゃ無いですか。
マヤさんはもうちょっと女心を理解した方が良いと思いますよ』
「うっ…… そうだよなあ。オフェリアも女の子だからねえ」
と言いつつ、オフェリアは五十歳という私とほぼ同年齢なのに何をやってんだかという思いしか出てこなかったが、ここはそれで流しておく。
長寿命族は精神成長が緩やかなのか、マルヤッタさんも百八十三歳という年齢にしては心が幼い。
その最たる者がマルヤッタさんの隣のベッドでグーガー寝ていた。
「おいアイミ。まだ寝てるのかあ? もう出発だぞ! 起きろ!」
『ぐがぁぁぁぁ……』
マルヤッタさんとペアで部屋に入っているのはアイミだ。
とても八歳の娘という設定らしからぬ豪快ないびきを立ててまだ寝ている。
大人の姿では普通に寝ていたのに、意味が分からない。
『マヤさん、この子ったら朝ご飯を食べたらまた寝てるんですよ。
それに前から思ってるんですが本当に何なんですか?
妙に態度が大きいし、魔力を抑えているようですが潜在的な力はとんでもないですよ?
着替えるのも魔法だし、そんなの初めて見ましたよ』
「そうか…… 魔力を抑えているのがわかるんだね。
マルヤッタさんにはまだ言ってなかったけれど、こいつの本当の名前はアーテルシアといって、色欲の神なんだ。子供の姿も仮でね」
『し…… 色欲の神って…… えええエッチな神様なんですか?
それにしても神様だなんて、にわかに信じられません』
「エリサレスって聞いたことあるだろう?
昔、アスモディアを襲ったという邪神だ。
アーテルシアはそいつの娘なんだよ」
『あのエリサレスの娘!?
何でそんな危険なやつがここにいるんですかあ!?』
マルヤッタさんは青ざめるほど驚いていた。
それは当然だろうが、彼女は当分一緒にいる仲間になるので経緯を手短に話した。
私が別の世界から生まれ変わってここへ来たことも。
彼女の表情はだんだん難しくなり、頭を両手で押さえている。
『うう…… 何が何だか私にはすぐ理解出来ません……』
「マカレーナへ帰ったらまた順を追って説明するよ。
今はアイミを起こさないと…… おい、起きろ!」
ババッ
私は勢いよく掛け布団を剥いだ。
するとアイミは公序良俗に反する倫理的にもまずい姿で寝ていた。
つまり子供の姿ですっぽんぽんである。
「ぐはぁぁぁぁぁ!! なんて格好を……」
『マヤさん、何で驚くんですか? ああ、男でしたね。
欲情に負けて襲わないで下さいよ』
「しないってば。子供の裸なんぞ興味ない。
私はばいーんぼいーんの大人の女性が好きなのだ」
『そうですか。私の身体も興味が無いってことですよね。安心しました』
「あ……」
マルヤッタさんの表情は不貞腐れていた。
安心したと言いながら、幼児体型の彼女がどういう意味でそんな表情をしているのか私にはよくわからなかった。
『うう…… ああ…… おっ…… マヤかあ?』
「おおおいっ ちょっと待て。丸見えだろうが!」
アイミは上半身を起こし、片膝を立てて座るものだから……
だが長らく一緒にいると家族みたいに思えて全く興奮しない。
いや、よその子でもそうだろう。
『うん? おまえは幼女に興味が無かったんじゃないのか?』
「そうじゃなくてさ…… もう出発するから早く着替えろよ」
『おおそうかそうか』
アイミは枕元に置いてあった魔女っ子ステッキを軽く振り回すと小さな身体は黒い霧に包まれ、いつもの魔女っ子服と魔法使いの帽子の姿になった。
「だろ? 普通の魔法使いじゃこんなこと出来ないから」
『確かにそうですね……』
『ああ? 何の話だ?』
「マルヤッタさんにおまえのことを話しただけだよ」
『ほう。この姿も見せねばなるまい』
アイミは再びステッキを振ると黒い霧に包まれた。
どうせアーテルシアの姿になるのだろう。
『どうだ。ついでにおまえが好きな格好にしてやったぞ』
「わっ その下着って……」
『わわわわっ エッチなお姉さんが霧の中から出てきた!』
勿論アーテルシアの姿なのだが、あれは私のロベルタ・ロサリタブランドのランジェリーを着けているではないか!
