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第三百話 歓迎とお祝いのパーティー/マイと二人きり

 長かった第七章の最終話です。

 ヘンリッキさん宅の庭で急遽、野外パーティーを行うことになった。

 森を開拓した土地で、木々の匂いがとても良く空気が身体に染みこんでくるようである。

 ヘンリッキさんの許可を取り、エリカさんが土属性魔法を使ってテーブルと椅子を人数分形成してくれた。

 これにはヘンリッキさんとアウリちゃんも驚いていた。

 勿論、後で壊すことが前提だ。


『わあ! お姉ちゃんすっごーい!』


『うん、まあこんなものね』


 アウリちゃんがはしゃいでも、エリカさんは落ち着いた反応。

 前ならドヤ顔でふんぞり返ってるだろうに、大人というか随分ドライになってるな。

 やっぱり様子がおかしい。


「ああ、忘れてた。今からみんなにスオウミ語の変換魔法を掛けておくね」


 エリカさんは、すでにスオウミ語を理解しているパティを除いたメンバーに向けて手をかざした。

 どうやら相手に掛けるほうは複数人まとめて出来るようだ。

 アモールがアスモディア語を私たちにわかるようにした時は、いつ魔法を掛けたのかわからないくらいだった。


『終わったわ。試しにアウリちゃんに話しかけてみてよ』


「えっとじゃあ、アウリちゃんわかる? マヤだよ。女になっちゃったよ」


 などと言いながら、自分の両胸をぼいんぼいんと両手で持ち上げてみる。


『あれえ!? マヤさんの言葉がわかるうう!』


 成功しているみたいだ。

 次はオフェリアに喋らせてみよう。


『あの…… 初めまして…… こんにちはアウリちゃん。

 オフェリアといいます……』


 人間の小さな女の子と初めて話したせいか、オドオドと緊張しているようだ。

 アウリちゃん、怖がらないだろうか?

 この子の前だとオフェリアが余計にデカく見えて、三倍くらいありそう。


『うっわああああ! ()()()()さんおっきいね!!』


『えへへ。よろしくね』


 おっきいのはおっぱいじゃないよね。身長のことだよね。

 角があるのは気にしないのかな。

 オフェリアはアウリちゃんの言葉を気にしたのか、すぐにしゃがんでなでなでしている。

 彼女が童顔で穏やかなこともあって、アウリちゃんもニコニコと懐いており抵抗は無さそうだ。

 とても純粋そうな子で、我が子ミカンちゃんもそんなふうに育って欲しい。

 ああ、早く帰ってミカンちゃんに会いたいなあ。


『じゃあ次はあたしあたし! こんにちは! マイっていうんだ!』


『マイ? お姉ちゃん、マヤさんの姉弟(きょうだい)なの?』


『おっ 通じたぞ! マヤと名前が似てるけれど、あたしは違うよ。ほらっ』


 マイは(かが)んでアウリちゃんの目の前で前髪を右手でペロッと掻き上げ、額にある第三の目を見せた。


『きゃああああ!!』


 アウリちゃんはびっくりして尻餅をつきそうだったが、そのまましゃがんでいたオフェリアに受け止められる。

 驚いただけで怖がっている様子は無い。


『あわわっ ごごごごめんよぉ!』


「ここは人間だけの国だからそういうのはやめたほうがいいよ」


『ううう……』

 

 マイはアウリちゃんが驚くとは思っておらず、驚かせたことに落ち込んでいる。

 スオウミは猫耳族がおらず純粋な人間だけの国だから、急に三ツ目を出せば誰だって驚く。

 さらにこのあたりはデモンズゲートから出てきた魔物の被害が無かったと聞いている。


『まあまあ。俺も驚いたけれど、悪気があってやったわけじゃないんだろ?

