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第三百二話 女王との謁見 其の一

 飛行機を王宮前広場の脇に着陸させる。

 下から近衛兵たちが傍観していたがもう慣れっこなので、着地するころには出迎えのためにズラッと並んでいた。

 私たちも良い身分になったものだ。


「パティ、君が一番先に出てくれないか? 私はこんな姿だし……」


「承知しましたわ。うふふ」


 ドアタラップを下げ、パティを先頭、次が私で皆が続々と降りる。

 近衛兵たちは整列しキリッと敬礼をする。


「ただいま帰りました」


「どーもー」


 パティがニコニコと会釈するのに続いて私は愛想良く手を振る。

 近衛兵たちは私の姿を見て「おい、マヤ様ってあんなだったか?」と思っていそうな表情をしていた。

 格好はいつもの女神ジャケットで、髪型も男の時とそんなに変わっていないショートヘアだから遠目で見たら同一人物に見えそうだが、如何せんムチムチのおっぱいとお尻は隠しきれない。

 あと、デカくて角が生えているオフェリアに、兵たちがギョッとしてるのもわかった。

 彼女だけでなく、端から見たら私たちは珍ドコパーティーに見えるだろう。


『へぇー 無骨なディアボリ城と違って人間族のお城って芸術的な造りだねえ』


『こういうふうに出迎えられるなんて初めてだから緊張します……』


『随分暖かい国なんですね。これはきっと美味しい料理がたくさんあるに違いありません!』


 と、マイ、オフェリア、マルヤッタさんは広場を歩きながら口々に言っていた。


 王宮の玄関に入ると、十人ほどの給仕係さんたちが両側に並んで出迎えてくれた。

 私たちの姿が見えたことを近衛兵から給仕係へ伝えるのに、着陸してから玄関へ向かうまで十分に時間がある。

 とはいえ、いつもながら出迎え態勢の統制は大したものだ。


「「「「「おかえりなさいませ!」」」」」


 若いメイドさんたちの挨拶は、王宮に慣れた今でもゾクゾクする。

 急でなければもっと人数が多いからとても壮観だ。


「ただいま戻りました。お出迎えご苦労様です」


「みんなただいまー あははは……」


 パティの後にとぼけて挨拶してみるが、みんな私を見て「ん?」という表情をしている。

 私と会話をしたことがない給仕係でもみんな顔見知りなのでそんな反応だろう。

 出迎えしている給仕係の中にフローラちゃんがいるのをパティが気づき、立ち止まる。


「フローラさん、ただいま」


「パトリシア様、よくご無事にお戻りで……

 ままま魔族の国でパトリシア様の身に何か起こらないかとても心配しておりました」


「この通り、問題ありませんわ。あちらではとても良くして下さいました。

 ほら、こちらに魔族の方がお二人。それからエルフ族の方もお連れしましたの」


『よろしくー』


『ど、どうもお世話になります……』


『今晩は御馳走になります。あ、ここで食事をするとは限りませんよね』


「ひいっ ななな何を(おっしゃ)っておられるのか全くわかりかねます!」


 またマイ、オフェリア、マルヤッタさんが揃って話す。

 そうだ。私たち同士では魔法で言葉が通じるようにしてあるが、フローラちゃんには魔法を掛けていないからわかるわけがない。

 後でエリカさんに、女王や世話係にはみんな通訳魔法を掛けてもらおう。


「フローラちゃん安心して。アスモディア語で挨拶しているだけだから」


「えっと…… あの…… マヤ様にそっくり? でも女の人?」


「ああ、うん。マヤだよ。魔法で女になっちゃった…… あははは」


「「「「「ええええええええええっっっ!!??」」」」」


 軽く女になっちゃったって言ってしまったけれど、給仕係の皆が大声で驚いた。

 まあ、常識的にそういう反応になるよね……

 地球だと、外国へ行って性転換手術を受けて帰って来たみたいな。


「どどどどどうして!? えええ!?」


「いろいろ訳ありでマヤ様はしばらく女性の姿で生活されますの。

 詳しくは追々と……

 で、陛下へお取り次ぎをお願いしたいのですが、今日はいらっしゃいますか?」


「はい。既に係が伝えに向かっておりますので応接室へご案内します……」


 そういうわけで、フローラちゃんに付いていって応接室へ皆でゾロゾロと向かうわけだが、アスモディア行きで一番の目的だったエリカさんが後ろの方で地味にしているからお城の誰も気づいていない。