黒い蝶の刺繍がある透け透けブラと透け透けTバックだ。
女王も同じ物を着けていた時があった。
アーテルシアは着けている服や下着も身体の一部のようなもので、何かで下着を見た機会に記憶してコピー生成したのだろう。
それにしても全く同じように見えるのは細かいところまでよく記憶してたものだ。
「うんうん、よく似合っているぞ」
『当然だ』
『こここんな禍々(まがまが)しい魔力…… いえ、妖気と言ってもいい……』
アーテルシアは魔力を抑えているとはいえ、マルヤッタさんは異質の波動を感じてガクブル震えている。
それにしても黒髪パッツンのロングヘアーに白い肌だと、女王よりずっと似合っている。
このまま股間に飛び込んでやりたい。
だがアーテルシアは魔女っ子ステッキを掲げ、こう言う。
『おっと、サービスタイムはこれで終わりだ』
ステッキは死神の鎌に戻っておらず、そのセクシーな姿に似合わない魔女っ子ステッキを一振りして元のアイミに戻ってしまった。
マルヤッタさんは胸をなで下ろし安堵する。
「二人とも、用意できたら飛行機の所まで行っててね。揃ったら出発だ」
彼女らにそう言って、私は自分の部屋へ戻る。
ペアになってるのはエリカさんだが……
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「ンフ…… ンン…… エリカさまあ……」
「美味しい…… はふ…… ンン…」
「あの…… お取り込み中悪いけれど、もう出発だよ」
エリカさんとモニカちゃんが、自分たちだけの世界に入り熱烈にキスをしていた。
私が声を掛けてもまだ夢中になっている。
しばらく固まって見入ってしまうが、キリが無いので無理矢理割って入った。
「ちょっと…… もういいだろ。出発するぞ」
「あらあ…… マヤ君…… 昨夜は寂しかったわあ。
だからこうやって…… 三人でしてみる? んふふふ」
「えええ? マヤ様仲間に入りたいんですかあ?」
「えっ あのっ おい!」
私はエリカさんとモニカちゃんに掴まれて、三人でキス大会が始まってしまう。
こんなことをしてる場合じゃ無いのに……
むにゅる…… 気持ちいいから…… と、止まらないいいいっ
「むぐっ むふうぅぅぅっ」
「はわっ はふっ はふっ」
「マヤ君とモニカちゃんの…… はふっ…… ダブルリップス……
美味し過ぎてとろけちゃいそおおおおお!」
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はぁ…… 酷かったような気持ちよかったような、日本にいたら絶対有り得ないようなすごい体験をした。
あいや、昨日のお風呂で三人の方がもっとすごかったよな。
モニカちゃんとの熱い別れを済ませたことだから、エリカさんにも準備をしてもらいさっさと飛行機へ向かうように念を押した。
次はオフェリアとマイの部屋か……
マルヤッタさんから聞いた話だと、オフェリアは大丈夫かな。
「おーい二人ともー 出発の準備は出来てるかあ?」
『あっ マヤ! あたしは準備出来てるよ! でもオフェリアが……』
「ええ? どうしたんだい?」
『昨日、自分に合う服が見つからなくてまだ拗ねてるんだよ』
「そこまで落ち込んでいるのか……」
と言うマイは、白のカジュアルシャツに青いネクタイを巻き、青いチェックの短いプリーツスカートを履いていた。
どこかのアニメで見たようなコーデだが、完璧なギャルコーデである。
太股美味しそう。
オフェリアはベッドの上で拗ねているので話しかけてみる。
彼女が着ている服装はディアボリで元々持っていた白いTシャツとカーキのジョガーパンツという簡素なものだから、王都のお店で目移りするのは仕方ない。
「オフェリアあ、もう出発するよ。
マカレーナにも大きなお店があるぁらそこへ行って、気に入ったのがあったらオーダーメイドで作ってもらうからさあ」
『――ほんと?』
「マカレーナじゃ私の顔が利くから大抵の服なら作れるよ。
下着だってセクシーで可愛いのが出来るから」
『下着はセクシーじゃなくて普通のでいいから、服は可愛いのが欲しい……』
「それなら欲しいだけプレゼントするから気を取り直してよ」
『――いいんですか? そこまでしてもらって……』
「女の子はお洒落しなくちゃね」
『おおおお言葉に甘えさせて頂きますううううっ』
オフェリアはベッドの上で私に向かって土下座をする。
そんなことをされても自分に選民意識など無いし、安易にするのをやめさせないとなあ。
シャツの首から覗く谷間がエッチだ。
しかしもっとグズグズするかと思ったら、案外チョロかったな。
マイは苦笑いしながら見守っていた。
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次はビビアナとジュリアさんの部屋か。
この二人なら問題は起きていないと思うが……
「おーい、出発するぞー」
「ニャニャ!? マヤさん、これを見るニャ!」
「んん? ぶはあっ」
ビビアナの姿は、猫型の肉球手袋に白いふわモコのビキニスタイルになっていた。
王都には耳族がほとんどいないはずなのに、こんなものを売っているのはどこのコスプレショップなんだ?