 マイさん? だっけ。すごく可愛いからドキッとしたよ』


『パパ。そんなこと言って…… ママに言いつけるよ?』


『ああああアウリ! それは黙っておいてくれよぉぉ!』


 ヘンリッキさんとアウリちゃんのやりとりを見てみんなが笑い、この場は和んだ。

 この集落の人たちは皆が温厚で良かったよ。

 マルヤッタさんはあまり興味なさそうにしており、エリカさんは変わらず元気が無い。

 この場はパティたちに任せて、私はエリカさんに声を掛ける。


「どうしたのエリカさん? このところ元気が無いよ」


「ああ、たぶんホルモン分泌がうまくいってないから、あまり感情的にならないんだ。

 そのことはお師匠様から聞いてて、しばらく身体を慣らしたら元に戻るんだってさ」


「そういうことか。でもペンダントの中ではホルモン関係ないのに、なんで?」


「ああ、それはね…… 魔法で正常な身体のエミュレーションをしているからよ」


「エミュレーションねえ。何とも凄い魔法だよ」


「ペンダントにはお師匠様が魔法を掛けていたから、かなりの高位魔法で私もよくわからないんだ。

 私が掛けたのは魂をペンダントに移す魔法の Anima Conservatioアニマコンセルバティオだけね。

 私も魔族になってしまったから、いずれ長い時をかけてお師匠様から受け継ぐことになるでしょう」


「ああ…… 落ち着いて淡々と話してるエリカさんって、エリカさんじゃないみたいだ」


「そう? 私はいつも普通に話しているつもりだけれど」


「そ、そうなのか……」


 エリカさん、いつも大騒ぎしてたのはあれで自覚が無かったとは驚きだ。

 静かなエリカさんは楽で良いけれど、別人みたいで寂しいなあ。

 マルヤッタさんがボッチで周りの景色をボーッと眺めているので、彼女にも話しかけてみるか。


「マルヤッタさん、一人で何してるの?」


『ええ…… ああ。

 家や周りの景色が私の故郷によく似てるなと思って眺めていたんです。

 やっぱり私たちの血筋なんだなと、それだけです』


「そっかあ。わかるよそれ。

 血筋とは違うけれどけれど、あそこにいるマイの故郷と私の故郷も似ているところがあったから懐かしく感じたね。

 建物や食べ物がそっくりなところが何だか嬉しかったな」


『へえ、そうだったんですか。

 あの人たちが作る料理がどんなものが、ちょっと興味があります。

 全く同じだったら逆に興ざめですけれど。フフフ』


 人間の料理を学びたくて旅へ出たのに、エルフ族の料理と同じだったら確かにつまらないだろう。

 だがトゥーラさんたちは美味しいお菓子を御馳走してくれたのだから、きっと料理もマルヤッタさんの期待に応えられるくらい美味しいに違いない。


---


 そうしているうちに料理が出来上がったようで、アウリちゃんを始め、パティ、ビビアナ、ジュリアさんも手伝って料理をエリカさんが作ったテーブルへ運んできた。

 川魚のフライ、カリカリのミートボール、マカロニとポテトのグラタン、カレリアパイ、きのこのクリームスープ、キャベツキャセロールなど、地球のフィンランド家庭料理に近いものがたくさん並べられた。


『わぁぁぁぁ!! 想像以上です!! これは絶対美味しいですよ!!』


 マルヤッタさんは目をキラキラさせながら感激していた。

 アイミは言うまでもなくよだれを垂らすくらいの食い気で、他のみんなも笑顔になって食欲を満たそうとしている。

 エリカさんはやはり反応が薄く、例によって食べられる物が限られているので沈んだ顔だ。


「私、ライ麦パンしか食べる物が無い……」


「エリカ様。私、トゥーラさんにお願いして消化が良いメニューを作ってもらったんです。

 グラタンやパイとか他にも食べられるものがありますから、皆さんと一緒に美味しく食べましょう」


「おお、良かったじゃないか!」


「ありがとうパティちゃん……」


 パティが気を利かせてくれた。優しいなあ。

 エリカさんはウルウルしている。

 そこへサロモンさんとリューディアさんの夫妻が私とパティの前にやってくる。


『まあ! 本当にマヤさんなんですか? 可愛い女の子になってしまって……』


「いやあ、魔族の国でいろいろありまして……」


『噂には聞いているアスモディアですが、私たちの想像を絶することが出来るんですね』


『それでリューディアさんの、その後の体調はいかがですか?』


『あの…… 皆さんにお知らせしたことがあるんです……』


「なんでしょう?」


 夫妻が話しかけ、パティが質問をするとリューディアさんは顔が赤くモジモジしている。

 何だか色っぽいぞ。


『おかげさまで、私…… 妊娠しました』


『そうなんです! つい二日前に街の医者に診てもらったらにそれがわかって……

 マヤさんとパトリシアさんのおかげです!』


『まあ! まあまあ! それはおめでとうございます!』


「まさかもうおめでたとは! とても良いお知らせです!」


 あれからもう一ヶ月がとうに過ぎているから、タイミングは合っている。

 そうかそうか。私がリューディアさんにフルリカバリーを掛けた後は発情していたから、その晩は二人で頑張ったんだな。むふふ…… (第二百四十話参照)