 もっとも、オフェリアたちが目立ちすぎてるからでもあるが。

 モニカちゃんにはエリカさんと感動の再会の場を作ることにしよう。


---


 女王の都合が付かず、応接室では一時間ほど待たされることになる。

 その間に、王宮で花嫁修業中のカタリーナさんがやって来た。


「カタリーナ様!」


「パトリシア様! おかえりなさいませ!」


 パティとカタリーナさんが手を取り合い、抱擁する。

 大の親友で美女同士、なんと美しい光景だろうか。

 私もお仲間に入りたい。


「それでエリカ様は……」


「はい。見事に復活してお戻りになりましたわ」


 パティは、ソファに座っているエリカさんに向けて右手の平で指す。

 エリカさんはスクッと立ち上がり、カタリーナさんの方へ歩いて行く。


「カタリーナさん、ただいま」


「まあ…… まあまあ……」


 カタリーナさんはポロポロと涙を流す。

 それ以上は言葉が出ないようだ。

 エリカさんは彼女を優しく抱きしめた。

 いつもなら下心ある表情をしていると思うが、優しい顔をしてるのがかえって不気味だ。


「うっく…… ひっく…… ううう……」


「泣かないの。将来の王妃様になるかもしれないんだから、強くならなきゃ」


「ふぁい…… うう……」


 パティと私もウルウル。

 そこでカタリーナさんはエリカさんの顔を見つめる。


「あら……? エリカ様のお顔が若い…… どうして?」


「ああ、十八歳の頃の遺伝情報を元に新しく身体を作ってもらったんだよ。

 もう人間じゃなくて魔族になってしまったけれどね」


「魔族!? そ、そうなんですか……

 でも私より若くなってしまうなんてズルいですわ」


 カタリーナさんはそう言いながら微笑み、涙を(ぬぐ)っていた。

 彼女にとって魔族がどうこうより、エリカさんが無事に復活したことが大事なのだ。


「それでマヤ様は……」


「やあカタリーナ様、ただいま帰りました。

 いやあ、女になっちゃいましたよハッハッハ」


「は!? はあああああああっ!?」


 カタリーナさんも予想通りの反応だったが、控えているフローラちゃんもまとめて当たり障りない程度に説明をした。

 二人とも自分の理解を超えており、目が点になっている。


「それで男性に戻るためにはエリカ様次第ということなんですのね?」


「無理難題をお師匠様に押しつけられたもんだわ。

 でも、マヤ君には男に戻ってもらわないと私も困るから、頑張るしかないよねえ」


「よろしく頼むよエリカさん」


「はいはい」


 苦笑いで返事をするエリカさん。

 いつか私の分身君と再会するためには彼女の力が不可欠なのだ。

 正直言うと、股間がスッキリしてて楽にさえ思っているが。

 すると今度はカタリーナさんが私に近づいて顔をじっと見つめる。

 美人さんにこうも見つめられると未だに緊張する。


「マヤ様のお顔も…… か、可愛いですわね……」


「そうでしょう。なんて言ったってマヤ様ですからね」


「カタリーナ様にそう言われると光栄です」


「そうですわ! 後で(わたくし)のドレスをお召しになって頂きましょうか!」


「マヤ様がカタリーナ様のドレスを…… じゅるり」


「ええええっ またあ!?」


 パティの顔がヤバい。

 アモールの館で着せ替え人形のようにされたことを王宮でもやるのか?