だが悪くないぞ。うむ。
「マヤさああん。わたスのも見て下さあい」
「ええ? おわあっ!?」
ジュリアさんの姿はワ◯メちゃん並に短いプリーツスカートにヘソ出しTシャツだった。
マイに影響されてギャルになりたかったのか?
マイのスカートよりさらに短い、パンツがスレスレで見えそうなピンクのプリーツスカートだ。
これも嫌いではないのだが……
「すごく似合っているけれど、ジュリアさんは三つ編み眼鏡にセーラー服が一番よく似合うよ」
「そそそそうなんでスか?
じゃあ帰ったらマヤさんとプライベートの時はそうしまス!」
「あ、ああ…… あいや、それより二人ともすぐ給仕服に着替えなさい!
帰ったらそんな格好で侯爵夫妻の前に出るわけにはいかないだろう」
「えー つまんないニャ」
「そうでスよね…… 残念でス……」
彼女らはもう少し常識があると思っていたんだが…… やれやれ。
次はパティだが、カタリーナさんの部屋がどこにあるか知らないので、モニカちゃんに呼びに行ってもらった。
飛行機が駐機してある所へ行けばそのうち来るだろう。
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飛行機の点検をしながら待っていると、徐々に皆が集まってきた。
パティは最後なのか、まだ来る様子が無い。
見送りにモニカちゃんとフローラちゃんが来てくれた。
女王ら王族は忙しいのでいないが、またすぐ会える。
「マヤさまあ! お待たせしましたあ!」
「おっ 来た来た。ぐはああああっ!?」
最後はそのオチ?
ようやくパティとカタリーナさんがこちらへやって来たが……
なんと二人とも真っ白なミニスカウェディングドレスを着ていた。
ななな何でまた!?
「近い将来の披露宴のお色直しで着るのに、丁度良いかなと思って買ってみたんですぅ!
ねっ ねっ 可愛いでしょう?
カタリーナ様にもどうかなと思って一緒に買ってきたんです」
「わ…… 私はちょっと恥ずかしいです……」
「そんなことないですよお! 女は魅せなくては!」
二人とも太股が美味しそう…… じゅる
いやいやカタリーナさんはともかくパティはそのままの姿で帰ったら侯爵夫妻が何事かと怒るに違いない。
「パティ…… すごく可愛いんだけれど、今は飛行機の中で着替えなさい。
帰ったらアマリアさんが……」
「そうですわ! お母様のことをすっかり忘れてました!
あわわわわ…… ひと月も離れていたら私って浮かれてしまって……
マヤ様、ありがとうございます。着替えて参ります」
カタリーナさん一人残して、パティは飛行機へ駆けていった。
昨日の買い物って何だったろうね。
付いて行かなくて良かったよ。
それでカタリーナさんはあの格好で王宮へ帰って行くことになるんだけれど、中の人たちに注目されてしまうことを想像…… していないだろうな。