『ありがとうございます! 本当に夢のようで…… ああっ 幸せです!』


「ならこのパーティーはご懐妊のお祝いも兼ねてしましょう!」


『何だか恥ずかしいですわ』


 リューディアさんは両手を頬に当てて照れている。

 この二人を見ていると本当に幸せそうで、私までも幸せな気持ちになる。

 昔は冴えない私だったが、他人を幸せにしてあげられることが出来たのだから、ここは素直に喜んでおこう。

 料理が並び終わって皆が揃ったので、往路の時にいなかったエリカさんや他のみんなを改めて紹介した。

 マルヤッタさんの番では……


「えっと、次はエルフ族のマルヤッタさんです。

 魔族の国で偶然出会って、人間の国の魔法と料理を勉強したいということで旅をしていたところを連れてきました。

 なんでも、エルフ族はスオウミの人たちのご先祖だとか」


『あああの、マルヤッタです。よろしく……

 エルフ族の料理よりとても美味しそうでびっくりしました』


『ご先祖様にそう(おっしゃ)って頂けるなんてとても光栄ですわ。

 あり合わせの材料ですが皆で頑張って作りましたから、きっとお口に合いますよ』


 トゥーラさんがニコニコと応える。

 料理については自信満々のようだ。


『ああっ なんて神々しい!

 マルヤッタ様にお目にかかれるなんて、私たちは何て運が良いのだろう!