 カタリーナさんの脱ぎたてドレスを……

 あと脱ぎたてぱんつとブラも貸してくれるなら大喜びで着替えるのだが。

 そんなこんなで騒いでいると、ドアノックがあった。


「失礼します。陛下がいらっしゃいました」


 ロシータちゃんが最初に応接室に入り、その言葉を聞いて皆が立ち上がる。

 場の空気は緊張感が立ちこめ、オフェリアとマイがボソボソ何かを言っている。


『あわわわ、人間族で一番偉い人なんですよね。大帝とどっちが強いのかなあ』


『そうじゃなくってこの国で一番偉い人! 魔力もあたしたちよりずっと小さいよ』


 アイミがソファでだらしなく座ったままだったので、後でとびきりの御馳走を食べたければきちんとしろと言うと、渋々言うとおりに立ってくれた。

 こいつは食い物か面白いことで釣れるからチョロい。

 間もなくしてマルティナ女王が御入来。

 いつになく普段着の軽装ドレスだが、胸だけはパックリ開いているエロいドレスだ。

 貴族の女性誰もが胸の谷間を見せつけているわけではないので、そういうアピールをしたいのだろう。


「皆さん、おかえりなさい。あら…… 随分人数が増えましたね」


「陛下、ただいま戻りました。事情がいろいろありまして、これからご説明いたします」


 パティはカーテシーで挨拶をする。

 女王はニコニコして皆に声を掛ける。


「わかりました。皆さんご苦労様でした。今は公式の場ではありませんから楽にして下さいね」


 女王がそう言うとアイミはさっさと座ってしまう。

 オフェリアたちにも座ってもらって、立っているのは私とパティ、エリカさん、カタリーナさん、ロシータちゃん、その他給仕の女の子たち。

 実を言うと急ごしらえの狭い応接室で、人数が多くてそれだけ席が足りないからだ。


「ごめんなさいね、狭い部屋で。で…… エリカさんとマヤさんは……」


 女王は私たちを見て、認識をしているようだがとても困惑をしていた。

 私は勿論だが、エリカさんもやや童顔になって初々しく、年増のふてぶてしい雰囲気が無くなっているように見えるのは気のせいか。


「陛下、お陰様で元通り…… ではありませんが、復活することが出来ました。

 お師匠様の力で十八歳の時に保存していた私の遺伝子を使ってこのような若い身体を手に入れることが出来ましたが、これからは人間ではなく魔族として生きることになりました」


「そうだったんですか…… 魔族の力は計り知れませんね。

 本当に良かったです。おめでとう、エリカさん」


「ありがとうございます、陛下」


 女王は微笑み、エリカさんはそれに応える。

 魔族に対して抵抗が無いことに気づいたのか、オフェリアとマイはホッとしたような顔をしていた。


「それで…… あの…… マヤさん? どうしてそんなに可愛くなったの?

 身体もまるで女の子のように見えますが……」


「はい、それはですね……」


「あっ (わたくし)が代わってお答えします。

 あちらに女の淫魔族(いんまぞく)がおりまして、男性に悪戯(いたずら)をするんです。

 それでエリカ様の師匠であるアモール様がマヤ様の身体を思って、魔法で女の子に変えたんです。

 しかし元に戻すには魔法の作りが人間に合わなくて、人間の男性の遺伝子を使って実験をしながらエリカ様に新しい魔法を作って頂くことになりました」


 パティが割って入って代わりに答える。

 アモールの使用人がということを伏せて的確に説明をしてくれた。

 カメリアさんたち…… いや、彼女らを使っているアモールの立場を悪くしないように言ってくれたのはさすが秀才のパティだ。


「まあ、そうだったんですか。

 マヤさん、女性の身体になって何か不都合はありませんか? ふふふ」


「まあ、着る物とか下着とか、他にもまだ慣れないことがいろいろと……」


「そうですか。うふふふふ…… また後でゆっくりお話ししましょう。うふふ」


 女王の笑みがとても妖しい。

 また寝室に呼びつけられるのだろうか。

 今は分身君がいないんだぞ。どうしろというんだ。

 あっ そうか! 女王はシルビアさんともアレだったんだ。

 ぱんつを脱がされてここはどう変わったのとじっくり観察されそう……

 私の勘ぐりだけで済んで欲しいものだ。


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