 一生の思い出になります!』


『マルヤッタ様! 今私たちは幸せになりました! どうか旅の無事をお祈りします!』


『ありがとうございます。

 それであのう、エルフ族は少数ですけれど、そんなに偉いものじゃないですよ。

 頭は硬いし、ご飯は美味しくないし、面倒臭いジジイとババアに付き合うのが嫌で旅に出たんです。

 いずれは帰るつもりですけれど……』


『あ…… そ、そうなんですか……』


『思っていたより人間味があるんですね。アハハ……』


 若いタハヴォさん、ヴァルマさん夫妻が、マルヤッタさんに向かって神様にお祈りするみたいに両手を組んで話していた。

 神様みたいに誤解されたマルヤッタさんだが不快に思う様子は無く、淡々と応えた。

 田舎が嫌で出て行く若者そのものだな。

 スオウミの三組の夫妻と、ヘンリッキさんの娘アウリちゃんの紹介も終わり、ようやく食事が始まった。

 アイミは我慢出来ず、私たちが紹介中にこっそりパイを手に取って食べていた。

 行儀が悪いやつだ。けしからん。


 食事はお酒も振る舞われた。

 ベリーと蜂蜜のお酒でとても美味しいが、アルコール度数がやや強い。

 私はお酒に強くないので控えめに飲んだが、オフェリアが隠れ酒豪だったようでヘンリッキさんたち男性と一緒にガボガボ飲んでいた。

 明日は王都まで飛ぶんだから二日酔いにならないで欲しい。


 マルヤッタさんは食欲旺盛で、パティと同様に多少お下品にモリモリと食べていた。

 まあこんな時ぐらいは食事の作法など目を(つむ)ろう。

 エリカさんはいつものように一人で大人しく普通に食べている。

 酒は飲んでいないが、もし飲ませていたら平気でパンチラしたりひんしゅくを買うところだ。


 私たちが持って来たサンドイッチとコロッケはヘンリッキさんたちに御馳走し、とても好評だった。

 スオウミは白い小麦パンが珍しくライ麦パンが多いのでサンドイッチは気に入ってもらえ、アウリちゃんがパクパク食べていた。

 コロッケは酒の肴に合うようで男性たちにウケていた。


---


 そして夜は更け、パーティーが終わる。

 オフェリアは当然のようにベロベロに酔っていた。

 フラフラと私の元へ千鳥足で歩いてくるが、大丈夫なのかこいつは。


『おーひマヤひゃーん…… うっへっへっへ』


「うわあ、ダメだこりゃ」


『何がダメなんれすかあ? あああマヤひゃんかわいいい』


 オフェリアがそう言うと、私をガシッと捕まえ抱きしめた。

 私の顔がオフェリアのデカ乳に挟まれ、パ◯◯フ状態になる。

 酒臭いけれど、ふわふわぷりんぷりんで気持ちいい……


「うおっふ…… おう……」


『あれ…… いいなあ』


『あなた!!』


『誤解だトゥーラ! 仲良しでいいなあと思っただけだ!』


『顔がにやけてました』


『パパのエッチ』


『ううう…… アウリ、違うんだ……』


 ヘンリッキさんがオフェリアのパ◯◯フを見て羨ましがり、トゥーラさんに怒られ、娘のアウリちゃんにエッチと言われる。

 明日の朝までに仲直りしていれば良いけれど。

 私もいつかミカンちゃんにそう言われてしまう時が来るのだろうか。

 気を付けなきゃ……


 片付けは、私たちからはビビアナとジュリアさんにやってもらった。

 従者扱いでいつもすまんね。

 私は酔っ払いオフェリアをグラヴィティで浮かせて飛行機へ押し込み、そのまま座席で寝かせた。

 よだれを垂らし、脚を投げ出し、もう爆睡している。

 アイミも腹一杯になって、操縦席でなく後ろの空いた席でグーグー寝ていた。


 ビビアナとジュリアさんは片付けが終わって飛行機へ戻り、皆も自分の席についてリクライニングし眠りについていた。

 マイだけが外に出て、飛行機の前輪を椅子の背代わりにして一人涼んでいた。

 私も彼女に付き合うことにして、隣に座った。


『やあ、マヤ』


「まだ寝ないの?」


『普段はもうちょっと遅い時間に寝ているから、仕事の癖かな』


「そうなんだ」


『――ここは人間の国なんだね。あんまり実感が無いけれど』


「イスパルに着いて街へ出れば嫌でも実感が湧くと思うよ」


『一ヶ月もお休みをもらっちゃったけれど、でも一ヶ月後にはアスモディアへ帰ってマヤとお別れなんだよね……』


「また来るさ」


『でも何年かに一度なんだろ?

 それにマヤは人間で歳を取って寿命が短いから、あたしたち魔族より早く死んでしまう。

 だからあと何回会えるのかな。

 あたし人間の友達は初めてだから、そういうのって…… つらいよね』


「うーん……」


 私自身今までそういうことを一人で考えたこともあったが、寿命が長い相手と二人で語り合うことは初めてだ。

 マイは寂しそうな顔をしていたが、私はどう答えたら良いのか分からず言葉が出ない。


『あたしはマヤとずっと一緒にいたい』


 それってある意味爆弾発言で、プロポーズにも取れてしまう。

 マイの言葉の真意が分からない。


「私もマイといつでも会えるときに会いたい。

 でも私は近いうちに男に戻るんだよ。

 そうなってもマイの気持ちが今と同じかどうか。

 男女の友達同士が成立するのか、私は自信が無い。

 私が男に戻ったら、マイのことを愛してしまうかも知れないよ」


『――あたしは恋愛感情を持つなら異性相手なんだけれど、マヤだったら…… 女同士でも、たぶん男に戻っても好きかな』


 私はそれを聞いて心臓がキューッと縛られた感覚になった。

 ドキドキしてる…… この感じは久しぶりだな。

 どうしよう。何て応えよう。

 あっ マイの片手が私の手を握った。


「キス、してもいい?」


 うわわわ。私は何を言っているんだ。

 マイが言っていた女同士という言葉に浮かれてキスしたいと思ったのか。


『いいよ』


 マイの承諾で私の何かが弾けた。

 座ったままの体勢でお互いの顔が向き合う。

 えっ!? 目を開けたまま?

 マイは第三の目までぱっちり開いて顔を近づける。

 そして唇を重ね合わせた。

 ベロベロチューまでしてもいいのかわからないので、マイに合わせる。

 結局三回だけハムハムキスをして顔を離した。


『三百年生きてて、女の子と初めてキスしちゃった』


「そ、そうなんだ」


 マイは同族の男と結婚経験があり、子供はいないが処女ではない。

 でも悔しいという気持ちは湧かない。

 今ここにいるマイが好きなのだから。


『もう寝よっか。キスしたら何だか安心しちゃった』


「うん」


 私はドキドキが止まらない。

 おっぱい揉んでその先へ行きたい気分だけれど、マイの気持ちを優先しよう。

 飛行機の中へ入り、マイは自分の席に着くとすぐに寝てしまった。

 やっぱり疲れてたんだね。

 私は操縦席に座り…… 悶々(もんもん)するばかり。

 隣の席にはアイミがいないので、声を抑えて……

 自分一人で(なぐさ)めてしまった。

 男と違って何回もこみ上げてくるから気が済むまでいたし、それからぐっすり眠る。

 マイとも恋人付き合いを始めたら、パティや他のみんなはどう反応するのかと思いつつ……



【第七章 了】


 第八章はイスパルに戻り…… その後は? お楽しみに。

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